28. お姫様を助けるのは騎士だけど
改稿したので、遅くなりましたが投稿しました~。
「お嬢様、裏へ」
カーラが隣で囁く。あれこれ言ってる場合じゃないだろう。足手まといにならないようにしよう。
馬に乗ってるのは男爵だけ。あとは、馬車で来たのか歩いて近づいてくる。
私は小屋の裏に向けて走り出した。
「捕まえろ!逃がすな!」
そう叫ぶ男がリーダーだと判断したのか、カーラは姿勢を低くしてまっすぐその男の方へ走っていた。
まじくのいち。
真っ先に大将首を狙う所が、マジでくの一、と思っていた。
裏にまわると馬小屋はなく、木に繋がれた馬が一頭いた。
「私を乗せてくれる?」
そう言いながら紐を解く。
誰も追ってこないってことは、カーラ無双が繰り広げられてるんだろうけど、怖くて見に行けない。
穏やかな気性なのか、馬はおとなしく言う事を聞いてくれるみたい。
「お願い、王都の方へ走ってね」
そう言って私は馬のお尻を叩いた。
いなないて馬は走り出す。
馬のいななきと、蹄の音に気付けば、何人かは追うだろう。それで少しでもカーラの危険度が減るといい。
走り去っていく馬を目で追って、私は靴下を脱いだ。記憶を取り戻してからずっとサボっていたが、これでもお妃教育は受けている。多少の護身術はアリスが覚えている。あとは実戦経験がないのが心配だが、これ以上事態は悪くなりようがないから、もうぶっつけ本番でいいやと思っていた。
壁伝いにそーっと表を見ると、やはりさっきの馬を追ったのか、人数が減っていた。あと、昏倒してるのが何人か。無双過ぎる。でも、当のカーラがいない。逃げたのならいいが、そんな雰囲気でもなさそう。
とりあえず、入口に立っていた男に後ろから近づいて、間合いを確かめて、思いっきり手に持った物を振りあげた。
どすんと手ごたえがあった。
呻きながら膝をついてる男に「ごめーん」と心の中で謝りつつ、手に持っていた剣を奪って隠した。目を覚ましても、少なくとも剣で攻撃されないように。
私は靴下に土を入れて、振り回してドーンとその重い塊をぶつけたのだ。非力でも、遠心力で結構な力になってるはず。
前世でいう所のブラックジャック。天才だが無免許医師の事ではなく、武器。ちなみに私はピノコが大好きだ。
(危機の時は、男の急所を狙えって教わったのだもの)
私もカーラ同様、力がないから剣ではなく他のものを使うことにした。あと何か使えそうな物ないかなーと周りを見ていたら、こちらに来る男と目が合った。ハゲ頭が公爵家料理長のケヴィンさんにそっくりだった。親戚?と思ってたらその男が呟くように言った。
「……公爵令嬢?さっき馬で逃げたんじゃ……」
大声で他の人を呼ばれる前にと思って、ぽかんとしてる男の前に走っていって、また思い切り土入り靴下を振り回す。
「うわ!あぶねえ!」
避けられた。避けるなよ!!
もう一度振り回す。また避けられた。
「不意打ちならともかく、当たりゃしねぇよ……ってうわああ」
「うるさーい!数打ちゃ当たる!!!」
私はぶんぶん振り回してた。
騒いでいたからか、小屋から男爵が出てきた。
「何だ?……おやおや公爵令嬢、逃げてなかったのか?手間が省ける」
私はその質問を無視して、靴下を振り回しながら男爵に言った。
「うちの侍女はどこかしら?」
男爵は少し顔をしかめた。
「侍女一人のために、のこのこ姿を表したのか?頭が悪いとは聞いていたが、バカなのか?」
「バカで結構よ。でもあなたには言われたくないわ」
私は男爵に向かって一歩踏み出した。当ててやろうと思って間合いをとるが、男爵は笑って言った。
「……公爵令嬢。取引をしましょう」
「取引?」
会話に気をとられていると、小屋の中からカーラの声がした。
「お嬢様!どうして逃げてないのですか?!」
「カーラが無事でよかったあ。酷いことされてない?大丈夫?」
「全然、大丈夫ですっ!」
そう言いながら、カーラは「お、お前、さっき縛ったのに」と言いながら、あっけにとられてる男爵に後ろから足払いをかけていた。
うわーと間抜けな声をあげて、男爵が転倒する。
ついでに、私の後ろにいたハゲのおじさんもカーラの掌底くらって昏倒してた。
やべえ、暗器潜ませてるだけでなく、体術も会得してるうちの侍女マジでくの一。
