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20. お姫様と騎士


 学舎と、図書館などの施設のあるエリアとを繋ぐ庭園に私達はいる。

私とアレックスが並んで立ち、その向かいにオスカー、そして私達三人から少し距離を置いて学舎よりにリュカが立っている。

季節は秋から冬になり、かなり寒い。もうすぐ授業も始まるし、花のない庭園には誰もいなかった。

私達は背の低い常緑樹のそばに隠れるようにして話していた。


「舞踏会の一件で、世間では王太子殿下が意思を示されたと噂している。婚約も時間の問題だと。だが、そうではない、という事だ」

リュカの独り言が続いていた。


アレックスが口を開いた。

「……エヴルー侯爵……本家の意向に従わなきゃいけないのかい?」


「その質問には答えられない」


リュカが冷たく突き放したので、オスカーが怒ったように言った。

「意味わかんねぇよ」


それでもリュカは表情を変えなかった。

「これは独り言だ」

そして、独り言といいつつ、オスカーに顔を向けてリュカが言う。


「王室に入るのは幸せか?」


「へ?何だよ急に」


「失礼、時間だ。私は授業に遅れるつもりはない」


「おい、ちょっと待てよ、リュカ!」


予鈴が鳴っている。真面目なリュカは最初から授業までには戻るつもりだったんだろう。言いたいことだけ言って、さっさと教室に帰ってしまった。


「やれやれ、皆マイペースだなあ。ところでオスカー、君はこの三日ほど、アリスが嫌がらせされてたのは知ってる?」

アレックスがそう言うと、オスカーは驚いた顔をしていたから、知らなかったんだろう。


(オスカー、こいつ鈍感だな!)と思いつつ、アレックスがその話題を出してくれたことには感謝した。


 アレックスが、自分が目撃したロアンヌ嬢の暴行未遂や、子爵令嬢からの水かけ事件、物を隠されたり壊されたりといった細々した嫌がらせについて話してくれた。「アリスの机の中に虫の死骸を入れようとした男子生徒がいたから阻止した」という私の知らない出来事もあった。


「アレックス、本当にありがとう。そんなの知らなかったわ。何かお礼するわね」

(むーしーきーらーいー!!!マジ感謝!!!)


そして、容赦なく言ってくれた。

「首謀者はロアンヌ嬢で、どうやら君への好意がひねくれてアリスへの嫌がらせになってるらしいよ」


「俺のせいなのか?ってったって俺、その女の事知らないし!」

「そうかい?アリスの舞踏会で一緒に踊ってただろう?」


私が挨拶回りやらでバタバタして知らなかったことや、先に下がったので、私がいなくなってからの事も教えてもらった。


 ラファエル様は、上位貴族の貴婦人方と一通り踊ったあとは、私が先に下がったこともあり、国王陛下と王妃様と共に帰られたそう。ちなみに私は「体調が悪くなった」と皆様には伝えられたらしい。本当はドレスを泥んこにして広間に入れなくなったからなんだけど。

ガブリエルは相変わらず女をとっかえひっかえしてたようで、最後はどこぞの伯爵夫人といずこかへ消えたらしい。リュカは私が下がったあとはダンスの輪には加わらず、若年の貴族院議員たちと政治談議していたらしい。真面目か。

サシャは未婚の姉が三人いることもあって、その姉に連れまわされて会場の中をあっちこっち忙しかったそう。本人もご令嬢方から恋の視線を向けられていたが、適当にあしらっていたとか。末恐ろしい15歳だ。そして、アレックスは、父とともにエヴルー侯爵から接触されていたという。


「エヴルー侯爵は、オスカーの父上・ノワイユ侯爵と、僕の父上との反りが合わないことを利用したかったみたいなんだ」



 ノワイユ侯爵とオルレアン伯爵が仲悪いなんて知らなかった……。でもわかる気がする。


 アレックスの父、オルレアン伯爵は騎士団長。バリバリの武闘派だ。齢50を越えてなお若々しく、筋骨隆々。先の戦争では前線で戦い、多くの武勲をあげた英雄。伯爵夫人とは年の差婚で、20歳年下の奥様を溺愛してるとか。


 一方のノワイユ侯爵は華やかな遊び人。いまでこそ落ち着いているが若い頃は浮き名を流し、「目が合えば皆、侯爵様の虜になる」と言われていた、らしい。(以前そのことを聞いたとき、オスカーは「眉唾物だろ!完全に母上の尻に敷かれてるぜ!」と言っていたけど)


 オルレアン伯爵は、自分を味方に引き込もうとしているエヴルー侯爵に対して、「ノワイユ侯と合わないからといって、その友人であるルテール公とも合わないわけじゃない」と暗に伝えて、エヴルー侯爵はしぶしぶ話を切り上げたそう。


そんな宮廷内の覇権争いを舞踏会でしてたんかい。まあ、社交ってそういう場所なんだろうけど、つくづく面倒だな。



「さて、当のオスカーといえば……」

 アレックスが少し意地悪そうにオスカーを見る。


「なんだよ……」

オスカーが目をそらしたので、何かしらあったことは思い出したらしい。


 オスカーは、私から逃げるように、ご令嬢方やご夫人方と踊ったり、友人を見つけては話し込んだりしていたようだ。でも、うっかりアルコールに手を付けて多少酔いが回ったところで、ダンピエール伯爵令嬢ロアンヌと遭遇したらしい。


「一曲踊ってご令嬢とともにテラスに消えたのは誰だい?」

アレックスがそう言うと、オスカーがうなだれて言った。

「……思い出したよ。あのよくしゃべる金髪女か……」


 何を愚痴ったかまでは聞かなかったが、そこでロアンヌ嬢は、もともと良く思ってなかった私への憎しみを募らせたのだろう。


「これまでのリュカの話と、今のアレックスの話のおかげでだいたいわかったわ……。オスカー、私を守る騎士になってくれない?」


リュカの言う通り、ロアンヌ嬢に対抗するにはオスカーを味方につけるのが一番のようだ。



次は、【21. 騎士様といえば是非あのお方にも来てほしい】です。水曜日更新予定です。水曜日は早めに投稿できるはず!です!


いつものんびり更新ですが、お読みくださってる皆様、本当にありがとうございます。

よろしくお願いします~。

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