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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-084 ゾンビを統括するゾンビはあり得るらしい


 デンバーの線路とポイント切替の状況については、雪解けを待って低空撮影を行ってくれるらしい。

 ウイル小父さん達は白版の裏にデンバーの地図を張り出して、確認すべき線路のポイントか所をエンリケさんやバリーさん達と相談しているようだ。

 ライルお爺さんの話では力づくでポイントを切換えることができるらしいけど、それで問題ないんだろうか。


「昔は人力じゃったが、今では遠隔油圧方式になっとるようじゃな。ピストン駆動なら金テコで動かすことも出来るじゃろうが、いくつかのコース取りが出来そうじゃ。最適なコースを選んでいるんじゃろう」


 地図上で確認できる最短コースが必ずしも最適とは言えないからなぁ。

 核だけでなく爆弾も沢山落としているようだし、焼夷弾だって線路を直撃したら線路に損傷を与えそうだ。

 いくつかのコースを想定した上で、航空撮影を行う場所を指定するのかな?


 台所に行ってメイ小母さんからコーヒーをマグカップで受け取ると、通信機に足を向ける。

 今では受信記録がノートパソコンに残るように改善されてるし、モールス通信は紙テープに記録できるようになっている。

 紙テープが機械から吐き出されていないのを確認したところで、パソコンを起動して通信記録を眺めると、俺宛てにメールが届いていた。

 差出人はオリーさんだな。あの問いに関わる回答と言うことなんだろうか?

 メールを開くと、簡単な挨拶と風邪をひかないよう注意が掛かれていた。添付されたファイルを開くと、かなりのボリュームがある。プリンターのスイッチを入れてファイルをプリントすると20枚ほどの書類になってしまった。

 表題は、サイカ研究員への回答と書かれている。これはゆっくりと読まねばなるまい。

 メールでオリーさんに礼を伝えたところで、書類をバインダーにハサミ込んで焚火に戻る。

 コーヒーと一服を楽しみながら先ずは要約を読もうとファイルを取り出すと、ウイル小父さんがファイルに興味を持ったようだ。


「だいぶ厚い書類だな。オリーからの返事と言う事か?」


「ようやく来た感じですね。これを読むとレディさんの通信が拍車を掛けたみたいです。だいぶ議論したようですよ」


「今夜の夕食後に皆に伝えてくれ。要約で構わんぞ。俺達は学者じゃないからな」


「俺だってそうですよ。でも一応疑問には答えてくれてますから、これからの推測に役立てることができると思います」


 ウイル小父さんがタバコに火を点けながら頷いてくれた。

 さて、早速読んでみよう。

 さぞかしその道で名のある学者先生達なんだろう。俺が理解できるように丁寧に注釈まで添えてあるんだから。

 さて、答えなんだが……。

 1つ目の、クラゲ相互での意思の伝達については行われないという事だった。

 だが外遊性のクラゲは単独で見られるが、湾内の穏やかな場所に生息しているクラゲには群れることが知られている。海流や太陽との関連を指摘する学者もいるが、近年、クラゲの出す一種のフェロモンが関連しているとの学説もあるらしい。

 2つ目の、クラゲの群れの中に上位種と言う存在はないとのことだ。大小に違いはあるようだけど、それは上位種と言う存在ではないとはっきり書かれていた。

 3つ目の同一人物に複数の個体が侵入した場合について、かなり議論がなされたようだが、統一見解として1つに統合されるとのことだった。

 4つ目として、レディさんからのゾンビを統括する存在については、3つ目の問いに関わる事として記載があった。

 その結論は『十分にあり得る』と結ばれているんだよなぁ。

 肺への侵入はかなり容易らしい。噛まれて幼生が人間の体内に侵入した時に、脳と肺では肺の方に早く到達できるとのことだ。だが肺では人体の中枢神経を浸食するにはかなりの時間が掛かるらしい。肺と神経は太い神経節で繋がっているとは言えないからだそうだ。

 結果的に先に脳に達した幼体が主になることになるらしいが、その時に肺に侵入した幼体は脳の幼生と合体するかもしくは消化されてしまうらしい。

 その多くは消化される運命になるらしいのだが、合体することも推測可能であると結ばれている。

 合体後は、俺の推測通り肺で体を作り上げることになるようだが、その効果についてはかなりの知能が上がると予測している。

 脳の容積が1.4ℓ程度なのに対し、肺の容積は6ℓほどになるらしい。約4倍もあるってことになるな。

メデューサが純粋なクラゲではなく、他の生物の遺伝子情報を持った合成生物であること、群体を構成する細胞組織の大きさがクラゲの二十分の一ほどであることを考慮すると肺にメデューサが住んでいるゾンビは通常のゾンビよりも学習能力があると想定することができるとまで書かれていた。

容姿の変化は無いとのことだから、俺の推測通りと言うことになる。

その外に、頭部を破壊しても動きを止めない可能性まで書かれていた。

知能程度については、さすがに人間には及ばないとの事だが、イヌ程度の知能は持ち合わせているかもしれないとの推測だ。


 やはり面倒な相手と言うことになるんだろう。

 犬程度であっても知性があるというのがねぇ……。


 追伸として、次の質問を楽しみに待っているとまで書かれていたけど、あまり期待しないでほしいところだな。


 この答えを読む限り、俺の推測はそれほど間違っていないようだ。

 1つ疑問に思えるのは、ゾンビを統括するだけの知能を持ってはいても、ゾンビ達にはそれを伝える手段がないということになる。

 んっ……、ちょっと待てよ。メデューサがメデューサ間の通信手段を持たないとはどこにも書いてないぞ。

 書かれているのは、クラゲは持っていないということだからね。

 さすがにフェロモンと言う事にはならないだろう。となれば、ゾンビの聴力との関係があるかもしれないな。

 何か唸るような声を出していることはあっても、会話しているわけでもなさそうだ。


 クラゲは振動に敏感らしい。それがゾンビの襲う相手の位置を知る手段でもある。目はあまり良くないらしいけど、さすがに視力検査は出来ないからぁ。

 目より耳で情報をやり取りするなら、俺達にも聞こえるはずなんだけど……。

 ひょっとして、可聴領域が俺達よりも広いんじゃないか?

