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軍師レツリン

 足を取られながら岸に向かっていると、僕の体が赤く光った。


 攻撃力アップのエフェクトだ。誰がやったのか確認するために左目を閉じると、行動ログにりんねいの名前がある。


 りんねいはダンサーになったから、これは怒りのフラメンコか。


 ダンサーの踊りはバードと同じく、踊り続けている間、同じ敵とエンカウントしている小隊員全員に効果が出る。たぶんりんねい小隊の前衛に守られながら、少し離れたところで踊っているはずだ。


『前衛、次の攻撃で引き上げ』


 レツリンの声。


 岸に上がると同時に、森に逃げ込む。今頃前衛がラッシュしているはずだ。牽制のカスリならともかく、攻撃に長けるハンマーナックルやクルセイダーの連続攻撃を食らえば容易にヘイトは上がる。ターゲットはすでに僕から離れているだろうけど念のため。


 モンスターには基本的なステータスとは別に賢さが設定されている。マスクデータなので見る方法は無いけど、いくつかの行動からある程度推理できる。頭の弱い敵ほど、ヘイトに左右されやすい。あと外見も多少の説得力を足すことができる。ワームはどう見たって賢くは見えないから、たぶん賢さはかなり低い、と仮定する。


 その場合、次々にヘイトを切り替える作戦が有効なはずだ。


 茂みの中で装備を全部解除して、すぐにインベントリから装備する。汚れの取れた衣装で茂みを出ると、ワームが大きく体を揺らしたところだった。


『なんか来る、待避!』

『盾は構え』


 僕の語尾にかぶせて、レツリンが指示を出した。


 前衛を見ると、エイタローと正太郎、オツが盾をかざして構えている。他の連中はある程度森に逃げ込んでる。遅れているのはオツ小隊のバンディット、ジャックとサクラさん、男爵の所のクラバス。


 ブラガワームはそこに、恐ろしい量の緑の液体をはきかけた。


 盾の三人も、逃げ遅れた三人もあっという間に飲み込まれる。


「あつっ!」


 オツが叫ぶ。その後、逃げ遅れ組が悲鳴を上げた。


「い、いた、痛っ!」

「酸、酸!」

『ユージン、ヴァラキュアを。メンデル、抑毒菜を盾に。すだつぐ、ペインレスを逃げ遅れに。盾は下がって。ライダーの二人、次のアクションを待ってヘイトを稼いで』


 次々とレツリンの指示が飛ぶ。サクラさん達は転がるように茂みに飛び込み、奥から光が飛んでエイタロー達のHPを回復した。ユージンのヴァラキュアはターゲットしたプレイヤーから一定範囲を回復する。


 エイタロー達が下がって、広場には誰もいなくなった。しかしブラガワームは構わず、地面に大量のヘドロをまく。


『通達。思った以上に賢い。プランCに移行。黒マゴの二人、どうぞ』


 僕たちの作戦は段階に分かれている。男爵がスキルを盗めるかをまず判断。失敗したら相手の頭脳をはかる。そして相手がヘイトよりもこちらの足場をなくすことを選んだのなら――


『グレイ、イノシシ待機』


 ガートランド達がカスリを入れ、それを追ったワームの横っ腹にアイスロックが刺さった。


 それをものともせずにドラゴンを追うけど、空の逃げ足は速い。すぐさま攻撃範囲から逃れ、苦し紛れの溶解液も避ける。


 ワームは諦めたようだ。ぐるりと頭を回して、森の奥、マトノとラシェラッティが隠れている所に狙いを定める。そこにすぐさまガートランド達が横やりを入れるが、ワームは無視。ヘドロを飛ばす。ただし、そこにはすでにグレイトマギの二人はいない。アイスロックを撃って逃げ出している。


 リチャージ完了。ダークを発動し、僕はコウモリ変化で飛び立つ。最初期の魔法らしく基本威力はカスだけど、ヴァンパイアの高いステータスがそれを補う。全部合わせて、ワームのHPは半分を切る。


