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クスッと笑えるコメディ短編集  作者: 秋月心文


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本物そっくり

「うわあああぁぁぁ!!」


 もう、小川の作るグラタンは食べない。

 俺は、そう決意した。



 ことの発端は、小川が俺たちに料理を振る舞うと言い出したことだ。

 俺たちは、耳を疑った。


「何があった?」

 最初に田口が聞いた。


「いつも、お世話になってるから」

 小川はシレっと、そんなことを言った。

 俺たちは知っている小川が、人に感謝する人間ではないことを。


「いつものドッキリってヤツか?」

 三原が聞いた。


「い、いや、何も……」

 小川の視線は明らかに泳いでいた。

 ふむ。どうやら、悪戯がしたいらしい。

 激辛とか、そういう類だろうかと思った。


「清原、お前も、俺を疑うのか?」

 ヤツは俺に聞いてきた。


「疑っている。あぁ、疑っている」


「酷い人たちね」

 小川は、泣きまねをした。

 ウソだとわかっているが、俺たちは女性の涙に弱かった。


「ま、まぁ、とりあえずいただこうじゃないか」

 田口が仕切りだした。

 田口は、小川に惚れている。ここで点数を稼ぎたいんだろう。


 俺たちは、交代で見張ることにした。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


 まずは、俺、清原からだ。


 小川は、赤い器に、黒い何かを沈めた。

 俺はしっかり確認した。それは、赤色の器だった。


「よし、赤色だな……」


 見ただけでは忘れそうなので、あえて、言葉に出しておいた。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


 次は、三原が確認に行った。


「よし、青色だな……」


 そうつぶやいて戻ってきた。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


 最後に、田口が確認に行った。


「よし、黄色だな……」


 そうつぶやいて戻ってきた。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


 チン!


 オーブンの音が鳴った。


 さぁ、デスゲームの始まりだ。


 あの色の器だけは引く訳にはいかない。


 田口は、赤色の器を……

 三原は、黄色の器を……

 俺は、緑色の器を選択した。


――いざ、実食!!――


 こうして、俺たちは、グラタンにスプーンを差し込んだ。

 器の底の何かに当たった。


 冷や汗が止まらない。

 まさか、これは……。


 スプーンを動かし、中のものを確かめる。

 黒い。

 平べったい形。


 まちがいない。

 あのGだ。


 俺たちは、小川に抗議した。


「「「お前、食べ物に何入れてんだ!!」」」 


「ぷっ……あははははは……」


 小川が笑い出した。


「ぐ、グラタンだけにG!! どう? 面白いでしょ」


 自分で仕込んでおいて、ひとりで受けてやがる。


 よりによってGかよ!


「いや、笑えないから」

「いやだなぁ、本物を入れる訳ないじゃん」


「おもちゃでも、あかんやろ。食品用に作られてないんだし」

「ところが、食品用に作られたものが売られてるんだ」


「マジか?」

「マジだよ」


 何かの袋を俺たちの前に差し出した。


【本物そっくり ドッキリクッキング】と書いてある。


 中には、本物そっくりのG。


「ちゃんと全員分、入れておいたの」

「趣味が悪すぎる」


「あたしのにも入ってるよ。ほら……」


 小川は、自分のグラタンをひと口食べた。


 それを見て、俺たちもグラタンを口に運んだ。

 まぁ、味は悪くないかな。


――その瞬間だった。


 袋の中のGが飛び立った。


「……え?」


 俺はグラタンを見る。

 スプーンの先のGも、足をもぞもぞとさせていた。


「「「「うわあああぁぁぁ!!」」」」

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