多分、自分がさっきまで縛られていたであろう縄で、男爵をくるくる縛り上げてカーラが言った。
「お嬢様、どうして?戻ってきたのですか……?」
「馬だけ走らせたの。鞍に樽つんで、結びつけて。ペチコート履かせてリボンつけといたから、結構近づかないとわかんないと思うよ」
曇った夜で月明りもなく暗いから、「何となく人影」があれば勘違いするだろうと思った。近づくとバレバレなチープなものだけど、無いよりマシだろう。
「小屋の中にはあと二人。ですので、馬を追ったのは三人。お嬢様のおかげで時間は稼げたと思いますが、そろそろ戻ってくるかもしれません」
カーラは転がっている賊の全員を手際よく縛り上げて言った。
「どうしよう。男爵は連行したいけど、他の人達邪魔だよね。こんなに連れて行けない」
「全員小屋ごと燃やしましょうか?火事なら王都からも見えますし」
一挙に解決するけどめちゃくちゃ物騒な提案だったので、台所で火種を探し始めたカーラを全力で止めた。本気じゃなかったと信じたい。
台所から持ってきた火打石をカチカチさせながら、カーラがエーメ男爵に問う。
「では手短に尋問しましょう。ここで火事に巻き込まれたくなければ、目的と動機を教えなさい」
エーメ男爵は、さっき転ばされて縛られて、醜態をさらしたばかりなのに「小娘ごときが。早く縄を解け。どうせすぐに人がくる」と偉そうに言って答えようとしなかったので、カーラは小屋の横にあった藁を男爵に浴びせていた。そしてまた火打ち石をカチカチ鳴らしていた。
この小屋はしばらく使われていなかったようで、台所には火の気が無かった。
ガスもないこの国では、火を起こすのは重労働で大変なので、台所の火は絶やさない。公爵家でもかまどの火は絶えないように夜は炭を置いたり蓋をするなどした上で、下働きの者が交代で火の番をしている。
火をつけるときは、藁やおが屑などの上で火打ち石を打ち付けて、火花を散らして火種を作る。それに空気を送り込んで炎にする。
カーラが男爵に藁をかけたのは、「お前ごと小屋に火ぃつけたろか?」という脅しということ。
一向に答えようとしない男爵にイラついたのか、殺気だったカーラが石を両手で持ち、本気でカチッカチッと打ち付け始めたので、男爵が慌てて口を開いた。
「私はある依頼を受けて、こうして公爵令嬢を連れてきた!最終的には殺せとの事だった!」
「依頼?あなたは実行犯で首謀者がいるという事?」
私が横からそう言うと、エーメ男爵はアホ面で偉そうに言った。
「そうだ。だから、こんなことしても無駄だ。揉み消してもらう」
それを聞いたカーラが呆れたように言う。
「公爵令嬢の略取事件を揉み消せる程の権力者など、この国には数えるほどしかおりませんよ。語るに落ちるというやつです。お嬢様、おそらくこれは……」
その時、私にもはっきりわかるほどに森の中から馬蹄の音が響いてきた。
でもカーラは私に何も言わなかった。私が戸惑っていると、森の中から聞き慣れた幼馴染の声がした。
「アリス!」
視界に飛び込んできたのは、グレーの髪を揺らして馬上にいるアレックスだった。
びっくりしすぎて声が出なかった。馬蹄の音は王都からの騎士団だった。味方だとわかっていたからカーラは逃げろとは言わなかったんだろう。
馬からおりて私のところまで駆け寄ってきたアレックスが、「女の子になんて事を」と呟いて自分の上着を脱いで私の肩にかけてくれる。
スカートは裾を切ってあるから足が露わになっている。自分で切ったんだけど。パニエとかペチコートとか脱いでるからスカートにボリュームもなくて夜着みたいになってるだろう。靴下も片方脱げてるし。いや、自分で脱いだんだ。まあ、ご令嬢にしては酷い有様には間違いない。
「とにかく君が無事でよかった!」
アレックスがそう言って私を抱き締めた。
何でアレックスがここにいるのか、そもそもここは何処なのか、誰が何のためにこんなことしたのか。聞きたいことは山ほどあったが、私はまず、アレックスに聞いた。
「……私の護衛の……エリアスは無事?」
一番聞きたくて、一番聞きたくなかったこと。無事なんだろうか。
アレックスが一瞬、表情を曇らせた。
次は【29. だ、だからフラグを折ろうとしたのに】です。木曜日更新になると思います。もう少しでヒロインちゃん……?




