45. 王宮図書館探検隊
遅くなりましたが投稿いたしました~。前回後書きの予告タイトル間違っておりました。すみません。(1話分飛ばしておりました……)
礼拝堂の前室から身廊へと、ラファエル様とソフィアが姿を現した。
少しだけびっくりしたのは、二人が手を繋いでいたことだった。エスコートしている、と言われたらそうなのだろうが、私にはそれ以上の意味を持っているように見えた。二人とも、私たちがいることに心底驚いた顔をしていたから、何も知らなかったのだろう。
特にラファエル様は、私がいることに気づくと、ばつの悪そうな顔をした。気にしなくていいのに。別に他の女と一緒にいても全然構わないのに~。
年長者らしく、フランドル伯が落ち着いた物腰で挨拶を述べてくれたので、ガブリエルも含めて私達一同が臣下として礼をとり、ラファエル様も返礼する。ソフィアは小首を傾げてそれを眺めていた。
「ラファエル、久しぶりだね。その可愛い子は誰だい?」
ガブリエルは軽い調子でそう聞いた。静粛だった身廊が賑やかになる。
「兄上、お久しぶりです。彼女は僕の学友です」
ラファエル様がガブリエルに向かってそう言うと、隣にいたソフィアがガブリエルを見つめた。
「お兄様? では、あれがギーズ大公殿下? まあ……」
―――素敵。
そう続けたかったんじゃないかな。そんな空気を含んだ感嘆だった。
ヒロインちゃんはガブリエルに向かって、それはそれは可愛い笑顔で言った。
「ソフィア・ジャンヌ・ロレーヌと申します。どうぞソフィアとお呼びください、ギーズ大公殿下」
ふんわりと花のほころぶような笑顔。誰もが彼女に魅了されそうなその空気。
おそるおそるエリアスを見たら、彼は特に表情を変えてなかった。
よかった。これでデレてたら、多分私は立ち直れない。
ただ、フランドル伯はやや尖った声でラファエル様に問いかけた。
「王太子殿下は、ルテール公爵令嬢との婚約を望んでいると聞いていましたが、気が変わられたのですかな?」
「いや、そんな事は……」
「その女性とは親密に見えますが」
フランドル伯は、二人が手を繋いだままなのを見て言ったのだろう。直球すぎる。上司だったら、マジ怖い。
「邪推だよ。彼女が祈りを捧げたいと言うのでここへ連れてきた。占星術師によると彼女の生まれは聖女の条件に当てはまるそうだ」
「ほう、伝説の聖女様ですか」
「ふうん……今度は、聖女の第一候補ってわけだね。正妃だの聖女だの、忙しいねえ、ラファエル」
ラファエル様とフランドル伯、そしてガブリエルが会話している間、私はずっとソフィアを見ていた。
やっぱり彼女は何も言わない。
自分の事について、誰かが話しているとき、彼女は決して口を挟まない。
「邪魔しちゃいけないから、僕らはもう行こうか。さあ、アリス」
対抗しているつもりなのか、何故かガブリエルが私の肩を抱くから、振り払って抗議した。
「なれなれしく触らないでください!」
「つれないな~」
エリアスの前でこんなことしたくない!バカ大公!
この兄弟確実に血が繋がってるな!!!
身廊を歩き、礼拝堂から出ようとしたら、距離をとっていたにも関わらず、ラファエル様が私の腕を掴んで呼び止めてきた。
「アリス、あとで話がしたいから、待っててもらえないかな?」
「ごめんなさい、ラファエル様。これから図書館に行くので」
「ではそのあとでいいから……」
(浮気がバレた彼氏が、必死に言い訳しようとしてるみたいだな……。そもそも付き合っていないんだけどー……別にいいんですよ?ソフィアちゃんとデートしてても)
「彼女が困ってますわ。行って差し上げて」
別にソフィアに困ってるそぶりはなかったが、そう言って私はラファエル様から逃げ出した。
礼拝堂の外に逃げ出して深呼吸をしていると、リラが小さな声で言った。
「まさか例の方に、王城でお会いするとは思いませんでした。ジュリアン様とも数回お会いしてるようですのに、王太子殿下とも……」
それが聞こえたのかはわからないが、ガブリエルが言った。
「あの子、この前も見た気がするよ。その時はエヴルー侯爵が一緒だったと思うけど。今日はラファエルと二人きりなんだね」
「え?リュカも?珍しい」
オスカーとアレックスだけでなく、やっぱり他の皆もヒロインちゃんに攻略されてるのか。
思った以上に、ヒロインちゃんのフットワークが軽い。素直に凄い。学業も優秀だから、勉強だってしてるだろうに、その上で積極的にアタックしてるのかな。面倒くさがりの私には到底真似できない。
好きになっちゃうのは自由だけど、シュラバにならないのかな?ゲームでもあんまり節操なしに同時攻略してると、地雷踏んで好感度が下がるイベントもあったような……。
ヒロインちゃんわかってない?というか無自覚愛されヒロイン体質?
