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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-093 フライフィッシングで釣れた魚はフライにかぎる


 今年最初のデンバー遠征から戻ってきた翌日。

 俺達3人はエディの運転するピックアップトラックに乗り込んで、木の棒を探すことになった。

 10本以上持って来い! と言うウイル小父さんの指示を受けて、ノコギリとサンドイッチにコーヒーの入ったポットを持たされたから、半分ピクニックの気分だ。

 俺達6人揃って外に出るのは久ぶりだから、七海さん達も嬉しそうだ。

 とは言っても、ゾンビが急に出てこないとも限らない。ボルトアクションの猟銃と拳銃は手放せないんだよなぁ。


「ところで、どこに向かってるんだ?」


「雑木林だと聞いたぞ。グランビー飛行場の西側って言ってたな。高台だから仕事を早めに終わらせて、景色を眺めながらお昼にするつもりじゃないか」


 荷台は俺とニックの2人だけだ。

 グランビーの町に向かってトラックが進んでいるのは分かるんだけど、飛行場とはねぇ……。今日も、デンバーの住宅街に焼夷弾を落としに行ったのかな?

 レシプロエンジンだから燃費が良いとは言っていたけど、そんなに頻繁に行くとなるとかなりガソリンを消費してしまいそうだ。

 ハンヴィーだって燃費が良いとは言えないからなぁ。しばらくはガソリンを手に入れることができないんだから上手く配分しないといけないだろうな。


「曲がったぞ! 飛行場はもう直ぐだ」


 ニックの言葉に、荷台に立ち上がって前方を眺める。

 坂道を上って行けば、飛行場の事務所にもう直ぐだな。

 

 事務所を通り過ぎて、整備兵達が休憩しているパソル付きのテーブルセットの傍にトラックが止まる。


「どうしたんだ? 集団でデートはハイスクール時代にするもんだけどなぁ」


 数人の整備兵が休んでいた。

 彼らの班長になるんだろう。ウイル小父さんより少し歳下に見える小父さんが俺達を見て話しかけてきた。


「飛行場端にある雑木林から枝を頂こうと思ってやってきたんです。線路上のゾンビを動かさないといけないんですが、あまり近付きたくないですからね」


「そういう事か! それなら良い枝振りの雑木が沢山あるぞ。その前に、コーヒーでも飲んで行け」


 暇だったのかな? すぐ目の前の双発飛行機はエンジンカバーが取り外されている。

 この飛行機の整備が今日の日課と言うことになるんだろう。


 俺達は6人だから、隣のテーブルからも椅子を運んでくれた。

 アルミのカップで頂くコーヒーは、ちょっと覚めるまで待たないと火傷しそうだ。

 勧められるままタバコを1本引き抜くと、ジッポーで火を点けてくれた。


「ゾンビの群れに追いかけられたと聞いたぞ?」


「3千体を越えていただろうと、レディさんが言ってました。去年は1kmほどで追いかけるのを止めたようですが、今年はトンネルを抜けた先にある峡谷まで追ってきましたよ。少し離れてはグレネード弾と銃撃をしながら数を減らそうとしたんですが……」


「数が相手では、かなり不利だろうなぁ。この飛行機で焼夷弾を2発落とせるように改造したんだが、爆撃機ではないからなぁ……」


「ロケットランチャーを追加してみますか? ヘリコプター用なら案外容易だと思うんですが?」


「M261ってことか。ハイドラ70が19発だな。胴体下部は爆弾だから……。足に着けるか!」


 なんか変な飛行機になりそうな気がするなぁ。

 ハイドラ70と言うロケット弾の炸薬は1㎏程あるらしい。上手く使えば住宅破壊が進みそうだな。


 コーヒーを飲み終えたところで、お礼を言って雑木林に向かう。

 長さは2m以上、直径は3cmほどでなるべく真っ直ぐな枝と言う難しい注文だ。

 七海さん達に周囲の監視をして貰い、俺とニックが枝を選びエディが枝をノコギリで切る。

 分担が上手く行ったのかどうか微妙なところだけど、昼前には12本の枝を切り取ったからこれで十分だろう。

 グランドレイクで俺達が使った棒もあるからね。枝を束ねて俺とエディで担ぐ。

 トラックの荷台に載せ終えると、飛行場の端に車を止めて昼食を取る。


「だいぶ緑が多くなってきたね。雑草に見えるけど、結構花が咲くんだよなぁ」


「花畑ってことね。それを見に観光客も来るらしいわ。西の尾根の谷間が有名らしいわよ」


「この騒ぎが終わったら、皆で行きたいね。だけどデンバーの空港が使えるようになったら、俺達はどうするのかな? 一応、海兵隊預かりのような形になってるから、離れ離れになってしまいかねないんだよね」


