38. ヒロインちゃんの本領発揮
秋の入学から約半年、雪が融けて新年を迎えた。私の学園生活はチュートリアルの入学式以外は平穏そのもので、なるべく皆と関わらないようにと過ごしていた。
むしろ、エリアスが前の席にいるから、これ幸いと教室でひたすら眺めていた。
お触りなど出来ない。
出来るわけがない。
最推しなのだ。
見ているだけでいいのだ。
ただただ見ていたから、サシャに「最近のアリスちゃんって、ほぼ変態よね」と言われたが、今更どうしようもない。
でも、あからさまな私の態度や、サシャの言葉を誰かから伝え聞いたのか、クラスが違うのにラファエル様が私の様子を見に来る回数が増えてしまった。エリアスに迷惑はかけられないので、ちょっと反省してあまりじろじろ見ないようにして、手紙を書く頻度を増やした。そろそろ本になりそうなくらい溜まってると思う。
主人公ソフィアとも関わらないように逃げ回っていたので、隠しパラメータであるヒロインと悪役令嬢との好感度もあがってないだろう。これで絶対に隠しキャラであるマクシムお兄様は表舞台には出てこないはず。万が一、シナリオの力でマクシムお兄様がソフィアに出会って、ややこしいことになって、現在妊娠中の義姉が悲しんだり悩んだりする姿を、私は絶対に見たくない。
推しの結婚は勿論ショックだったが、ルイーズ嬢は周囲の評判通り、それはそれは穏やかなお姫様だったので、何度か離れに遊びにいくうちに私たちは仲良くなっていた。
朝晩は冷えるが、昼間は日差しがあれば暖かい季節になったので、私とお義姉様が公爵家の庭で一緒にお茶を飲んでいた時に、お義姉様が言った。
「結局、私は学園に通うことはありませんでしたが、きっとお友達がたくさんいて楽しいところなのでしょうね」
美しい金髪に長い睫毛、あまり外に出ないから真っ白で綺麗な肌がまるでお人形のようなルイーズお義姉様は、花のように微笑んでいる。私は無言で笑い返した。
(……でもねえ、お義姉様……実は私、友達が減ってるんですよ~~アハハ)
そう、じわじわと人間関係が変化してきている。まず、オスカーが素っ気ない。かなり。
思ってることが顔に出てしまう素直な気質なので、ソフィアが気になって仕方ないのはバレバレ。クラスが違うのに、オスカー・アレックス・ソフィア・コラリィの4人が一緒にいる場面に何度も遭遇しては、私は脱兎のごとく逃げ出していた。
私がカフェは妊娠中は控えた方がいいと言ったから、お義姉様は今はたんぽぽ茶を飲んでいる。
初めてお茶に招かれた時に、別段気にする様子もなく義姉が紅茶を飲んでいた。カフェインがどうのこうのという理解は多分この世界には無いから、どう説明しようかなと考えていたのに「コーヒーや紅茶は、母体やおなかの赤ちゃんにあまりよくないと聞きました」と言うと、早速他の物を準備させていた。素直……。人を疑わないんだろう。悪い人に騙されないように守らなければ!と思わされるお姫様だった。
たんぽぽ茶を一口飲んで、美味しそうに笑ってからお義姉様が質問してきた。
「そういえば、リュカは元気かしら?真面目なあの子が公式行事を欠席するなんて珍しいからびっくりしたのよ」
「あー……、元気みたいですよ……」
「『健康管理も仕事のうち、病気になるなどありえない』っていつも言ってるリュカが急病だと聞いたから本当に驚いたわ。お見舞いの遣いを出して病状を聞いたけど、過労だとしか言われなくて……」
頬に手を当てて、首を傾げて、本当に心配そうにしているお義姉様はとても可愛い。可愛い仕草にそりゃお兄様もメロメロだな、と思っていた。
「……心配しなくていいと思います……」
リュカが公式行事『花の舞踏会』を欠席した理由については、私は後で知った。
この国では新年である春に、王宮で『花の舞踏会』が開かれ、本格的な社交シーズンが始まるのだが、その舞踏会にエヴルー侯爵家当主であるリュカが欠席した。当日それを聞かされて、私もルイーズお義姉様も心配したが、実は裏でイベントが進行していたそう……。
『花の舞踏会』当日、平民であるソフィアは舞踏会には行けないから、寮生でもあるソフィアのために学園の庭でダンスレッスンをするのだが、その相手がリュカだったらしい……。
私はポンコツで、そんなイベントがあったことなんか忘れていたが、コラリィが自慢するようにそれを話していたのを聞いてしまった。
あのリュカが、ソフィアに向かってどうデレているのか三次元で見てみたい……と興味が湧いたが、コラリィは私が大嫌いな様子なので、勿論話をすることなど出来なかった。
まさにヒロインちゃん無双である。
なお、『花の舞踏会』で私はラファエル様にエスコートしてもらった。
主人公が王太子ラファエルを攻略するには、全パラメータをハイレベルにしなければならないから、ソフィアはまだそこまで至ってないんだろう。
ちなみに『花の舞踏会』は王宮で行われるため、警備は基本的に近衛兵。でも、参加人数が多く大規模なので、騎士であるエリアスは上位貴族の警護役として会場で仕事をしていた。学園の制服に慣れてきていたので、久々に見る騎士服がカッコよくて私はしにそうだった。
すっかり暖かくなったある日の放課後に、デルべ伯爵令嬢ジュリエットが苦々しい顔で私に話しかけてきた。
「アリス様、お聞きになりまして?」
「まあ、ジュリエットったら怖い顔で。一体何でしょう?」
(多分、あれだ。あれだろうな)
「ロレーヌさんなんですけど……」とジュリエットが語った内容は、予想通りのものだった。
「先日はアレックス様とお二人で庭園におられるのを見てしまったのですけど、昨日はサシャ様、今日は王太子殿下とご一緒で!!!あのように殿方を取っ替え引っ替えしてる姿は節操が無く、見ていて正直不快です!!!」
気の強いジュリエットはハッキリと口に出してしまった。
さすがにこれは覚えている。花の咲き乱れるこの季節、ふたりきりのお花見デートイベントが発生するのだ。色とりどりの花をバックにした美麗なスチルが印象的な、イベント発生期間の短いレアイベント。同時攻略しようとしたら、ほぼ毎日誰かとデートしていることになる。
(そうだよね~~同時攻略なんて、周りからみたら尻軽ビッチだよねぇ……)
内心はそう思いつつも、私は頑張って笑顔でジュリエットに答えた。
「ロレーヌさんは下町育ちでしょう?貴族の規範に縛られた私たちと違って自由なのでしょう。広い心で見守って差し上げたら?」
「ですが、王太子殿下にまで……」
私がにっこり笑って「ジュリエット、このお話はもうよしましょう」と言ったので、ジュリエットはそれ以上何も言わなかった。彼女は身分に厳格だ。
公爵令嬢が話を打ち切ったら伯爵令嬢はもう言葉を継がない。
あまり揉めたくなかったから打ち切ったのだが、オスカーがソフィアを伴って私の所へ来たのは、その翌日だった。
帰ろうとしていた私がひとりで学舎から出た所で、オスカーとソフィアが一緒にいるのが見えたので、反射的に逃げようとしたのだが、オスカーに呼び止められてしまった。
もうね、嫌な予感しかしないよね。
次は【39. 人の話を聞け~~~】です。金曜日更新予定です。よろしくお願いします~。