そう考え事しながら歩いていると、不意にフランドル伯に声を掛けられた。
「以前、あなたは王太子妃にはなりたくないとおっしゃっていたが、それは今でも変わりないのかな?」
横に立ったフランドル伯は、見た目は優しいおじいちゃん。でも質問はやっぱり直球でいきなり本題だった。無駄がない。
「……はい。私は王太子妃にはなりたくないです」
今更取り繕っても仕方ないから、私も正直に答えた。
「儂が聞いた話だと、あなたは王太子殿下から正妃にと望まれているのだから、断る理由もないと思うが?あなただけではないが、王家の予算を使ってお妃教育も受けている。その責任はどうするのかな?」
フランドル伯のはっきりとよく通る声。きっと前を歩いているエリアスにも聞こえている。聞かせているのだろうと思う。辛い。
「教育をして頂いたのはとても有難いと思っています。何らかの形で国家のために尽くすつもりはあります……」
「何らかの?」
「国難に役立つような」
「国難……か」
フランドル伯は考え込むように言葉を切った。はっきり言って平和なこの国に難事は見当たらない。多分、それこそ私が国難なんだろう。悪魔を召喚するのだから。
―――私が悪魔を召喚して聖女が目覚めるとか説明しても、絶対頭おかしいって思われるだけで、わかってもらえないだろうな。私も半信半疑だもの。
それきりフランドル伯は何も言わなかったので、私も王宮図書館に着くまで何も喋らなかった。
王宮図書館は広い。そして広さに比べて司書さんの数が少なく、歴史書について聞いてみてもあまり詳しい人がいないから、私はいつも地道に棚の端から端までを探していた。最近は王立アカデミーの方に重点を置いているから、人員もそちらに割いているらしい。王宮図書館は年代の古い蔵書が多い。
「エリアスは詳しいでしょ?魔法については、どこを調べたらいい?」
「詳しいというほどではないけど、もし魔法の歴史が知りたいなら、何人か著名な研究者を教えるよ」
「あるかどうか、調べてみるわね」
やはりほとんどが帯出禁止。目当ての本が古い物だったので、書庫まで行ってみたが、アカデミーの図書館とは全く違って、古くて黴臭さすら感じる薄暗い場所。あまりいい管理の仕方じゃないよねと思っていると、エリアスが呟いた。
「せっかく希少な蔵書もあるのに、これでは本が傷んでしまう。もったいない」
「そうね。私もそう思う」
私がそう同意すると、エリアスが少し笑った。
「よく図書館にいるけど、アリスは本が好き?」
「う、うん……。好き……」
あわわ、何気ない会話にドキドキしてしまう。
……あれ、そういえばリラもカーラもいない。書庫の入口までは一緒だったのに。
(二人きりーーー?! わざとだな。ぐっじょぶ! リラ&カーラ!)
多分、二人は書庫の入口で待ってるんだろう。ガブリエルが来たら追い出してね。
やっと、デートっぽくなってきた……!とワクワクしながら書棚の間を歩いた。
梯子を使って上段の本を探しているエリアスの背中が格好いい。
毎日のように眺めている背中。
わあああああ!抱きつきたいぞーーー!!!
「ああ、この本だ。ちょっと専門用語も多いから、辞書と一緒に見てみるといい…………アリス?」
私が真っ赤な顔して突っ立ってるのに気づいたんだろう。
梯子から下りたエリアスが、きょとんとした顔で私を見ている。
あまりにも不埒な想像をしていたので、ちょっと反省した。
「あ、ありがとう。帝国公用語の辞書は表にあったから……それを一緒に……」
「待って、アリス」
書庫の扉に向かおうとしていた私の腕をエリアスが掴む。振り返ると顔が近い。
掴まれた腕。
手が触れてる!触れてるー!!!
エリアスが私の顔を覗き込むように見ているから、心臓がバクバクしてきた。顔が熱い。頭がくらくらする。
「な……に、エリアス……?」
エリアスの瞳に私が映っている。
こ、このシチュエーションは―――!!!
「―――むぎゅ?」
エリアスが笑いながらハンカチごと私の鼻をつまんだ。
「アリス、鼻血出てる。大丈夫?」
恥ずかしすぎて思考回路がショートして、私はぶっ倒れた。
お読みくださり、ありがとうございました~。アリスの通常運転。
次は【46. ヒロインちゃんのプレゼント】です。
金曜日更新予定です。のんびり更新ですみません。よろしくお願いします~。




