第73話 天空の島伝説
「姫様、するとなんですかい? 我々が岩山を解体していたから、力をつけてしまったと?」
「アタシらの活動は、ムダ骨だったってことかよ?」
スプルスさんとナップルが、肩を落とす。
「それを言ったら、ボクもだよ。アプレンテスはもしかすると、邪神に力をつけさせないために、荒れ地になっちゃったかも知れないんだ」
「そんなことはない! コーキたちは、よくがんばってくれた。おかげで、この遺跡の調査が進んだのだ」
ヴェリシモさんが、みんなを励ましている。
「みなさんがいなかったら、クトーニアンは存在すら確認できず、村も全滅していたことでしょう。ありがとうございます」
ボクは、石ころを持ってピオナに確認する。
ピオナの反応を見て、仮説が正しいとわかった。
たしか、塔を建てていたとかなんとか。
「この岩山は、山じゃない。ガレキだ」
「ホントだ。よくわかったな、オヤジ」
スプルスさんとナップルが、岩の材質を確かめあった。
塔が壊れて、こんな岩山になったんだろう。
地層になるまでなんて、どれだけの素材が使われたのか。山が機能しなくなるくらい、削り落とされたのだろう。
「再生できそう?」
「加工されすぎて、不可能ですね。とはいえ温泉は生きていますから、自然が完全に死んだわけでは」
なら、緑化すれば山の元気が戻るかな。
ボクは苗を植えて、山の再生にとりかかった。
「ピオナ、天空にはなにがあるか、わかった?」
ボクはピオナに、この世界の歴史を調べてもらう。
「雲の上に、浮遊している島があるといいます。そこには、古代から存在する城があるとか」
なんでも海洋のクトーニアンを嫌がって、空に島を浮かべて住んでいる一族がいるとか。
「お話を伺いにいかないとね。もう安心ですよって」
「はい。それにはまず、天空城へ向かう道具を作る必要がございます」
「じゃあ、時間をかけてそこまで木を伸ばそう」
その後、ボクは数ヶ月かけて、ネイス・クルオン村にある山の再生を試みた。
山に広葉樹を植えて、ときどき現れる魔物を撃退する。
おかげで、近隣の村ともスムーズに取引ができるように。
そんな毎日を続けて、空を見上げた。
「そろそろかな」
ボクは事前に、一本の木を植えている。天空のにある島が、この真上にあるらしいからだ。
山を再生させつつ、ボクは世界樹にパワーを送り続けている。天空まで伸びる大樹にするために。
「すごいね、コーキ。もう雲を突き破りそうだよ」
天に手をかざして、パロンがつぶやいた。
「木に魔力を注ぎながら、ずっと空を見上げておったのう」
パロンの肩の上で、賢人クコが同じポーズを取る。
「それにしても、細いね」
世界樹は、一見すると細い。だが、根っこの時点で大陸を埋め尽くすほどにまで育っている。天を突き破る日も近いだろう。
「昔読んだ絵本の話では、そら豆のツルが空にある巨人の家にまで届いたそうだよ」
「へえーっ。キミがいた世界には、そんなお話があるんだねぇ」
伸びた枝からは、すごい数の果物が身をつけている。リンゴや桃、柿などが同じ木からなっていて、節操がないけど。こんなカオスさも、ボクらしいのかもしれなかった。
クトーニアンは、ここまで育った世界樹には手が出せないらしい。神聖な大樹には、近づけないという。じゃあ村は安心だね。
「普通、ここまで育てようとしたら四〇〇年くらいかけてもムリだよね。それを数年でこなすなんて」
「そうだな。従来の育ち方を待っていたら、私など生きていまい」
ダリエンツォの王女ヴェリシモさんが、到着した。ドワーフのナップルも、ついてきている。
「海に汚れなどはできていますか、ヴェリシモさん?」
「いや。大丈夫だ。水質はまったく問題ない。クトーニアンもおとなしいものだ」
世界樹に力を注いだためか、この大陸全体が活性化していったようだ。
「準備はいい? ヴェリシモさん、ナップル?」
「おう! いつでも出かけられるぜ」
ナップルもパロンも賢人クコも、準備はいいらしい。
「おみやげは、なににしよう?」
相手の領土にお邪魔するのだ。攻め込むわけじゃない。手土産の一つくらいは必要だと思った。
「果物でいいじゃん。それかワインを」
「いや、コーキよ! コメの酒じゃ、コメの酒! あれが一番うまい! さらに、水が新鮮であるという証となろう!」
パロンの提案にかぶせるように、賢人クコが主張する。
「たしかにそうだね。あのお酒なら、きっと天空の人たちも感心するだろう。コーキ、おコメのお酒って用意できる?」
「できるよ」
日本酒かぁ。たしかに、異世界で飲めるとは思わなかったよ。それが一番、喜んでくれるかも。たしかに、土も水もいい証拠になるし。
みんなの提案をまとめて、ボクはコメのお酒を作り出す。
「でもさ、天空の人って、まだ生きているのかな?」
「生きてるんじゃない? でなかったら、とっくに墜落しているでしょ」
四〇〇年生きているパロンが言うのなら、そうかも。
「第一、それを確かめるために行くのじゃ。コーキよ」
それもそうだ。
「じゃあ、出発しよう!」
ボクたちは、天空の島へ向かった。
(第七章 おしまい)




