番外1 転生神はつらいのよ
書いていて学んだこと
オチは投げ捨てるもの!(キリッ
「あ~、お仕事面倒くさーい。何でこんなに仕事があんのよー」
私は転生神、名前はいっぱいある。
今日も今日とて世界の神にせっつかれ、要望に合った人物を選出して異世界へ送る管理をしている。
転生神といっても、私がやっているのは転生システムの構築と管理、転生対象者の選別、その他諸々という実に地味な裏方仕事である。
じゃあ、普段転生者と会っている転生神は誰かと言えば、私一人では手が足りないから作り出した分体である。
分体と言っても、個別に意識がある為、分身にも個性が出ている……というよりも付けないと退屈で私が死ぬ。 忙殺される神って新しいわね……まあ死ねないけど。
そして、引っ切り無しにやってくる転生者の情報を整理して、転生先の異世界を指定して、チート能力を付けてetc.を全て、私が、一人でやっている。
しかも割と世界の運営上、重要な役職の為に止めるに止められないのだ。
「はぁ!? 金属の知識が豊富な職人系の人材を寄越せ!? いるかそんなの!」
「こっちはこっちで死に戻りしても壊れない様な、精神が頑丈な奴が欲しい!? そんな生物として壊れた奴なんかいるか!」
「ゲームを模した世界に転生させたいからゲームに詳しいオタクが欲しい? ……沢山いるわそんなもん、もっと条件絞れや!」
「チクショウ主神め……今度会ったら髭を引っこ抜いてやる……!」
一人グチグチ愚痴をこぼしながら、山脈を作り出している書類に目を通して、それに合った人材を検索して選別し、候補を幾つか選び出して行く。
この作業は誰にも任せられない、転生神本体である私にしかできない仕事である。
「裏を返せば私には休む暇が無い!」
「神様の癖に何言っているんですか“私”」
ボヤキながら作業を進めていると、呆れた顔をした部下の分体が追加の資料を抱えて入ってきた。
「廊下まで独り言の愚痴が聞こえてきましたよ。愚痴るなとは言いませんけど、もう少し抑えてください」
「態とよ態と、聞こえるように言ってるんだから当たり前じゃない。ボヤキを聞いて態度を改めてくれるような輩がここにいると思う?」
「規格外な方々が多いのは重々承知ですが、親しき仲にも礼儀ありですよ」
相変わらずこの彼女は、製作者の私が作ったとは思えないほど真面目なのよね。
今も私の意を汲んで書類を片付けて、お茶を用意……待って、今私はコーヒーの気分なの、繋がってるんだからわかるでしょ。 しかもそんなの濃く……あ~あ。
「どうぞ」
「これ……滅茶苦茶濃いんですけど、深緑色してるんですけど」
「連日の仕事で胃が荒れているであろう転生神への、私からの配慮です」
「いやいや、これもドッコイドッコイだと思うよ? 濃すぎて底が見えないもん」
「気のせいじゃないですか?」
いや、私は見た。
それはまるで親の仇を見るような目で、漉したお茶の葉をさらに絞って、ギリギリまで濃度を濃くしていたのを、この目ではっきり見た。
「私なんか恨まれる様な事した? 一応これでも転生神の本体なのよ? ここじゃ一番偉いんだけど」
「ええ、変なスキルをシステムに紛れ込ませて転生者の語尾が「うわー猫だー!」になった事や、伝説の武器の設定の入力を間違えて、剣を与える筈がハサミを与える始末。しかも、上司は引きこもりの面倒臭がりで雑用はすべて私に押し付ける……ええ、恨んでませんよ?」
「すんませんですたっ!」
やばい、笑顔超怖い。
笑顔とは本来攻撃的な云々……怒ってるよ、顔は笑って目がコキュートスだよ嘆きの川だよ。
創造主の私にそんな事が出来るとは、個性の進化とは恐ろしい……
「それにしても、いつもの事ながら本体のやっている仕事はまるで理解ができません」
「そりゃそうでしょ、格が違うのよ格が。髪の毛一本と本体じゃあスペックが違うわよ」
「“私”は孫悟空ですか……」
「あら、岩から生まれたっていうのは強ち間違いじゃないんじゃないかしら?」
基本、私たち神に親はいない。
高い位の神ならば子を成す事も可能だろうが、浅い概念でしかない私のような神は高位の神の分体から派生する場合が多い。
生まれるというよりも、ある日ひょっこり出来ていたという感じだ。
「では、ここは五行山の下ですか?」
「通り掛かってくれるお坊さんはいそうにないけどね~」
「緊箍児の代わりになら、なって差し上げますよ?」
「止めて~これ以上締めつけられたら、死んじゃう~」
「死なないでしょう。神様なんですから」