 制服と装備それに階級まで貰っているからなぁ。

 だけど転属はそれほどないとウイル小父さんが言っていたから、あまり心配は無いんじゃないかな。


 食事が終わって2杯目のコーヒーは、ガスコンロでお湯を沸かさないといけない。

 リュックをトラックから下ろして、お湯を沸かす。

 後は七海さん達に任せると、俺達は風下で一服を楽しむ。


「ゾンビの移動は面倒なんだよなぁ。だけど線路上のゾンビだけでも動かさないとトロッコがデンバーに行けないからなぁ」


「ゆっくりやるしかないよ。だけど、峡谷にはまだゾンビがいるんじゃないかな? そいつらを倒さないとトロッコを進められないぞ」


 エディが他人事のように言っているけど、かなりの数が残っているだろうな。出来ればデンバー市に戻ってくれれば都合が良いんだけどね。


 2時間ほど休んだところで山小屋に戻る。

 広場の焚火傍にいたバリーさんが俺達のトラックを止めて、運んできた枝を下ろす。

 焚火で炙りながら、真っ直ぐにするのかな?

 ついでに俺達もトラックを降りて、車庫に戻すのはエディに頼むことにした。


 駐車場のトンネルの中から、ハンマーで鉄を打つ音が聞こえてきた。何か作ってるのかな?

 ニックが偵察向かい、帰って来ると音の原因を教えてくれた。

 棒の先に付けるフックを作っているらしい。

 鉄を打つ音は、フックの曲がりをハンマーでたたいて直しているとのことだった。

 

「手伝えるとも思えないな。釣りでもしていた方が良さそうだ」


「釣りか……」


 エディの提案に、ニックが笑みを浮かべる。俺も試してみるか。ライルお爺さんに教えて貰って毛鉤を幾つか作ってある。マス釣りは毛鉤が王道らしいからね。


 駐車場に向かい、それぞれの釣竿とタックルボックスを持ち出して湖に向かった。

 フライ・フィッシングはルアー・フィッシングと異なり、後方が開けていないといけないんだよなぁ。

 そんな場所をどうにか見つけたところで、ラインの先端に毛ばりを結ぶ。

 ライルお爺さんに教えられた通り、毛鉤は沈むんだけどラインと呼ばれるテーパー状の糸は水に浮く代物だ。

 数回竿を振ってラインを伸ばし、最後にラインの重さを使って毛鉤を遠くに飛ばす。

 毛鉤が1mほど沈んだところでゆっくりと右手でラインを手繰り寄せる……。

 2mほどまでにラインの先端が近付くと、再び竿を振りながらラインを伸ばしていく。


 そんな動作を何度か繰り返した時だった。突然ラインの先端が湖に沈む。釣竿を持つ左手とラインを持つ右手を大きく広げるようにして竿を立てると、左手に魚の引きがグイグイと伝わってきた。

 しっかりと針掛かりしたようだな。笑みを浮かべながら左手に持つ竿で魚の引きをいなし、右手でラインを手繰り寄せる。


「掛かったの!」


 パットが大きなタモ網を持って走ってきた。


「大物だぞ! もう少し近寄せるからタモを水中に入れといてくれないかな」


「了解! ニック達は3匹目よ。でも大きければ自慢出来そうね」


 3匹だとはねぇ……。ちょっとへこんでしまうけど、これを釣り上げたなら少しは見直してくれるだろう。

 ゆっくり引き寄せたところで、パットが沈めたタモに誘導する。

 タモに魚が入るとすかさずパットがタモを引き上げる。

 その場で持ち上げることができないようで、陸に引き摺り上げるようにして獲物をゲットしてくれた。


「大きいねぇ……。どう料理するのかしら? 輪切りにはしないと思うけど」


 輪切り? 思わず首を傾げてしまったけど、サバは輪切りにして煮ることもあるからなぁ。

 どれほど大きいんだろうと、タモを覗こうとパットの所に足を向けると、直ぐに運んで行ってしまった。

 だけど大きさはかなりのようだ。後でメイ小母さんに聞いてみよう。


 夕食時に、マスの切り身のフライが食卓に上がった。

 俺の前に皿を置いたキャシーお婆さんが「大きかったわよ」と言ってくれたんだけど、これが俺の釣りあげたマスになるのかな?

