19話 締め切りには3種類ある
(´・ω・`)ぶっちゃけ今の心境を書き殴りました。
集中している時にしょうもない用事を頼まれると、「ぶち殺すぞヒューマン」って叫びたくなりますね。(朗らかな笑顔)
初めての方は始めまして、そうでない方はグーテンターク、その他の方には異世界へ行った気になれる権利を指し上げましょう。お問い合わせは転生神まで。
さて、この前まで番外に費やしたせいで導入が分からなくなったそうでなかなか筆が上がらなかったそうですが、今日も今日とて転生業務を始めましょう。
さて、今回は召喚型の異世界転送ですね。
ある日、突然知らない所からメールが送られてきて、それを開くと目の前に神と名乗る者が現われる……そんな感じです。
「尾木帯秋さん、貴方は勇者に選ばれました……。どうかその体の内に秘めた力で世界をお救い下さい」
内に秘めた力(笑)。
そこそこ長くこの業務に携わっていますが、そんな才能があった方にあった事なんて全くないですね。
自分で言っていて白々しいと思いますが、そんな事を言っていられない状況なんです。
何せ世界神から切羽詰まったと突き上げられていて、誰でもいいから人材を寄越せと煩いんです。
おや、尾木帯秋さんが何やら肩を震わせていますね。
やはり現代の若者はこういうシチュエーションに憧れているのでしょうね。
「……せ」
「はい?」
「俺をさっさと返せ! バカ野郎!」
何故か罵倒されました。
私は神ですよ?
「俺はなぁ! 連載の締め切りが迫ってるんだよ! 世界の危機? 知るか!」
「し、しかし、異世界に危機が迫っているのです。それは貴方にしか救う事が……」
「異世界より先に俺の締め切り救えや!!」
り、理不尽な……
しかし、困りましたね。
彼が駄目だと期限が間に合わないのですが……
「どうにかなりませんか? 魔王が復活している所為で貴方の世界にも影響を及ぼす可能性があるのですよ?」
ええ、京に一つの可能性ですけど。
まあ世界に溢れて零れるなんて、滅多に起こらないんですけどね。
「んな、いつ起こるか分からない世界の危機より、俺はあと2時間しかない締め切りの方がよっぽど恐ろしいんじゃい!! いいか? 締め切りには3種類あるんだよ。まずは担当が決めた建前の締め切り、コイツは余裕でブッチできる。次が添削しないでそのまま渡す本当の締め切り。最後がもうここで何が何でも出さないと原稿が“落ちる”デッドライン! そして俺が追い込まれているのは三つ目だぁ!!」
「しかし、こちらも貴方しかいないのですよ。貴方の秘めた力はその世界を救う為に絶対に必要なのです」
「んな事してる内に連載落としたら、オンドレはどう落とし前付けてくれんのじゃい、ええ!?」
どうやら極度のストレスと寝不足で精神が不安定になっているようですね。
心拍数も不安定ですし、このままでは倒れてしまいそうですね……それならば。
「なるほど、つまり貴方の心配は今こうしている間にも刻一刻と時間が削れているのが不安で仕方ないと言いたいのですね?」
「当たり前じゃ! 訳の分からんまま、こんなとこに連れて来られてどう安心しろってんだよ!!」
「なら貴方に朗報です。貴方が魔王を倒す事が出来れば、そうですね……締め切りの6時間前まで時間を戻す事が出来ますよ?」
「……何?」
私の言葉に彼はピタリと動きを止め、私の話を聞く体勢になりました。
ちなみに何故6時間前かと言いますと、それ位から彼は意識が朦朧としていたので改変しても世界に影響が少ないからですね。
「つまり何か? その魔王を倒すまではどんなに時間を掛けても締め切りの6時間前に戻れるのか?」
「ええ、そうなりますね」
私の言葉に、彼はニヤリと口を歪めた。
正直に申しまして、ボサボサの頭に目の下の隈が不気味さを増しているんですが……
そして、狂ったように笑いだした時にはもう壊れてしなったのかと心配しました。
「なあおい神様、一つ聞くが元の世界に帰る時って持ち物に制限ってあんの?」
「基本的にはありませんよ。但し、魔力を使う類の物は魔力が存在しない為、ガラクタと化すか消えてしまいます」
「結構結構! それさえ聞ければ十分だ……なら後は逆算すれば……」
何やらブツブツと呟き始めました。
容姿もあってとっても不気味です。
というかこの人、ここ最近はずーっと締め切りに追われていた所為でお風呂は愚か着替えすらしてないんですよね……
嫌ならキチンと締め切りを守れるように勧めればいいのに、途中まで全く何もしない所為なので自業自得です。
そんな事を考えていると彼が指を一本、私の顔の前に突き出した。
どうでもいいですが爪の間が黒くて汚いです。
「1週間だ。1週間でネタ考えて風呂入ってぐっすり寝て飯食って原稿書いてから、魔王を倒してやる!」
「あの……これは貴方を缶詰させる為の物ではないんですが……」
「いいだろ? 魔王はキッチリ倒すって言ってんだから。その間に俺が何しようが俺の勝手じゃねぇか」
まあ確かにその通りなのですが……それを、漫画を描く為だけに使われるような言い方をされると、こちらとしてはとても不安になるんですよ。
幾つかしこりは残っていますが、彼も納得もされたようなので次の手順へ進みましょう。
「それでは異世界に行って頂くに当たり、所謂チートを一つ差し上げましょう。ちなみに言語や鑑定、アイテムボックスといった物はデフォルトで付けさせて頂きます」
「お、おう、それがあれば殆どいらない気がするが……」
「甘いですね。貴方の肉体は万年机の前に居る所為でかなり体力が落ちています。加えて、軽自動車やトラック並みの大きさのモンスターが存在する世界ですよ? 例え貴方がスポーツ選手の道を歩んでいたとしても不足です」
