第46話 世界樹とは、世界そのもの
トレントはますます成長していき、渓谷の大きさをさらに上回った。もはや、山と言っていいくらいに。
「見て、コーキ。渓谷に木が生えてきた」
ボクの隣にいるパロンが、渓谷を指さした。
「木の上に、木が生えているね」
その木の上に、さらに木が生えてくる。どこまで成長するんだろう?
雨水を吸って、木々や緑が再生を始めたようだ。
ボクが伸ばしたツタも、果実や野菜を実らせていく。
トレントから育っていった作物が、たわわに実った後に根っこに落ちていく。作物は腐り始め養分となり、また新しい作物が育っていく。
野菜や果物は、実っては腐り落ちを高速のペースで繰り返した。そうやって、トレントはさらに成長していく。
「まだまだ。もっとだ。もっと成長しよう」
ボクはさらに、ツルを伸ばしていった。
「雨が降り出したよ!」
砂嵐に覆われていた大地に、強烈な雨が降ってきた。
作物は実って腐っていき、雨に流される。
流れた種は自然と地面に定着し、実りをもたらす。
雨は生態系の活性化を、促進していった。失われた時間を取り戻すかのように。
枯れていた渓谷に、雨水が流れ込む。
「コーキ、魚まで戻ってきているよ」
「すごい。これが世界樹の力なんだ……」
世界樹というだけあって、本当に世界を作り上げている気がした。
木そのものが、世界。それが、世界樹の姿だったとは。
雨雲が竜巻となって、砂嵐を飲み込む。
砂は泥となって、大地に染み渡っていく。
天の恵みを吸って、トレントはさらに巨大化していった。天を突き破り、この渓谷をすべて覆い尽くすほどに。
ボクの想像以上である。その光景は、まさに谷底……渓谷を思わせた。
「じょ、冗談でしょ!? ほとんど枯れ木だったモンスターに、どうしてここまでの力が!?」
トレントのあまりの大きさに、アルラウネが恐怖し後ずさりをする。
「わからないのですか? この渓谷の、本当の意味を!」
「本当の、意味ですって?」
「この渓谷の本当の姿は、世界樹の根っこなんです」
ボクはスライムが見せてくれた、渓谷の姿を思い出す。
渓谷の実態は、世界樹そのものである。
木が木を産んで、さらにその上から木が育っていった。
そうしてできたのが、クレキシュ大渓谷なのである。
大地の裂け目は、世界樹の根っこが作り出した分かれ目なのだ。
宗教団体は、その力を悪用しようとして、世界樹を切った。
その影響で大地は荒れ果て、大渓谷はただの枯れた谷へと姿を変えたのである。
ボクは、その大樹の力を復活させたのだ。
「バカな! バカなあっ!? アタシより強い植物型のモンスターがいるなんて! わああああ!」
半狂乱になって、アルラウネがトレントに攻撃を続ける。
だが、つま先にしか攻撃は当たっていない。くすぐったいくらいである。
あれだけ大きかったアルラウネが、もう豆粒くらいにしか見えない。最初は勝てるのかなって心配だったけど、今のアルラウネは正直怖いと思わなかった。
とはいえ、邪魔な存在なのは変わりない。
「とどめを刺しましょう、トレント。魔王の手先なんて、この世界に必要ない」
ボクが語りかけると、トレントは足を上げる。
足元に生えていた根っこが、ズズズと盛り上がった。
大地が揺れて、アルラウネがバランスを崩す。
「待って! その力を魔王復活に役立てて! その力があれば、魔王様も復活できて、あなたも自由に――」
聞く耳を持たず、トレントはアルラウネを踏み潰した。アルラウネの栄養分を、一瞬で吸い取っていく。
アルラウネは、ただの枯れ葉になって粉々に。
トレントは動きを止めて、大地に根を完全に張った。アプレンテスを象徴する、世界樹となる。
洞窟の入り口がひとりでに開き、目の前には大瀑布が。
「ほらあ、やっぱり入り口が滝の中にあったじゃーん」
ボクはドヤ顔で、二人に自慢をする。
悪者のアジトってのは、たいてい滝の裏側にあるものだ。
「コーキ、川もだいぶ伸びたよねえ」
パロンが差す方角には、ボクたちがゴーレムを使って作った川が。行きはチョロチョロの溝レベルだったのに、今や水が囲いを砕いている。水は無軌道に、血管のごとく広がっていく。どこにつながっているのだろう?
アルラウネと雨乞い宗教団体が滅びたことで、自然が回復していった。
「滅んで、よかったんだよね?」
「うん。こんな組織はダムに沈めばいいよ」
世界樹が、自分より小さいトレントを、大量に生み出す。
トレントたちのサイズは、普通の大木くらいのサイズだ。各々の行きたい方角へ、足を進めている。
「彼らは、なにをする気だろう、コーキ?」
「街を襲う気配はないぞよ」
パロンとクコが、不思議そうにトレントの行く末を見守った。
「このまま、アプレンテスを緑に変えてくれるみたいだね」
トレント型世界樹が、散り散りになって歩き出す。だが、行き先も荒れ地となっているだろう。回復させるには、また何年かかるか。
この大渓谷のように、一瞬で回復というわけにはいくまい。
一体のトレントが、立ち往生している。どうしようか、迷っているみたいだ。ボクと会話していたスライムも、いっしょにいる。
ボクは、そのトレントの肩に乗った。
「そうだ、コーキ。トレントをウチにまねこう。村で回復してから、ふるさとに根を伸ばせばいい」




