手当て
王女様を横抱きにしたまま、城内へと戻っていく。
途中、少しばかり人の視線が痛かったけれど、知らない人ばかりだということもあり、さほど恥ずかしいと思わずに済んだのは幸いだ。
門を守る兵士たちは抱えられている王女様に驚いていたけれど、『殿下がご自分で歩きたくないとおっしゃるもので』と伝えると、なぜか疑われることなくすぐに信用された。
まぁきっと、ロザリア王女が何も言い返さなかったからだろう。
王女様は始終むすっとした顔をしていたけれど、僕の嘘には一切反論しようとしなかったし。
もしかしたら、自分で歩きたくても歩けないほどに足を痛めているのかもしれない。
階段を前にしてそのまま上がろうかとも思ったが、右の廊下へ方向転換をしていった。
「私の部屋はこっちじゃないわ!」
その言葉を無視して、そのまま一階の端へと足を進める。
「僕は、ここに用事があるんです」
肘と足を使って扉を開けて部屋の奥まで進み、真っ白なシーツが敷かれたベッドの上へ王女様をゆっくり下ろした。
「どうしてこんなところに連れてくるのよ!」
寝かされた途端、ロザリア王女はベッドから起き上がり、眉間にしわを寄せてくる。
ここは、城内の端にある医務室だ。
薄暗い部屋の中を見渡してみるけれど、人の気配はない。
医師に王女様の手当てを依頼しようとしていたのに、タイミングが悪いことに席をはずしているようだ。
「どうしてこんなところに、ってご自身が一番おわかりなんじゃないんですか? 足、痛めてらっしゃるんでしょう。出して待っていてください」
医務室の棚を物色し、包帯とタオル、たらいに、水……と必要なものを一つ一つ探しながら言うと、後ろから不機嫌そうな声が聞こえた。
「嫌よ」
予想外過ぎる短い返事に、思わずぴくりと眉を寄せる。
嫌、だと……!
強情の度合いが過ぎる王女様にむっとしてしまい、深くため息をつく。
「マバルの葉の件、言いふらしますよ。『どうやら、王女様が遅めの反抗期を迎えられたようです』という言葉を添えて」
振り返って微笑み、嫌味に言い放つ。
「……貴方ってば、本っ当に最低だわ。たった一度のことで、ゆすってくるなんて」
口をへの字に曲げたロザリア王女はドレスの裾をめくり、今度は素直に足を差し出してきた。
素直なのかひねくれているのかわからない王女様にくすりと笑って膝まづき、彼女の足を僕の腿へと乗せていく。
「最低で結構です。ほら、やっぱり足痛めてる。かなり腫れてますよ。それに、靴ずれもひどい。どうして、途中で帰ろうといわなかったんです?」
「全部、気のせいです」
ツンとした顔で、顔を背ける王女様を見て、僕は笑った。
「素直じゃないんですから」
たらいに王女様の足を入れ、水で軽く流した後に、靴ずれの部分に軟膏を塗り、ガーゼを当てる。
続いて、冷たい水で冷やしたタオルを、腫れている部分にあてがっていった。
「手慣れているのね」
ロザリア王女は感心するような顔で見つめてくる。
「まぁ、これでも兵士ですから」
続いて包帯を手に取り、王女様の足へと巻いていく。
色白の細い足が滑らかで、柔らかい。
普段は豪華なドレスに隠され、決して見ることのない足をじっと見つめていると、変に意識してしまって。
慌てて、筋肉モリモリで男前なフランツ氏を想像し、気を紛らわせようと必死になっていった。
「……あの、えぇと」
そんな僕に、ロザリア王女はもじもじとしながら話しかけてくる。
変な目で見ていたのがバレたか、と思っていたのだけれど、王女様は聞こえるか聞こえないかというほど小さな声を出してきた。
「あの、その……今日は、いろいろとありがとう。痛いのも、だいぶ良くなったわ」
王女様の言葉に、思わず大きく目を見開いてしまう。
こうやって、ロザリア王女からお礼を言われたことは、これまで一度たりともなかったのだ。
王女様自身もお礼を言うことなど、ほとんどなかったのだろう。
礼の言葉もその顔も、なんだかぎこちない。
「それなら良かったです。もうなんでも一人で我慢しようとなさらないでくださいよ」
ゆっくり立ちあがって微笑みかけると、なぜかロザリア王女の頬がほんのり赤く染まっているように見えたのだった。




