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オフ会

「ええと……」


 イイリコさんは頬をかいて、テーブルに並んだ面々を前に立ち尽くす。


 ユージン、ガートランド、そしてエイタロー。


 第一段階。イイリコさんの意思を確かめる。ただし単刀直入に聞いても素直な答えは期待できないから、僕らと会うことで間接的に。


 イイリコさんは僕と姫代子を受け入れ、話もしてくれた。他のメンバーに会うこともなんとか了承してくれた。

 断定するには早いけど、まだ救いは十分ある。説得の余地がある。


 だからここからは第二段階だ。


「どうぞ」


 ユージンが立って、空いている椅子を引き出した。


「あ、ありがと……」


 多少遠慮がちに座る。その肩越しからユージンは、僕に向かって親指を立ててきた。

 頷いて、僕たちも座る。


 イイリコ小隊、久しぶりの全員集合だ。正確には僕たち男子組から見て。女子組は解散してから一時間くらい。


 現時刻、七時を少し回ったあたり。僕らがログアウトして四十分ほど。

 夕食にはちょうどいい時間だろう。


「ユージンです」


 それを皮切りに、とりあえず名乗る。イイリコさんは初対面の顔がいくつかあるから把握しなければならない。


 それから僕らはそれぞれ、食券を持っておばちゃんのところに行った。


「やったな」


 ガートランドが耳打ちしてくる。トレイにカレーを受け取りながら僕は首を振る。


「……こ、ここからだよ」


 その後ろで、エイタローとイイリコさんが話している。話題は全滅時のこと。イイリコさんは相変わらず謝っていて、エイタローはなんともないと笑っているようだ。表情は見えないけど、多少ぎこちない雰囲気は伝わってくる。


 そう、ここからだ。


 できればここで、イイリコさんにはわだかまりをなくしてほしい。そしてできれば、僕もなくしたい。


 全員着席。サーバーから持ってきたジュースを手に、


「えー、それじゃあ乾杯といきましょう。食堂にはアルコールがないので。ガートランドさん、お願いします」

「え、俺?」


 見たとこ年長そうなので、というユージンにぶつくさ垂れつつ、ガートランドは引き受ける。


「……ゴホン。ええと、それでは、今日は遠いところまでご苦労様。遠いところから来た人もいるかもしれないけど、秘境群馬での第一回オフ会、全員参加で喜ばしい限りです」

「長い」

「長い」

「うるせえ。とりあえず今はゲームのことは忘れてメシを食いましょう。俺朝も昼も食べてないんで超腹減ってます。遠慮無くおかわりするんで。そいじゃ、乾杯!」


 乾杯。


「あのさ、もうちょっと気の利いたこと言いなさいよ」


 いきなりのダメ出し。もちろん姫代子である。グラスを空けてしまってからの第一声がこれだ。らしいっちゃらしい。


「いきなりフったユージンに言えよ」

「俺、ガートランドさんのこと信じてたっすよ」

「アルコールほしいな。食べたらバーにいきましょうか。イイリコさん、お酒は?」

「ちょっとなら」


 一応、ここではゲームの話題を厳禁に、というのが約束事だった。イイリコさんにとってはあまり気分のいいものではないはずだ。


「酒、いいっすね。俺も行きたいっす」


 いきなりジト目になる姫代子。


「姫代子さん怖い。大丈夫っすよ。わきまえるです」

「凄い信用ならない言い方なんだけど。てかさ、やっぱりユージンってそーいう男なんだ?」

「オヤジがラテン系っすからね」

「ほ、本当?」

「すいません嘘です。純国産っす」


 目を輝かせていたエイタローがあからさまに肩を落とす。一連の流れにクスクスと笑うイイリコさん。ユージンも姫代子もこの辺のスキルは高そうだけど、それ以上にゲーム内では気心が知れている相手、というのが大きいと思う。


