H-091 ゾンビの群れが止まった
トロッコをゆっくりと交代させながら銃撃でゾンビを倒していく。
マガジン2つを空にして3つ目を装填していると、トロッコの速度が上がった。
少し先に行って、状況の確認をするのかな?
ニックと顔を見合わせて、溜息を1つ。お互いにタバコを取り出して火を点けた。
「何体倒せた?」
「確実なのは10体程だよ。60発撃ったんだけどねぇ」
「俺も似たようなものさ。となると、20人以上いるんだから、200体以上は確実だろうな。案外300体を越えてるかもしれないぞ」
「ニックの言う通りだろう。外れても他のゾンビに当たっている可能性もある。あれだけ密集しているんだからな。マガジン2つを空にしたなら、後2回は同じように銃撃が出来そうだな」
俺達の傍に腰を下ろしたレディさんが呟いた。
後2回……。銃弾をたっぷり運んで来てくれたから、それ以上に回数をこなすんじゃないかな。
M4の銃弾が無くなったとしても、全員拳銃を持っている。
拳銃のマガジンも2つは持っているだろうから、最後は拳銃を使う事になるかもしれない。
トロッコが10分程度速度を上げて走ったところで再び停車する。
七海さんが小型ドローンを使ってゾンビの状況をモニターに写し出してくれたから、トロッコに皆が集まってゾンビの様子を眺めてるんだよなぁ。
「やはり追って来ているな。この先は峡谷だから左右からゾンビが襲って来る心配は無いだろうが……。グレネード弾の予備はどれほどあるんだ?」
「先ほど配布を終えました。18人に4発と言うところです」
俺達には配布が無かったからなぁ。手持ちの手榴弾さえレディさんに渡したぐらいだ。
最初から銃撃ってことになりそうだ。
「手榴弾は?」
「5人に6個ずつ渡してあります。私は1個ですが、ウイル殿達も1発は持っているものと」
ウイル小父さんが小さく頷いている。
再び撤退するときに、ゾンビに投げて行くのかな?
「手榴弾は線路上ではなく線路際に投げってくれ。グレネード弾よりは威力があるからな。線路を傷付けるとなれば次回の作戦に支障が出かねん」
北側は急峻な崖だし、南側は谷底だ。
ここなら、襲撃方向が限られてくる。
俺達はトロッコを降りて、横幅10mにも満たない線路道に布陣することになった。
俺とニックは後列になってしまった。
まぁ、兵士となるべく訓練を施されたわけではないからなぁ。
前にマリアンさん達が膝をおってM4カービンを構えている。すでにM203にはグレネード弾が装填されているに違いない。
まだゾンビの姿が見えないから、トロッコに背中を預けてニックとガムを噛んで眠気を覚ます。
ミント味のガムだから丁度いいな。
雑貨屋で手に入れたガムもあったはずだから、次のデンバー行きにはいくつかポケットに入れておこう。
「サミーがガムを噛んでも、様にならないんだよなぁ」
ニックが、クチャクチャとガムを噛んでいる俺を見て笑い声をあげる。
「噛むか?」
残っていたガムを上げると、笑みを浮かべて受け取ってくれた。
ニックの横顔を見ていると、確かに様になってるんだよなぁ。楊枝でも咥えていた方が良いのかもしれない。
でも、他人に見せるものではないからね。
ゾンビが現れるまでの緊張を緩和するためと、眠気覚ましだからなぁ。
そろそろ口が疲れて来たから、包み紙に捨てようかと考えていた時だった。
「来たぞ! 線路道に一杯だ。あれなら谷底に転がり落ちるゾンビもいるに違いない。最初はエアバースト弾で相手をする。俺の指示があるまでは撃つんじゃないぞ!」
無駄玉を撃たないようにと言うことなんだろう。
だけど谷に落ちたゾンビはそのままってことになりそうだ。後で問題にならないかな?
