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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-078 体が冷えたらサウナが一番


 薄く氷が張り始めたグランビイ湖から、水上機に乗ってオリーさんは飛び立った。

 俺達1人ずつハグしてキスをしてくれたんだけど、俺の耳元で小さく呟いた言葉に俺は固まってしまった。

 笑みを浮かべて、「頑張るのよ!」と言ってくれたから、エディ達には気付かれなかったったに違いないけど、将来が心配になってしまうな。


「行っちゃったね!」


「ああ、だけど元々が大学院にいた秀才なんだよなぁ。俺達とは違う世界の女性だったんだ」


「でも、俺達の良い姉さんだった気がするよ」


 俺の言葉に2人が頷いている。やはりお姉さんって感じの女性だったよなぁ……。

 水上機が曇天の中に消えるまでジッと見送っていたけど、やはり冷えて来た。

 車に乗り込んで山小屋に急ぐことにした。

 エディ達はピックアップトラックだけど、俺と七海さんはあちこちぶつけた跡のあるジープだ。運転は当然俺になるけど、乗ってすぐに七海さんがシートベルトをしっかりと付けてるんだよなぁ。危機管理が出来ているということなんだろう。

 雪だから前後輪共にチェーンを巻いているからあまりスピードが出ないのが気に食わないけど、ひょっとして2人きりで乗るのは初めてになるんじゃないか?


「来春にはドライブに行きたいね」


「ロッキーにはあちこちに花畑が出来ると、キャシーお婆さんが言ってました。そんな場所を巡るのもおもしろそうです」


 さすがに2人きりと言う事にはならないだろうけど、エディ達と出掛けてみるのも良いかもしれない。

 レディさんも話相手がいなくなって少し寂しくなるかもしれないな。

 明日からのエディ達への訓練が厳しくなりそうに思えてきた。


「ところで、『銀河鉄道の夜』の方は翻訳が進んでいるの?」


「メイ小母さんとキャシー小母さんが手伝ってくれるんです。半分ほど進んでいる感じですね。2人とも感心しているんですよ。100年以上前の話なんでしょうけど」


「感受性の高い人だったんだろうね。それと優しい人だったのは確かだろうな」


 メイ小母さん達の話では、どう考えてもキリスト教の教えだろうという事だった。だけど、それがどの教えの部分なのかが分からないらしい。

 仏教的なところもあるってことかな? 俺にはそんな気はしないんだけどね。


「そうそう、レディさんが瞑想のやり方を教えて欲しいと言ってました。正光さんが焚火の傍でじっとしていたので、後ろから近付いて頭を叩こうとしたらすれすれで避けたと言ってましたよ。まるで背中に目があるようだったと言ってました」


 あれだけ殺気じゃじゃ漏れ状態なら、エディでも避けるんじゃないかな?

 とはいえタイミングを取れないから、近づいたところで振り返るに違いない。

 精神統一の方法だと、御祖父ちゃんに教えて貰った瞑想だ。本来ならトリガーを引く時の為らしいんだけどね。

 何も考えず標的に照準を合わせ、標的の動きに合わせてトリガーを引く……。

 火縄銃の心得は現在の社会で必要なのかと考える事もあったけど、集中力が高まることは確かだからな。

 だけど、『心を無にせよ』なんてどうやって教えるんだろう?

 ひたすら座禅を組むことでそれができるとも言われているけど、俺の場合は心の解放だった気がする。

 自分の全感覚を研ぎ澄ませて周囲を窺う。目で見えないものまでその存在を確認できるようにと務めた結果でもあるんだよな。


全方位の状況確認……、それが自分の存在を拡散することになるのかもしれない。おじいちゃんの言った「心を無にする」とは違っているのかもしれないけどね。

 そこに存在することで周囲の状況が分かるなら、周囲の連中には俺がどこにいるのかが不確定になるという事なのかな? 色即是空とも異なるように思えるけどね。


「……それなら、座禅を教えることになりそうだ。もっとも、俺がその心境に達しているとも思えないんだけどね」


「レディさんにしてみれば、東洋の神秘を正光さんに見ているんでしょうね」


 それも凄い買いかぶりだ。まったく俺は普通人そのものだからね。

 どうやって誤解を解こうかと考えていると、いつの間にか山小屋に到着していた。

 運転しながら考え事をしていると、いつの間にか目的地に到着するんだよなぁ。

 俺には、こっちの方が神秘に思えてならない。


 山小屋に到着したところで、俺達3人はサウナに向かう事にした。

 夕食後は結構賑わうんだよね。21時から23時まではご婦人方専用と言うことになっているから、今なら問題ない筈だ。


 新しく出来たリビングの西の扉を抜けて、板張りの通路を歩くと直ぐにサウナ小屋へと到着する。

 リビングの西の扉の掲示板に俺達の名札を下げておいたから、急にご婦人方が現れる事もないだろう。

 タオル1枚になったところでサウナに入ると、ベンチに腰を下ろして、しばらくは体を慣らす。温度は102度なんだよなぁ。エディがサウナストーンに桶から柄杓で水を汲んで掛けたから、ジュウゥゥと言う音と共に部屋の湿度が上がる。

 汗が途端に吹きだすんだけど、これがサウナの楽しみなんだろうか?

