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キャッスルガード・ヒーローズ  作者: 栗原寛樹
第三部 再びキャッスル
72/115

イイリコ小隊員個人面談

「なんかあったっすか」


 ユージン、ええと、勇仁だったか。僕の隣でアルコールをあおる。


 さっきの体調不良、アルコールのせいもあるんじゃないか。そんな気がしてきた。とにかく休みは必要なので、ばたりと眠れるように一杯だけ飲むことにした。相変わらず苦い。


 他のメンバーはテーブル席で飲んでいる。ほんの一時間前に飲んでこれだから、みんなアルコール強いんだな。僕が口につけようとした時、ユージンが引っ張って連れてきた。


「内緒話っす」


 と言ったはいいが、なにを話すつもりだろう。


 コピー用紙はいったん部屋に戻って着替えた時に焼き捨てた。いつの間にかライターがポケットに入ってたから、抜いたのを確認した帝が忍ばせたんだと思う。


 これについて、ユージンにも話すつもりはない。


 でもまあ、他のことなら。


「僕の強制ログアウト、やっぱりここ数日のあれが影響してたみたいだ」

「あれがどういうふうに影響したのかはわからないっすけど」


 ユージンは笑って、


「続けられるんならよかったっす。ジェストさんいないとなにがなにやら。俺もやる気なくなるっすからね」


 本心かどうかはわからないけど、言われて嬉しく思わないはずはない。


「そっちのほうはどうっすか」

「なんか、妙にすっきりしてるんだよね。新藤がどこかに消えたというか、いや、もしかしたらもう、解決してるのかもしれないけど」

「エイタローさんの方っす」

「心配してくれてるよ。愛想つかされないようにしなきゃな」

「だからそうじゃなくて」


 なんだよ、わからんヤツだな。


「気を利かせて一人で行かせたんですから、こう、深まりましょうよ」


 ぶっ。


「ログアウトまでフレンドといろいろダベったんすけど、ゲーム内でよろしくやってる連中、案外多いっすよ。夜になるとどうしても暇っすからね」

「よろしくって……その」

「そのよろしくっす」


 できるのかよ。


 おいおい、どういうシステム構築なんだよ。エロゲーじゃねえんだぞ。


「ゲーム内だと数ヶ月経ってますし、面倒ないろいろがないですからね。とくに引きこもりの連中が本当に発情期で、噂では夜な夜な違う相手と」

「冗談じゃないよな?」

「噂ですって、ホントに。でもなに考えてんだか、とは思いましたけど、よくよく考えてみりゃ納得がいきました」


 なんのことだよ。ゲーム内であれこれできるのになんか正当な理由でもあるのか。


「数ヶ月っすよ。リアルじゃまだ六時間ですけど、俺たちの感覚は数ヶ月。ゲームに排泄はないですけど、身体的なことだから別にいいんですよね。空腹がデザインで存在するように設定されてるってだけで。性欲って頭じゃないすか。だから、ねえ」


 思考の問題だから時間が引き延ばされるとどうしても出てくることってことか。


 ユージンの考察はそれなりに納得いきそうな感じではある。


 だけどさ、


「じゃあアバターって、そうできてんの?」

「自分の、見てないっすか」


 見てるわけないだろ。出す必要がないんだから。汚れも排泄もオミットされている。傷なんかはダメージが回復すれば自然に消えるし、衣服の損傷も無いんだ。


「それってユージン、我慢できてんの」

「猿みたいにいわんでください。そういうキャラじゃねえっすから」


 とはいえ、悩まされたこともあったみたいで。


「攻略中はいいんですよ。昇華っていうんすかね。CHの攻略中はそっちに集中してるからそんな気はしない。でもこう、ふとムラムラと」


 なんで僕はこいつの下の話を聞いているんだろう。誰が得するんだ。


「ジェストさん、なかったんすか」

「僕は……まあ、今までもなかったしなぁ。ユージンじゃないけど、ゲームのことしか考えてなかったし」

「ならよかった」

「なにが」

「これからはそうはいかないってことを伝えておきたくて」


 飲み干すと、


「覚悟しといてください。辛抱堪らんようになったらさりげなくっすよ」


 なんの忠告だよ。


「あのさ、僕の名前、覚えてる」

「新藤さんの方っすか」

「そう、それ僕」

「そいじゃ」


 ユージンは右手を出してきて、


「与木勇仁っす」


 握手。






 ユージンが立ったので僕も戻ろうとしたら、今度はなぜかガートランドが来た。


「そういやガートランド、ルシェイナさんのフレンドのフレンドだったっけ」

「なんだ急に」

「ちょっと振り返ってみて、思い出しただけ」


 怪訝そうに僕を見てくるガートランド。


「ケモ子のことだろ」


 そんな名前だったか?


