第1章「記憶の断片」6節:祭りの最中
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
私の中の意識の覚醒と遮断の間隔が長くなっているような気がする…。実際はどうなのかは分からない…。ただ、私がこの"ゼンセンカフェ"と呼ばれている場所にいる事…。"アミグルミ"という未知の姿であること…。"シュカ"と呼ばれている事…。ここに至るまでの記憶も何故、私はここにいるのかも…ほぼ全てが真っ白になってしまった…。ただ、唯一…
「故郷を守って…。有明の海を…。この想いだけは決して忘れないで…。シュカ…。あなたは私達が残せた最後の希望の光…。忘れないで…忘れないで…。」
その言葉だけは今も尚、心の中で消えることはない…。”私達”の…。そう、”私達”の…。1個人の言葉ではない多くの誰かの言葉…。
そして、7人の女性が、この場所で過ごしているのは何度も何度も聞いているうちにわかるようになった。元気な声の"イノリ"という名の女性、強めの言い方をするけど私には優しく接してくれる"カンナ"という名の女性、いつも落ち着いた声で6人の女性をまとめている"ミコト"という名の女性。ビクビクと怯えるように話をする"サキ"という名の女性。
私を良く抱きかかえてくれる2人の他の4人よりも若い女性…彼女達は"イナホ"と"アト"と呼ばれている。それ以外の名前は”テンチョウ?”、”アオミ?”幾つかの呼ばれ方をしているが、同じ女性の事だと思う。
今日はもう1人、時々、声を聞くようになった”リナ”という女性の声も聞こえる…。普段と違い全員の声のトーンが違うような気がする…。
「みんな、お帰り。ここまで聞こえたぞ!無事、うまくいったみたいだね」
「店⻑!やりました!無事に成功しました!」
いつもより更に元気で嬉しそうに"テンチョウ"に答える"イノリ"の声…。
「理名ちゃん、本当にありがとうね!」
「みんなが一生懸命、練習してきた成果ですよ。それにまだ後半戦も残っています。それが終わってからが、本当のアイドルグループ”おとぎ前線”のスタートですよ!」
"テンチョウ"が"リナ"へ言葉をかける。”アイドル”、”オトギゼンセン”、その2つの言葉も、私がこの場所で良く聞くようになった言葉…。言葉は分かっても意味は分からない…。今の私には僅かに感じることが出来る触覚と聴覚しかない…。あれだけ頻繁に起きていた意識の覚醒と遮断…。その度に私の中にあった何かが白くなっていって、忘れて行って…。完全に白くなってしまい意味さえも分からなくなって…。唯一、謎の言葉だけが私の中で残り、その後から入る僅かな触覚と聴覚からの音が今の私をカタチ作っている…。
「理名ちゃん、みんなの準備はどう?」
「みんな準備OKです!」
「⻲さん、もう良いみたいだよ。」
"テンチョウ"と"リナ"が発した大きな声で、私は今まで意識が遮断されていたことに気が付いた…。以前の様な意識の覚醒と遮断のハッキリとした境界線が分からなくなってきたのも、ここ最近、私に起きている大きな変化…。
「櫓の上だって〜本当のアイドルみたい」
"イノリ"の楽しそうな声。いつもより更に声のトーンが明るく聞こえる…。
「本当のアイドルになるんでしょ!変な事は言わない!」
「そうだった!もう何をするのか忘れてた!」
"イノリ"と"カンナ"が、いつもの様な会話を始めた。この2人の会話も聞きなれた気がする…。
「俺もみんなが出てから鍵を閉めて、後から来るから。みんなの雄姿を楽しみにしてるよ」
"テンチョウ"の声…。幾つものバタバタという音の後にバタリという音が続き一気に辺りが静かになった…。
「何だか私も緊張してきたな…。さて、⼾締りだけはしとかないと…。」
今は"テンチョウ"1人だけのようだった。少しの時間、小さくカチリという音やバタンという音が聞こえてきた…。
「"シュカ"ちゃん、しばらくお留守番を頼むわよ…。でも、今日だけは…今日だけは、みんなの新しい門出だから何も起こさないで…。」
“シュカ”ちゃん…。"テンチョウ"は私に何かを話しかけているみたいだった。そして、直ぐにバタバタという音とバタリという音が続き、カチリという音が聞こえた。静かだった周りの音が更に静かになった…。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