愛の無い部下のツッコミを聞きながら、仕方なく濃すぎるお茶を飲みつつ仕事に戻る。
「うげぇ……やっぱ苦いよこれ」
「じゃあ、お砂糖とミルクをどうぞ」
「緑茶にそんな物をぶち込む趣味は無いよ!?」
日本以外では割とある飲み方だそうだけど、生憎と私は和スピリッツを持つのである。
「日本生まれでもないのに、何が和ですか」
「ジャパニメーション最高! 特に何でもかんでも萌えキャラ化させる想像力は神を超えるんじゃないかしら?」
「そんな能力で神を超えても嬉しくありませんね」
無駄口を叩きながら、仕事を進めている内に、とんでもない事に気が付いてしまった。
「もしかしてだけど……分体と会話するって、実はとんでもなく虚しい行為なんじゃないかしら……?」
「まあ、例えるなら自分の手と会話しているような物ですからね。そう見れば間違いなく寂しい人ですよ」
「あははー、ですよねー」
独り言でも大いに結構、暇が潰せれば正義なのだ。
なんて考えつつ、分体が持って来た報告資料を流し読みしていると、見逃せない内容が書いてあった。
「……ねぇ? この【分体の特典として転送】ってなに?」
「ああ、それですか。それは対象者が望む物として分体を選んだんですよ。まあ、本人は嫌がらせだったみたいですけどね」
「うわぁ……似ていないとはいえ自分の分体を持って行かれると、背中がゾワゾワってするわね……というか分体の癖に羨ましい。私なんてここ数百年休んでないんだぞ~」
そもそもこの仕事に休日なんて概念は無いもんね。
というか、何でも叶うんだから最強の武器とか望めばいいのに、なんでよりにも因って女神?
自分で言うのもなんだけどかなりハズレの部位に入るんじゃないかしら。
「こちらなんて、基本パックに戻したつもりが、間違えてTS属性が付いてしまってどうしましょうなんてありますよ」
「転生後の事は管轄外だからね~。つか、何で基本パックにしてて余計な項目にチェックが入るのよ」
たまにこういうドジなのが入るのよねぇ。
私はしないわよ? そうたまにしか……少し? ちょくちょく……とか?
まあ、過去には拘っちゃいけないわね!
「こちらは男性型からですね。『担当の転生者がアドバイスを送る前に戻って来るんですが』って、これも管轄外ですか?」
「あ~、こっちは担当が部署変わる前だからこっちよ……でも、所属が変わるなんて一週間繰りで出来るんだから、よっぽど運が悪いか死にたがりでもないとありえないんじゃないの?」
「死因は……腹這い死ですね」
「え、何それ面白い。ニコポでも付けてあげたの?」
「いいえ、どうやら亜人女性が強い世界でハーレムを作ろうとしたみたいですね」
「遠回しで直球な自殺願望者ね。それで?」
「街で奴隷を買って2回、森でエルフに出くわし3回、街道で獣人に遭遇して5回、草原で原種エルフに捕まり9回。本人は未だやる気満々のようですね」
「普通それだけ繰り返してたら心壊れるか女性不信になるわよ。ある意味勇者ね」
こういうのも肉食系って言うのかしら。
でも、死ぬまで絞られている時点でどう考えても獲物側よね。
「最後は……世界規模で食事改善ですか」
「おお、規模がデカいんだか小さいんだか良く分からない!」
「そこそこ上手く行っているみたいですよ? 料理で対決したり、料理で国を活気づかせたり、料理で2ヶ国を和解させたり……どこかの料理漫画みたいですね」
「あそこの親子は和解する日は来るのかしら?」
「同族嫌悪で無理じゃないでしょうか」
「それにしても、何でこう普通に世界を救う奴が無いのよ」
「王道はやり尽くしちゃった感がありますから、今は奇を衒った物や特徴のある物じゃないと人気が出ないんですよ」
「普通に魔王を倒せばいいじゃん! 四天王とか一突きでグワーしちゃって、問題とかは魔王が解決しちゃってたから後は魔王を倒すだけ! とかでさぁ!」
「思いっきり打ち切り臭半端ないですね」
そもそも日に何人の転生者が異世界へ送り込まれていると思ってるのよ。
それを考えれば、その位のペースでやってないと世界滅んじゃうわよ。
「はいはい、という訳で追加の書類です。明日までに出すようお願いしますね」
「ちょ!? それ無理……」
転生神は今日も頑張っております……まる
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。
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