 ソースをかけて、食べてみる。

 けっこう美味しいな。ニジマスとは少し肉質が違うようだけど、なんていうマスだったんだろう?


「やはりフライで釣った以上、フライに限るわい。それでどうじゃった? 自分の巻いた毛鉤で釣った感じは」


「やはりルアーとは違いますね。リーダーを切られるんじゃないかと冷や汗でしたよ」


 うんうんと笑みを浮かべてライルお爺さんが頷いている。


「確かに大きいなぁ。切り身がいくつできたんだ? 俺達の釣ったマスは半身でフライだからなぁ」


 エディが残念そうに言っているけど、たぶんビギナーズ・ラックとか言う奴だろう。

 とはいえ、釣り上げたのは俺だからね。これでしばらくは馬鹿にされずに済みそうだ。


「ウイル殿。音を見る装置を明後日に送って来るそうだ。半透明のヘッドディスプレイに表示されるとの事だから、試してくれぬか」


「サミーの話だと、使えそうだな。エアバースト弾はハンヴィーの銃座に取り付けたMk19でしか発射できん。サミー、エンリケとその辺りの話を、機材が届いたら調整してくれないか」


「了解です。そういえば今日飛行場に行った時に、整備兵達がハイドラ70の発射装置を足に付けると言ってましたよ」


「ハイドラか! その手があったな。双発機のギヤは固定式だ。着陸時の衝撃に備えてかなり頑丈に作ってあると聞いたことがある。とはいえランチャーは1基だけだろうな」


「10発以上発射できるはずだ。炸薬は手榴弾3個分を越えるぞ。住宅なら1発で粉々だろうな」


 そんなに威力があるんだ。

 それなら焼夷弾を落とすよりもロケットランチャーを複数取り付けた方が効果的に思えるけどねぇ。

 

「線路際の住宅地の破壊が捗りそうだ。そうなると、俺達も頑張らねばならんぞ」


「あの群れをどうにかしないと先には進めん。新兵器に期待したいところだな」


 小母さん達のサウナタイムが終わったところで、俺達がサウナに向かう。

 シャワーよりも良いと言ってるんだけど、夏はさすがにシャワーで良いと思うのは俺だけなんだろうか?


 エディとニックそれに俺がサウナのベンチに座っていると、ウイル小父さん達が入ってきた。反対側のベンチに腰を下ろしたところでサウナストーンに水を掛けるから一気に汗が噴き出してくる。


「しかし、良くもサウナを作ろうなんて考えたものだな。手伝ってはやったが、皆が喜んでいるよ」


「実は……」


 本当の事を教えておこう。のんびりと雪景色を眺めながら木風呂を楽しみたかっただけなんだけどねぇ。


「そういうことだったのか! それは済まん事をしたなぁ」


「でも俺個人の満足ではなく皆さんが楽しんでくれてるんですから、これで良かったんだと思います。木風呂では俺とナナが楽しめるだけだったと思いますよ」


「日本人は風呂好きだからなぁ。対戦中の日本の軍艦には分隊単位で入れる風呂があったらしいぞ」


「ミズリーにはシャワーがあると聞いたが、そこまでやるのかねぇ」


「士気を保てるなら、それぐらいはするだろうさ。山小屋のシャワー室を大きく作っておいて良かったと思うよ。あれが1個だけだったら、嫁さん連中に占有されてたはずだ」


「バリーの娘さんも本来なら今年ジュニアハイスクールじゃないか?」


「そうなんだ。まあ、この状況だからなぁ。パット達が勉強を教えてくれてるから助かるよ。とは言っても、ショットガンを手に入れたぞ!」


 バリーさんの言葉に、ウイル小父さん達が大声で笑い始めた。エディ達も笑っているということは、これってアメリカンジョークってやつなのか?


「保険は入れたんだろうな?」


「入れたいんだがなぁ。保険会社なんて無くなってしまったんじゃないか」


ライルお爺さんの言葉にまたしても笑い声が起こる。

 なんか取り残された感じだから、後で誰かに教えて貰おう。


「さて、飛び込むか!」


 ウイル小父さんの言葉に皆がサウナを出ていく。エディに腕を掴まれて、俺も一緒に飛び込むことになってしまった。

 まだまだ湖水は冷たいんだけどなぁ……。


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