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キャッスルガード・ヒーローズ  作者: 栗原寛樹
第四次侵攻 あるいはいかにしてジェスト青年は答えをだすか
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決意を新たにしたり萎えたり忙しいよな僕

 七月八日午前十時。


 動かない体にむち打って、悪態をつきたがる口を縛り付けて、逃げ出そうとする臆病心を押さえつけて、息も絶え絶え、僕はサンダマスヴェリアに戻る。


 前に戻った時はサクラさんに防具を改造してもらった。そのときに比べて今は恐ろしく密度が高い。オープニング以来の集まり方だ。城の中も中庭も混雑している。


 そして『僕』がまた悲鳴を上げる。人の多いところ、うるさいところ、全て新藤良介が苦手とするものだ。初めてログインした時と今では感じ方が全く違う。


 ジェストと新藤良介がここまで別キャラになってたのにも驚きだけど、スイッチが効かないのが非常に問題だ。今回の防衛戦で役に立てるかも微妙だぞこれ。下手をすると地下三階の連中の仲間入りしてしまってもおかしくない。


『閃光のジェスト、入ってくる君が見えた。早速で悪いが、時間取れないか』


 ノリアキングからの通信。

 応える気になれない。


『おい、どうした……まあ、じゃあ気が向いたら連絡よこしてくれ。大体いつでもいい』


 僕が望んだコンタクトじゃないのかよ。


 怠惰に理由なし。ダメだと思いつつも体は動かない。新藤良介の侵食は深刻だ。自ら汚名返上の芽を摘みかねない。


 いつも通りであればあと八時間ほど。それまでに解決するとは思えないけど、諦めたらおしまいだ。


 僕はメッセージウィンドウを開くとイイリコさんへの文章を打つ。この数日でわかったことといえば、文字でのやりとりならある程度(本当に必要最低限のこと)ならどうにか可能、ぐらいだ。


『ノリアキングから通信ありました。無理そうです』


 少し説明足らずだけど、あまり長く人と意思疎通を図ることができない。『僕』が強い。


 まさか自分が二重人格みたいな経験をするとは思わなかったけど、長いことWWでジェストを演じていたことの結果だと思う。それにしたって、ボイスチャットからメッセージにランクダウンしたのは困った。


「じゃあ、そうね、私とユーくんでノリアキングさんに挨拶に行ってきます。ジェストくんのこと、お願いね」


 二人が去って行くと、続いて姫代子がガートランドの首根っこを引きずって歩き出す。


「うおっ、おい、頼むって言われたばっか」

「空気読みなさいよ……エイタロー」


 こちらを振り返って、


「悪いけどそれ、タチ悪いから。引きずられないようにね」


 姫代子の言葉はもっともだ。普通ありえない問題が起きている。ネガティブな『僕』は今の彼女の言葉もうざったく感じていて、こういうときでもずけずけ言ってくる姫代子に安心感を覚えるジェストよりも、強い。


「気にしないで。盾って、こういうときのためだもん」


 エイタローの言葉にも平静でいられない。


 集合するまでの二時間、エイタローと門の外で過ごした。西側の壁は人が少なく危険が多いけれど、屋内に入ってしまうと二度と出られないような気がして、ほとんど無理矢理抵抗した結果だ。レベル差があるから寄ってくるのはアクティブなはぐれウルフだけで、ネクロマンサーの僕でも殴り勝てる。まあ、体がちゃんと動けば、だけど。


 幸いモンスターの気配もなく、寄り添って二人、壁に背をもたれて座っていた。会話はもちろんなかったけど、今の僕には必要なことだった。


 一人になるともう無理だ。そんな確信めいた予感が、言いしれぬけだるさの中に漂う。


「城が襲撃の対象になるってのだけど」


 わざわざ外まで出てきてくれたみんなに感謝する僕がいる。


「タクティシャンの、ええと、トシヒコさん? だっけ、彼のスキルの効果」


 親切の押し売りだ、と愚痴る『僕』がいる。


 イイリコさんの話だと、トシヒコのスキル「風土の目」が意外な活躍を見せたらしい。最初は明日の天気がわかる程度のネタスキルかと思いきや、スキルレベルを5まで上げたところで『自分がいるところが次の襲撃の対象になるか』がわかるようになったという。もちろん現在地以外だった場合、それがどこかはわからない。だけど今回は運良く、マーシャヴェルナとサンダマスヴェリアの二択、そして的中だったわけだ。拠点が増えるたびに的中率は低くなるので、序盤の今のうちに輝くスキルだ。その効果を知らない時にどうしてレベルを上げようと思ったのか不可解だけど、タクティシャンのスキルは基本的に重いから、戦略系ばかり乱獲してもしょうがないのかもしれない。