「距離400だ。300で射撃を開始するぞ」
エンリケさんが荷台のウイル小父さんに確認している。
さっきと同じってことだな。マリアンさん達はゾンビとの距離が200mに達したところでグレネード弾を放つのだろう。
俺達は更に近付いたゾンビを狩り続ければ良い。
30秒も掛からずに、ハンヴィーの銃座に取り付けたMk19グレネードランチャーがエアバースト弾を放ち終えた。
30発がリンクベルトで繋がっているから、機関銃みたいに撃つんだよなぁ。
Mk19の射撃が終わると、ウイル小父さんがM224グレネードランチャ―での射撃を指示する。
ゾンビとの距離は150mほどまで詰まっている。
いつもよりは距離があるけど、M4カービンの有効射程は300mほどあるからね。
照準器のレティクルにゾンビの顔を捉えて……、トリガーを引く。
機械的にトリガーを引き続けていると、「乗れ!」と言う号令が掛かる。
急いでトロッコに飛び乗ると、トロッコが西に向かって動き出した。
300mほどゾンビとの距離が開いたところで,銃撃を加える。
10発程度打ち込んだところでトロッコが動き出したが、今度は荷台に乗ったウイル小父さんとバリーさんが手榴弾をゾンビに向かって投げつけている。
峡谷を過ぎたところでゾンビとの距離を取る。
休憩と言うことになるんだろう。
3kmほど離れたようだから、お湯を沸かしてシェラカップに半分ほどのコーヒーを頂く。
「レディ、トンネルの柵の方の進捗を確認してくれんか? ここからトンネルまでは20km足らずだ」
「先ほど確認をしたところです。完成は4時頃になるとのことでした」
「すでに2時を過ぎている。ぎりぎりで何とかなりそうだな」
エンリケさんが荷台に顔を向けてウイル小父さんに声を掛けた。
当のウイル小父さんは苦い表情を変えずにエンリケさん小さく頷いている。
確かにギリギリだ。
次は最初から銃撃することになるからね。
銃弾の残りは3マガジンまで減っているから、七海さん達が皆に5.56mmNATO弾が30発詰め込まれたマガジンを2個ずつ配っている。
俺も空になったマガジンを渡して2個のマガジンを受け取った。
単発で射撃をするなら、5個あればゾンビに2度銃撃を加える事は容易だろう。距離が詰まったなら、また後退すれば良いだけだ。
ニックと一緒に東を眺めながら一服を楽しむ。少し距離が空きすぎたかな?
まだゾンビの姿は見えない。
既に時計は3時を過ぎている。それでもハンヴィーの前照灯に浮かび上がるゾンビの姿が見えない。
皆が互いに顔を見合わせているのは、やはりゾンビがやってこないのを訝っての事だろう。
「レディ、ナナに偵察を頼んでくれ。さすがにこの時間までゾンビが現れないのはおかしな話だ」
「了解です!」
レディさんが客車に向かうと、直ぐに七海さんが現れた。
コントローラーとモニターをケーブルで結ぶと、客車の横からドローンが東に向かって飛んでいく。
先ほどの銃撃か所から距離がそれほど離れていないということでブースターとアンテナは必要ないらしい。
線路上空300mほどを飛んでいくと、数分も経たずにゾンビの群れが蠢いているのが見えてきた。
「何か戸惑っているように見えるぞ」
「西に向かうゾンビもいないようだ。薬莢が転がっているのが先ほど俺達が迎撃した場所だろう? その位置にまで移動してくるゾンビがいないってことか?」
「不思議な話だが、俺達にとってはありがたい話だな。しばらくこの場で様子をみる。半数を休ませてやってくれ」
一眠り出来るってことかな?