 酷い名前だけど、ルシェイナさんは「もけちゃん」と呼んでいたそうだ。理由はけもちゃんだと「も」と「ち」の繋がりがしっくりこないそうで、


「ガートランド、ルシェイナさんとは直接の知り合いじゃなかったんだよね? いつきいたの?」

「いつってか、最初に地下で会った時にフレンド登録して、砦の時にお前が世話になるからよろしくっつって、それからメッセでその話になったんだよ。直接話したのは砦の打ち上げの時だけど」


 なんと。大体二人のどっちかとは一緒にいるのに全然知らなかった。


 いや個人的なことだから二人が僕に言う必然性なんてないし、僕も全然興味なかったし、ユージンに変なこと言われたりしなきゃ聞くこともなかっただろう。


 でも、ああ、そうだな。


 そりゃ他のプレイヤーはそれぞれのプレイ生活があるわけで。


「お前も時間ある時、メッセでやりとりすんべ。夜に娯楽、ないんだし」


 CHで提供されている娯楽は基本的に探索とモンスター退治なわけで、それを拒否してるんだから暇にもなるわな。


 でも僕、そんな世間話、メッセでほとんどしたことない。


 そもそもメッセージを送信するのも少ないし、事務連絡みたいなのがほとんどだし、そういや誰かと無駄話するってのがあんまりなかったな。


 だいたいのプレイヤーとはゲームのこと、イイリコ小隊とは小隊のこと。ノリアキングやトシヒコにはイイリコさんのことで相談したりもしたけど、プライベートなことといったらエイタローくらいだ。


「しないなあ」

「どうして?」

「どうしてって、別に……必要なかったからかな」

「じゃ夜なにしてんの」


 なにって、基本的には攻略のプランを練ってたり、モンスターのデータを整理したり、城や軍団のステータスを見たり、ヘルプを読み返したり、やることはいっぱいあって……ああ、本も読むな。それで最近はエイタローに盾を教えたりとかもあった。


「そのうちに寝落ち」

「お前根性あんな」


 そんな目で見るなよ。別におかしいことじゃないだろ。ここ数日はまあ、いろいろあってあんまりできてないけど。


「じゃあ虎之助様から助言してやろう」

「虎之助ってなにさ」

「俺の名前。光吉虎之助」


 吹き出す。


「別に慣れてるからいいけどさ、傷つくんだぜそれ」

「ごめんごめん、イメージに合いすぎだったから……で、助言って」

「友達を作れ」


 友達……?


「友達。お前、結構親しくしてるヤツがいるのにそーいうのは勿体ない。小隊の連中には話しにくいこともあんべ? ちょろーっと『なにしてん』『ぼちぼち』くらいでいいの。初めは面倒くさいかもしれんけど、そうだなあ。スーパーマギあたりいんじゃね」


 マジかよ。それはないだろ。なんか性格正反対そうだし。


 と言ってみたら、むしろその方がうまくやっているとのことである。


「なんつうのかな、こう、小隊はさ、特にイイリコ小隊は滅多なことじゃメンバー変わらないし、運命共同体みたいな所あるだろ。普段気にしなくても細かいそれこれってのはあるんだよ。そういったしがらみがない相手はいたほうがいいと、俺は思うよ」






 なんで入れ替わり立ち替わりに僕が面談してるんだろう。姫代子はお変わりを注文して、それが来るまでの間に野菜スティックをポリポリ食べている。


「もう体はいいの」


 頷くと、


「本当に?」

「プレイ続行も問題ないって言われてるし、長旅でVR酔いしちゃっただけだって」


 僕の心をのぞき込んでくるような視線。姫代子とユージンは洞察力において同程度だけど、ずばり言ってくるかどうかが違う。


「タチが悪いのよね」


 相変わらずだな。タチが悪い。僕と新藤の問題について、防衛戦前に姫代子が言った言葉だ。持ち出してきたからには、姫代子は強制ログアウトの原因があれにあると、ほぼ確信しているようだ。まあ多かれ少なかれ、イイリコ小隊のみんなはあたりをつけているだろうけど、でも、


「注意しなさいよ。パーソナリティに関わる問題が簡単に解決するなら、誰も苦労しない。あんたは、まあ、ちょっと特殊なケースだけど」

「詳しいの?」

「映画見てね、ちょっと興味持ったことがあって。かじっただけだから偉そうなことは言えない。だけどここ数日のあんた見てたから。今はなんか問題なさそうに見えるけど、解決したって言い切れるわけじゃないんでしょう」


 どう答えるか迷った。姫代子の言葉は的確で、確かに今の僕は安定しているけど、頭のもやが晴れたわけじゃない。それに、あれだけ自己主張していた新藤良介がまるで、そう、同化しているような、こんな状態になったのが何故かもわからないでいる。頭のもやが原因なのは明らかだけど、どうすれば晴れるのかもわからない。


「あんたのことが心配じゃないっていえばウソだけどね」


 僕が答えないのを待って、姫代子は続けた。


「あたしたちにできることはそんなに多くない。実際、あんたを外そうとしたしね」

「それって、最初の頃?」

「そう。エイタローが止めなかったら、もしかして引っ込みがつかなくなってたかもしれない。普段偉そうに言ってるけどそんな女なのよ。それでもいいって言うなら、相談してきなさい」

