22話 俺は屍を超えて行く
(´・ω・`)最近のゾンビって結構元気ですよね。
昔はノロノロ動いてウーアー言ってるだけだったのに、今は飛んだり走ったり……
死体とはゾンビとはなんであったか……
並行世界、パラレルワールド。
世界とは幾多にも分岐し、また根源すら全く別の世界も存在します。
その中には魔法が存在する世界や、科学が発展した世界も存在します。
しかし、時として行き過ぎた技術は人類に牙を剥きます。
今回はとある世界神より、自分が担当していた世界である化学兵器が蔓延した為に滅びかかっているので、至急転生者が欲しいとの事です。
「ようこそ神の間へ、小田巻大和様。私は貴方たちで言う所の神です」
「か、神様? あれ、じゃあ俺って……」
「はい、貴方は本日の13時32分頃に車に轢かれそうな子猫を助ける為に飛び出して……代わりに轢かれて死亡いたしました」
「そ、そうか……」
でも、見知らぬ子猫の為に飛び出すなんてそうそうできる事ではありません。
よっぽどの正義感かドン・キホーテくらいなものです。
「じゃあ、俺が助けた子猫は無事なのか?」
「はい、貴方が助けたおかげで子猫は死なずに済みました……しかし、本来死ぬはずだった子猫の代わりに、貴方が死んだ事で運命が歪んでしまいました。本来ならばすぐにでも蘇生させたいのですが、器がすでにこの世に無い為にそれも出来ません」
この転生業務を読んでくださっている方はご存じかも知れませんが、神に人の運命を左右するような力はありません。
精々が成り行きを見守り、時折少し手を出すだけが精いっぱいです。
「あ~、つまりこれってアレか? 異世界転生って奴じゃあ……」
……本当にこの国の若者は話が早いですね。
どこかでそう言う訓練で受けているのでしょうか?
「話が早くて助かります。貴方には救って頂きたい世界があるのです」
「おお! つまり俺が冒険者になったり女だらけのパーティ作ったり魔王と戦ったりハーレム作ったりできるって事か!」
それ、目的が一定方向に傾いていますよね。
「残念ですが、貴方を転生させるのはファンタジー世界ではなく、科学技術が進んだ近未来の日本です」
「……え、日本?」
「はい、その世界ではとある生物の誕生によって人類が絶滅の危機に陥っています。それを貴方に救って頂きたいのです」
「と、とある生物?」
彼が不安そうに息を飲む。
「主に体液接触によって動物の脳に寄生して、宿主の身体を乗っ取ってしまう恐ろしいウィルスです。寄生されると思考は低下し、ほぼ本能のみで動くようになります。より分かり易く言えばゾンビのようになると言うと良いでしょうか? その世界ではあるウィルスが蔓延したために世界の人口が数百万人にまで落ちているのです」
「たったの数百万人? それにゾンビって……」
まあ、現在の彼の世界の人口からすれば極端に少ないでしょうね。
そのウィルスの所為で人類は成す術もなく数を減らして、滅亡しそうになっているので神から要請が来た訳です。
「ゾンビって……そんな世界に俺が言ってもすぐに向こうの仲間入りしそうなんですけど? まさか……俺には何か秘められた力が!?」
「いいえ、それはありませんよ」
あ、間髪入れずに否定してしまったので彼がこけてしまいました。
しかし、そう都合の良い物はないので否定しておかないと後々面倒なの事があるのでしっかりやって置きませんと。
「……じゃあ、どうやって無能な俺に世界を救えって言う訳?」
「今から貴方に2つの力を授けます。1つはウィルスを浄化する力、もう1つは過酷な環境でも生きて行けるように特殊能力を授けましょう」
「おお、転生モノのお約束キター! それでそれってどんな物を?」
「先ほども言ったように、これから貴方を送る世界はゾンビで埋め尽くされてしまっています。そこで、貴方の身体を対ゾンビ用ワクチンにしてゾンビを殲滅して頂きたいのです」
「ワクチンか……じゃあ、これで俺はスーパーマンみたいにバッタバッタとゾンビを倒せばいい訳だな!?」
「いえ、ワクチンは相手のゾンビの体内に入れないと効果を発揮しません。どんな方法でも構いませんが、ゾンビに貴方の体の一部を入れる事が出来ればウィルスを殺す事が出来ます。例えば体液をばら撒くとか」
「体液!? それは血とかそういう物?」
「はい、他にも唾液や尿などでも可能ですよ。貴方は体の全てがワクチンになる訳ですから、身体から出る物も全てがゾンビ用のワクチンになるのです」
「えぇ……つまりアレか? ゾンビに向かって小便を掛けろと?」
「いいですね。それも有効的な手段ですよ」
「俺が嫌だよそんなゾンビ退治!」
嫌だよと言われましても……
ウィルスを駆逐するワクチンですからそういう使い方が有効なのですけど……
「ちなみにワクチンは貴方の子供にも遺伝させる事が出来ますし、子供が出来れば母体にも抗体を作らせる事が出来ますよ」
「マジで!?」
「マジです。なので貴方は沢山子孫を残す義務もあります。そういう意味では、先ほど言っていたハーレムも出来ますね。序でにそういうスキルも差し上げましょうか?」
「お願いします!」
考える間もなしですか。
私はワクチン能力を付加する為に、ある物を取り出すと彼の顔が分かり易い程に引き攣りました。
はて? 何かおかしな事でもあったでしょうか?
