H-092 音を見る装置を取り寄せよう
さすがに夕食前には、仮眠していた連中も起きてきたようだ。
皆お腹が空いているらしく、貪るように夕食を食べたからメイ小母さんがちょっとキツイ目で見てたんだよなぁ。
お行儀が悪いという事らしい。そんな小母さんの表情に気付いたのは俺だけかもしれない。皆食事に夢中なんだから。
「サミー、見習っちゃダメよ。これは悪いアメリカ人の見本だと思いなさい」
起き出してから適当に食べていたから、いつもより少ない量で満足しているとメイ小母さんがコーヒーカップを俺の前に起きながら耳打ちしてくれた。
「帰ってから直ぐに寝てしまったからでしょう。皆、良いアメリカ人だと思いますよ」
俺の言葉にメイ小母さんが笑みを浮かべて、頬にキスしてくれた。
子供じゃないんだからなぁ……。
困った顔をしていると、俺の肩をポンッと叩いて台所へ歩いていく。
「ご馳走様」を言って、コーヒーカップを持つと薪スト―ブ傍のベンチに移動する。ここならタバコが楽しめるからね。
1本取り出して火を点けながら、次の作戦に必要な機材をもう1度頭の中で整理することにした。
食事が終われば直ぐに反省会ということになるだろうからなぁ……。
皆が焚火の周りに腰を下ろし、ウイル小父さんが白板の前に立つ。
今日は中隊長と曹長まで来ている。かなり厳しい状況だったことはレディさんとの通信で知っているのだろう。是非とも話を聞きたいとやって来たらしい。
「さて、今年最初の作戦を確認していこう。俺達の目的はデンバー国際空港までの交通路を確保し、デンバー空港を開放することだ。このために……」
目的と手段の確認を再度皆と行う。
それをしっかり自覚しておかないと、変な方向に進みかねないからね。
「当座は、グランビー駅からデンバーに向かう線路付近のゾンビを削減しながら、この三角部の線路の分岐ポイントを空港へと続く線路に切り替えていくことになる。
今回の作戦は、デンバーの西に張り出したこの2つの住宅街、シムズストリートとの踏切付近のこの2つの住宅街のゾンビを削減するのが目的だった。
成果は……、プロジェクターを見てくれ。新たな兵器のジャックはかなり使えるし、去年使ったランタンもこの通りだ。
ランタンはジャックを越える成果を出せんが、この通り火事を広範囲に起こすことができる……」
ウイル小父さんの報告を、一番熱心に聞いているのが中隊長と言うことに少し呆れてしまったけど、中隊本部の方もグランドジャンクション攻略を控えているからなぁ。
俺達の作戦の良いとこ取りをしていくつもりなのかもしれないな。
「ここまでは問題ない。計画通りと言うことになるだろうし、このまま進めば今年は無理でも来年中にはデンバー国際空港を見ることができると確信したんだが……。
前回同様にゾンビの群れが俺達を襲ってきた。
これが上空から撮影したゾンビの画像だ。サミーは群れを1つと考えない方が良いと言っていたな。東と南北の3つの群れとして考えるように具申してきた。
中央の群れに俺達が対処している間に、南北の群れが側面を突くという攻撃陣形だそうだ。ゾンビの群れの動きは俺達が歩くほどの速さだから、トロッコを後退させながら攻撃を続けることにしたのだが……」
30分ほどかけてウイル小父さんの状況報告が終了した。中隊長の隣で曹長が熱心にメモを取っていたけど、レディさんも報告書を書いたそうだ。後で見比べて疑問点を確認することになりそうだな。
「今回の大きな違いは、前回よりも遭遇したゾンビの群れの追撃がずっと続いたということになると?」
「そうだ。前回は1km程度で済んでいる。今回はこの峡谷地帯まで追ってきた。そこで突然追撃が止まったのだが、原因が分からん」
ウイル小父さんが中隊長に答えた。
レディさんが手を上げて立ち上がる。たぶん原因の推定と言うことになるんだろう。
俺としばらく議論していたからね。
「あの場所で、突然ゾンビの追撃が終わったのは私も首を傾げるばかりだったが……。サミーが面白い推測をしてくれたぞ。
サミーの推測では、今回のゾンビの群れの追撃には統率型のゾンビによるゾンビの行動と考えるのが一番納得できるということだ。それではなぜ、あの場所でゾンビが追撃を終えたのか……。それは統率型ゾンビが我等の攻撃で倒されたからに相違ないとのことだった。
軍隊でも指揮官が倒されたなら部隊が瓦解しかねない。その為に我等は階級を持っており上官が倒されても次の階級の者がその代理を務めることができるのだが、ゾンビはそれが無いということになりそうだな」
「あの話は推測ではなかったのか?」
「2度同じような状況をゾンビが作るとなれば、その存在を無視することは出来ないだろう。統率型ゾンビは存在し、ゾンビの群れを指揮することができると考えを改めるべきだ。
