H-085 釣小屋が出来た
「音を見るという試みは、一応実戦でテストできるまでになっていたようだ。中隊長も最初は半信半疑だったが、本部からの回答を聞いて驚いている始末だ。まったく、サミーの無駄知識には驚かされるよ」
翌日、蒸気機関の運転をニックに交代してリビングの戻ってきた俺に、レディさんが教えてくれた。一緒にいたウイル小父さん達はすでに話を聞いていたのだろう。小さく頷くだけだったからね。
「超音波をその場で簡易的に聞く方法もあるらしい。軍の研究所で作った物は、可聴範囲を目的にした物のようだから、本当にゾンビが超音波を放っているのかどうかを、サンフランシスコの町で確認するとのことだ。整備部隊の隊長が、サミーを欲しがっていたぞ。中隊長が丁寧に断っていたが、所属が海兵隊と言うことになると大隊長達がサミーの所属を巡って取っ組み合いを始めかねんな」
「優秀な兵ほど前線にいると格言があるぐらいじゃからなぁ。それを掘り出すのは上の務めと思っての事じゃろうが……。ウイル、手放なさぬようにするんじゃぞ」
「そこは統合作戦本部からの指令を利用するつもりだ。さすがに大統領のサインがあるのには驚いたが、案外こんな事態になることを想定していたのかもしれんな」
ウイル小父さんとライルお爺さんが苦笑いを浮かべながら頷いている。どう見ても悪だくみを企んでいる顔付なんだよなぁ。
バリーさんが溜息を吐いているぐらいだからね。
「中隊本部も協力するぞ。サミーは私達の仲間だからな。……さて、これで本部からの知らせを待てば良いことになる。サミー、外にはないんだろうな?」
レディさんの言葉に、全員が俺に視線を向けた。
さすがに、これ以上は無いと答えると、緊張した表情がホッとした表情に変わった。
「はい。コーヒーとサンドイッチよ。ここで食べなさい」
メイ小母さんが昼食を運んで来てくれた。ありがたく頭を下げて受け取ると、ハムサンドを直ぐに食べ始める。
「ところで、駐車場で何を作ってるんだ? 小屋にしては小さいが、ペットを飼うにも犬や猫は見掛けないんだが?」
「あれは釣小屋ですよ。小屋の床に穴を開けてあるんです。ソリに乗せて結氷した湖で釣りを楽しもうかと……」
俺の話を聞いて、皆の視線がライルお爺さんに向く。1枚嚙んでいると思っているに違いない。
「氷に穴を開けての小魚釣りじゃ。フライにすれば良い酒の肴になるぞ。小さなコンロを小屋に中に入れておけばそれなりに温かじゃろう。窓をたまに開ければ一酸化炭素中毒にもならん筈じゃ」
「それなら手伝わんといかんな。俺達にも貸して貰いたいからなぁ」
「ウイル達じゃと、釣りをせずに中で酒盛りを始めるんじゃないのか?」
ウイルお爺さんの言葉に、焚火に集まった連中から一斉に笑い声が上がる。その姿が容易に想像で来るというのもねぇ……。
「まぁ、冬の楽しみが出来たという事には違いない。子供を連れて行っても良いだろう。穴に落ちるようなことにはならないはずだ」
エンリケさんの言葉に、子供を持つ男達が笑みを浮かべている。たまには変わった事を経験させてあげたいと思っているのだろう。
俺達だって、たまに使おうと考えていたぐらいだからあの小屋は山小屋の共有品と言うことになりそうだな。
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2月に入ると寒さが一段ときつくなる。
外のキャンピングトレーラーで寝泊まりしているマリアンさん達は、さぞかし寒さが身に染みるんじゃないかと思っていたら、外付けの温水暖房器のおかげで室内は5度を下回ることが無いそうだ。それでも十分に寒いと思うんだけど、冬用寝袋でぬくぬくに寝られると教えてくれた。
ジュニアハイスクールでは教室の床にマットを敷いて寝ていたらしいけど、いくら薪ストーブがあっても室内は零度以下になってしまうらしい。
窓が大きいし、1枚ガラスだからだろうな。それから比べるとキャンピングトレーラーを入れてある小屋自体も、薪ストーブで温めているからね。
「そういうわけで、私達は他の連中から比べれば暖かく暮らしてるんだ。食事もレーションじゃないからね。まるで自分の家で暮らしている感じがするぐらい」
「そうそう、それなのよね。このままでは雪解けまでに5kgは体重が増えるんじゃないかと心配してるんだから」
「皆さん、トンネルの一角でトレーニングをしてますよ。縄跳びぐらいの運動でも続けた方が良いんじゃないですか?」
俺の言葉に2人が苦笑いを浮かべている。
小さな声で話してくれたことによると、トレーナーが問題らしい。
トレーナー? と思わず聞き返してしまったけど、どうやらエンリケさんとレディさんのようだ。
そういえば、エディ達はエンリケさんにマーシャルアーツの手ほどきを受けているらしい。さすがにナイフ戦闘の訓練まではしていないだろうけど、テリーさん達はやってるのかもしれないな。
そんなエンリケさんを見て、レディさんが5人の海兵隊員達の訓練をかってでたということらしい。
結構動きが良いからね。エンリケさんと立ち会っても互角程度になるんじゃないかな?
