第3章「黒い犬と白い猫」1節:女神の髪飾り
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
「さあ、"珠花"!その"女神の髪飾りを付けて、強く思い念じてこう唱えるんだ!" ウェイク・ゴッデス!" 、" ウェイク・ゴッデス"と!」
「て、"てちち"…。う、う嘘…!ワンちゃんが…ウチの"てちち"がお話してる!?これはゆ、夢なの?」
何故、こんなことになったんだろう…。今日はお休みの日…。私の1番上の姉、"憂"お姉ちゃんのお店がある鹿島市へ"叶恵"お姉ちゃんと、飼い犬の"黒いチワワ"の"てちち"、白猫の"末美"と一緒に遊びに行った…。
そこは"前線カフェ"と呼ばれるそのお店で、私は"叶恵"お姉ちゃんと今の家に住むまでは、そこに住んでいたらしい…。
"蒼羽"さんと呼ばれる"憂"お姉ちゃんの会社の専務さんが店長をしているそのお店には、4人のお姉ちゃん達と2人の女の子がいた…。みんな、私の事を覚えていると言っていたが、私にはその記憶がない…。薄っすらと稲穂ちゃんと亜都ちゃん…神那さんと呼ばれるお姉さんだけが記憶の片隅にあるような気がした…。
中でも特に稲穂ちゃんと亜都ちゃんは、とても喜んでくれた。覚えてなくても元気でいてくれてたなら、それで良いと…。稲穂ちゃんと亜都ちゃんは、私より少し年齢は下くらいだけど、最初は私が2人の事を”お姉ちゃん”と言ってくれないと少し悲しんでいた…。
そして、もう1つ、私の中で印象深かったのが"叶恵"お姉ちゃんが、美琴さんと呼ばれるお姉ちゃんと、祈里さんと呼ばれるお姉ちゃんを見た時の表情…。初対面で1度も会ったことがない筈なのに、何も話すことなく、ずっと泣いていた…。
"私達、何かしたのかな…?"と困惑する美琴お姉ちゃんと祈里お姉ちゃん…。"叶恵"お姉ちゃんは、2人に、ただ何度も何度も"ゴメンなさい"としか言わなかった…。
その後、"叶恵"お姉ちゃんは何かしら"蒼羽"さんと会話したあと、直ぐに私は叶恵お姉ちゃんが運転する車に乗って、そのまま、鹿島市にある"前線カフェ"と武雄市にあるお家の途中にある塩田町の大きな公園で、チワワの”てちち”と白猫の”末美”と遊ばせるためにやってきたのだ…。
そこまでも不思議な事はあったけど…。まさか、もっとおかしな出来事が起きるなんて…その時の私には想像もできなかった…。
秋晴れの休日…。寒くもなく暑くもない過ごしやすい天気…。多くの家族連れや子供達…。私達と同じように愛犬や愛猫を連れて遊んでいる大勢の人々…。それに倣って芝生の上に座り、"てちち"と"末美"をケージから解放してあげる。
楽しく元気に駆け回るチワワの"てちち"と、家の中と変わらず、ただ、眠っているのか起きているのか静かに丸くなっている"末美"…。
ふと、駐車場脇に並んだ"たこ焼き屋"さん、"クレープ屋"さん、"ソフトクリーム屋"さん、"から揚げ屋"さん…多くの露店が並んでいるのを見て、つい美味しそうに見えたので、"叶恵"お姉ちゃんにクレープをおねだりしたら、"叶恵"お姉ちゃんは仕方なさそうな表情をして、クレープ屋さんのある駐車場の脇へ歩いて行った。すると急に今まで静かに丸くなっていた"末美"が、お姉ちゃんの後を追うように歩いていく…。
"叶恵"お姉ちゃんがクレープ屋さんでクレープを買う姿を遠目で見ながら、時々、視界に入る元気に走り回っている"てちち"の姿…。ただ、ボーっとしてる私…。その時だった。
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオン…という乾いた爆発音の様な音…。
そして、広大な公園内を覆いつくす程の大量の砂ぼこり…。何も見えない…。巻きあがる砂が私の目にも入る…。
「い、痛い…」
とっさに出た私の声の後に…
「グギャアアアアアアアアアアアアアアア…」
地の底から響き渡るような奇怪な叫び声…。それと同時に聞こえる多くの悲鳴…。
