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キャッスルガード・ヒーローズ  作者: 栗原寛樹
第四次侵攻 あるいはいかにしてジェスト青年は答えをだすか
69/115

一つの終わり

 ドラゴン。ドラゴンだ。


 小型ではあるけど、WWで最強種のモンスター。


 僕らを本気で殺しに来ているのか。


 攻撃の届かない場所で悠然と見下ろしてくるベスラム。人竜一体のドラゴンライダー。


 これが魔王軍将……


 ガランスギュエックとはわけが違うぞ。てかあの高さっていくら何でも反則だろ。ハンターの弓すら届くか怪しいぞ。


 なんなんだよこれ。こんなところで出てくるモンスターかよ。なにか間違ってるんじゃないのか。それとも帝が言ったように、僕らは遠からず全滅するようなゲーム進行だったのか。


 対策が取れない……!


「……この、クソゲーめ」


 ふと口をついて出た言葉に、ぎくりと体が反応した。


 敏感になっているのか、それとも……


 振り絞った新藤のやる気が、萎えつつあるのか。


「違う……違う」

「構えろっ!」


 ノリアキングの号令、ベスラムに動きがあった。


 だけど僕らに向けての攻撃じゃない。


 遙か上空を悠然と、城へ。


 ……


『全員っ! 内門を守れっ! ボスが向かうぞ!』


 ノリアキングの通信が耳を刺した。頭が殴られたような痛み。


 うるせえ。


 ノリアキングも焦っている。今までに無い危機感。だって人類の半分が……城を守る勢力の半分が、いともたやすく突破されてしまった。


 あまりにもあっさりと!


『戻れっ! 他のモンスターはどうでもいい、走れっ!』


 言いながらノリアキングはすでに駆けだしている。


 戻らないと。


 泥沼にはまったように足が重い。


『ハンター、塀の上へ、大砲部隊、狙ってください!』


 堰を切ったように流れ出す攻撃隊。さっきまでとは全然逆で、城までの競争。


 だけどベスラムのドラゴンは速い。追いつけそうにない。しかも追いついたところでまた空に逃げられれば、永遠にこの防衛戦が終わらない。来月まで長引けばまた次の襲撃。それまで僕らはこの城に釘付けでどこにも行けず、だからレベルも上がらず、いつかはゲームオーバー。


 ……これで動けってのがおかしい。


「……違うだろ」


 違わないじゃないか。どうせ僕が、


「それ以上はダメだ」


 なに急に体乗っ取ってんの。どうせ僕が、


「ダメだ」


 どうせ、


「ダメだっ!」


 どうせ、僕がやる気を出したところでなにが変わるわけでもないのに。


「……ああ……」


 どうして泣くのさ。お前ら、それを承知で僕に体を明け渡したんだろ。僕もなんとかなるつもりだったけど、やっぱダメだ。だってこの時点であんな卑怯なモンスター出すんだぜ。修正ものの代物のはずなのに、リアル日数を考えると修正する時間は無い。それにこれから、もっとアホみたいなモンスターが出る可能性だってある。


 いや、絶対に出るね。運営は信用ならない。僕らに対して、意図的に難易度を上げている。


 最初はアーシュアのクエストの時だ。ゴブリンシャーマン達はなんで僕らを待ち構えていた? あったくありえないような推奨レベル以上の配置と不意打ちがどうして起きた?


 砦戦だってそうだ。メッセージなんていうシステムを利用して僕らを罠にかけてきた。あんな世界観ぶち壊すような仕掛けで、しかもあろうことかその先にボスを配置しやがった。しかも初めて出る『捕虜』はヘルプにも載っていないステータス異常だったし(砦戦後の今は表示されてる)、あそこで救出に行ける戦力が無くなればそのまま詰みだ。


 フェアじゃないゲームに付き合ってどうすんだよ。


「お前……僕は、CHだから続けたいと思ったんじゃないだろ」


 お前、どうして泣いてんの。てか僕、さっきから誰と喋ってんの。


「僕はどうしてもお前を潰さなきゃならないのかよ」


 無理だって自分で言ってたじゃん。てか僕の方が強いんだし、ねえ。


「さっきまであんなに、ジェストに負けないくらい、動いてたじゃないかよ」


 だって僕がやる気出した途端にこの敵だもんな。正直萎える。


「早いなおい」


 お前誰? ジェスト? てか僕、いよいよ人格が分裂しつつあるな。中二病卒業したはずなのにな。


「お前が言った全部、僕は乗りきってきたぞ」


 ……レベルが違うじゃんよ。


 わかったよ、やるよ、やる。これが最後。


「自分で誓ったばっかじゃないかよ」


 真琴?


