異世界に行きたい①
私、緋山真夏、16歳。夢多き少女だ。
私は今、昔から持っている欲望を叶えるために、高校の図書室に一人で立っている。今は春休みだからか、図書室内は一人もおらず、静まり返っている。今日は、司書さんもいない、私一人だけの空間。
なぜ、誰もいない図書室にいるかというと、異世界に、いや、最推しの存在している小説の世界に行くためだ。
この学校には所謂、七不思議というものがある。みんな知っているであろう、トイレの花子さんや一段増える階段など計七つあるのだが、その中の一つにこんなものがある。
『四月四日の午後四時四十四分に、図書室で本を開きながら、この世界は嫌だと心の中で唱えると、その本の中に連れ去られてしまう』
というものだ。正直、学校中の誰も信じていない噂だし、日付と時間だってただ四を並べておいたらいい、というような感じがして胡散臭い。それでも、私はこの噂を実行しなければいけない。なぜなら、どうしても、異世界に行きたいからである。そう、私の欲望とは異世界に行くことだった。
この夢を抱き出したのは小学生の頃、将来の夢について語ろうという授業の中でだった。学校の先生やパティシエ、ユーチューバーといった様々な夢が挙がっていく中で、私はお姫さまと言った。すると、教室がシーンとなり、どこかで
「お姫さまになんて、なれるはずがない」
そう誰かが呟いたのが聞こえた。
私は悲しくなり、母に泣きついた。
「お母さん、真夏はお姫さまにはなれないの?」
すると、お母さんは微笑み、一冊の本を取り出しながら言った。
「この本は、厳しい逆境の中でお姫さまになる女の子の話よ。この本のように、お姫さまになれる素質は誰だって持っているものよ」
そうして、私はそれから、次々と女の子がお姫さまになる本を読み、気づいたら、異世界小説に出会い、いつしか、異世界に行きたいと思うようになった。
これまで、私はいつ異世界に行ってもいいようにいろいろな対策を行なってきた。まず、いつ、どの小説に行ってしまってもいいように、大量の異世界小説を読んだ。そのせいで、小中ともに、あだ名は「本の虫」通称「むし」だ。子どもというものはなかなか残酷なあだ名をつけるものであるが、もっとましなものがあったのではないかと今になって思う。




