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10. リハーサル通りにしてくれない王子様

15日(火)更新予定でしたが、早めに投稿させて頂きました。よろしければ活動報告もご確認下さい~。


私は今日、15歳になった。

そして私の社交界デビューの日でもある。

朝から慌ただしく始まった着付けもやっと終わった。


私は鏡の前で、この日のために母が用意してくれたティアラを見ている。

この世界では社交界デビューする娘が着けるティアラは、母方から贈られるのが慣習らしい。

母方の祖父母はすでに亡く、母の弟がクーベルタン侯爵家を継いでいるため、その叔父がこのティアラを作ってくれた。

叔父は子に恵まれず夫婦ふたりきりだが、夫人ととても仲が良く、私たち兄弟も可愛がってくれている。


デザインは母と相談しながら決めたらしい。小さいがクリスタルがたくさん使われてキラキラしている。ところどころに葉の紋様があり、その部分にはエメラルドが嵌めてある。

紅い天鵞絨(ビロード)の上に恭しく置かれているティアラは、これから母がつけてくれる。


私のお母様。ルテール公爵夫人クロエ。

1ヶ月前に前世を思い出してから、他人の用な気がして反発したくなる時もあった。でも、一生懸命に今日の準備をしている公爵夫人を見ていると、やはり母親なのだと心から甘えたくなる時もある。


「そろそろ時間ですよ」


私の部屋にやってきたお母様は、ティアラを大事そうに持つと、私のプラチナブロンドの髪にそっと着けてくれた。

カーラが落ちないように整えてくれる。


「アリス、とっても可愛いわ!」


「ありがとうございます。お母様」


そこにひょっこり弟ジュリアンも顔を出した。


「わぁ、お姉様!とても綺麗!」


ホスト家族として顔を見せるため、ジュリアンも盛装している。


「ジュリアンも格好良いわ!」


「えっへへ!ありがとう、お姉様」


舞踏会ってどんなだろう?映画でしか見たことがない……。




 それぞれの家紋をあしらった招待客の馬車が、二百台ほど車寄せに並んでいる。噴水のある玄関ホールを抜け、大階段を上がるとそこがルテール公爵家の広間。

花の少ないこの時期にも関わらず生花がふんだんに飾られている。

国王陛下と妃殿下もお招きした今夜の舞踏会は、ルテール公爵家の威厳を見せつけるかのように豪華絢爛だった。

序列に従って設えられた席に座るのは上位貴族。年配者が席に座り、若手は立席している。

国王も来臨しているとはいえ、公式の行事ではなく、公爵令嬢の誕生日パーティーだから、みな気心のしれた者同士で歓談している。


ギーズ大公ガブリエルは、国王と王妃に一言挨拶したのみで、あとは相変わらずたくさんの女性に囲まれていた。来年、成人すれば何らかの国の要職に就くだろうし、何より美男子で女の扱いに長けている。アリスが見たら「女ったらし!」と言いそうだが、事実ガブリエルは女たらしだった。



 ホストであるルテール公爵ジョセフと嫡男マクシムは、一段高くなっている王家専用の席で国王ベルトラン2世と王妃カロリーヌをもてなしていた。

そこへ、美しい白のドレスに銀のサテンの帯を締め、真珠のネックレスをつけた公爵夫人クロエが、次男ジュリアンと供に姿を現した。優雅な公爵夫人は社交界の華。彼女の姿は常に衆目を集める。

ジュリアンがとことこと歩いて行き、国王夫妻に恭しく挨拶をする。


「大きくなりましたね」


王妃が微笑みそう言うと、ジュリアンははにかみ、周りの客が和やかに笑った。


クロエから、アリスの準備が整ったことが伝えられたのだろう。国王と王妃に一礼したルテール公爵ジョセフが広間の中央付近に向った。


「本日はわが娘、アリス・マグノリア・ルテールの15歳の誕生祝いにお越しくださり、心より感謝申し上げる」


招待客から拍手と賛辞が送られる。父親としての喜びに満ちた表情でそれを受けたあと、ルテール公爵が手をあげて制した。

その手をそのまま中央の扉へ向ける。





 もうすぐ目の前の扉が開く。


 隣に立つラファエル様は、いつもとかわりなく見える。すでに社交界デビューもなさってるし、幼い頃から夜会や晩餐会、お茶会などの社交をこなして来たから慣れてるのだろう。

この日のために、散々練習したとはいえ、私は手が震えるのを抑えきれなかった。


「アリス」

私の名を呼び、ラファエル様が優しく微笑む。

(美少年~~だいぶ慣れたけど、笑顔には弱いわ~~!)


