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キャッスルガード・ヒーローズ  作者: 栗原寛樹
第二部 クエスト「洞穴の魔物を退治せよ」
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盾役は 命大事に 持久戦

「12!」


 エイタローが扉に突進し、ユージンがウィスパーライトを唱えた。淡い光が狭い部屋に溢れ、そこにいたモンスターを浮き上がらせる。


「僕が相手だ!」


 エイタローは仁王立ちを発動し、さらに踏み込んで目の前の一体を刀で袈裟斬りにした。HPの減少は半分ほど。サムライの物理攻撃力は初期職では二位。一位はグラップラーで、だとすると二連続で攻撃を与える連続拳では一撃で殺せる計算になる。


 じゃあ僕のアシッドアローはどうだ。


 イイリコさんの号令は部屋にいるゴブリンの数。姫代子とガートランドはすぐさま左側に走る。僕が最後に扉をくぐると、ユージンのフィジックがエイタローに飛んだところだ。


 ユージンの判断は正解だ。ゴブリンは攻撃力が高いが防御力は低い。姫代子であればスキルを発動すれば一撃で倒せる。左側にいるゴブリンは三体。他の連中はほとんど右側に固まっていて、これは予想していたケースのなかでもわりかし幸運なほうだ。


 だが十二匹は多すぎる。片方に戦力が偏っているのは地獄に仏といえる。


 ゴブリン達が鳴き声を上げてエイタローに殺到した。部屋が狭いこともあって全部が仁王立ちの範囲に入ったのだ。


 ユージンはすでにヒールを構えている。僕のすべきことは時間稼ぎだ。姫代子は一体に二発。ガートランドはおそらく三発。左側はすぐにカタがつく。


「右にアシッドアロー、いきます!」


 姫代子が連続拳で一体を仕留めた。さすがの早業だ。ガートランドがまとめて二体をなぎ払って、エイタローに飛んだのは正面と右の九体。その内一匹は、視界外からのイイリコさんの不意打ちでよろめく。


 僕は残りの八体の内、五体を素早くターゲッティングする。正面ではなく、右から順番にだ。正面はエイタローがすでに構えている。


 発動。


 次の瞬間には、僕の右手から飛び出した矢がゴブリン達を貫いていた。空中なので踏ん張りがきかず、崩れる。ダメージは二割。本当に足止めにしかならん。


 エイタローに飛んだ残りは三体。アシッドアローは便利な分、MPの消費も激しい。今の僕のMPでは躁屍分しか残らない。


 僕がアシッドアローを選んだのは、ゴブリンにはブラインドが無効だからだ。WWからのモンスター特性というか、ダンジョン内に明かりがない場合、そこのモンスターは視覚が退化している。元々目が見えないから暗闇になってもかまわず攻撃してくるのだ。


 だからブラインドは全くの無駄撃ちになる。となれば多数を対象にでき、スポイルよりもダメージの大きいアシッドアロー一択しかない。


 エイタローは受け流しの予備動作を構えた。やばい、その選択は間違いだ。そこはガン防御だ。


 一体目。棍棒が振り下ろされる瞬間、エイタローは腰を落とし、両手で刀を頭上に持ってくる。ジェスチャーマクロだ。あの姿勢を取れば、例え腹への攻撃であっても受け流せる。


 タイミングは微妙。棍棒が当たった瞬間エイタローのHPが減る。クリーンヒットではないが、二割。

 二体目。エイタローは素早く動作を繰り返したが、タイミングが早い。連続で繰り出される攻撃への対応は難しい。今度は三割。エイタローのHPが半分まで減る。


 クソ、推奨レベルもっと高いだろ……とは言わない。攻略組のデータによると一部屋のゴブリンは五体から十五体。そして十一体を超える確率はかなり低く、代わりに難度があがる。これまでの平均は八体で、推奨レベルはそれを元にはじき出されている。


 だから十二体というのは数だけ言えばレアケースなのだ。


 三体目の攻撃は、今度は遅かった。受け流しはダメージ後に発動しても無意味で、だからエイタローはまるまるダメージをもらう。残りのHPは二割。つまり二回目の受け流しは早すぎて失敗なのがわかる。