『次の攻撃に全員のタイミングを合わせるように。ドラゴンはジャンプ準備。グレイトマギはMP回復。バロン、ジェスト、攪乱は任せる』


 ドラゴンが高く飛び上がって、同時に森から男爵が飛び出した。僕も合わせてワームの周囲を羽ばたく。


『イノシシどうぞ。ユージンとメンデル、ジェストのフォローに』


 レツリンの指示からすぐ、茂みから五体のワイルドホグが突進してきた。ブリーダーのグレイが捕まえておいたヤツだ。ほとんど調教していない上に数が多く、ほとんど制御できていない。実際、攻撃力の低い小隊員の役割はこれらのホグが暴れないように抑えておくことだった。


 ホグはすぐにヘドロに足を取られて転がる。ただし突進の感性のとヘドロの滑りやすさのせいで数メートル滑り、


 突然地面が爆発した。岸から五メートルくらいの所だ。


 地面にヘドロをまかれた時の対策、昼間にレツリンの仕掛けた地雷だ。スキーマーのスキル。もっと時間をかければ広範囲に仕掛けられるけど、今回は広場の2カ所でよい。そこをホグが踏むと今みたいに発動して、地面がえぐれる。


 ヘドロも巻き上げられ、クレーターみたくなったり飛び散ったり。


 穴で歩きにくいのは確かだけど、ヘドロよりずっとマシな足場ができあがる。


 その間に、僕はワームの口の前を横切って回り込んだ。釣られたワームがこちらをむくと、反対側から男爵がエアハイクで上ってきているのが見えなくなる。


 男爵のステッキがワームに刺さる。ただし、ダメージは微量。これまでと同じようにワームはものともしないで、僕に溶解液をぶっ放した。


 コウモリのスピードで避けられるわけがない。


 僕はまともに溶解液を食らってはじき飛ばされた。足の方からブスブスと焼けるような痛みが上ってくる。マジでいてえ、いてえ!


 地面に激突して落下ダメージ。墜落なので受け身も取れず、酸の継続ダメージが全身を焼く。服の中に染みこんで、僕はあまりの痛さにのたうち回った。


『一斉攻撃。黒マゴ、雷準備』


 レツリンの声もよく聞き取れない。いてえ、やべえこれ。くそ、臭いけどヘドロの方がまだ全然マシだ!


「ジェストさん!」


 すぐにユージンの声がして、僕の体が緑色に包まれる。痛みが一瞬引いて、また酸の継続ダメージがいてててて。


 続いて白い光が僕を包む。抑毒菜。メンデルの調合した酸毒ダメージ、および毒状態を回復するアイテム。


 立ち上がる前に腕を掴まれて、茂みに引きずり込まれた。


「お疲れさまっす。あとは――」


 ユージンの顔の上、木々の間から空と星、そしてそこから降ってくる二つの影。


 ドラゴンライダーのジャンプ。もともとランサーのスキルだけど、高いところから飛び降りるほどダメージは高くなる。今回、とんでもない上空からの発動だけど、今までWWで何千回もやってる二人だ。こっちに慣れさえすれば、あの巨体を外しはしない。


 そんでガートランド達が飛んだってことは、前衛組のラッシュが期待通りのダメージをはじき出したということ。


 僕の役目は終わり。







 茂みに視線をふさがれていたけど、なにが起きたかはわかる。


 まず一撃を入れた男爵はそのまま湿地に落ちて、男爵を狙おうとするワームがそっちに目を向ける。


 そこに前衛組が飛び出して、反応する前にラッシュ。とにかくラッシュ。


 ありったけダメージを与えて、ヘイトと邪魔臭さをプラスしてワームが男爵よりも優先したら、結果的にワームは前衛組を再び狙うために巨体を持ち上げる。湿地から棒が突きだした感じだ。


