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31. これはもはやバッドエンド

遅くなりました!投稿いたしました!


 階段を降りながらサシャが大きな声で言った。

「じゃあ、帰るわね!お茶とサンドイッチご馳走さま!美味しかったわ!」


その声に気づいた、母とフランドル伯が会話をやめた。


「じゃーまたね!ちゃんとお医者様に診てもらうのよ」

「アリス、学校サボんなよ」

「これに懲りたら無茶はしないでくれ」


幼馴染たちがワイワイ帰っていくのを見送ると、玄関ホールがしんと静まり返った。



「……フランドル伯爵、申し訳ありませんでした」

私が口を開くと、母から「あなたは何も言わなくていいから下がりなさい」と言われてしまった。


 気まずい。どう考えてもお母様は気づいてる。

「私の好きな人」が「エリアス」だと気づいている。

ただ、憶測ではなく、私の口からはっきりと言わせて確認したかったのだろう。なぜなら、今まさにフランドル伯がおっしゃってたように、王家の担う「国と国民に対する責任」に関わる事だから。


 権力者が国民から租税をとり、それを再分配する。国政とは単純に言えばそういう事だが、その租税をどう使うのか決めるのは、絶対王政のこの国では「国王」になる。そして、この国では単なる配偶者としてではなく、執政においても力を持つのが「王妃」。


「王妃」の地位は別格。


だから本人の好き嫌いだけでなく、誰が王妃にふさわしいのかと、お妃教育されて選別されていく。そしてその候補者は、一部の有力な貴族に限られる。それはフランドル伯の言う公爵家の責任。子供とは言え、公爵令嬢の負う責務。

「アリス」が自分を規律で縛り上げて笑顔を失っていたのも、まさにこれが理由だった……。




「フランドル伯爵……私は……」


私が頑固に下がらないから、母がリラとマーゴを呼んだ。ホールの隅に控えていたルベンが側にいた侍女を促しているのが見える。


「爵位を持つ家に生まれたものとして、重い責任があることは承知しております」


喋り始めた私を母はとめなかった。何を言うのか興味があるようにも見えた。


「でも、その責任は高い地位でないと果たせないのでしょうか?」


「……どういう意味だろうか」

フランドル伯は、先ほどまでの鋭い空気を幾分和らげて聞いてくれた。


「身分の区別なく、国政に参加できる仕組みがあってもいいと思うのです」


私の発言に、フランドル伯だけでなく、母も少し驚いた様子だった。

いきなり民主主義の考え方を理解してもらおうとは思ってなかったし、そんな事を悠長にしゃべってる時間はないだろう。私が言いたいのは、「私は王太子妃になりたくないし、ならなくてもいい方法あるんじゃね?」という事だから。



「たとえばなのですが、現在議会は貴族院のみですが、これに平民からの代表者で構成する衆議院を作ってみてはどうでしょう。平民でも意欲があり有能な人材は、積極的に国政に関わってもらうべきです。そして王妃候補者についても同じです。一部の貴族のみではなく、広く求めればよいのです。そう例えば、王立アカデミーに通う生徒から選ぶ……など」


「なかなか、面白い演説だな、アリス。しかし、身分卑しい者の血が王家に混ざるなど許されない」


 玄関ホールに来た父が遮るようにそう言った。

それを聞いた母の表情が沈み「やはりこの件に関しては、私とジョセフは相容れない」と呟いた。



身分の卑しい者の血が王家に混ざることを許さないなら、

身分の卑しい者の血が公爵家に混ざることも許さないだろうな。


お父様は、きっと、私が身分の低い方との結婚の望んでも、許さない。


考え方が根本的に違う。

ただ、それは父のせいじゃない。慣習とか慣例が違うだけ。



「……アリス、子供はもう寝なさい」

反論を許さない父の低い声。リラが迎えに来てくれたので、私は素直に従って私室に戻った。

疲れ切っていたから、寝間着に着替えてベッドにもぐりこんで目を閉じたら、すぐに意識が遠のいていく。駆け落ちしかない、どこへ逃げようかしら……と妄想しながら私は眠った。






 翌朝、私は医師の診察をうけ、自分の部屋で軽い食事をしてから、まず両親と話した。

人払いをしたから私の部屋には三人だけ。しばらく沈黙してから父が口を開いた。


「まずは、無事に帰ってきてくれてよかったよ、アリス」

「ご心配をおかけしました」


それから昨日のことについて簡単に説明してくれた。私が気になっていた、私と一緒に行方不明になっていた、馬と御者の事も聞いた。私が拉致された東の森ではなく、西の城外に放置されていたそうで怪我もなく無事だという。よかった。それ以外のほとんどはアレックスが教えてくれていたことでもあった。