「あの、神様? そのお手にお持ちになっているビール瓶ほどの大きさの物は何でしょうか?」
「これは貴方にワクチンを付加する為の器具ですよ」
「あはは~、そうですか。でも何でこっちに向けて片手がお尻部分を押すように持っているんですか?」
「これはピストンで中の物を押し出す為にこういう風に持っているんですよ」
私が一歩近づくと、彼が一歩後ろへ下がる。
「じゃ、じゃあ何で中の物を押し出す必要が?」
「そうしないと、中の物が外へ出て行かないからですよ?」
彼が私の一挙手一投足に全身を集中させて警戒している。
このままどちらかが動けば事態は一変するでしょう。
「じじじ、じゃあ、ななな、何でそんな長い針が付いているんですか?」
「それは……血管に刺して全身に行き渡らせる為ですよ。ささ、お尻を出してください」
私がニコリと微笑んだ瞬間、彼は背を向けて走り出した。
ですが甘いですよ? ここは転生神が支配する神の間です。
どんなに逃げようがすべては私の掌の上なんですよ。
私は手元のコンソールを軽く弄って彼を目の前に召喚する。
ついでに縛っておきましょう。
「はい、おかえりなさいませ」
「な!? 何で俺またここに!? しかも縛られてるし!」
「暴れないでくださいね。上手く刺せませんから」
「やだー! 注射はヤダー!」
全く、暴れても抵抗は無意味だというのに……
さっさと終わらせてしまいましょう。
「止めろー! ああ、冷たい針が押し当てられて……ひっ、今皮膚を突き破ってドンドン刺し込まれてるぅ! グイグイと針が……針が筋肉や神経を裂きながら入ってくる……突っ張ったような痛みが……痛みが!?」
痛いならそんな正確に描写しなければいいと思うのですが……恐らく騒ぐ事で気を紛らわせているのでしょうね。
血管まで針が到達したのでピストンを押して中の物を注入する。
「ああ、入ってる……得体の知れない何かが俺の血管にドクドク入って来てる……いっそ殺せ……!」
そんな大袈裟な……
さて、そろそろ注射器の中身も出し終わりましたね。
「終わりました。後は中に入ったワクチンが体に馴染むまで暫くお待ちください」
「はぁ……はぁ……はぁ……はーい、それでもう1つの能力の方はどんな物をくれるの?」
「はい、それかこちらで決定します」
そう言って私が取り出したのは……サイコロである。
サイコロの面には『~の加護』と書かれていて、振った目に出た加護が付くという困った時には便利なアイテムです。
「では、これを振ってください。出た目に応じた能力を貴方に差し上げましょう」
「そうか……よっし、良いのを当てるぜ!」
彼は勢い良くサイコロを上へ放り投げた。
サイコロは回転しながら落ちて行き、床で数回ほど跳ねた後、コロコロと転がって……止まった。
「出た目は……えーっと芸能神の加護だってよ」
「……よりにも因ってその加護が出ましたか」
これから行く世界でそれを……まあ、社会ルールなんてあってないような物ですから、逮捕されるような事は無いでしょう。
「なあなあ、これってどんな能力なんだ?」
「……幾つかありますが、ある状態にあれば常時ダメージを無効化してくれます。加えて芸能関係スキルの効果を上昇させる効果も持っています」
「それはスゲーけど、芸能ってどんなの?」
「主に踊りですね。他にも歌や演技などの芸を通して士気の上昇や状態異常を引き起こせますよ」
他にも相手の注意を引き付けたり、味方を回復させる効果を持った物があります。
仮にも芸能神の加護ですから効果だけは絶大ですよ。
「なんかゲームチックだなぁ。あとダメージ無効って言ってたけどある状態って何?」
やっぱりそこに気が付きましたか……
あまり言いたくないんですけど、言わないとダメ……ですよね。
「……です」
「はい?」
「……だから、全裸なのです。服を着ていない状態の時に、ダメージ無効の効果が発揮されます。加えて言うと、加護の効果で人前では服を着る事が出来なくなります」
「はぁ!?」
「あ、でも人がいない所では服は着られますのでご安心ください」
「それじゃあ意味ねぇよ!?」
一応、異世界三点セットである“異世界言語”“鑑定”“アイテムボックス”も付加するので、そこまで不自由はしないと思います。
「大体なんでそんな効果なんだよ!」
「それは加護を与えた神の由来ですから仕方ありません。ちなみに女性がこの加護を得るとダメージ反射と踊りによる効果を倍加します」
「でも全裸なんだろ?」
「そこは神としての基本なので……どうしようないです」
「何なんだよ神様って……」
神なんて大体そんな物ですけどね。
さて、そろそろ彼を送るとしましょう。
「それでは貴方を異世界へとお送りしましょう」
「えぇ……全裸はそのままっすか?」
「ええ、そのままです」
一応、今はまだスキル適用前なので服を着ていられますが、向こうへ行った瞬間に来ていた服はアイテムボックスに送られて、人前では着る事が出来なくなります。
「一応、靴は衣服に入りませんから安心してくださいね」
「それ安心じゃねぇよ!?」
私に文句を言われても困ります。
全ては加護を与えると決めた神に言ってください。
という訳でさっさか送ってしまいましょう。
「それでは頑張って、人類を救ってください。そうすれば再び見える事もあるでしょう」
「待って、本当に全裸だけはどうにもならんの? パンツだけでもいいからぁ!」
彼はそれだけ言い残して消えて行った。
パンツを被るのはセーフというのは伝えた方が良かったでしょうか?
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