生身で戦車に挑むような物なので、どんなに彼が才能を持っていても、異世界では通用しないでしょう。
なので、チートは必須なのです。
「という訳ですので、チートアイテムを1つ差し上げます。この中から1つお選び下さい」
大中小の箱を出現させる。
簡単に言えば、この中に様々なチートアイテムがランダムに入っています。
ただ……ネタ好きな神が作った物もあるので、たまに巨大ロボットや使い用途に困る武器も入っていたりするんですが……
「この中から一つ選べばいいのか? 思ったより簡単なんだな」
「ええ、最近ではこういうジャンルの小説が増えている所為か、色々とやりたがって決められない方が多いので、今回はこういう形式を取らせていただきました」
「まあいいや。じゃあ俺この一番デカいので」
大の箱を選びましたか。
箱の内容は開けるまでは完全にランダムなので私も知らないんですよね。
さて中身は……あ~、面白いのを引き当てましたね。
「おめでとうございます。貴方へのチートアイテムは自動人形です」
「お、オートマタ? なんか凄いんだか良く分からないアイテムだなぁ」
いえ、恐らくランクで言えば上から片手で数えられるほどの上位アイテムかと。
こういうのは特にロマンだと言って色々改造を施すので、強力な物に成り易いんですよ。
箱が開いた事で何故かロングスカートでシックな色のメイド服を纏った女性型の自動人形が起動する。
『マスター登録ヲ行イマス。音声入力ヲドウゾ』
「音声入力? 名前でいいのかな。俺は尾木帯秋だ」
『音声入力ヲ確認シマシタ。データノ最適化ヲ行イマス』
ここまでくれば殆ど私のする事は無くなりましたね。
後は自動人形の彼女が彼をサポートしてくれるでしょう。
起動した自動人形はゆっくりと立ち上がり、目を開けると彼の方に体を向けて口を開いた。
「ハロー、マイマスター。ミーはユーのサーヴァントタイプのオートマタでございます」
言語がボロボロだった。
「な、何なのですかそれは……」
「マイクリエイターが、ファーストエンカウントでビッグなサプライズなるという事で、ミーにインストールした起動時専用言語です」
頭が痛い……
いつ選ばれるかもわからない自動人形にこんな仕掛けを施すとは……
製造の神というのはネタを仕込まないとやっていられないんでしょうか?
「えーっと、それで君が俺のチートアイテムって事で……いいのかな?」
「イェスですマイマスター。アナザーワールドでのマスターのサポートをさせて頂きます」
「うん、ありがとう。とりあえず、その喋り方は止めようか。どこかの有名人を髣髴とさせるから」
「それではミーにネームをお付け下さい。それがこの言語をストップさせるキーになっております」
なるほど、所有者を見つけて名付けをしてからでないと、その妙な喋り方を止められない仕組みですか。
なんて、はた迷惑な……
「ああ、なるほど……じゃあサクラで」
「却下します」
「却下!?」
おかしい、自動人形は所有者の命令は絶対厳守の筈ですが……何故拒否できるのでしょう?
何かまだ色々と仕組まれていそうですよねこれ……
「“サクラとかアンチョコにも程がある名前は却下して良し”という、クリエイター命令です」
ああ、“サクラ”という名前のみに反応する拒絶プログラムを組んでいたんですか……ピンポイントすぎて使うかどうかも分からないデータを入れるってどれだけネタに情熱を掛けるんでしょう……
「参ったなぁ……それじゃあアヤメでどうかな?」
「OK、登録ネーム“アヤメ”。引き続きこの言語を使用なさいますか?」
「止めてくれ……普通の言語はないのか?」
「ございます。では、言語を“デフォルト”に設定いたします。最後に、呼び方は如何なさいますか? 帯秋様、ご主人様、旦那様、マスターがあります」
「名前で良いよ。他はなんかむず痒い」
「では帯秋様、これより宜しくお願い致します」
「どうやら、無事に決まったようですね」
話が決まった様なので、そろそろ次の段階へ行きましょう。
と言っても後は転送するだけですけどね。
「それでは貴方を異世界へと送ります。準備は宜しいですか?」
「おう、さっさとマンガを書いて魔王を倒してやるぜ! あ、そうだ。アヤメは魔王を倒した後はどうなんの?」
「勿論、貴方の物ですから貴方が望むのであれば元の世界へ持って行く事は可能ですよ」
「なるほど……じゃあ、アヤメ。お前は映像データとか記録できる? あとタブレットとか充電できる?」
「どちらも可能です。USBにも接続できますのでパソコンがあれば接続もできますし、タブレットも接続して充電する事は可能です」
「よーし、出歩き用のポーチがあるからマンガが書ける環境は一応揃ってるか……じゃあ、ちゃっちゃと送ってくれ」
本当に彼は魔王を倒す気があるのでしょうか?
いえ、魔王を倒さないと元の世界に帰れないので倒す気はあるのでしょうが、言動を聞くたびに異世界へマンガを書きに行くようにしか聞こえないんですが……
私はそう思いながらも転送魔方陣を展開する。
「それではどうか、異世界をお救い下さい……」
「おう、一週間で魔王を倒してくるぜ! んでもって向こうで書き溜めした、異世界に行った事でパワーアップしたマンガを担当に叩きつけてやるんだ!」
彼はそう言って魔法の光の中へと消えて行った。
え、まさかマンガの原稿が書き上がるまでは向こうにいるつもりですか!?
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