 そこを狙って、ドラゴンライダーがジャンプ。脳天に深々と槍を突き刺し、そのまま男爵と同じく湿地に落ちて非難。


 とどめはグレイトマギのサンダーランス。これでちょうど、ワームのHPは0前後。


 五分で終わった。


 僕は広場に出てきていたみんなと合流し、ワームの死骸を見る。でかい口を開けたまま、沼から顔を突き出して死んでいる。


「ちょっと、マトノちゃあん!」


 その様子を見て逃げ出したマトノをサクラさんが追いかけていった。


 よくそんなんで今まで戦えたな、と考えるのは間違いだ。


「消えないな」


 ガートランドが言う。


 そう、普通、モンスターはHPがゼロになったらやられモーションの後に消える。でもこのブラガワームは消えない。ずっと死骸が残ったままで、だから僕も不気味に感じる。マトノが怖がったのも、このグロテスクなのがすぐに消えるという期待が外れたせいだ。


 HPは確かにゼロだから、死んでないわけじゃない。


「……一年初期職やってたからアレだけど、二次職ってこんな強かったっけ」


 誰かが呟いた。


 大体のメンツはWWでは三次職をバリバリやってた。そこから初期職に戻って一年だから、前の感覚は薄れているだろう。それにしても、二次職に転職して桁違いに強くなった気がするのは確かだ。


 もちろん強くなっている。初期職と二次職はステータスにもスキルにもかなり開きがあるから、一度初期職で出会っている僕たちにとってはかなり拍子抜けだ。


 だけどその原因は、今回の作戦を運用したレツリンだろう。


 あらかじめ溶解液は考えていたとはいえ、あの範囲は予想外だったはずだ。本来なら最悪でも盾の三人だけがかぶるはずだったし、それなのに逃げ遅れた三人への対処もしっかりしていた。相手のHPがどれだけ減るかも正確に見極めて、僕が溶解液をかぶって落ちるところに、あらかじめユージン達を走らせておいた。


 コウモリ変化のリチャージ時間も、ちゃんと計っている。


 終始慌てず、冷静に指示を出したレツリンは、その時とおそらく同じ表情でブラガワームの死体を見ていた。


 レツリンがうまく僕らを動かしたから、びっくりするほどあっさりとケリがついた。そういっても過言じゃない。


「誰か墓作るの手伝ってくんね」


 ブリーダーのグレンが呼びかけて、何人かが行く。僕も行った。ブリーダーの基本として、死んだペットを蘇生させない場合は墓を作る。どれだけいる期間が短かったとしても、それが慣習だ。


 つってもWWでは墓なんか作れないから、ジオタグみたいなのに『○○、ここに眠る』とか自分用のメモとして書き込むだけだった。でもCHは実際に土を掘って墓が作れる。


「今回は作戦だったからだけど、本来ペットは出来るだけ殺したくないからな」


 穴を掘りながらグレンは呟いた。


 レツリンの作戦を邪魔するものの一つが、ペットは小隊員と判断されることだった。この場合、敵を対象として地雷を仕掛けると、ワイルドホグを引き金に地面に穴を掘る手口が使えない。