 同時にユージンのヒールが飛んで、七割ほどまで回復する。しかしその頃にはアシッドアロー命中組が体を起こしている。ヤツらが攻撃してくるとエイタローが危ない。


 左に目を向けると、ガートランドが一体を倒したところだった。姫代子も三体目に一発当てた。次の攻撃で倒せる。


「躁屍、いきます!」


 ガートランドのゴブリンをターゲッティング。躁屍をかける。


 中央の三体が邪魔しているから、アシッドアロー命中組の攻撃は防げない。僕にできるのは中央に切り込ませ、エイタローが詰むのを避けることだ。


 イイリコさんが一体を倒した。まだ不意打ちのリチャージは完了していないだろう。となると時間的に対処できるのはアシッドアロー命中組五体の内一体だけ。


 外であれば猫だましでの無力化も図れるが、あれもスキル名の通り、視覚への攻撃が有効なモンスターに限定される。イイリコさんは今回、ダンジョンアタックのためのスキル修得が主だったから、戦闘用のアクションスキルはあまり増やしていない。足止めするスキルはなかったはずだ。


 アシッドアロー命中組の内、エイタローへの攻撃は四体。


「エイタロー、防御だ!」


 返事はなかったが、エイタロー自身もわかっているはずだ。三体の攻撃で死にかけた受け流しは、四体の攻撃を耐えるには頼りない。一体目と同じタイミングが全て続いたとしてもダメージは最大HPの八割だから、エイタローは死ぬ。


 エイタローが死んだら、このダンジョンアタックは失敗だ。


 やっぱ幸先悪いぞ。


 イイリコさんが一体を引き受け、残りの四体の攻撃はほとんど同時。

 エイタローは体の前に刀を持ってきて防御の態勢。防御は全ての職業に搭載されているアクションスキル、というより攻撃と同じような基本コマンド。相手の攻撃が必ず当たる代わりにダメージを軽減する。重装備の場合は軽減率が高くなるから、盾役はかなりお世話になる。


 エイタローのHPは二割まで減った。だが耐えている。運がいいというか、ゴブリンの攻撃がクリーンヒットで三割だから防御で一割前後まで減る。誤差の分が積み重なって今のHPなわけだが、防御すればそうそう死なないのがわかっただけで十分だ。


 減った瞬間、ヒールによる回復。あらかじめ仕込んでおいたユージンの働きである。アシッドアロー命中組の攻撃には間に合わなかったガートランドがエイタローとの間に入った。姫代子が四体目を始末し、躁屍ゴブリンと共に中央の三体に割り込む。これでエイタローへの次の攻撃は緩和される。


 エイタローへのダメージを考えると姫代子の軽装は危険だ。素早いとは言え当たったら致命傷になりかねない。その辺は彼女も承知の上で、だから躁屍ゴブリンを盾に戦う。躁屍の便利なところは使い捨てが出来るところだ。今回は立派に肉の壁の役割を果たしてもらおう。


 エイタローが返しの一撃でアシッドアロー組の一体を切り捨てた。倒したゴブリンは五体。残りは七体。


 こんな時、MPのないネクロマンサーはできることがほとんどない。魔法の燃費が他の職業より悪いのが原因だ。メインはあくまで躁屍で、だからどのモンスターを操るかにかかわらず消費MPは1。その他の魔法の消費MPが軒並み高く、だからレベル1から7まではブラインド二回で枯渇した。今はアシッドアロー一回で枯渇。MP回復まで数分要する。


 歯がゆい。今までエイタローの位置に僕がいたこともあるけど、それを助ける手段に乏しいのがなにより悔しかった。


「ジェストさん、MP尽きました。薬投げます」


 ユージンのセリフ。頷く。回復薬のストックは僕とユージンが多い。


 僕のMPはあと少しでスポイル分まで回復する。スポイルは威力が泣けるほど低いが、タイミングを合わせればとどめになるはずだ。だから今は、モンスターのHPから目を離さないようにしなければならない。


 姫代子の連続拳が六体目を始末。残りは半分。中央二体と右四体。


 躁屍ゴブリンが消滅した。中央二体から集中攻撃を食らったんだ。思った以上にもろいけど、これは運がよかった。姫代子の倒したゴブリンが消滅する直前にターゲッティング。


「お前の体は俺の物!」


 躁屍のかかったゴブリンが足を踏ん張り、姫代子を攻撃しようとした元仲間に殴りかかる。


 右側でガートランドが一体倒す。アシッドアローが命中した後の体力は八割。ガートランドの攻撃力が一回三割ちょっとだから、倒すためには満タンの時と同じ三回の攻撃が必要だ。となるとアシッドアローは本当に、マジでただ足止めしただけだ。イイリコさんにはちょっと助けになっているかもしれない。


 ううん、これはなんか情けない気がする。


 残り五体。そのうち完全にフリーなのはアシッドアロー組の内二体だけ。後の三体はこっちの前衛三人+躁屍ゴブリンが引き受けている。


 二体の攻撃を、今度はエイタローは受け流しで耐えるつもりのようだ。


 その向こう側で姫代子がゴブリンの攻撃を食らった。


 まずい!


