18. 生徒会長のお悩み相談室2
「ルイーズはお姫様だよ。自分から誰かを害するつもりなんてないだろう。ただ周りは違う」
サシャが「あの子は本物のお姫様、深窓のご令嬢」と言っていたが、リュカから見てもそうなのか。
「王太子妃候補ルイーズのために、という言い訳で、君を害することはあるかもしれない」
その時、誰かが戸をノックした。話の途中だったが、リュカが入るよう促す。来たのは、副会長をしているモロー伯家のエミールだった。リュカの隣に私が座っているのを見て、少し驚いた様子だったが、急いでいるのか会釈だけするとリュカと話し始めた。
「お話し中すみません、会長のご許可を頂きたくて」
エミールが持ってきたのは学園内の施設の使用許可証。
学園の授業は基本的には午前中で終わるので、放課後にそれぞれが課外活動をしている。ダンスの練習をする者、修練場で剣術の訓練をする者、法律の勉強会をする者……生徒が主催するサークル活動のようなものだ。その取りまとめをしているのは教師ではなく生徒会。だから、生徒会長であるリュカは何かと忙しい。ちなみに、アリス自身はお妃教育もあり、なんの課外活動もしていない。
日も傾いてきた。首謀者はおそらくロアンヌ嬢だとわかったし、ルイーズ嬢が関わってないであろう事も理解できたので、そろそろ帰宅しなければ。
「忙しいのにありがとう、リュカ。邪魔してごめんね。私は帰るね」
私がそう言うと、書類から目を離さずにリュカが問う。
「……君はオスカーと話したか?」
「話したいけど、まだ……」
結局、舞踏会以降、私は避けられたまま。教室であっても目をそらされるし、話しかけようとすると離席してしまう。
エミールはリュカから書類を受け取ると、言いにくそうに口を開いた。
「あの、会長すみません。明日の会議の件でモープ先生がお呼びです」
「わかった。すぐに行く」
リュカがそう言うと、エミールがほっとしたような顔をした。公爵令嬢である私との会話に入っていくのを遠慮してたんだろう。申し訳ない。
リュカが立ち上がったので、私も席を立つ。エミールは先に部屋を出て、外でリュカを待っていた。
「早めにオスカーと話すことだ。一対一ならまだよいが、相手が複数ならこちらも味方を複数持った方がいい。そのために、今回、一番適役なのはオスカーだと思うが?」
そもそもロアンヌ嬢の不興を買ったのは、オスカーのことがきっかけだし、リュカの言う通りだと思う。
「そうね。ありがとう、リュカ」
私はそう言うと、明日はオスカーがどこへ逃げようと、とっ捕まえて絶対話をしようと決めた。
学園に行くときは弟ジュリアンと一緒だが、帰りはいつも別々。ジュリアンは語学の課外活動をしているし、私はさっさと帰宅することが多い。学園の車寄せでルテール公爵家の馬車を探していると、カーラの姿が見えた。私が予定より遅かったから馬車の外で待っていたらしい。なお、学園の敷地内には生徒と保護者しか入ることが出来ないから、使用人のカーラは外で待つしかない。
「待たせてごめんね、カーラ」
「とんでもないです。お嬢様がご無事か心配で」
この三日間の嫌がらせは、家族にはまだ話していない。リラからはすぐに相談しましょうと言われたが、私が「心配かけたくないし、宮廷内の権力争いにつながるのがいや」と固辞したからだ。
「リュカと話してたの」
私がそう言うと、カーラが怪訝そうな顔をした。
「エヴルー子爵家のリュカ様ですか?」
「そうだよ。何か知ってるかなと思って」
「幼馴染だし、友達だよ。リュカは大丈夫だよ」と言ったけど、カーラは心配そうな顔をしていた。
帰宅すると、玄関で出迎えてくれたリラが手紙を差し出してきた。
「もしかしてエリアスからの返事?!」
私が舞い上がって笑顔でそう言うと、リラは首を横に振った。
(違うの?!昨日出したお手紙の返事だと思ったのに!誰だよ、ぬか喜びさせやがって)
「先ほど届きました。エーメ男爵夫人からアリスお嬢様に、お茶会のお誘いです」
「……エーメ男爵夫人???誰それ???」
どっかで聞いたような、と思っていると少し後ろにいたカーラが「マルシェの轢き逃げ」と耳打ちしてきた。
(あー!あの逃げようとしたやつね!奥さんいるんだ!)
あの時カーラが、金で爵位を買った新興貴族、と言ってたが、どうやら物凄いお金持ちらしい。
そのエーメ男爵の奥さんが、なんで私をお茶会に?面識などない。リラも不審がっていた。
「アリスお嬢様、これは旦那様と奥様に相談した方がいいと思います」
さすがに、リラの言うとおりだと思う。頷いてると、リラが我が家にもう一通、お茶会の招待状が来ていることを教えてくれた。
「ダンピエール伯爵家からもお茶会の招待状が届いております」
しかも、それは、ルイーズ嬢からお兄様宛の招待状だった。
次回は【19. お茶会なんて許せない】です。金曜日更新予定です~。よろしくお願いします~。