「いつも通りのアリスで大丈夫だよ」

私の右手を持つ左手に、自分の右手を重ねてくる。手袋越しでもわかる温かさとその言葉に震えがとまった。


「はい、ラファエル様」

ラファエルはこれまで見せたことのないくらいの、屈託のない笑顔を私に向けた。


「僕はね、本当に君が好きだよ、アリス」

「はいぃぃぃぃ???」

(何で今言うの???これが王子様の通常運転ってやつなの?そうなの???)

再び動揺した私を引きずるように、ラファエル様がエスコートして、開かれた扉から入場した。




 眩しい程のシャンデリアの光。色とりどりに着飾った貴婦人たち。慣れ親しんだ友人たち。今日初めてお会いする方々。会場中の視線がこちらに集まる。


 ラファエル王太子殿下は、ミッドナイトブルーの夜会服を着ている。自分はそれより少し淡い、それでも深い海の色のドレスだ。デコルテはシンプルに。頂いたエメラルドの首飾りが栄えるように。その代わり、ウエストのバックに大きなリボンをつけて、ギャザーもたくさんついている。パニエも盛り盛りに盛りつけてある。重たくなったが仕方ないと我慢した。裾は銀糸。精緻な刺繍が施されている。

裾のさばき方もずっと練習してきたから優雅なはずだ。と思う。多分。


国王陛下と王妃殿下に最敬礼したのち、父の横に歩いていって招待客の方へ振り返り礼をする。

私は震える両手を胸の前で握りしめた。


「アリス・ マグノリア・ルテールです。本日は足をお運びくださり、本当にありがとうございます。今日は『薔薇色のしおりで記念すべき日』ですわ。ここにいらした皆様全員にキスをしても足りないくらいうれしいです」

(……噛まずに言えた自分を誉めてやりたい……)



社交界デビューする公爵令嬢として堂々と、でも初々しさも交えて、アリスが笑顔で挨拶をすると、招待客たちはさざめくように誉め称えた。

「なんて可愛らしい」「美しくなって」「マグノリア様にそっくりね」と、ご年配受けは上々だった。

ちなみにマグノリア様とは母方の祖母の事。すでに故人なので肖像画でしかみたことがないが、確かにアリスにそっくりだった。


「初めのキスは私に頂けますか?」


「勿論ですわ、お父様」


少し腰を屈めた父の頬に、アリスは背伸びして口づけた。

どこの世界でも、父親というのは娘にはデレデレするものらしい。


内務省で共に働き、普段の鬼のような父の姿を知る兄は苦笑していた。


ここまではリハーサル通り、だった。

晴れて社交界デビューした娘と、それを喜ぶ父の、心暖まる風景に会場は和やかな空気に包まれていた。


……少し後ろに立っていた王子様がこんな事を言い出すまでは。


「次は私にもキスを頂けますか?」


ラファエル様のその声掛けに、会場がざわめいたのがわかる。リハーサルにはなかった台詞だ。

突然どうしたのかと振り返ると、ラファエル様は穏やかに微笑んでいる。


……社交辞令だとしても、その意味するものは大きい。そして、先日のラファエル様の告白を聞いたあとである私にとっては、それがラファエル様が心から望んで言ったことだと理解した。

そして、それは最も避けたい〈王太子の婚約者ルート〉に近づくことだ。

(私の気持ちを考えろって言っただろーが!!!断りたーい!断りたーい!!)


戸惑う私に、父は笑顔で言った。

「殿下にお返事を」


断れるわけがない。この前のように幼馴染だけの場ならまだしも、この大勢の中で断るなど、公爵家の人間として出来るはずもなかった。

躊躇いながら答える。


「よろしくてよ、ラファエル殿下」

(よろしくなーい!よろしくなーい!)


私はラファエルの頬をかすめるようにキスをした。

緊張してふるふると震えているのに気づいたラファエルは、私の手をとると、その甲にキスをする。

その流麗な仕草に私はびっくりした。

(手の甲にキスするの初めて見た!!!凄い!)


壮麗なバイオリンが軽やかに響き、ゆったりとしたワルツが流れ、ダンスが始まる。


私は、社交界でのファーストステップを踏み出した。


次は【11. 私はあなたを探していました!(引きが長すぎる件)】です。やっとです。

水曜更新予定です。よろしくお願いします~。

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