 これは調べる価値があるかもしれないぞ。


 夕食が終わったところで焚火の周りに皆が集まった。

 オリーさんから届いた報告書の要約を皆に説明すると、やはり不安げな表情を浮かべているんだよなぁ。


「サミーの危惧が、裏打ちされたってことか……。そうなると、デンバーの攻略が難しくなるんじゃないか?」


「全くその通りだ。犬程度の知恵を持つとのことだが、現実を見るとそれ以上かもしれん。中隊が担当するグランドジャンクションにも影響がありそうだ」


「せっかく跳躍爆弾の見通しが立ったのだが、場合によっては役立たないということもあり得る可能性まで出てきた……」


 ウイルさんの言葉に、残念そうな顔をしてレディさんが呟いている。

 とはいえ、計画の見直しは無いとのことだから、俺達は来春に本格的なゾンビ掃討を始めることになりそうだ。


「サミーは、そんな統括種がどれほど存在していると思っているのだ?」


 急に、レディさんが問い掛けてきたから、飲みかけていたコーヒーが気管に入ってしまったんだよなぁ。

 しばらく咳き込んだところで、レディさんに顔を向ける。


「報告書には書かれていませんが、それなりにいると考えています。ゾンビが人を襲う時は1対1の関係は稀でしょう。デンバーのゾンビの数が20万体であるなら数十から数百はいるんじゃないでしょうか? 

出来れば統括種を見つけ次第優先的に倒したいところですが、他のゾンビと統括種を外見で見つけることは出来ません。となれば、別の手段で探すことになるんですが……」


 報告書を読んでいて閃いたアイデアを披露する。

 統括するゾンビが他のゾンビにどのような手段で指示を送っているのかを考えると、耳が異常に発達していることから、音で指示を出しているというのが一番考えられるんだよなぁ。


「音か……。確かに低く呻くような声を出しているな。だがそれではどれが統括種か分からないのでは?」


「俺達が聞こえる音はうめくような声だけですけど、俺達に聞こえない声を出しているのかもしれませんよ。一番考えられるのは超音波領域でゾンビは会話をしているのかもしれません」


「超音波だと? 調べてみる価値はありそうだな」


「だが、それが分かったとしても役立つとは言えないんじゃないか?」


俺とレディさんの会話に、バリーさんが問題点を指摘してきた。

 その問いは予想してたんだよね。


「音源を見ることができる装置は開発されていると、何かの本で読んだことがあります。ゾンビ達が超音波で会話をしているとするなら、一番複雑な会話をしているのが統括種になるはずですから、その音源を探っての狙撃が出来るんじゃないかと……」


「音を視認化出来る装置と言うことだな。どんなものかを本部に調べさせよう。その前にゾンビが超音波を出しているのかも調べる必要があるな」


「本部の工作船で何とか作って欲しいところです。もちろん実証試験は俺達でやらせて貰いますよ」


「了解だ。本部も話を聞いて混乱しているだろう。このファイルをプリントしてくれないか? 中隊本部に届けたい。サンフランシスコの本部には中隊本部から送ることにしよう」


「それならUSBでお渡しします。ちょっと待ってください」


 レディさんの頼みを聞いて直ぐに通信機の置いてあるテーブルに向かった。

 USBはいくつも置いてあるからね。トレイを引き出してUSBを取り出すとノートパソコンに差し込んでオリーさんのメールに付属しているファイルをコピーする。


「これにファイルが入っています。圧縮されていませんから、直ぐに読むことができるでしょう」


「ありがとう。それでは中隊本部に行って来るぞ」


 善は急げってことかな? 中隊長も悩んでいるようだから、対策が取れそうだと知れば少しは気も楽になるだろう。

 

「サミーが考えているのはソナーのようなものなのか?」


「ソナーにはアクティブとパッシブの2種類があると聞きました。俺の考えてるのはパッシブの方ですよ」


「おおよその場所を見付けて砲弾を撃ち込むってことか? 陸軍なら大笑いされそうだな」


「俺達だって同じようなものだ。バリーだって信じないんじゃないか?」


「サミーが街角でそんな話をしてたなら、LSDでもやってるんじゃないかと疑うところだよ。だが、レディがあれほど慌てて出て行ったとなると……、本部の連中は藁にもすがりたいということなんだろうな」


 エディ達が尊敬の眼で見てくれてるから、笑みが零れてしまうんだよなぁ。

 だけど、その試験結果をオリーさんに報告したなら、また専門家の意見を聞かせて貰えそうだ。

『敵を知り、己を知るなら百戦危うからず』という言葉もあるぐらいだからね。

 まだまだゾンビには分からないことが沢山あるからなぁ……。


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