第4章「創造と破壊の始まり…」2節:或る猫神と犬神の受難
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
「あら、バステトちゃん、ありがとう。ずいぶん遠くから、珍しいお客さんを連れて来たものね」
門の前でバステトとてちち(ショロトル)が睨み合ったその瞬間、玄関の扉がのんびりと開いた。
エプロン姿で現れたのは、大神家の長女にしてこの「宇宙の真理」そのものである緒妻憂だった。彼女の手には、人数分のティーカップが載ったトレイが握られている。
「……お、大神様…」
バステトの金色の瞳が、微かに揺れた。 エジプトの神性として、彼女は万物の真理を見通す目を持っているはずだった。
しかし、目の前の女性からは何も読み取れない。神気も、魔力も、因果の糸さえも。ただ、そこにあるはずのない「絶対的な肯定」だけが空間を支配している。
「立ち話もなんだし、中に入ったら? ちょうど美味しいクッキーが焼き上がったところなの」
「……あ…ありがとうございます…」とバステトがらしくない態度で答える。
「てちち(ショロトル)からよく聞いたわよ。」
憂の言葉に、てちちの時間が止まった。バステトの飛行機より先に貨物機で運ばれた「てちち」ことショロトルが事の結末をバステトが到着する前に、憂に話したのだ。てちちは、バステトから逃げ出すタイミングを完全に失って凍りついた。
***
大神家のリビング。 バステトは、出されたハーブティーを一口飲み、そのあまりの「美味しさ」に尻尾(カチューシャではなく、概念としての)を逆立てた。
「……ショロトル。貴様、今は何も惨事は起きてないとはいえ、こんな場所で何を甘んじている。アステカの導き手が、犬の姿で、外で遊んでいる人間の子供達に相手にお菓子を貰い尻尾をブンブン振るなど、神話の汚辱よ」
てちちがクーンと寂しそうに低く唸る。 バステトは「はあああ…」とため息をつくと少し悲しげな瞳で、所在なげに虚空を眺めた。
「……わらわたちが何故、このジャパンに来たのか…当初から知っている話。願居が紅のために何を捨て、どのような罰を背負ったのか。……そして、大神様。貴女様がそれをどのように『配置』したのかも…」
バステトの視線が憂に向く。
「あら、私はただ、みんなが一番幸せになれる『配役』を考えただけよ。叶恵には平穏を、珠花には可能性を」
「…… 叶恵には平穏を、珠花には可能性を…?」バステトは憂が先程、言った言葉を反復し言った。
「ショロトルは珠花の守護神であり指導神。貴女は叶恵の守護神であり指導神として。ナイの影が、この鹿島に引き寄せられた…。叶恵、珠花。……これから少しだけ、騒がしくなるわよ」
憂は独り言を呟いた。その瞳の奥で、銀色の回路がチロリと光った。
常識が通用しながら、御神様が引いた引き金。 珠花の覚醒を促すための、残酷で優しい祝祭が始まろうとしていた。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