「ほら、やっぱ信用できない。絶対遊ばれるからね」

「で、でも、その、凄くいい人だし」


 一所懸命にフォローする姿が可愛い。というかやっぱり、エイタローって若いんだろうか。その辺みんなどう考えてるんだろう。僕が気にしすぎなのかな。


 そういえばなんかデジャブ感じると思ったら、僕さっきカレー食べてるじゃないか。まだ四時間くらいしか経ってないからちょっと満腹感がある。ゲーム内では四日だから、この時間間隔のズレに慣れないといけないな。


 おのおの飲み物をおかわりして、また雑談が始まった。


「エイタローってお酒飲めるの? 大学生だったよね」

「去年卒業したから」


 なんだと。まだ二十歳にも見えないぞ。


「って顔してますよ、ジェストさん」


 ぐるり、と女性陣の顔が僕を向いた。ユージンのやろう、なんてこと言いやがる。


「……ご、ごめん」


 言うべきはそうじゃないのはなんとなくわかった。


「私もちょっとびっくりしたかな。そういえば就活やってたよね、一時期」


 イイリコさん、ありがとうございます。


「年齢っていえばガートランドさん、いくつなんです?」

「男に年を尋ねるのは失礼だろ」

「そんな風潮どこにあるんすか」

「ユージンはいくつよ」

「二十四っす」


 あからさまに嫌そうな顔。


「……若いって罪だな。ジェストは?」

「……に、二五になりました」

「うわー。マジかよ」


 それでいくつなんです、とさらにユージン。「いっちゃいなよ」と煽る姫代子。心配そうにきょろきょろしているエイタロー。穏やかに笑っているイイリコさん。


 ……僕は、もしかしたら喜んでいいのかもしれなかった。


「三四」


 ぶっ。


 思わずジュースで顔を汚してしまい。一瞬場が凍り付く。

 その後、一息置いて爆笑。え、笑うところなのそこ。






 二次会。


 全員がめでたく成人ということなので、ノリノリの姫代子を先頭にバーに来た。もちろん僕はこんな雰囲気のところ初めてで、映画でしか見たことがない。薄暗く、ジャズっぽい音楽がかかっている。マッチョのボディガードを探してみたけど、とくにそういうのはいなかった。バーテンダーを初めとして何人かスタッフがいる。客は僕らだけ。


 初日だもんな。いくら何でもみんなゲームしてるか。食堂にいた連中も酒を飲む時間は惜しいんだろう。


 イイリコさんはたまに遠慮がちにみんなの顔を伺っている。それを見るにつけ、僕は自分の推測が正しかったことを確信していく。


 イイリコさんも、ゲームの進行状況が気になるんだ。ゲームをほっぽって僕らがここにいることに罪悪感を覚え始めている。


 第二段階。イイリコさんにゲームを意識させる。大事なのはゲームを話題に挙げないこと。そして極力、僕らもゲームを無視すること。


 そういや僕、酒飲んだことないや。


「ゆ、ユージン、どんなのか教えて」


 僕がこっそり白状すると、


「それじゃ弱いのがいいっすね。ビール系のカクテル……それかまあ、ジュースでもいいんじゃないすか」


 せっかくだから飲んでみたかった。タダだし、ユージンの勧めでシャンディガフなるものを注文する。


「えー、それじゃ飲み物も来たので、今度はイイリコさんお願いします」

「え、私?」

「年長っぽいですし」

「ガートランドくんよりも?」

「みんなのまとめ役ってことですマジ怖い」

「……それじゃ」


 グラスを持つみんな。イイリコさんに振ったのは偶然じゃない。ここでゲームに関連したようなコメントが出ればちょっとずつ解禁。そうでないならやっぱり厳禁。様子を見る、という、やはり一つの指標となるものだ。


 食堂ではゲームの話題は一切なかった。その流れから、イイリコさんがゲームの話をしてくれるか。


「ええと……お礼、言わなきゃね。本当はみんなゲームしなきゃいけないのに、誘ってくれてありがとう……ごめんね、迷惑かけて」


 そして、控えめに笑いつつ、グラスを掲げた。


「さっきから気を使ってくれてたのもありがとう。でもやっぱり……みんなとはゲームの話、したいかな」


 ……それって。


 それって、もしかして喜んでいいセリフなのか?