「効率厨としての意見?」

「そんなとこよ。あとなんども言うけどエイタローのこと、大事にしてあげなさいよ。童貞みたいだから、他の女の誘惑には注意すること」

「ど……ドン引きですよ、姫代子さん」

「軽口じゃないの。火種がないとも限らないし」

「エイタローだけでも奇跡みたいなものなんだから、ないよ」


 姫代子は置かれたグラスを手にとって、


「奇跡がまた起きたら、ありうるの?」


 いじわるな言い方だな。


「……ないよ。僕はエイタローのことを知ったし、自分のことも知った。奇跡がまた起きたらっていうけど、あれ以上の奇跡、起こりようがない」

「ずいぶん自身あるけど、結構簡単に揺らぐからね」


 せいぜい肝に銘じておくとする。姫代子の言葉は聞いておいて損はない。


「そういや、姫代子、名前なんていうの」

「姫代子じゃ不満?」

「嫌なら別にいいけど」


 グラスを一気に空けて、


「……あんたさ、神崎姫代子が本名だって言ったら、信じる?」







「飯田絵里子だから、イイリコ」


 ははあ、なるほど。帝が変な納得してたのもそれか。


 ついに面談は四人目になり、なんか僕を真人間にするための講習会みたいな雰囲気になっている。僕がいかに普通の生活とは切り離されたところで生きてきたのかがありありとわかって、新鮮な反面、ちょっと面倒くさいとも思う。


 だけど、なんか面白い。


「ジェストくんはなんでジェストにしたの」

「WWの時は『閃光のジェスト』だったでしょう。一部、今も呼んでるヤツがいますけど」


 その頃中二病だった僕は、自分の名前や安易な英語の名前をよしとしなかった。


 まずフランス語で格好いい感じの単語を探してたどり着いたのがGeste。だから正確な読みはジェスツになる。英語のジェスチャーに通じる単語で、意味は動作や身振り。


「それだけだと意味がありきたりなんで、今度はドイツ語で同じような単語探したんですね。するとGesternって単語があって、過去って意味だったんです。それとのダブルミーニングが出発点で、まだ『過去の動作』だと変なんで、付加価値を加えようとして」

「それで閃光?」

「他の人を過去に置き去りにするようなスピードで動く、そういう感じです。WWの時のプレイヤーネームのGeste von Glanzって、そっから来てます。頭韻も踏んでるんで綺麗だと思って」


 イイリコさんはクスクスと笑って、


「それでタンクになったんなら、どこかで心境の変化があったの?」


 そう、閃光のジェストなんて名前、重量級のナイトにはなかなか似つかわしくない名前だ。


「なんでですかね、そのあたりもう忘れちゃったんですけど……でもまあ、盾やってたからイイリコ小隊でポジションがあったんだし、よかったと思ってます」

「別にナイト系じゃなかったから誘わなかったってことはないけど、うん、ちょうどよかったかもね。このゲームでGesteだけに変えたのは?」

「ごてごてした名前よりシンプルなのが好きになった、くらいの理由です。それにネクロマンサーで閃光もなにもないでしょうし」


 そういやガートランドがなんでガートランド、いや初期はガートラントだったけど、その理由もなんか気になってきたな。


「イイリコさん、僕みたいに凝った名前にしようとは思わなかったんですか」

「イイリコだけでもう不思議な響きだからねえ」


 確かに。名前を短縮しただけには見えない。


「よく聞かれるのよ、なんの作品のキャラですかって。私だっての」


 イイリコさんは有名プレイヤーだ。顔は広い。でもイイリコ小隊でプレイしている時にそういった話はほとんどしない。


 一度、エイタローが聞いたことがあった。僕たちだけでイイリコさんを独占しちゃって、申し訳ない。


 そのとき、なんて答えたっけ。


 そうそう。『他のみんなをあわせたよりも、このパーティの方がいい』だったな。


特に注意を払わなかったけど……今も思い出せるんだから、きっと心に残ってたんだろう。


 僕も流れてる時はいろいろ組んだけど、結局、イイリコパーティが一番居心地よかったもんな。


 理由を挙げろと言われたらちょっと困る。他のパーティに比べてどこがどうとか、具体的に指摘できるわけじゃない。本当になんとなく、何となくだけど、確かに感じる。それで十分じゃないか。


「ジェストくんにも歴史があるんだねえ。名前のこと、いろんな人に話したの?」

「いえ、初めてです」

「そう」


 立て肘にあごを乗せて、イイリコさんはいたずらっぽく笑った。


「じゃあ、エイタローくんにも秘密ね」

「……や、まあ、別にどうしても伝えておかないといけないことでもないですけど」

「秘密は人をミステリアスにする。こんなことでも、一番近しい人以外と秘密を共有しているのが、スリルになるものよ」


 ……


 それでどうしようってんだ?


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