 この辺は実際にタクティシャンを経験していないからなんとも言えない。うまく克服できたら本人にきいてみよう。


「それとボスなんだけど、軍団長のジュリアさんに魔王軍から宣戦布告みたいなのがきたって」


 言いながら、不可視のウィンドウを操作するイイリコさん。程なくして魔王軍からの『通達』が共有される。


『だいいちの おう べすらむ だいち を きりさき ひとども くらいつくす ひかり なき と しれ』


「魔王軍将ベスラム。地下三階の石碑に名前があるボスよ。この二つの情報がアーシュアを落とした後に手に入った。ノリアキングさん達はそこから今回の予測を立てたみたいね」


 疑問点が一つある。この二点の情報では、今回の襲撃が『第二週の火曜』にあるとはわからないはずだ。結果的に物見の効果によって正しさは証明されているけれど、襲撃の頻度が月一回だと確約されたわけじゃない。


 経験則は未来に起こりうる例外をカバーできない。ノリアキングはそれをわかっているはずだ。それとも、二度あることは三度あると盲信しているのだろうか。


 どうにも不安が残る。月に一回、それを示す根拠がなかなかない。


 防衛戦が終わったら一度、城の中を徹底的に捜索した方がいいかもしれない。僕の予想じゃここにヒントがあるはずだ。


「あと六時間。強行軍で疲れてるかもしれないから、ゆっくり休んでおいてね」





 

 ノリアキングやジュリアさんに会っておきたい。


 そう思いながら、僕は六時間を真琴と過ごした。


 日が暮れる頃、全員で集合。門の中に陣取る。初回防衛からいくつか変わっているところがあった。


 タクティシャンの存在、そして城塞兵器の使用。


 城の拡張が進み、大砲が使えるようになった。配備するには功績値が必要だけど、前回の防衛戦の時に猛威を振るったらしい。考えなしに突っ込んでくる魔物には期待以上のダメージを与えてくれる。今回は砦戦の功績値をいくらか当てて、合計で六門が用意されている。一門につき必要人員は三名。功績値で用意することもできるけど、プレイヤーがやった方が効率がよくなる。だから引きこもり組でも、人員の関係で出られないメイジが担当する。


 昼間の内に、トシヒコがジュリアさんたちと共に、東のほうでなにか作業していた。事前準備が必要なタクティシャンのスキルを用意していたんじゃないかと思う。


 もしかして今回、本気で僕いらないんじゃないか。


 いや、僕が参加する意義は別にあるはずだ。それがわかってたから戻ったはずなのに、ここにきてまた気力が萎えていく。


 とにかく中庭はプレイヤーが密集していて、不快感が凄い。会話が多すぎて雑音になり、頭をガンガンと揺らしてくる。いくつかが僕への批難に聞こえ、追い詰めてくる。


 代わる代わる、知り合いが話しかけてきた。XXX小隊、ルシェイナ小隊、宗佑小隊。ノリアキング小隊とジュリア小隊には会わなかったけど、僕の状態だとそっちの方がありがたかった。なにしろ返事もせず汗をかいてるだけだから、イイリコさんに頼ってしまうことになったし。


 体調不良という言い訳になっているらしい。どっちかっていうと精神不良だ。僕が引きこもりだってのは元臨時ジェスト小隊、エリスレルやオーシー、オトメノが知っているけれど、それが病的で話すのも満足にできないことを知っているのはイイリコ小隊だけだ。


 だから投げかけられる励ましの言葉が的外れで、いらだちを感じる『僕』。


 途中からエイタローに手を握ってもらっていた。そうしないとすぐにでも逃げ出して、布団の中に潜り込んでしまうだろう。もはやこの防衛戦はジェストの信頼回復のためだけじゃなく、新藤を倒すためにも参加しなきゃならないんだ。


 角笛が鳴った。


 三ヶ月ぶりの角笛のはずだけど、リアルで過ごした時間が長いので懐かしくはなかった。だけど初回防衛の時の緊張感が、胸の奥で痛みに変わる。指先が震えていることに気がついたのは、エイタローが僕の手を握り直したときだ。続く地響きが中庭を揺らし、気を抜いたら尻餅をついてしまうかもしれなかった。