「まだ正直悩んでるけど、聞かせて」


 そしてガートランドの時よりもちょっと控えめに、乾杯。






「……本当? それ」

「そりゃあまあ、俺らトップ500ですし。四日もあれば街一つくらい落とせるっすよ」

「さっきも聞いたけど、それ本当なの?」

「証拠、あるっすよ。姫代子さんたちがイイリコさんの部屋に行ってる間、タブレットいじってたんすけど、ここをこうで」


 苦い。

 乾杯の後、僕はグラスを空けられなかった。シャンディガフ、苦い。


「ほら、ここがサンダマスヴェリア。そんでこっちがマーシャヴェルナっす……あれ、ジェストさん」


 頑張ってちびちびやってたところになんの用ですか。


「拠点、もう一つ占領してるっすよ」


 なんだと。


 ユージンのタブレットをのぞき込むと、ジンジャーゼルの地図が表示されている。可視範囲が広がっていて、サンダマスヴェリアの北、果物を採集していた森を超えたところに村があった。名前は「アーシュア」。


「さっき見たときはなかったっすから、この一時間くらいで落としたみたいっすね」

 一時間……もあれば、ゲーム内時間では半月だ。そんなに不思議じゃない。

「あんた達が攻めたの、このマーシャヴェルナ?」

「そうだよ。見つけたのも俺たち」


 そしてここから、どうして僕たちが山を越えようと思ったのか、攻めるときの理由付けなどの詳細を話すことになった。何故か僕が。


 うまくしゃべれないのわかってるじゃないか。でもユージンが「大体はジェストさんです」とか言うし、イイリコさんも「ジェストくんから聞きたい」だし、なんだか僕が話さないと許されない空気になりつつあった。


 どもりながら話すのは恥ずかしい。特に工作していたときの僕の思考を言葉にするのが超恥ずかしくて、どうにもうまく説明できなかった。適宜ユージン達がフォローしてくれたけど。


 それにどうしても、肝心の「イイリコさんを迎えに行くため」という目的を話せないから、理由付けが強引になりがちだった。でもまあ、なんとか。


「そ、それで一段落したんで、休憩も兼ねてログアウトしました」


 十五分くらいかかった。終わった頃には僕はどうにも精根尽き果てていて、アルコールも相まって頭がくらくらする。人とこんなに近い距離で話すのが初めてなら、酒を飲むのも初めてだ。初めてづくしだからしょうがないと思う。


「ジェストくんって策士だったんだねえ」


 赤いカクテルを飲みながらイイリコさんが言った。すでに二杯目で、その一口で空になる。


「WWの時は盾で指揮の機会、あんまりなかったっすからね。正直、俺も驚いたっす」

「でも狩りの方向性なんかはよく意見出してたよね」


 そうだっけかな。WWの時は大局的な方針についてはイイリコさんが出して、そこに姫代子が効率厨な意見を添えるのが普通だった。僕らはたいてい、狩り場毎に有効な戦略なんかを担当していた気がする。


 たしかにCHでネクロマンサーを選んでから、僕は指示を出すことが多くなった。後衛でステータス異常を与えるのが仕事だから、それが終わった後は戦況の把握に努められるのも理由の一つだろう。だけどやっぱり、イイリコさんと姫代子が早々に抜けたのが大きいと思う。


 イイリコさん達がゲームに戻ったら、僕の役目も元に戻るんじゃないか。


 それはちょっと寂しいかもしれないけど、安心もできた。



 やっぱり僕はイイリコ小隊がいい。 

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