14-3
話が言い終わった直後、朝比奈に目には悔し涙が今にもあふれ出しそうになっていた。
オレが意識を失っている間に治療室内でそんな出来事が起こっていたとは。
とにかくまずは情報を一つ一つ丁寧に処理していかなくてはならない。
同時に、朝比奈が目をオレの目が覚まさない間に必死になって米沢から守ろうとしたことは事実。
せめてものご褒美ではないが朝比奈の頭を何度も優しくなでた。
「ありがとう」
他の言葉は必要なかった。
この五文字だけで朝比奈の気持ちは十二分に伝わった。
朝比奈はありがとうの言葉を聞くと我慢していた涙が大粒となって頬を通って行った。
「ごめんね。私が弱くて、私が、自分の秘密を正直に明かせなくて……」
朝比奈の震え声にオレは何か言葉を言い返すことなくゆっくりとうなずく。
そうか。
朝比奈もオレと同じで誰にも言えない秘密があるのだなと頭の片隅にぼんやりと感じたのだった。
そして時を同じくして、学校の第一校舎の屋上では赤髪で長髪ツインテールをした宝石のようなきれいな目を持つF組のヴィサラとH組の米沢が青空の下で話し合っていた。
「やはりT組のメンバーは只者ではないようですわね。あなたのその右手の傷も、あの朝比奈さんによって傷つけられたものなのでしょう?」
「これは大した傷じゃないよ。むしろ、今の彼女を知るうえでちょうどいい定規だったともいえるね」
米沢の右手にまかれた包帯を見て、ヴィサラは一瞬こそ納得のいかない表情を見せるもすぐに表情を戻し、自分のお気に入りのサファイアのダイヤモンドを何度も小さく宙へと投げる。
「まぁいいですわ。それよりも、例の件は問題なくて?」
「一応言っておくけど僕はあくまで中立的な立場だって言うことを前提で話すよ。問題は今のところはないね。ただ、さっきも名前上げた連中は今後君に何かしらの接触はしかけてくるかもしれないけど」
米沢は左手で近くの自動販売機で買った水を喉奥へと流し込みながら語る。
その警告にヴィサラは露骨に不満を見せると、自分の持っていたサファイアを空中へと投げ、パチンと指を鳴らす。
すると、サファイアが突然白く光りだすとそのまま空中で爆発した。
「米沢様のご忠告に感謝いたしますわ。ですが何の問題もありません。いざとなれば私の宝石が敵となる人物を骨の髄まで残さずに破壊しきりますので。あなたはその敵勢力の情報を横流ししてくれば結構ですわ」
ヴィサラの貴族らしい下衆で不敵な笑みに米沢は少しだけ口角を上げ、
「そうですか。僕はあなたのその慢心が命取りとならないように動くまでですね」
と何食わぬ顔で答えた。
その後、ヴィサラは米沢に軽く頭を下げた後、
「それでは。私は別でやることがありますので。これにてごきげんよう」
と言い残すと屋上から姿を消した。
一人になった米沢は残っていたペットボトルの水を一気に飲み干すと殻のペットボトルを片手に握りつぶしながらこう独り言をつぶやく。
「どいつもこいつも僕の動かす駒の一つでしかない。まぁ僕の本格的な仕事はまだまだ先だし使える駒は死ぬまで使いまわそう。学園の校則も所詮は表向きで批判避けるために仕方なく定められた仮のルールでしかない。どうせなら、その穴を徹底的に利用させてもらおう。そして、あの鶴川だけは僕の手で確実に殺す。この正義の公安警察の一人としてね」
米沢の不敵な言葉は、青い空を漂い誰かに聞かれることなくひっそりと消えていった。
石山成子殺害から始まった一連の騒動をきっかけに、四天王財閥の一角である柳谷一族の一人で、入学成績第1位のA組の柳谷純奈、同2位で四天王財閥の一角であるカリア家の一人であるR組のカリア・テリア・ジェノス。そしてF組のサルクレーン・ヴィサラと膠着状態だった学園の均衡が少しずつ崩壊の足音を覗かせていた。
そう、これはあくまで序章でしかない。
本当の地獄はここから始まり告げるのだ。




