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人類を否定し、神に成り代わる  作者: 雨結 廻


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二十年以上前___。

加速する少子高齢化、衰退する経済などあまりに多くの課題を抱えた日本は、この窮地を脱するべく、当時は禁忌とされていた遺伝子操作による能力覚醒という一世一代の大博打に出た。

しかし、もしこの実験を国内はもちろん、世界中に知れ渡れば、間違いなく非難が殺到するだけではなく、下手をすれば戦争のトリガーにだってなりかねなかった。

そこで政府は、ごく一部の少数にだけこの話を伝え、国家極秘プロジェクトとして本格的に始動した。その内容は完成した能力覚醒薬を身寄りのない子供や保護者から同意をもらった幼い子供たちに予防注射という名目で注射させ、その子供たちの能力によって値段をつけ、闇オークションに出品させることで巨額の利益を獲得していくというものだった。


そして時が経ち、今から五年前には試行錯誤の末、日本はついに最強の能力者部隊を作ることができていた。

その甲斐もあってか、日本は開発された遺伝子操作による能力覚醒薬(通称:神の種)を世界中の極一部の国々に表向きには公表せずに、蜜販売することによって苦しい経済状況を一気に回復させ、さらには世界的地位も一気に向上させた。

その結果、日本は少子高齢化を大幅に改善させ、さらには一人当たりの国民の生活状況も以前よりも大幅に改善された。

しかし、この能力覚醒薬は必ずしも全てにおいて日本にとって幸福をもたらしているわけではなかった。

大きく輝く光には、当然大きな闇が潜んでいるもの。

その正体が想像よりも根が深く、誰しもが臭いものに蓋をして問題に対して先送りしていた。

ただ一人、オレの父親を除いて。

オレの父親は一見すればどこにでもいる普通の警察官だった。

警察官らしい正義感も備えている一方で、時折見せる優しい笑顔は市民だけでなくオレたち家族にとっても幸せを呼ぶ笑顔だった。

そんな父親が、ある日を境に神の種についての捜査を他の警察官には黙って、極秘で捜査をし始めた。オレが後にこの事実を知るのは父親が殺されてからのことだ。

実際、父親がオレたち家族にこのような話は一切してこなかった。

まぁ今になってみれば、父親の判断は間違っていなかったのかもしれないが。


そこからオレの家族が殺されたのは今から一年前___。

それは当時、中学1年生だったオレにとってはあまりに鮮烈で、全てを絶望に染めたあの光景をこの先一生、いや、死んでもなお記憶の中から消えることはないだろう。

今もなお、寝ている最中に自分の家が凄まじい高さで燃え広がり、オレの目の前で自分の家族が力なく倒れていく様が悪夢という姿で襲ってくる。

そんな中、死ぬ直前に残した父親の遺言が今のオレの生きる原動力となっている。

「龍城……。この世界は、お前が思っている以上に黒く、恐ろしいほどまでに残酷だ……! だがな、そんな世界にも希望や光がないはずはない! お前は……お前は、未来を……世界に蔓延る闇から……救って……くれ……!」

父親の最期に残した言葉は、絶望に染まり切った中で絞り出した一つの、限りなく小さい希望だったのかもしれない。

その言葉の本当の意味も今になっては聞くことは出来ないが。


そして時は戻り、現在に至る___。

中学校三年間を終え、春休み真っ只中。

普通の中学生なら、これから始まる高校生活に心を踊らせているだろう。

だがオレは違った。

自分の中にあるのは他の学生たちが経験する楽観的な感情からはあまりにもかけ離れたもの。

今自分の頭の中には父親の無念を晴らすこととこれから向かう私立九龍学園でまずは生き残ることだけに頭のリソースが割かれていた。

そんなことを考えながら、オレの目の前を歩いていく高校生達を横目に一つの考えが浮かんできた。

「いつから、オレはそっち側の世界に行けなくなるんだろうな」

この咄嗟に出た言葉に何か深い意味を含めて言った訳ではない。

だが、視界に入ってくる他校の高校生たちの初々しくも親しげに談笑している姿にほんの少しばかりの憧れを正直な言葉で言い表したに過ぎなかった。

もちろん、九龍学園に入学することは自らの命を懸けることと同義であり、その恐怖感は入学当日になってもなお消えることはない。

それでも、もう後戻りはできない。

それは両親が死んだ後にわざわざ死ぬリスクを承知の上で九龍学園に入学し、なおかつここまでオレの面倒を見てくれたあの人のためにもだ。


そしてしばらく歩いていく後、その校舎が姿を見せる。

「ここが私立九龍学園…………」

入学前に事前にパンフレット等の資料で一通りは目を通していたとはいえ、実際に目の前にするととてつもない威圧感である。

父親の残した調査資料によると、九龍学園は政府が神の種によって得た莫大な利益と税金の一部を秘密裏に投入したことによってつくられた高校の頂点に君臨する学校であると書いてあった。