 だからレツリンは、対象を制限せずに地雷を仕掛けた。埋蔵する数を少なくしたのもこれが理由だ。前衛達にはあらかじめ伝えているけど、間違って踏んだら大惨事である。


 墓を作って戻ると、男爵達がドロップを確認していた。


「なんだこりゃ」


 首飾りのようなもので、僕は暗視を発動して確認する。暗闇の中でもよく見える。ヴァンパイアのはなぜかアクションスキル。


 金色の、色鮮やかなもの。いろんな宝石がちりばめられているようだ。


「ブラガワームはボスだったな。ならなんかのイベントアイテムの可能性がある」


 男爵はそういってるけど、ガランスギュエックのドロップは剛弓だった。装備したらなんか効果があるかもしれない。


「バロン」

「わかってるさ。覗き見すんな」


 レツリンに促されて、男爵は首飾りを僕に投げてよこした。


「これで協力は終わりだ」

「わかってる。ありがとう」

「礼はいらねえよ」


 首飾りを受け取った僕に、男爵は封筒も投げた。


 来ると思った。


「次の防衛戦の時にその首飾り、いただきに参上する。じゃあな」


 予告状だ。







 男爵達が去って、残るは僕らだけ。


 別に急がなくてもいいだろうに。


 ワームはまだ消えない。男爵達は森に消えていったから、湿地を渡るつもりはないのか。


 とりあえずミウルの里に戻って休むことにした。朝を待って、オルトノグェイク組は帰る。これからくる初期職の本軍部隊を神殿まで案内する仕事がある。


「明日、湿地を抜けます」


 イイリコさん、サクラさん、そして僕。小隊長と遊撃軍団長の会議。


「それで、問題はワーム事態はただのボスだってことです。もし湿地がエンドレスだった場合、他の条件を満たさないと行けない可能性がある。そこで、サクラさん」

「ん」


 サクラさんはインベントリから指輪を取り出した。『エメラルドリング』。男爵達がつけていたものと同じ。


 転職のクエストの時、愛の隘路を選択したプレイヤーが取得することの出来る装飾品。つまりレツリンと男爵は愛の隘路を……どうでもいいけど。


 効果は、ミウルが行う『魔力を使用しての意思疎通』が可能になること。ミウルが人間のために建てた施設だから、こういうのがあってもおかしくない。


 つまり、正しい順路はここより先に転職を行うことだったわけだ。僕らは利家という裏技みたいなのがいたから、順番を飛ばしてミウルと接触できた。だけど情報を引き出すには、付け焼き刃のミウル語会話じゃとてもじゃないけど無理。


 つまり、このエメラルドリングで手に入れられる情報があると推測できる。もしかしたら湿地を抜ける条件があるなら、それもわかるかもしれない。


「ジェストくん、つける?」

「サクラさんの指輪です。面倒じゃなかったら、サクラさん、お願いします」

「あたしそういうの気にしないけどね」


 つーか、なんで愛の隘路を選ぶのが条件なんだよ。おかげで僕らは一つも入手出来てない。サクラさんは拾ったところで理由を知ったらしいけど、ニヤニヤするだけで教えてくれない。


 気になるじゃないか。


「エイタロー、どうでした?」


 一応、昨日の数戦で動きは確認している。でもボス戦だったから、盾がどうだったか確認。僕は飛び回っていたから前衛の動きはあんまり見れなかったし、そもそも今回は指示を出される方だったから。


「心配はいらないんじゃない。酸を食らっても落ち着いてたし」


 僕の記憶でも悲鳴を上げていたのは逃げ遅れ組だけだ。正太郎とかは当たり前みたいに耐えていたようだけど……そもそもアイツ、レツリンに負けないくらいポーカーフェイスだけど……依然、炎にまかれて前後不覚に陥った時と比べると、どれだけ成長したかがわかる。


「なら、問題ないです。イイリコさんがそういうなら、僕が心配しても過保護ですよね」

「女の子は心配して欲しいものよ」


 どっちだよ。


「サクラさん達、明日からも大丈夫ですか」

「そりゃもちろんね。てかここらで採れるの、砦の所とレア度は変わらないし。こっから本番だわさ」


 ありがたい。サクラさんはロストクリエイトに転職して、今までより水準の高い武器防具を作れるようになった。歯車とかゴテゴテした衣装を面倒くさがってブラックスミスの時と同じガテン系スタイルを貫いているけど、頼もしさがまるで違う。


「いい武器作るにはいい素材。思ったよりずっと早くロスクリになれたから、むしろ今から出発したいくらい」

「さすがに夜はやめときましょう。それじゃあ、そっちのメンバーによろしく」

「よしなに。じゃミウルの誰かに話聞いてみる」


 立ち上がったサクラさんは思い出したように、


「あ、さっきエルちゃんからメッセージ入ってさ、昼食後、ちょっと早めにログインするってさ。今って八時半くらいだっけ」


 リアルとの時間差は如実に表れている。まだ僕らがログインして一時間も経っていない。エリスレル達が十三時過ぎにログインしたとして、こっちでは年が明けている。


 あれ、ノリアキングも同じくらいだっけ?


 出て行くサクラさんに続こうとしたイイリコさんを呼び止める。


「なに? 二人でいるとエイタローくんが嫉妬するよ」

「マジメな話です。そんで、できれば二人だけで」


 イイリコさんは意味深に笑うと、


「二人だけの秘密、ね」


 そういやそんなこと言ってたな。バーで。

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