成人の祝い
「何で!?」
まさか、そんな答えがかえってくるとは思いもしなかった。
「どうしてだよ、スール! ここにいたって辛いだけだ! オレ達がいなくなったあと、どうなるかわかるだろう? あいつら、君のことただじゃおかないはずだ。下手したら死んじゃうかもしれないんだぞ!?」
「そうだよ、一緒に行こうよ!」
スールが、自分の両手をキユッと握る。
「ぼくをさそってくれて、ありがとうございます。うれしかった。でも……お父さんとお母さんがここにいるから……」
顔をあげて、玄関の先を見る。
夕暮れに染まった墓の風景が、そこにあった。
「ここにって……。気持ちはわかるけど、暴力を受けてもここにいたいの!?」
「……はい」
楓が、スールの言葉に息をのんだ。
「そんな……お兄ちゃん……」
楓がどうにかしてよと、オレを泣きそうな目で見てくる。
わかったと目で合図した。
「なあ、スール。そっちじゃない、ここだよ」
「ここ?」
墓を見ていたスールがオレを見る。
オレは右手を広げ、自分の心臓の上に手を置いた。
「オレ達もスールと同じように両親はもういない。そして、育ててくれた大好きなばあちゃんも亡くなった。この世界に来てしまったから、全員、遠い世界にいる」
「あ……」
「でもさ、オレ思うんだよ」
胸をバンと叩いた。
「ここ! ここにいるんだよ。目を閉じればオレ達の親や、ばあちゃんの姿が浮かんでくる。ここに、大切な想い出として残っているんだ。それを持っていれば、遠く離れていたって平気だよ」
オレは、スールの胸を指先でトントンと軽く叩いた。
「スールにだって、ある」
「ぼくにもある……」
「ああ、あるさ。スールが話してくれただろう? お母さんはどうか知らないが、お父さんはスールのこと、ちゃんと自分の息子として育てていたと思う」
「ぼくを?」
「一緒に釣りをやったり、獲物の捌きかたをお父さんから教わったって言ってたじゃないか。それって、スールが大人になって困らないように教えてたんじゃないかな。現に今、スールは一人で暮らしている。クッキーだって、スールに喜んでもらいたくて買ってきたんだ」
「お父さんが、ぼくのことを……。あ、ほんとうだ。目をとじたらお父さんが出てきた! ぼくをだいて空をとんだことがあった。とべないぼくは少しこわかったけど、とても空がきれいでそれをお父さんに言ったら、きれいだなってわらってくれたんだ!」
目を開けて、スールが嬉しかったとオレ達に話す。
「無口なイルグが笑うとはな。子供の頃は少しは笑ったことがあったが、大人になってからは見たことがない。スールにはそれを見せた。俺もイルグはスールのことを自分の息子として育てていたと思うよ」
ワッグさんが言った言葉にスールが驚く。
「カロンのお父さん、それほんとう? こんなぼくでも?」
「ああ。イルグは羽が大きくて力もあり、狩りも上手く信頼のおける奴だった。ただな、子供の扱いは下手だったよ。無表情なせいで、村の小さい子たちは怖がってよく泣いていた。 不器用な奴が不器用なりにスールに接していたんだな」
「お父さんが……」
「スール、イルグが使っていたナイフはないか? あったら見せてくれ」
「お父さんの? あります。お父さんのだいじな物だから、すてられなかった。まってて」
スールが小さい棚の引き出しから布にくるまれた物を持ってきた。それをワッグさんに渡す。
布をとれば、鞘に入った大型のナイフが出てくる。持ち手のところは木だが使い込んでいるのがオレでもわかる。そして鞘から抜けば、研かれた刃の部分が現れた。
「時が経っても綺麗なままだ」
ナイフを動かすと、刃がキラキラと輝く。それを見たあと、ワッグさんはゆっくりと鞘にしまった。
「スール。俺達の村は狩りで生計を立てている。だから代々、成人すると父親はその時持っている物の中で一番良い武器を息子に渡す。それが成人の祝いとなり一人前と見なされるのだ。これを貰えなければこの村では一人前と見なされない。俺のこの使っているナイフは父親から譲り受けたものだ。他にも持っているが、これが一番しっくりくる。いずれ、これをカロンに渡す予定だ」
「父しゃん、おれにくれゆの?」
「ああ、お前は立派な自慢の息子だからな。成人したらお前の物だ。大事に使えよ」
「うん!」
やった! と嬉しそうに笑ったカロン。頬が緑色で痛々しいが、幸せに見える。
「イルグはスールにこれを渡してほしいと願っているはずだ。だから俺がスールに渡すよ。まだ成人するには先だが、スールにはこの時だと俺は思う。さあ、スール。イルグの思いを受けとれ」
「お父さんの思い……。はい! ぼく、だいじにします!」
渡されたナイフをスールは大事に胸に抱え込んだ。




