アル
キューバ上空に着いて驚いた、姿の見えない透明な影……、影というより、大きなビニールが視界を歪ませているような……例えることが難しい物体が、C54輸送機をまさに飲み込もうとしている。いや、もしかすると既に飲み込んでしまっているのかもしれない。
無線がC54輸送機の悲痛の叫びを拾った。
「こちらホーガン機長、視界ゼロで針路を失う。当機の現在位置を知らせて欲しい」
この声と同時にC54の姿が消え、大きな透明な影は青い海の中へ、波はもちろん、音も出さずに消えていってしまった。
「あの大きな影は一体……あれがアルなのか?」
ハヤトは、まだ海を見つめながら、声を震わせていた。
クルム先輩とミエコは海には目をやらず、辺りを注視しヒューマン社のタイムディスクを探していた。
「いた! 北方向に向かう!」
ミエコがヒューマン社を確認し、急いで追跡を開始する。
数分の加速が続いたあと、再び無線が聞こえてくる。
「ターゲット発見した。バハマ上空、C46……」
無線から聞こえてくる声は、相変わらず気持ち悪いぐらいに血が通っていない。
「こちらアル。C54を海底にて排出完了。そちらに向かっている」
この無線を聞いて、俺は子供の頃に読んだ世界の七不思議という本で見た、バミューダ・トライアングルの海底に無数の飛行機や船が折り重なるように沈没している挿絵を思い出した。あの頃は信じていた都市伝説はこうして、人類によって作り出された物だったのか……。あの胸のドキドキを返して欲しいと思った。
「アルって奴が出てくる前に、ヒューマン社のタイムディスクを奪っちゃいますか?」
ハヤトの鼻息が荒いが、ミエコは冷静だった。
「アルはあと数分でターゲットを飲み込みにくるはず。それよりも、C46には申し訳ないけど犠牲になってもらって……、マザーはC46排出で海に潜るはず!その時に実行しましょう!」
誰もがミエコの判断が正しいことは分かっていた。そして……C46は歴史上、ここで消息不明となる運命なのだから。
「よし。そのタイミングで実行しよう」
俺は、みんなの顔を見ながら言った。
海面の青が濃くなったと思ったら、大きな影のような物体が徐々に空気を歪ませながら上空へ上がってくる。それは、音もなくC46の真下までくるとゆっくりとC46の機体を飲み込んでいく。それはあっという間の出来事だった。
「さ、このまま海へ潜れば、計画通り作戦実行だ!」
俺はシートに座り、ヒューマン社のダイムディスクに自動追跡照準を合わせた。
「海上に複数の船あり、海底への廃棄を中止し……山岳部での廃棄に変更」
アルからの無線が入ったと同時に、ディスクから返答がある。
「南東ジャマイカのブルー山脈の麓に、廃棄に適したスペースを発見。 位置情報を送るので確認して欲しい」
なんてスピードだろう……。正直、こんなスピードで情報を収集できることヒューマン社の技術に関心した。
「位置確認完了」
アルの確認スピードも桁違いだ。
この無線のやり取り後、気が付けばアルの姿がなく、タイムディスクも既に移動を開始していた。タイムディスクは北西に向けて移動を開始している。アメリカ大陸に向かっているのか?
「急いで自動追跡照準を合わせろ!」
ハヤトの言葉に慌てて照準を合わせた。




