第78話 クトーニアンの魔王
クトーニアン穏健派の大使、ハィラさんが来て、一週間がたった。
一旦故郷に帰っていたハィラさんが、ネイス・クロトン村に再びやってくる。
今度は村人も、彼女を警戒することはない。
背格好が近いからか、チェスナと仲良しになっている。
「おおお、おまたせしました、コ、コーキさん。ちち、父であるクトーニアンの魔王が、あなたに会いたがっている、そ、そうです」
ハィラさんが、自分たちの領地まで案内してくれるそうだ。
どうやら、領主である父親と話し合って、ボクたちの意見をうかがおうということに。
「ワタシは、同席したほうがいいのでしょうか?」
天使族のドムさんが、ハィラさんに尋ねた。
「むむむ、難しいです。わ、我々の方から、そちらに、おおお、お邪魔するという形を取らせていただきます、と、父がもも、申しています」
ドムさんたち天使族は、クトーニアン族とは対立関係にある。
いくら穏健派のハィラさんがOKを出しても、クトーニアンの国民が天使さんたち受け入れてくれない可能性がある。天使さんが領地に来られると、トラブルになるかも。
ここはひとまず、ボクたちだけで行くことにした。
「わかりました。父にも、そう伝えておきますので」
そう言い残して、ドムさんは天空城へ帰っていく。父親であるセラフ王に、意見を聞きに行ったのだろう。
できるだけ、早く話し合ってこようかな。
海にある領域には、ダリエンツォの港を介して向かうとか。
「みんなはどうする? 行きたい人はいる?」
「うむ。王都としては、面通しをしてもらえると助かる」
まず、ヴェリシモさんが名乗り出た。続いて、村の商業ギルド長である、ダンディリオンも。
「ボクたちだけなら、小さい船で乗り出せるんだけど」
「船は王都で、用意するぞ。待っていてくれ」
「お願いします」
ヴェリシモさんが、船団を手配してくれるそうだ。
さらに数日後、ヴェリシモさんが大量の船を従えて、ネイス・クロトン村に帰ってきた。
「お久しぶりです、ティンバーさん」
ヴェリシモさんの乗る船には、ティンバーさんと従者さんたちが同乗している。
「我がネトルシップ財団が、専用の軍艦を提供しよう。父にも話は通してあるから、どれだけぶっ壊されても構わないぞ」
ティンバーさんは、やる気を見せていた。クトーニアンを、新たな取引先として目をつけたのだろう。
「そそそ、そこまで構えなさらなくても、も、問題はありません。このまま、す、進めますので」
みんなで船に乗り込んで、しばらく進んでいく。
どの船も、帆を出していない。舵も取っていなかった。なのに、ひとりでに船は進んでいく。
ハィラさんが、操作してくれているようだ。
水平線しか見えない場所に到着した。
「コーキよ、一面、海だけだ。島もなにもないぞ」
「まさか、おびき出されたのか?」
ティンバーさんもヴェリシモさんも、ハィラがボクたちの逃げ場を断ち切ったものだと思っている。
「大丈夫です。もしハィラに敵意があったのなら、ボクたちのいない間に村を全滅させています」
「それもそうか。よし、コーキを信じよう」
ヴェリシモさんが、兵を下がらせた。
「こっ、こ、こちらっ、です」
海の上を、ハィラさんは歩いていく。
ハィラさんはヒザまで、海に浸かっている。
「は、離れていてくださいね」
ハィラさんは、海の向こうへ手をかざした。
海に、橋がかかる。その向こうに、サンゴでできた宮殿が浮上してきた。
「大きいな。まるで、世界樹のようだ」
「は、はい。これが、う、海にある世界樹です」
生き物のように、サンゴがうごめいている。薄紫色のイソギンチャクが、木々をマネるかのようにウネウネ動いていたのだ。
「幻想的な世界だね」
「わわ、我々からすると、見慣れた景色なのですが」
「行こうか」
「はい。こ、こちらです」
動く歩道のように、ボクたちは自動的に橋を渡っていく。
「海水で滑っているようじゃな」
「すごいね。ハイテクだよ、コーキ」
クコとパロンが、珍しがっていた。
「ピオナ、平気?」
橋の上を歩きながら、ピオナに声をかける。
「はい。コーキ様。でも、こんなすごい魔力に覆われた世界は、ワタシも初めて足を踏み入れますね」
普段はクールなピオナも、おっかなびっくりしていた。
「お待ちしておりました、コーキ殿」
半魚人の番兵二名が、通せんぼしていたモリを解く。
ボクたちが宮殿に到着すると、扉がひとりでに閉じた。宮殿が海底に、ズズズっと潜っていく。
なるほど。ボクらを中へ入れるために、一時的に浮き上がっていたのか。
「魔王の間はもうすぐですよ」
だんだんと、通路がものものしくなってきた。
虹色に輝く、巨大なサンゴ礁が目の前に広がる。
「すごいサンゴ礁だね。幻想的だよ、ハィラ」
「ちち違いますっ。あああ、あれが父です」
なんだって?
「よくぞ参った。我がクトーニアンの魔王である」
サンゴに手と足が生えたような姿の男性が、しゃべった。この人物が、クトーニアンの穏健派リーダーらしい。
「ウッドゴーレムのコーキといいます。素材は世界樹です」
「聞き及んでおる。こたびの働き、見事だった。ほうびは、我が娘ハィラでよろしいか?」
ちょっとまって! そんな話をしにきたの!?




