第4章「創造と破壊の始まり…」3節:戦士の休息と真実…
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
人生で初めての「変身」と、神話級の怪物との戦い。張り詰めていた緊張の糸が切れた瞬間、鉛のような疲労が全身を襲っていた。
「珠花! 怪我はない!? どこか痛むところは?」
叶恵は珠花の肩を支えて必死に身体を調べる。その瞳には涙が浮かんでいた。歌を失い、力を奪われた自分に代わって、幼い妹が戦場に立たされたことへの悔しさと不安が、その震える手に現れている。
「大丈夫だよ、叶恵姉ちゃん……。バステトさんとてちちが、助けてくれたから……」
「……ふん。助けたというより、わらわが一方的に道を拓いてやっただけよ」
珠花の背後から、我が物顔で家の中へ足を踏み入れたのは、黄金の瞳を持つバステトだった。彼女は土足のまま上がろうとして、てちちに「おい猫耳女! ここはジャパンだ、靴を脱げ!」と怒鳴られ、不機嫌そうにサンダルを蹴り飛ばした。
「……それで、おぬしらどうする?」
バステトは突如として、人間の少女の姿に変化した。戦いの後の一服として、新しい紅茶を淹れ、事もなげに答える。
「……状況が掴めていません…」
珠花と叶恵の声が重なった。
バステト本人は、当然だと言わんばかりにソファに深く腰掛け、テーブルに置かれた憂のお手製のスコーンを口にする。
「……まあ、いいわ。あの『ショロトル』がチワワの姿で媚を売っているような家よ。わらわが少しばかり規律を正してあげなくてはね」
「クーン」と、バステトの言葉に、ショロトルは悲しそうに声をあげた。
「ゆ…憂姉さんは、私達の事や二柱様の事は、ご存知なんですか…」叶恵が少女の姿をしたバステトに尋ねた。
「知らない…何も知らない…」バステトは一瞬、別の事を言いかけ、その後に珠花と叶恵にそう応えた。
「ほ…本当に…憂姉さんは…何も知らないんですか…憂姉さんは本当に普通の人間…。私達が姉妹というのは、作れた記憶なんですか…」叶恵は再びバステトに尋ねた。珠花も同じ様に思っていたが口に出せなかった2人と二柱にある隠されていた秘密…。
「そうね…半分は真実で半分は作られた記憶というべきかしら…。1番上のお姉さんには確かに叶恵と珠花という2人の妹がいる…。人間の時の身体は正真正銘、彼女の本当の2人の妹の身体…。願居の場合は叶恵という人間が不慮の事故で消えかかっていたのを偶然、ホムンクルスのベースとして補填したというのが正しいかも知れないわね。2人に妹としての記憶が混在しているのはそれが理由…。それで理解できる?」バステトは珠花と叶恵に応えた。
「私達は憂姉さんの本当の妹2人の身体を借りているという事ですか?」珠花はバステトに尋ねる、
「借りてる訳ではないとも言える…。でも、それはわらわにとっても禁忌事項。今は、まだ真実を説明する時ではない。兎に角、いいじゃない、賑やかで。それに、ナイの影は一度払ったくらいじゃ消えないわ。珠花には、もっと実践的な訓練が必要でしょう?」
バステトの瞳が、珠花を捉える。
珠花は、少女の姿のバステトに抱きかかえられた「てちち」をなでながら、少しだけ誇らしげに胸を張った。
「私、もっと強くなりたい。……叶恵姉ちゃんを守れるくらい、立派な天女になりたいの」
「……珠花……」
叶恵は妹の決意を目の当たりにし、複雑な表情で微笑んだ。
神々の因縁が渦巻く大神家。
創造神と破壊神としての第一歩を踏み出した2人の姉妹の背後で、現実世界を蝕む「ナイ」の計画は、失敗という名の成功を孕みながら、次なるフェーズへと移行しようとしていた。
「さあ、話はこれで終わりよ」
バステトの声が、嵐の前の静けさを一瞬にしてかき消していった…。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




