第1話 新たな人生、そして1つの誓い
キーンコーン、カンコーーン。
……この音はなんだ? こんなチャイム、うちの職場にあったか? いや、これは学校の呼び鈴だ。妙に懐かしい。小学生の頃からずっと、親や先生には迷惑ばかりかけていたなぁ。
冷たい風とともに、何かが体に触れた。重い瞼をゆっくりと開く。
桜吹雪の舞う中、目の前には巨大な建物がそびえ立っていた。
これは……学校? なぜだ。俺は職場で意識を失って——うっ。思い出せない。
違和感を覚え、手に握られていたものを開くと、クシャクシャになった紙切れが一枚。肩には鞄がひとつ掛かっている。その紙には俺の名前と八桁の番号が記されていた。……なんだこれは。
「そこの君、どうしたんだね? 体調でも悪いのかい?」
声のほうを振り向くと、50代ほどのスーツ姿の男性が立っていた。どう見ても学校の先生だ。
下手に目立つのは避けたほうがいいと思い、俺は笑顔を作って答える。
「いえ、すみません。あまりにも立派な学校で、つい感動してしまいまして。ご心配、痛み入ります」
「しっかりした子じゃのぉ。ほれ、始業式が始まるぞ。ここを真っ直ぐ行けば掲示板がある。そこで自分のクラスを確認するんじゃぞ」
始業式……やはりここは学校か。となると、俺は一度死んで転生した、ということなのだろう。
「ここを真っ直ぐですね。ありがとうございます。では、失礼します」
会釈をし、言われた通り道なりに進んだ。
掲示板の前には、大勢の生徒が集まっていた。同じクラスになって喜び合う者、別れてしまい涙ぐむ者、反応はさまざまだ。
俺は後ろから自分の番号を探す。
俺のクラスは1-D……何科なのかは全くわからん。
とりあえず、そのまま体育館へ向かった。
着いたときには、校長らしき人物の話が終わったところだった。
(どの列が俺のクラスかわかんねーな。まあ適当に座っとくか。それにしても、この体育館、観客席まであるのか)
進行役がマイクを取り、式を進めていく。
「次は新入生代表挨拶です。代表者、東郷宝輝さん、前へ」
「はい!」
元気のいい返事とともに、一人の生徒が堂々と壇上へ上がった。聞き取りやすい声で、新入生代表挨拶を立派に務めあげる。
――1年生なのに、しっかりしてるな。
「続きまして、生徒会長歓迎の挨拶です。北浜凛音さん、お願いします」
壇上に現れた生徒会長は、落ち着いた雰囲気の少女だった。
「新入生の皆さん、おはようございます。わたくしは『四方総合中央高等学校』生徒会長の北浜凛音と申します。突然ですが、皆さん――この世で一番大切なものはなんだと思いますか? 家族や友人、恋人だと思う人は挙手を」
在校生の多くが手を挙げた。歓迎の挨拶でこんな質問するか?
「飲食物だと思う方、挙手を」
これにも多くの手が上がる。まあ、生きるには必要だ。
「では最後に――お金だと思う方、挙手を」
俺は軽く手を挙げた。他の挙手は、10人にも満たない。
「そう。この世で最も大切なのは“お金”です。友人も飲食物も、お金があれば手に入る。恋人や家族も、お金があれば養うことができます。企業だって、多くの従業員を雇える。だから皆さんには、高校生活で“お金の大切さ”を学んでほしいと、わたくしは願っております。以上で歓迎の言葉を終わります。ご静聴ありがとうございました」
……いや、全然歓迎されてねぇぇ!!
お金の話しかしてねぇぞ、あの生徒会長! よくあれで会長になれたなッ!
式が終わり、それぞれが自分の教室へ移動していく。
俺も教室へ入り――そして目を疑った。
「う、嘘だろ? こんなことが……」
「えっ!? 牙城さん!? 牙城さんだよね!?」
声をかけてきたのは、職場で一緒にいた希羅だった。
「ああ。そうだ。……本当に希羅なのか?」
「うん、希羅だよ! しかも他の人もいるんだよ!」
希羅が指差した先には、音梨さんや真会さんたちの姿。あの時、同じ場所にいた人たちだ。
「牙城さん、若くなった?」
鏡を見ていないが、高校生になっているのだから当然か。真会さんたちは元から若く見えるので変化は少ない。
すると背後から声がした。
「あら、牙城君と遊凪ちゃんに真会さんじゃない?」
振り向くと、天然パーマの茶髪の女性。知らない顔……のはずだが、その話し方に妙な既視感がある。
「誰だ? なぜ俺たちを知っている?」
「あら、牙城君怖い。私よ、時末よ」
「……なんだと!? 時末さんは50代のはずだぞ!?」
まさか、全員若返っているのか……!
「まじっすか……大変失礼しました」
時末さんと仲の良かった希羅や真会さんは、再会を喜び合っている。
「みなさんご無事のようですねぇ。私もぉ、気づいたらぁ、この世界にいたんですよねぇ」
「ホテルにいた人、全員集合ってこと?」
音梨さんと柊さんもいた。どうやら“転生”という表現が最も正しいらしい。
「この怖い牙城君は放っておいて、席につきましょう」
「すみませんー! 本当にわからなかったんですよー! 許してくださいー!」
時末さんの軽口に、皆が笑いながら席へついていく。
――本当に良かった。転生したこの世界でも、みんなに会えた。
俺、牙城鐵星は……第二の人生、絶対に後悔しない。好きだと伝える。この場で強く誓った。
ガララッ!
勢いよく扉が開く。
「おい、予鈴はとっくに鳴っているぞ。早く席につけ」
入ってきたのは、名簿らしきファイルを手にした、髪の毛のボサボサな女性教員だった。