 防御が弱いグラップラーにこの一撃はやばい。内気功でドーピングしてはいるが、それでも三割強だ。


「回復、いきます!」


 とっさにユージンが回復薬を投げる。判断は間違っていないが、次の回復薬準備には多少時間がかかる。


 僕は袖の中に右手を引っ込めた。回復薬を選択するジェスチャーマクロ。


 エイタローに攻撃がヒットする。HPがどのくらい減るかはどうでもいい、成功しても失敗しても、回復が必要な残量になるのは間違いない。


 だから僕は結果を見る前に投げた。


 エイタローの残りHPは……一瞬しか見えなかったが、三割ってところだ。とすると片方の攻撃はかなり軽減できたようだ。すぐに安全圏まで戻る。


 同時に攻撃された時の常として、タイミングを合わせるスキルは一つしか狙えない。

 だから安定行動は防御になる。エイタローはまだ状況判断に成長の余地が残っている。というよりWWの時は物理攻撃を僕が引き受けていたため、防御や防御系スキルの使用頻度がかなり低かったのが原因だろう。どちらも使い慣れていないから、どちらが有効なのかを体が覚えていない。


 なんども彼女には言ってきたが、こればっかりは本当に経験だ。知識があっても、体が動かないとどうしようもない。考えている時間がない戦闘はよくある。


 エイタローのHPが回復したのと同時に、姫代子が八体目を仕留めた。続いてイイリコさんが九、ガートランドが十。


 そしてエイタローの刀と躁屍ゴブリンの攻撃が当たって、十一。


 僕は安堵の息をつく。なんとか凌げた。






 モンスターを倒した場合、何かのターゲット(具体的には躁屍)になっていない場合は消滅する。ドロップ品なんかは床に落ちているから、全滅させた後はそれを拾うのが普通だ。


 一二匹のゴブリンだからドロップもそれなりにあって、回復薬が四つ。戦闘で使った二つを差し引いても増えることになる。ありがたい。


 他は使い物にならない棍棒(一応イイリコさんとユージンが装備できる)とG。もともと回復薬以外は期待していないから満足いく収入ではある。


「最初っから運が悪かったわね」

「いやあ、運よかったっすよ。アレで死者ゼロ。これ以上の数が出てくるのはまず無いんですよね。となると、このダンジョンでの全滅はほぼナシ」

「前向きに考えるのはいいことよね」


 汗を拭きながらイイリコさん。


 ちょっと厳しかったのは間違いない。盾役だから仕方ないが、エイタローは何度か死にかけた。エイタローが死ねば全滅の可能性が跳ね上がることを考るととても楽勝とは言えない。


「このダンジョン、どうなってるんでしたっけ」

「二階層。地下一階はあと二つ部屋があって、地下二階は宝部屋とかあってちょっと広いわ。私は宝箱あけたいけど、どうしよう」

「がめつい」

「がめつい」


 念のため言っておくと、ユージンとガートランドだ。


「あのね、みんなだってお宝はほしいでしょう?」

「異議なし」

「異議なし」


 これも二人。完全にふざけている。


「ただ問題は今以上にゴブリンがでる可能性はゼロじゃないってところ。聞き耳が成功した場合はそのときの状況で決められるけど、失敗した場合は賭になる可能性がある。特にエイタローくん」


 エイタローは座り込んで右腕をさすっていた。もうHPは回復して痛みはないはずだけど……そういえば昨日もそんなことあったな。無意識か? 本当に痛くないのか?


「エイタローくんが倒れたら私たち全員が危ないわ。無理はしないでね」

「了解です」


 イイリコさんは頷くと、


「それじゃあ、全員が満タンになったら進みましょう。あ、念のため明かりをかけ直してからね」


 僕はエイタローから注意をそらさないようにしないといけない。ダンジョンアタックは持久戦だ。狩りと違っていつでも帰るということができない。モンスターが出た場合、逃げることのできない狭いところもある。

 こんな時、やっぱり盾へのプレッシャーはきつい。エイタローもCHに選ばれた一人なんだからやれるはずだ。そのサポートを僕はしなけりゃならない。

 盾役を引き継ぐために。

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