「誰か、誰か助けてえええ…」
砂ぼこりの中からも見える巨大な生き物の影…。巨人…人の形じゃない…奇怪な姿…。幾つもの太く長い触手が蠢き、特徴的な1つの大きな眼球がギョロギョロと辺りを見回し、眼球と同じくらいに大きな口の中に鋭利な刃物が規則正しく並んでいるように見える牙…。一つ目の蛸の様な巨大な化け物…。この姿…。見覚えがあるような既視感が一瞬、私の脳裏に浮かび上がった…。そして、不思議と恐怖を感じない…。
「グギャアアアアアアアアアアアアアアア…」
「グギャアアアアアアアアアアアアアアア…」
地の底から響き渡るような奇怪な叫び声が腐臭によく似た不快な匂いがこの場に漂ってくる…。人々の悲鳴と絶叫ともいえない声が止まらない…。どうしたら良いか分からず混乱している私…。突如、急に私のスカートの袖を強く引っ張る何かの感触があった…。その感触…。それの正体が何であるか私は直ぐに知ることになる…。
「さあ、"珠花"!この"女神の髪飾り"を付けて、強く思い念じてこう唱えるんだ!"ウェイク・ゴッデス!" 、" ウェイク・ゴッデス"と!」
今まで元気に芝生を駆け回っていたはずの"黒いチワワ"が私のスカートの袖を引っ張るのをやめて私に向かって、そう話かけてきた…。私の目が一瞬、点になる…。目に入った砂ぼこりのせいなのか…。それとも…違うのか…。そう考える時間も与えず、"黒いチワワ"は私に、もう1度同じ言葉を語りかけた…。
「"珠花"!この"女神の髪飾り"を付けて、強く思い念じてこう唱えるんだ!"ウェイク・ゴッデス!" 、"ウェイク・ゴッデス"と!」
突如、私の眼前には”蓮の花の様な形をした髪飾り”が光り輝きフワリと宙に浮かんでいる、…。何も考えずに咄嗟に、その髪飾りを手に取ってしまった私…。
「て、"てちち"…。う、う嘘…!ワンちゃんが…ウチの"てちち"がお話してる!?これは全部、ゆ、夢なの?」
「説明は後だ!今、正にその時が来た!"珠花"…お前の…。いや、お前達の魂が再び目覚める時が来たのだ!止まっていた運命の時計の針が再び動き出す、その時が!」
状況の把握ができない。突然、人の言葉を話しかけてきた"てちち"。砂ぼこりから徐々に姿を現し始める奇怪な1つ目の蛸の様な化け物…。
「て、"てちち"が何を言いたいのか…。わ、分からないよ!今、な、何が起きているの?」
「"蕃神"…。いや、あれはお前が倒すべき"敵"だ!まさか…、人間を無理やり眷属化させるとはな…。ここまで露骨に行動に起こすとは思わなかった…。今、おまえが"真実の姿"へと覚醒し目の前におる化け物を止めないと、周りの人間達はみんな、あんな姿になってしまうぞ!」
今まで普通のチワワだったはず…。なのに今は同じ姿をした全く別の存在にしかみえない…。
「う、嘘…。わ、私の“真実の姿”って…」
「嘘ではない!早く、信じてくれ!強く念じるんだ!そして、唱えるんだ!"ウェイク・ゴッデス"!と」
咄嗟に手に取ってしまった"蓮の花の様な形をした髪飾り"。1度ギュッと握りしめる。
「これが、"てちち"が言っている"女神の髪飾り"なの?」
「そうだ!それを付けて強く念じるんだ!そして、唱えるんだ!" ウェイク・ゴッデス"!と!」
何度となく"てちち"の姿をした存在が言う" ウェイク・ゴッデス"!という単語…。この髪飾りを付けて、強く念じて、それを唱えれば何が起きるのだろう…。私はどうしても、その1歩を踏み出す勇気が今はない…。
「グギャアアアアアアアアアアアアアアア…」
「誰か、誰か助けてえええ…」
「助けてえええ…」
「逃げるんだ!みんな、早く公園からにげるんだああああ…」
益々、混乱する群衆…。"てちち"がいう"蕃神"が何かを破壊し続ける音…。その度に起きる衝撃風…。それでも、私は何も出来ずにいる…。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