おそらく、九龍学園が高校の中でトップに君臨するのも事実で政府の手によってつくられたのも本当なのだろう。しかし、それは表向きの肩書なのであって実際の中身は入学した生徒達を殺し合い等の実力主義によって徹底的にふるいをかけるという肩書以上に残酷なもの。

むしろ、こんな学校を政府が作っておいてなお、マスコミや世間、世界中から全くと言っていいほど批判の声が聞こえてこないことに根深い闇を感じる。

まぁこの学園に入学をする時点でそんなことは百も承知なのだが。

そんな覚悟を内に秘め、改めて意を決し正門をくぐろうとするオレの足を一人の男が呼び止める。

「なぁ。もしかしてお前もこの学園に入学してきた一人か?」

呼び止めたのは同じ白と黒を基調にした制服をきた男子生徒。

両手には白い手袋がしていて、その見た目と雰囲気からただものじゃないことだけははっきりとわかる。

ただ、こいつは少なくともオレの知っている顔ではない。これが初対面である。

「だったらどうなる。そういうお前もここに入学する一人なんだろ?」

「そうピリピリするなって。安心しろ。お前のことをすぐには殺さねぇよ。その方が俺としては面白いからな」

どうやらオレについてよく知っている口ぶりだが、今はそのことを具体的に聞くのは控えておこう。

こいつが敵かどうかは今現時点ではわからないが、いずれは直接戦うことになるだろう。詳しい話はそこで聞けばいい。

というか自分自身はそのつもりでいる。

「そうか。なら、オレもそっちから危害を加えてこない限りは戦う気はない。それだけだ。じゃあな」

「おいおい、もうちょいお話していかねえのか? せっかくの同じ同級生としてなのによ!」

「お前の全てを知っているわけではないが、この学校に入学してもなお、そういう考えのままならどうなるのかとだけ警告しておくぞ」

あえて『死ぬぞ』や『殺されるぞ』という言葉を使わずにやんわりとした警告のみにしておいたがそんなことは相手側も十分に理解しているだろう。

だったら同じクラスメイトなのかもわからない赤の他人に今声をかける余裕なんてない。なぜなら、まずこの学園で最優先すべきは神の種に関する真相と自分自身の命なのだから。

「そうかい。なら、いいぜ。早く行きな」

「あぁ。じゃあな」

意外にも引き留めることをせずにあっさりと別れの言葉を告げた。

その言葉を聞き、オレも一言だけ別れの言葉を告げ、再び正門の方へと歩き出した。

龍城との話を終えた男のそばに一人の女子生徒が駆け寄ってきた。

「ねぇ、話は終わった? 鬼頭」

「あぁ。やっぱりあいつはただものじゃねぇな」

「どうしてそう感じるの?」

「それはまだ何とも言えないな。ただ、あの人があいつを警戒リストの一人に入れていた事だけは何となくわかったわかる気がするぜ」

「何それ? 言い方がふんわりとし過ぎて肝心なところがわからないじゃない」

「安心しろ。ちゃんとその時が来たら、お前にも教えてやるさ。笹原さんよ」

「あっそ。ならいいけど。でも、あの目的のことは忘れていないでしょうね?」

「わかってるっての。俺たちは死神の目だぜ? 与えられた使命はどんな手を使っても果たす。それに、この学園は今までとは明らかに次元の違う殺し合いが見れるんだぜ? 使命よりもむしろ、そっちの方がワクワクするぜ。なんせこの学園はただ殺し合いをさせるためだけに創られたわけじゃないからな」

「この国といい相変わらず血の気の多いことね」

鬼頭と笹原が話している会話を盗み聞きしている生徒はほとんどいなかった。

なぜならこの九龍学園は今までの常識が通じないことをみんな熟知しているから。

そして、この学園はただ自分が生き残るためだけのただの殺し合いではないことも。



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