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キャッスルガード・ヒーローズ  作者: 栗原寛樹
第二部 クエスト「洞穴の魔物を退治せよ」
35/115

光陰矢のごとし(リアルで四時間は、ゲーム内で二ヶ月)

 森の寒村、アーシュア。


 サンダマスヴェリア城は城砦で街はなく、港町マーシャヴェルナが城下町のような扱いになっている。だからそれなりに大きいわけだが、この村は酷く寂れている。


 木造の掘っ立て小屋がいくつか並び、申し訳程度の酒場兼宿屋兼寄り合い所が目立つくらいだ。NPCは外に出ているのが五人。村の規模から考えても多くて三十人くらいじゃないだろうか。


「ノリアキングさん、どこだろうね」


 エイタローが汗をぬぐいながら言った。城から離れた分、敵が少し強い。出てくるモンスターはフォレストベアを初めとした『城から南の山』と同じヤツらだけど、まだレベル5の女性陣にとってはちょっときつかっただろう。そのあたりはガートランドがうまく前衛で立ち回ってくれたので大事には至らなかった。この道程で彼女らのレベルも上がり、適正くらいになったりもした。今のところメンバーの復帰後にありがちな違和感などはない。


 アーシュアには僕ら以外にもプレイヤーが多い。多すぎると言ってもいい。狭い村の中に四、五十人はいる。マーシャヴェルナ以南は海だから、こちらが対モンスターの最前線だと考えるとそれも自然だ。


『ノリアキングさん、つきました』


 通信で呼びかけると、すぐに返事がある。


『宿屋で待ってる』


 だそうです。






 宿屋の中にもプレイヤー達がひしめき合っている。寂れた村の雰囲気ぶちこわしだけど、基本的にプレイヤーは雰囲気よりもゲーム的な効率を重視するからあんまり気にしない。


 しかしここ、


「暑いわ」


 裸同然の衣装のくせに真っ先に弱音を吐く姫代子。


「いうな、もっと熱くなる」


 人が多いからか、それとも奥の方で料理のための火を使っているからか、異常に蒸し暑い。たぶん人が多いせいだろう。決して広くない広間にひしめき合っている。


 しかしここまで集まっているのも不思議だな。なんかあるのかな。


「あっちあっち」


 というエイタローの声。奥の方でノリアキングが手を振っている。

 人をかき分けながら進むと、時たま舌打ちの音が聞こえてくる。みんなには言ってないけど、ノリアキングの「評判があまりよくない」という言葉は気になる。見覚えのあるプレイヤーだ。


「久しぶり。問題は片付いたみたいでよかった」


 握手するイイリコさん。


「小隊長はやっぱり、君?」

「そうです」

「そうか。ま、それぞれだな。とりあえず座ってくれ」


 どうやら僕らのために席を空けてくれていたらしい。頭が下がる。ただやっぱり全員とは行かず、三人分。


「俺たちは適当にくつろいでるっす」


 ユージンがガートランドを連れて出て行こうとすると、


「あ、あたしも。ちょっと暑すぎ」


 少しの間に汗だくになった姫代子がリタイア。異常に新陳代謝がいい。暑いの苦手なのか。


 そんなわけで、僕とイイリコさんとエイタローが座る。対面にノリアキングと、その横に知らない女性プレイヤー。


 そういやノリアキング、今まで会ったときはいつも一人だったな。港攻めの時の小隊員だろうか。いたようないなかったような。


「俺の小隊の、まあ、副隊長。ラメちゃん」


 グローバだ。珍しい。今までもちらちら見かけてはいたけど、そういやWWの頃からあまり接触がなかった職業。


 なんでそんなに不機嫌そうなんですか。


「さて、なにがききたい。俺は君らがどこまで知ってるかわからんから、とりあえず質問してくれ」

「ええと、それじゃ……襲撃はありましたか」


 ノリアキングは頷く。


「二回あった」


 二回。

 僕らがログアウトしていた時間がだいたい四時間ほど。こちらでは二ヶ月経っている計算になる。その間に二回というと、頻度としては月に一回。


「まさか、初回と同じ日ですか」

「ご名答。メニューに『暦』があるから見てくれ」


 メニューを開いてみると確かにある。でもこれ、最初はなかったぞ。いつ増えたんだ?


「いくつかのメニューは条件を満たすと増える。暦は城の会議室だかにあったカレンダーを誰かが見つけて、それから表示されるようになった」


 そうか。僕らが行動した範囲じゃカレンダーみたいに日付がわかるものはなかった。ログアウト前は表示されていなかったのだから、誰も見つけていなかったのだろう。ログアウトしている間に城の捜索が進んで、条件を満たしたんだ。


「三回の襲撃は毎月、第二週の火曜日に起きた」


 表示されたカレンダーは……見慣れているものとあまり変わらない。いくつかの単語がゲーム独自のものになっているけど(曜日とか)要するに普通のカレンダーだ。どうやら各月毎の日数も同じらしい。


「ゲームのスタートは四月八日。今は六月の二十五日。まあ、一応サイクルはつかめた。よっぽど意地悪じゃ無い限り、月に一回、第二週の火曜日と考えていいんじゃないか」


 多少引っかかりつつも、僕は頷く。帝の言葉を思い出すと、そう単純に考えてもいいものか迷う。


 ――襲撃の頻度のヒントはゲーム内にある、攻略対象。


 にしては、どうにもシンプル過ぎないだろうか。

 まあ、今はいい。とりあえず。


「この村はいつ?」

「君らがログアウトしたのはマーシャヴェルナを落とした日だな……それから二週間ぐらい後だ。食料に余裕が出たから、少しずつ遠出するプレイヤーが増えた。その頃は襲撃がいつかわかってなかったから効率は悪かったけどな。どうやらゲーム的にはこっちの方が最初に最初に攻める方だったみたいで、港に比べると敵も弱かったから簡単に片付いたよ」