「白兵戦は基礎体力が大事だと、ランニングマシンに懸垂、それに柔軟でしょう。最後に対人訓練をする前に体力が尽きちゃうのよねぇ」
「やはり基礎体力は大事ですよ。それがあればこそ体を動かし続けられるんですからね。雪解けが始まれば、いよいよ本格的な作戦が始まるんですからメタボでは逃げ遅れかねないですよ」
俺の忠告に、再び苦笑いを浮かべてるんだよなぁ。
なんか春が心配になって来てしまった。
「やはり、ゾンビ相手の接近戦ってことかしら?」
「可能性が無くはありません。いつだって最悪を考えていないと、この状況下では生き残れませんよ」
「毎日5kmは走りましょう。その後で銃剣術で良いんじゃなかしら」
2人が小声で話しているのが聞こえてきた。
それぐらいなら、七海さんだって走っているからね。俺やニック達は10kmをこなしてるぐらいだ。
冬に出来るだけ体力を付けておかないと、春の作戦に支障が出ないとも限らないからなぁ。
2月中旬になって完成した釣小屋をグランビイ湖の氷の上にウイル小父さん達が移動してくれた。
直ぐにウイル小父さん達数人が小屋で釣りを始めたから、その日の夕食には小魚のフライが大皿に山盛りで提供された。
ちょっとワカサギに似た魚だと思ったら,味も同じなんだよね。唐揚げでも良かったんじゃないかな?
ソースを付けて頂いたけど、直ぐに10匹近く食べれてしまう。
あまり食べると他の人に回らいだろうと思っていたら、同じような大皿にキャシーお婆さんが再びフライを山にして持って来てくれた。
ウイルさんとバリーさんが釣り自慢を披露して炭酸で割ったバーボンを飲み交わしている。それをうんざり顔で聞いていたエンリケさんとライルお爺さん達が、小さく頷き合っているのは次は自分達の番ということなんだろうな。
俺達が釣小屋を使えるのは何時になるんだろう? 俺達だけで楽しもうと考えていたんだけどなぁ……。
「来月中旬までは楽しめそうだな。もう少し早く作っておけばよかったと思うよ。だが、そろそろ本件についても考えないといかんなぁ……」
「いくつかルートは作ってある。航空写真でポイントの破損程度が分かれば良いんだが」
「いずれにせよ、街中を通ることになる。町中と言っても多くは住宅街ではあるんだが……」
住宅密集地には爆弾や焼夷弾を落としているらしい。多くがデンバーの南側ではあるんだが、北や東にも落としているようだ。航空写真からは線路の破壊は確認できないけど、低空で撮った写真なら損害の有無が分かるに違いない。
「ハンヴィーと機関車を同じように使うとすれば、そろそろ運んで来るグレネードランチャーをハンヴィーの銃座に取り付けねばなるまい。箱型弾倉に30発も入れておけば十分だろう」
「連射したなら1分も持たんぞ。俺達が携行するグレネードは3発だからなぁ」
「それ以外に手榴弾もある。あまり心配せずとも良いだろう。それに、ゾンビを倒すのは新兵器だ」
跳躍爆弾がどうにかできたらしく、現在は量産中との事だ。
デンバーとグランドジャンクション攻勢の為に100個程輸送してくれるらしい。
30個ぐらいは貰えるんじゃないかな。
それと、まだ残っている目覚まし時計付きの爆弾を使えば、沿線沿いのゾンビをある程度駆逐できそうにも思える。
「それにしても、平屋と2階建ての家ばかりですね。屋根が平らなのは工場ぐらいですよ」
「だよなぁ。ほとんどの家の大きさが同じだ。少しは変わっているが、これだと屋根には上らん方が良いだろうな」
「出来れば線路際を徘徊するゾンビの数を減らしたいところじゃな。だが、呼びかけ作戦は止めといた方が良さそうじゃ。ゾンビが周囲を囲んだなら、果たして目覚まし時計でゾンビを移動させることができるか分からんぞ」
「そうなると線路際に誘き寄せて、後退しながら倒すしかありませんね。何度も繰り返すことになるでしょうから、安心して休める拠点をデンバー近郊に作ることになろうかと……」
俺の言葉に、ウイル小父さんが相槌を打つ。
どうやら、考えることは同じ見たいだ。
「ちまちまゾンビを倒しながら路線を飛行場に進めることになりそうだな。来年は飛行場に到着できなくとも、飛行場に至るルートを確定することを目指そう」
「あまり無茶もできないだろう。だが拠点を作るとなれば、拠点の守備を1個分隊に任せたいところだ」
ウイル小父さんの言葉にエンリケさんが言葉を繋げると、レディさんが手を上げる。
レディさんの話では、補給品の輸送時に1個分隊程度なら十分に本部から派遣して貰えるだろうとのことだった。
1個大隊以上の戦力があるとのことだが、サンフランシスコの海軍基地の島を現在掃討中らしい。
やはり島が一番安全には違いないが、直ぐ傍にサンフランシスコの大都市があるからなぁ。島もかなりの人口だったらしいから、中々捗らないみたいだな。