 釣り合わないっしょ僕に。


 僕に……釣り合いなんて、しない。


 わかっているのに。あんないい子が、僕のこと好きになるはずないのに。


 どうして好きになんかなったんだよ。


「周り見ろよ」


 周りってなんだよ。


 ……なんでみんないるのさ。


 だって、ほかのプレイヤー、みんな城に行っちゃったのに、残ってるのはモンスターだけで、イイリコ小隊だけじゃ全部相手しきれないのに。


 残ってるから総攻撃食らってるのに。


 なんで僕なんかを、こんなに、構ってくれるのさ。


 この涙って、僕のじゃないか。







 

 おい。


 おい。なんで僕なんだ。新藤良介はどこに行った。


 いや……いる。


 いるな、新藤良介。消えてないな。


 じゃあ見てろ。


 僕を見てろ、何度でも言うぞ。僕はお前を受け入れるし、お前もそれを望んでいるはずだ。


 逃げるなんて許さないからな。


『すいません、こんなときに。もう大丈夫です』


 僕に付き合わせてばかりのイイリコ小隊に、土下座して謝りたい。


 でもそれはここじゃない。城の中でだ。


『僕が合図したら、全速力で城へ』


 タイミングが重要だ。攻撃と攻撃の間。誰もダメージもらわない、その一瞬。


『今です』


 僕は振り返って走り出した。


 先頭きって、一目散に、城へ。


 ユージンにまで壁やらせて、出遅れの迷惑までかけて、だから、


 だから埋め合わせのために、僕がベスラムを倒す。


 見てろ、新藤良介。お前が無理だと思う壁をもう一つ越えてみせる。『僕』が、僕がどんな理不尽な敵だって倒せると照明してやる。だからそのとき、もう一度勇気を出せ。


 これからどんな理不尽なことがあっても打ち崩せると、そう信じろ。


「すいませんっ!」


 抑えきれなくて、僕は走りながら叫んだ。


「足を引っ張ってすいません! やります、絶対にやる!」

『気負っちゃだめっすよ』


 通信で、ユージンの落ち着いた声。


『ジェストさんはもっと偉そうにしてるくらいがちょうどいいんです』


 走る。イイリコ小隊から逃げているのか、ベスラムに向かっているのか正直わからない。だけど信じるしかない。僕はベスラムを倒すために、ここにいるんだと。


 考えろ、ジェスト。ずっとそうしてきたじゃないか。ベスラムへの対策を考えろ。


 空を自在に移動するなら、まずそれを止める手段はないか。あの高度まで上がられると無理だ。ガンナーなら届くかも知れないが、エリスレル一人じゃいつまでかかるかわからない。攻撃隊が城に戻った今、モンスターは一気呵成に攻め立ててくる。半分に減ったとは言え、こちらの疲弊を考えると無視できない。


 相手の攻撃手段はどうだ。


 こちらに宣戦布告して『食らいつくす』とまで宣言してきた相手だ。絶対の自信を持ってる。とすると絶対にこちらを攻撃してくる。危なくなったら逃げるかもしれないけど、攻撃してくるならチャンスが生まれるはずだ。


 魔法以外に、あの高空から攻撃する手段はない。自慢の槍を使うなら、絶対に降りてこないといけない。ドラゴンのブレスも同じだ。ブレスの射程は大体体長と同じ。これは妙に細かく設定されているWWの生物百科に記載されていて、ドラゴンに例外はない。