それに、サミーはその対策まで考えていたぞ」
そんな事を言うから、皆の視線が俺に向くんだよなぁ。
やってみないことには効果は分からないけど、一応の対策と言うことで皆に話をしておいた方が良さそうだな。
概略の対策を説明すると、皆が熱心に聞いてくれる。
特に曹長は感心した表情で俺を見てるんだよなぁ。それを見てウイル小父さんが鋭い視線を向けているんだけど曹長は気付いていないみたいだ。
「今の話の中であったゾンビの通信手段については、サンフランシスコで実際に確認が取れたそうだ。コウモリのような超音波を出しているらしい。ゾンビが音に敏感であることはそれに起因しているのだろう。濁った眼では我等を上手く視認できんだろうが、我等に向かって来るのはコウモリと同じように音で我等を見ているのかもしれん」
「だが音を見る装置と言うのが今一理解できんな。実際にあるということなんだろうが……」
「ゾンビ間の通信と異なる通信を聞き分けられるかが次の課題です。統率型のゾンビが群れ全体を動かしているとなれば通常と異なる超音波を出している可能性があります。それを検出してその音源を見ることができるなら、エアバースト弾をその付近に撃つことで統率型ゾンビを倒せると考えているのですが……」
「本部にはすでにあるということだな? 急いで取り寄せて欲しい。次の作戦で実証できるかもしれん」
「直ぐに手配しよう。曹長、我等も必要になるかもしれんぞ」
「全くです。あの画像を見る限り3千体を越えるゾンビの群れですからなぁ。しっかりと対策を樹立しませんと兵士を潰しかねません」
どうやら俺の推測を実証することになりそうだな。オリーさんがいたなら喜んで協力してくれるに違いない。
「ところで、あの峡谷にまだゾンビはいるんでしょうか?」
「……そうだった。たぶんいるだろうな。あいつらを処置しないとデンバーに行けんぞ。2日程休養を取ってあのゾンビを始末する事になりそうだな」
そうなると、谷底の落ちたゾンビも考えないといけないな。
ゾンビに寿命はあるんだろうか? すでに死んでいるんだけど、中にいるメデューサについては寿命はあるに違いない。
さすがに永遠に生きるなんてことにはならないはずだ。
2日程余裕があるようだから、オリーさんに疑問点をメモにして送ってみよう。
反省会の終わりに、ウイル小父さんが2日後の計画を俺達に話してくれた。
あの峡谷を彷徨っているゾンビの始末と、ゾンビの焼却と言うことだ。動かなくなったゾンビを移動するためのフック付きの棒を用意しておく必要がありそうだ。
数本はあるんだけど、それでは足りないだろう。
エディ達と明日にでも作っておいた方が良いだろうな。
ワインやバーボンを飲みながら、焚火を囲んで雑談が始まる。
そんな俺達を見た小母さん達が苦笑いを浮かべてサウナに向かった。
俺達は酔いが少し冷めてからにしよう。
甘いワインをゆっくりと味わいながらタバコを味わう。タバコの在庫も残り少なくなってきたからなぁ。
どこかで手に入れないといけないんだが、生憎と線路沿いに雑貨屋が無いんだよね。
「今年で2年目に入るな。さすがに食料が足りなくなりそうだ。デンバーの西の住宅街は、去年と今年の2回ゾンビを刈っている。あの位置なら線路からそれほど離れていないから、物資の調達が出来るんじゃないか?」
バリーさんの言葉に、ウイル小父さんが白板に今回のランタンを使った後の画像を映し出した。
燃えたのは10軒にも満たないな。やはり敷地が広いから住宅が互いに離れているからだろう。
「ゾンビを全て倒しているわけではないぞ。かなりリスクがありそうだ」
「サプレッサー付きの銃を使うなら、それほどゾンビが集まるとも思えん。調達部隊と、警戒部隊を作って対処すれば良いんじゃないか?」
「バディを3組に指揮者と言うことになるだろうな。外の警戒は1個分隊欲しいところだ」
「トロッコにも数人は残さねばならんぞ。全体で2個分隊を少し超えるぐらいになるじゃろうな」
食料調達も優先課題の1つになる。
レーションはまだあるんだが、それに頼れば半年で食べきってしまうだろうからなぁ。
温室を作ったけど、何時でも野菜が採れるわけではないし、量も少ないのが難点だ。
バリーさん達が暮らしていたキャンピングトレーラーを止めていた小屋を使って新たな温室を作る計画はどうなってるのかな?
たまにサプリメントでビタミン補給をしているけど、やはり野菜や果物で補給したいしメイ小母さん達も野菜をたっぷりと浸かった料理を作りたいに違いない。
デンバー空港も大事なんだろうけど、優先すべきは食料だと思うんだけどね。