エーメ男爵はダンピエール伯爵の手駒になって、他にも様々な事を行ってきたこと。しかし、愚かな男爵本人は、いつでもダンピエール伯爵ひいてはエヴルー侯爵家が守ってくれると信じていたそう。

今回の件についても私に向かって堂々と「揉み消してもらう」などとのたまっていたが、彼は本気でそう思っていたんだろう。当のエヴルー侯爵は「知らない」と当然のようにトカゲのしっぽ切りをして男爵を見捨てたわけだが。


 エヴルー侯爵が、孫娘ルイーズを王太子の正妃にするために一番邪魔なのは、ルテール公爵令嬢アリス。

馬車の事故を装って、邪魔なアリスを消そうとしたが、幸いなことにかすり傷ですんでしまった。その後、学園までの通学に、公爵家は護衛を増やしたので次の機会を伺っていたそう。

そこに偶然、エーメ男爵が下町でアリスと遭遇したことを聞いたダンピエール伯爵は、男爵夫人を使ってアリスをお茶会に招き、男爵邸にて拉致・略取することを計画した。

ちなみに殺害を指示されたが、男爵は私を奴隷として売るつもりだったらしい。


(それが男爵が口にしていた「取引」なのかな?お金が欲しかったんだろう。殺したふりをして、実際は殺さないかわりに国に戻って来るなという「取引」をしようとしたのかも……もうどうでもいいけど……)


「現段階で物的証拠は何もなく、ただ、男爵の自白のみ。だが、そもそも王太子殿下が正妃をまだ決めていない事に端を発したわけだから、殿下がこうおっしゃったそうだ……」


私は、手を握り締めて沈黙していた。

断りたい。是非ともお母様に力添え頂いて断りたい!!!



 王家からの遣いによる伝言はこうだった。


「アリスと結婚したい」

「僕がアリスの立場をはっきりさせていたら、今回のような事件は起きなかったかもしれない」

「許されるならば、正式に婚約の申し出をしたいので、明日にでも公爵家を訪問したい」


書面ではなく口頭での使者だが、王太子付きの侍従長自らが来たそうだから、ラファエル様は本気なんだろう。


彼なりに心配してくれたんだろうけど……

……だから私の気持ちを考えろと言ったはずだが?

しかも明日?……って今日じゃん!!!



「ルテール公爵家としては断る理由はない」


父の言葉に私と母は黙った。公爵家としてはない。アリス個人としてはあるけれど。

なんとか声を絞り出して言った。


「……体調がすぐれないということで保留できませんか?」

浅知恵しか浮かばない。でも回復したら返事はしなくてはならない。


「分かった。急ぐ理由もなくなったし、ひとまずはそう返事しよう」


てっきりお父様は一刻も早く返事したいのではと思っていたから、驚いて聞いた。

「急ぐ理由がなくなったとは……?」


「アリスには伝えておこう。これもまだ内々のことで国王陛下にも王太子殿下にもお伝えしていない……」


何だろうと思ってお父様を見ると、父はにっこりと笑っていた。


「マクシムはルイーズ嬢と婚約することになるよ」



その言葉に目の前が真っ暗になった気がした。


……嗚呼、お兄様……。

王太子妃の第二候補者がいなくなってしまった……。

確かに、お父様の言う通り、私とラファエル様の婚約を急ぐ必要はない。そうなれば、必然的に私が王太子妃になるのだろうから。


エヴルー侯爵とダンピエール伯爵の画策も、ルイーズ嬢の恋によって何の意味もなくなってしまったという事かあ……。

お茶会の日程が重なったのは、偶然だったんだ。

これがもし、ルイーズ嬢のお茶会が一週でも早かったら、事態は変わっていただろう。

さらわれ損じゃん、私……。


うなだれた私の頭の中には「バッドエンド」の文字が踊り、今度こそ思考回路がショートした。



お読みくださりありがとうございました。遅くなってしまい、申し訳ありませんでした!

次は【32. 駆け落ちの相談を真剣にする公爵令嬢】です。金曜投稿予定です。


次話のあとは、幕間をはさんで、やっと高等部入学です。やっと……。のんびり更新にも関わらず待っていてくださる方、読んでくださる皆様に支えられています。本当にありがとうございます。

よろしくお願いします。

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