 そうかもしれない。僕が南に進んだのは探索範囲が限定されている、というのとWWでよくある地形だったという点が大きかった。結果的には城から三時間のこの村の方が近く、規模も小さい。マーシャヴェルナを解放したときの報酬の多さは異常だったので、手順としてはこちらの方が早かったとしても不思議はない。僕らが飛ばしてしまっただけの話だ。


 となると問題は、大体7レベルくらいで城を出て解放に乗り出すことを運営は期待していたわけだ。僕らがそれをしなかったのは食料、そして襲撃頻度がわからなかったからで、食料は初日の暴飲暴食が原因だとしても、襲撃頻度はもっと早い段階、つまり『二回目の襲撃が来る前にわかる』ヒントが城にあるということになる。


 ふと疑問が沸く。


「四月に拠点を落として……五月と六月はなにも?」


 僕がそれを口にしたとき、ラメというプレイヤーが睨んできたような気がした。

 ……もしかして、評判が悪いって、ノリアキングの小隊にか?


「そうだ。実際、もう近くに拠点はない。襲撃頻度がわかったのはついこの間なんだが、それまでは少なくとも一両日で戻れる範囲までしか探索できなかった。探索チームを組んでもよかったんだが、みんな野宿に乗り気じゃなくてな。だからつまり、その範囲では拠点はなかった」

「じゃあ今は見つかってるんですね」


 ノリアキングは薄く笑って、


「北に砦がある。山の上、森の深いところだ。ここから徒歩で三日くらい」


 じゃあ、それを見つけた小隊はノリアキングのところだろう。野宿が嫌な原因は決して不潔だからではなく(このゲーム、風呂の概念がないし)、モンスターの這い回るところで寝るのが怖いからだ。そうでなくたって、なんの保証もないところで夜を明かすのは怖い。そういった恐怖はノリアキングとは無縁なのもわかっている。他の小隊員がどうかは知らないが、ノリアキングの小隊にいるなら、彼のカリスマに惹かれていてもおかしくない。


「あと一週間ほどで攻めようと思う」


 時間を空ける理由はなんだ? ここから三日ほどなら、確かに野宿をいやがる連中を説得するための時間が必要だろう。だけど今日見つけたわけでもあるまいし、やろうと思えば説得はすでにすんでいていいはずだ。


「君らも間に合わせてほしい」

「といっても私たち、まだレベル7で」


 メニューから軍団を選ぶ。ジュリア軍団の平均レベルは……22。


 22?


「平均レベル、思ったより低いですね」

「そこだ、問題は」


 ノリアキングの話によると、18を超えたあたりからレベルアップに必要な経験値が極端に高くなるらしい。WWに比べて、だいたい三倍ほどの経験値が必要になる。


「俺は26。たぶん一番レベルは高いと思う」


 とすると今度は平均レベルも妙に高い。ニート組が未だに1ならもっと平均は低くなるはずだ。


「引きこもり問題、解消したんですか」

「してない。単に城の補強なんかでも経験値が入るってだけだ」


 なんだ。ちょっと期待して損した。


「でもちょっとずつ攻略組は増えている。城に籠もりきりのニートは二十人くらいだろう。城内作業希望者は百五十人。残りは城の外に出てると考えてもらって大丈夫だ」


 とすると370/500。半数以上が外に出ていることになる。ログアウト前の惨状からするとかなりの進歩だ。


「襲撃の時に頑張って煽ったからな。むしろ少ないくらいだ。人望無いね俺」


 僕の隣でイイリコさんがクスクス笑っている。なんかラメさんの目つきがさらに鋭くなった気がする。


「それで話を戻すと、レベルアップに時間がかかるバランスになってる。WWとは違うな。そこで功績値の出番だ」


 功績値。

 ログアウトしたときに帝が実装トラブルの対処にあたっていた要素だ。まだ詳細は知らないけど、僕は500くらい稼いでいたはずだ。


「功績値がアンロックされたのは知ってる……な。使い道は結構あって悩ましいんだ。まず『経験値ブースト』。経験値取得が一定時間倍になる。『徴収』は城の食料なんかが増える。『傭兵』は城を守るNPCを雇うことができる……と、人類側の強化にいろいろ役に立つ。詳細を話すと長くなるんで、とりあえずレベル上げに使えるくらいは覚えといてくれ。まあ、いずれ全部知る必要はあるけど」


 なんかリアルマネーみたいな使い方だな。


 つまりプレイヤー側は稼いだ功績値を自分のために使うか『人類』のために使うか、というような選択を迫られるわけだ……ん、なんかわかってきたぞ。


「功績値はいろいろ稼ぎ方がある。大体は君らも知ってるだろうけど、効率がいいのはクエストをこなすことだ」

「クエスト?」

「マーシャヴェルナを解放してから発生した要素。街のNPCから依頼を受けて、お使いしたりダンジョンに潜ったりする」


 ダンジョン、あるんだな。CHは陣取りのようなゲームデザインだからダンジョンなんかはないかもしれないと予想してたけど。


「そこで……俺から君らに提案があるんだ。ここの亭主から依頼を受けて、クエストを一つクリアして欲しい。一応、全員に受けるように要請している」

「……それが、次の拠点解放に必要なんですね」

「察しがよくて助かる。『無音』耐性の装備が必要だ」

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