 俺としては熱いお湯にのんびりと浸かっていたいところなんだけど、サウナ部屋の外に置いてある風呂桶はぬるま湯なんだよなぁ。

 俺はそれで十分なんだけど、エディ達はグランビイ湖に飛び込むつもりらしい。

 心臓麻痺等起こさないと良いんだけどね。


「さぁ、出るぞ!」


「おお!!」


 2人がサウナを飛び出して行った。

 俺も後を追うけど、途中のお風呂で体を冷やす。これがもう少し熱ければ……。

 2人が飛び込む水音が聞こえてきたけど、グランビイ湖に氷が張ったらどうするんだろう?

 飛び込む場所をあらかじめ穴でも開けておくのかな? そこに厚い氷が張ったら、骨折では済まないように思えるんだけどねぇ……。


 しばらくすると、震えながら2人がサウナに飛び込んで行った。かなり冷えたんじゃないかな?

 心配だから風呂から出てサウナに向かう。


「やはり湖に飛び込むのが最高だよ。次はサミーも一緒だからな」


「いやいや、俺は遠慮するよ。風呂で十分さ。いくら体が温まっていると言っても水温は5度前後なんだからね」


「とりあえず1回だけだ。それで、問題が無ければ俺達と一緒に飛び込むんだぞ。確かに風呂も良いんだろうけど、ぬるま湯だろう?」


 案外西洋人が日本人より長生きしないのはサウナに原因があるんじゃないかな?

 健康には良いように思えるんだけど、体の熱負荷はかなり深刻な状況になるんじゃないかな? 高血圧の人なら一遍で心筋梗塞を起こしかねないように思えるんだけどねぇ。


 さすがに2度目の飛び込みはしないようだ。10分ほど体を心から温めたところで熱いシャワーを浴びて着替えをする。

 下着にTシャツという夏のような服装でリビングに戻り、部屋へ向かうと着替えをする。


 再びリビングに戻ったところで、大きな氷の入ったグラスでバーボンを楽しむことにした。


「さすがにバーボンをそのまま飲むのは早いようだな。3倍に薄めるなら味も無いだろうに」


「俺達には十分ですよ。その内に強くなるでしょうから、その時はウイル小父さんと同じグラスで頂きます」


「息子なら一緒に酒を楽しめるか……。今では娘も大して変わらんらしいが、俺が子供と一緒に酒を飲むのはまだまだ先になりそうだな」


「ワシ達には、とうとう授からなかった。ゾンビ騒ぎで孤児も増えたに違いない。キャシーと相談して引き取ろうかと考えとるんじゃ」


「それも考えねばなるまい。いったいどれぐらいの孤児が発生したのか分からんが、少なくないことは確かだろうな」


 孤児でなくとも、ナンシー親子のような人達も大勢いるんじゃないかな。

 ゾンビ騒動が終わったなら児童福祉は最優先になりそうだ。


「中隊本部の連中も、春の攻勢に備えているようじゃな」


 ライルお爺さんがレディさんに問いかけると、飲んでいたバーボンのグラスを隣に置いて、計画の概要を離してくれた。

 どうやら慌てずに、途中の町を1つずつ攻略していくことになったらしい。

 

「政府の混乱もだいぶ治まってきているようです。中部平原地帯は孤立した軍隊の救出を優先しているようですし、海軍も西はサンフランシスコ湾、東はチェサビーク湾に集結出来たようです。空軍はホーミー空港などに集結しているようです。周囲は荒地ですからゾンビの襲来もないとの事でした。現有兵力は陸軍が9割減で5万人、海軍が6割減で18万人、空軍が6割減の12万人。海兵隊が3割減で11万人です」


「総数は40万人以上。だが、白兵戦が出来る連中は2割程度だろう」


 ウイル小父さんの言葉に、力なくレディさんが頷いた。


「仕方あるまい。ゾンビから市民を守ろうとして戦力を順次投入しておったからのう。それでもだいぶ残ったものじゃな。ワシはその半分以下じゃと思っておったぞ」


「政府も失地回復を急ぐことなく、確実に前進する考えに統一されたということですか?」


 ニックの言葉に、ウイル小父さん達が頷いている。

 そうなると、俺達もその方針に沿った形で行動することになるだろう。

 来年にはデンバー空港への足掛かりを作るんじゃないかと思っていたけど、一歩ずつ確実にデンバー空港に向かう事になるのだろう。

 そうなると、どんな形でゾンビ掃討を行うことになるのかな?

 住宅街の端の方から呼びかけを行って、ゾンビを集める方法を取ることになるんだろうか?


「ところで、水上機が何度かデンバーに向かったようですけど、航空写真は頂いているんですか?」


「ああ、貰ってるぞ。さすがにデンバー全てを俺達で掃討など出来んからな。飛行場までの線路を中心にお願いしたいたんだ。ファイルにしてあるし、USBでも貰っているから、夕食後に皆で検討するのにも使えそうだ」


「それなら、デンバーのどの区域に核が落とされたのか分かると思うんですが……」


「それも含めて説明した方が良いだろうな。はっきりと写されていた。俺達の計画にも少し支障が出るやもしれん」


 説明は皆が揃ってからということなんだろう。

 影響はあるだろうけど、力仕事ならば問題ないんじゃないかな。危惧すべきは放射線レベルなんだろうけど、さすがに上空からでは概略しかわからないだろう。

 ドローンで地表付近の線量マップを作らないといけないかもしれないな。


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