 初日のものとは正反対の、酷く辛い防衛戦になるだろうと。


 どこか楽観的な他のプレイヤーの中で、僕……ジェストは苦しんでいる。


 門の向こう側で、これまで全く異質な轟音が響いた。モンスターの悲鳴もセット。見えないけど作戦が始まったんだろう。まずはタクティシャンの「落とし穴」が決まったみたいだ。


 続いて塀の上から大砲が一斉射撃。爆音が響き、炸裂。やはりモンスターの悲鳴。


『全員に通達。敵モンスターはゴブリンレイダーが中心、ゴブリンシャーマンにリザードマン、要注意はスカイラプターとグリーンスライム。ボスの姿はなし。最初はスカイラプター、ハンターの斉射後に開門、突撃お願いします』


 塀の上から、ジュリアさんの通信が入った。続く大砲の音、変わらない地響き。


 ハンターの弓は現装備だと最長で80メートルほど。となると、僕らが接敵するのは城の目と鼻の先。


 それでも初回防衛に比べればずいぶん楽なはずだ。なのに僕の鼓動は早まり、汗が流れる。右手を除いて全身が冷たい。


 生き残れるか。


『スカイラプターが突出。ハンター、斉射どうぞ』


 塀の上のハンターは四十人ほど。小隊に加入しているメンツを加えてこれだ。人類勢力のハンターの総人数。


『スカイラプターが塀を越えてきます。防御陣、戦闘準備。二十秒後に開門。突撃陣、戦闘準備』


 空を切り裂いて、五体のスカイラプターが中庭へ姿を現した。小型の肉食鳥で、主食は人間。推奨レベルは18。


 僕らの敵じゃない。一体が瞬く間に撃墜され、落ちた先のプレイヤーが悲鳴を上げた。


『開門』


 それが契機で――。


「い……いや、だ」


 突然、僕の口から漏れた。


 小隊のみんなが僕を見てくる。


「いやだ。い、いやだ」


 抑えろ。『僕』を抑えろ。だけどここに来てあふれ出す新藤良介が活動を忌避する。異常なまでに強くて、僕の計算外だ。


「だ、だ……だめだ。む、無理。僕、僕抜きで……」


 口を塞がれる。


 エイタローの手だ。


「それ以上はダメだよ……この前、僕に同じことしてくれたよね」


 状況が違う。


 いや、違わない。同じことだ。これ以上口に出すと、本当にジェストは新藤良介に負けてしまう。


 エイタローが止めてくれなかったら、僕はジェストでなくなる。


 口を塞ぐ手に手を重ねて……僕は頷いた。


 イイリコさんの、姫代子の、ユージンの、ガートランドの目を見て。


 二回頷く。


 一度目は感謝。二度目は、了解。


 ここからが正念場だ。全精力だなんて生ぬるい。自分でも出せない力を意地でも出してやる。新藤良介とは二十五年の付き合いだけど、ジェストとも十年の付き合いだ。そしてジェストは、新藤よりもずっと強いはずだ。


 負けてたまるか。


「体が動かないんなら見ときなさい。楽勝よ」

「じゃあまあ、回復は俺に任せといてください」

「なんだ急に」


 困惑するガートランドを尻目に、


「僕がみんなを守るよ」

「それじゃ私はお金集めようかしらね」

「がめつい!」


 ガートランド、もう条件反射だな。


「まあ、イイリコパーティ、長い間に何回か入れ替わってこのメンバー。これ以上無い仲間です」

「ちょっと、俺の一言はどこに」

「自分でタイミング逃したんだから文句言わない。ジェストくん、今更かもしれないけどみんなを信頼して、安心して身を任せなさい。あなたのことを大切に思っているのはエイタローくんだけじゃない」

「ホモい意味じゃないっすからね」

「あんたらいちいち話の腰を折るのやめなさい」

「とにかく、ジェストくん、港のときに言ってたらしいじゃない。ベスト500。こんなところで足踏みしてたら笑われるわよ」


 イイリコさんはジェストのことをよくわかってくれている。僕が奮起できる言葉を知っている。


 そうだ、僕はWWのトッププレイヤーの一人。帝に言わせれば総合成績トップのホーリーナイト。


 人生で負け続け、逃げ続けの新藤に負けるはずがないだろ。


 自身を持て。一人じゃない。エイタロー、真琴がいるし、イイリコ小隊のみんなもいる。


 それに僕にはジェストがいる。


 打ち勝って見せる。    

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