 意地の悪いCHのことだ、設定が変更されていてもおかしくないけど、だったらここから見える城に火炎が踊らないのはどうしてだ。


 自分の読みを信じるんだ。ヤツは絶対に降りてくる。そこを捕らえて、二度と逃がさないようにしなけりゃならない。


 最適な職業……ベスラムの動きを封じるには、


 スパルタンとフェアリーメイジだ。


 二回目の地震のとき、スパルタンはどうして動けたんだ。跳んでたからだ。ルシェイナさんは敵に突っ込む時にかならず勢いをつけてジャンプする。もしかしてスパルタンの職業特性かスキルにそういうものがあるのかしらないけど、他の職業に比べてジャンプする頻度が高い。まぐれだとしても狙ったとしても、ジャンプで回避したルシェイナさん自身、それに気づいている。


『ノリアキング!』


 通信で呼びかけた。


『忙しい、きいてるから喋ってくれ! 待て、全員に伝えろ!』


 ノリアキングがここまで切羽詰まってるのも初めてだ。従っておく。


『相手が降りてきたら二度と飛ばせない作戦です。ルシェイナさん以外の可能な限りの前衛で押しかかってください、ルシェイナさんは相手の地震を避けることに集中。待機組も念のためルシェイナさんに集中。ルシェイナさんの一撃はベスラムをダウンさせられます』


 問題は、ルシェイナさんが不動に陥った時、


『止められなかった場合はサンダーランスでいきます。使えるフェアリーメイジ、全員僕とフレンド登録お願いします。飛び乗る動作だけはキャンセルしないと、逃げて体力を回復される。そうしたらいつまで経っても倒せません』

『そこのメイジ、全滅したくないなら乗れ!』


 僕に被さるようにノリアキングの声。ノリアキングがわざわざ大声で言ったのを考えると、嫌悪組から文句が上がったに違いない。


 外門に飛び込んだ時、最初のフレンド申請が来た。スーパーマギ。一も二もなく承諾。


 ここからだ。次々飛び込んでくるフレンド申請。知った名前もある。マリマリ、宇留川、次々。総数二十名。以外とサンダーランス覚えてるヤツ少ないな。


 まあ、十分だ。


 僕はそれらを並び替えて、全員に送り返す。


『リストに載った順番でサンダーランスを撃ってください。サンダーランスのエフェクト時間、三秒だったと思いますが、間違ってませんか』

『あってる』


 宇留川からの返事。


『では三秒おきに。最初はスーパーマギ、タイミングはベスラムが地震のために槍を地面に突き立てた瞬間です。それから三秒おきに、順番に撃ってください。不動が解除されたら前衛が全員に通信で知らせてください。その時に唱えている人で終了。これを繰り返してベスラムを地上に縛り付けます』


 そう、ガランスギュエックのときに思い描いた戦い方。メイジが大量にいる今だからできる戦い方。


 問題はベスラムの痺れ耐性だ。生物系は必ず何割かの確立で痺れるけど、あいつ生物なのか。


 どうせダメだった場合はゲームオーバーなんだ。やるしかない。


「ライトニングスコール、来るぞーっ!」


 誰かが叫んだ。


 稲妻が僕らを襲った。

 

『城』の耐久が初めて減った。ライトニングスコールの何発かが外壁を直撃したようだ。

『ジェスト』

 XXXからの通信。

『ヤツを下ろす手は考えているか』

『考え中です。攻撃待ちが無難かと』

『じゃあまかせろ。この前の砦戦で弓を新調した。だが矢がな、二本しかない』


 なんでだ。


 いや待て。弓と言えばハンターの大帝。XXX小隊は大帝とエリスレルがメイン火力。そこに戦いの曙の効果を加えて、でも届かなきゃ意味が無い……


 まさか剛弓か。確かに剛弓は長弓の三倍は飛ぶ。だけど四ランク上の弓だぞ。どこに売ってた。売ってるはずがない。まだ城のランクは1のままで、マーシャヴェルナにもアーシュアにも売ってない。


 だとすると……おいおい、規格外の装備を手に入れるチャンスは一つしかない。


 ガランスギュエックのドロップ。


『外さん。一回だけ飛んでも大丈夫だ』


 XXXめ、騙しやがったな。


 風を切り裂いて、一本の矢が飛んだ。


『前衛、用意!』


 僕は叫ぶ。もうわけがわからん、やるしかない!