目が冴えているんだけど、さっきから生欠伸が何度も出る。
仮眠した方が良さそうだ。
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トロッコの揺れで目が覚めた。
すでに朝日が高く上っている。ここは……、どうやらグランビー近くまでトロッコが来ているみたいだな。
「ようやく起きたな。サミーが最後だぞ。もう10分ほどでグランビー駅に到着だ」
「トンネルの策を見たかったんだけどなぁ。ニックは見たのかい?」
「生憎と俺も見ていない。パットがデジカメで撮影したと言っていたから山小屋に戻ったら見せて貰おうよ」
今年最初の遠征はかなり疲れた感じだな。
それに色々と考える事ややっておきたい事もある。
次の遠征を直ぐに行うとは思わないけど、2日程間を開けて欲しいな。
「あのゾンビを見たら、驚くよなぁ。次はたっぷりとグレネード弾を用意するんじゃないかな」
「そうなるだろうね。少なくとも1人10発は欲しいよなぁ。銃弾だってマガジン6個では足りないくらいだ」
山小屋に戻ったなら、先ずは一眠り。夕食後に皆が集まって、今回の反省と言うことになるんだろう。
俺達の所にやって来たレディさんの話によると、あれから1時間待機したらしいのだがゾンビが西に移動することは無かったそうだ。
突然ゾンビの動きが変わったということは、統率型のゾンビを上手く破壊出来たということになるんだろうか?
多分そんな事だと思うんだが、だとしたら偶々上手く行ったということになるんだろう。
どれが統率型のゾンビなのか、見ただけでは分からないからなぁ……。
ブレンビーの駅に着くと、皆が溜息を漏らす。
やはり疲れたに違いない。
ジープに七海さんを乗せて、山小屋に戻ると直ぐにシャワーを浴びる。
お腹も空いているけど、その前に一眠り……。
目が覚めた時は、昼を過ぎていた。
隣の七海さんはまだ夢の中だ。起こさないようにベッドを降りて、私服に着替える。
2度寝た感じだから、今夜は眠れないかもしれない。
まぁ、その時はリビングで焚火の番でもしていよう。
リビングに行くと、焚火の傍に座っていたのはレディさんだけだった。
やはり疲れて皆は眠っているのだろう。レディさんだって疲れていると思うんだけどなぁ。
「起きたのか?」
「これで今日は2度寝てしまいました。夜眠れなくなりそうです。レディさんは寝なくても大丈夫なんですか?」
「仮眠は取ったぞ。今夜は早く眠るつもりだ。それにしても、あれほど追って来るとは……」
「エディ達から話には聞いてましたけど、あれほど群れるとは思いませんでした」
レディさんの感想を聞こうとしていると、ナンシーさんが俺達にコーヒーを運んでくれた。マグカップにたっぷり入ったコーヒーを受け取って一口飲む。
薄くて甘い……、俺好みだ。ナンシーさんに笑みを浮かべて軽く頭を下げると、手を振って台所に戻って行った。
タバコの封を切って1本取り出すと、レディさんにヒョイと横取りされてしまった。改めて1本引きだして焚火で火を点ける。
「レディさん。前に頼んでおいた音を見る装置はまだ手に入りませんか?」
「少し改良しているそうだ。サンフランシスコのゾンビで試したそうだが、やはり高域音を出しているらしい。我等の耳では聞こえんほどの高さと言うことだから、超音波領域なんだろう。3万Hz前後らしいぞ。音を見る装置の方は、ヘッドディスプレイを使う事で、自分の視野に重ねてみることができると言っていたな。再度督促してみよう」
装置が俺達の所に届くのはもう少し先になるようだな。
やはり予想通り統率型ゾンビを倒せば群れは瓦解すると考えて良いだろう。
統率型ゾンビの位置をある程度確認できたなら、エアバースト弾を使って面攻撃をすれば、案外容易く倒せるかもしれないな。
「次の作戦を考えているのか? ウイル殿は数で来るなら数で対処するしかないと言っていたぞ」
それも1つの方法だろう。
統率型ゾンビがエアバースト弾で倒されたのか、それともグレネード弾や銃弾で倒されたのか分からない。
だけど、沢山撃ち込めばその内に統率型ゾンビに当たることもあるだろう。だがあの群れの中のどの位置にいるかさっぱり分からないからなぁ。
かなりの数の銃弾を消耗することになってしまいそうだ。やはり、位置の特定が出来るかどうか、その位置にエアバースト弾を撃てるかを確認したいところだな。