『用意ーっ!』


 ノリアキングも叫んだ。


 上空で、影がよろめいた。


 届いた。


 当てやがった。


『落ちてくるぞっ!』


 自由落下で落ちてくるベスラム。あの高度だ、墜落したらただではすまない。


『メイジ、用意!』


 だけどここに来てベスラムは、僕らの常識をこえた。


 空中で器用に体勢を立て直して、落下点に集結しつつあった前衛に向かって槍を突き立てたのだ。


 ナイトの一人があっけなく死ぬ。しかもベスラムは着地していて、落下ダメージもない。


 くそっ、とことんいやらしいボスだよ!


 残りのナイトが四方から押しつぶしにかかる。だが動きが速い。接触する寸前、ベスラムは槍を両手で持っていた。


『メイジ、始め!』


 地震。衝撃波が僕らを不動にし、ぎりぎりまで迫っていたナイト達も足が止まる。


 その直後、ベスラムをサンダーランスが刺した。


 よろめくベスラムを、次々と電気の槍が貫く。


『回復!』


 ナイトの一人が叫んだ。


 サンダーランスが止まり、今度こそベスラムをナイトが押さえ込んだ。


 絶対に離すな。


 僕は忘れていた。当然あるべき攻撃を忘れていた。いや、出せると思ってなかったんだ。あれだけ盾で圧殺されている状態で、よもや槍を振り回せるとは思わなかった。


 ナイトがいきなりバランスを崩す。ベスラムを囲んでいた全員。


 丸薙ぎ。


「ルシェイナさん!」


 ルシェイナさんが飛ぶ。間に合わない。今からサンダーランスを入力しても発生までにヤツは跳び上がってしまう!


 銃声が響いた。


 ベスラムがよろけて、そこにルシェイナさんの拳がヒットした。ベスラム、ダウン。


 エリスレル。


『忘れてたなんて言わせないよ』


 ぐ。忘れてたんじゃなくて、高高度に射程50メートルのロングバレルは無理だったから……いや、言い訳はすまい。


 とにかく助かった。


「ユージン。ライトニングスコールで、運が悪かったら死ぬ可能性がある。そのときは引き継ぎお願い」






 二回目はやってきた。正直、訪れるとは思っていなかった。あと一割しかHPが残っていないベスラム。


 もしかすると、そこに僕らの緩みがあったかもしれなかった。


 サンダーランスが立て続けに入っているとき、これで安心だと、どこかで弛緩していたのかもしれない。


『回復!』


 ナイトが叫んだ。


 タイミングが悪かった。ちょうど魔法と魔法の間の、わずかな隙間。


 ナイトが血気はやって、ほんの少しだけ早く宣言してしまった、その隙間。


 槍が地面に突き立てられ、ベスラムは跳んだ。


「大帝!」

「任された」


 外したら終わり。


 ここで終わり。


 僕らの、CHは終わり。


 最善を尽くしてなお、僕らは負けるかもしれない。


 覚悟を決め
















 ……


 ……


 ……


 ……


 ……


 気分が悪い。


 頭が痛い。


 吐き気。


 胸焼け。


 喉に何か詰まったような、


「げえっ」


 えづきが連続し、わけのわからぬうちに僕は吐いた。


 明かりはついている。でもどこだここ。


 強烈な倦怠感。


 ぐらぐらと回る視界。


 自分のものでないかのように自由がきかない体。


 全身が筋肉痛のように痛い。


 自分の吐瀉物の臭いが鼻をつき、さらなる悪影響を与える。


 ベスラムはどうなった。僕らはどうなった。


 今にもブラックアウトしそうな歪んだ景色の中で、僕は確かに見た。


 電子モニターに映る、無慈悲なメッセージ。


『強制ログアウト』


 なんだよ。


 なにがあったんだよ。


 まさか、まさか……




 ゲームオーバーか?

お疲れ様でした。第二部終了です。

中途半端かと思われますが、どうなったかは次回で整理されますので明日をお待ちください。


第二部後半はジェストと新藤良介の精神的な葛藤が続きわかりづらい箇所が散見されたかと思います。ともあれ、遠くないうちにすっきりと終わります。そこはお約束します。


第三部はCHの技術やこのイベント自体の根幹に触れます。リアルパートもたびたび入る予定なので、また違った雰囲気をお届けできればと思います。ワガママなジェストですが、これからもおつきあいいただければと思います。

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