H-079 来春の攻勢を考えよう
外はすでに雪一色だ。
今年は初雪がそのまま根雪になってしまった。来春まではジッと穴暮らしになりそうだな。
俺達だけでなくバリーさん達も山小屋に住むことになったから、リビングはいつも賑やかだ。
子供達もリビングの一角で遊んでいるから、食事時だけテーブルとベンチを子供達の遊び場に運んで取るようになってしまった。
それでも一度に全員が食事を取れないんだよね。まぁ、大所帯だから仕方がないと言えばそれまでなんだけど。
全員が食事を終わると、白板とプロジェクターを焚火の横に俺達で運ぶ。
いよいよ状況説明と言うことになる。
子供達はキャシーお婆さんとナンシーさんが見てくれるとのことだから、小母さん達も焚火の後ろの方に集まって腰を下ろしていた。
「さて、やはり皆も見ておいた方が良いだろう。デンバーの航空写真なんだが、爆撃の被害はかなりなものだ。だが、案外爆撃と言うのは効果が薄いと皆も思っているの違いない。核と通常爆弾、それに焼夷弾を使ってもデンバーのゾンビを1割程度減らしたに過ぎないだろう。多くても2割は越えないだろうな……」
デンバーの住民はおよそ70万人。夏だから観光客も多かったに違いない。仮に75万人だとすれば爆撃で倒したゾンビの数はおよそ10万体と言うことになる。残り60万体は、避難民を追いかけて移動したんだろうが、全てではないからなぁ。
三分の一以上のゾンビが未だにデンバーの町を彷徨っているに違いない。
「これが上空3千mからのデンバーの町だ。この大きな破壊の跡が核の爪痕に違いない」
補足説明として、およそ半径1kmの建物が倒壊したらしい。位置は、シビック・センター・パークと言う事だった。
「上空からでは明瞭ではないが、通常爆弾と焼夷弾の爪痕も確認できた。核を落とした場所の南に集中しているようだ。俺達も爆弾を使ってゾンビを倒しているが、あまり有効ではなかったからなぁ。落とした爆弾で倒したゾンビの数は1万体を越えることは無いだろう。デンバーには引き続き20万体のゾンビがいると考えた方が良いだろう」
「俺達の持っている銃弾の数より多いってことか!」
「全くその通りだ。やはり銃撃は従として、主は爆弾と言うことになるだろうな。現状の爆弾よりも効果が期待できる爆弾を海兵隊の本部で作っているそうだ。春には纏まった数が届くだろう」
「ダンシング・ベリーってやつか? そんなに効果があるのかな」
「バニシング・ベティだ。いい加減に覚えたらどうだ? 名前ではなく正式名称を教えておいた方が良いかもしれん。『跳躍地雷』なら分かるだろう。世界で初めて作ったのは第三帝国だぞ。あの国は、本当に頭が切れる奴が多いと感心するよ」
『ドイツが考え日本が形にして、アメリカが量産する』という話もあったな。
やはりドイツは世界一ってことなのかな?
「爆弾を地上爆発させてはゾンビの頭部破壊の割合が少ない。だが新型信管を付けた迫撃砲弾は60mm砲弾でも効果があった。それは地上1.5mで爆発するからに違いない。サミーが、跳躍地雷が使えるんじゃないかと具申してくれたおかげで、俺達もバニシング・ベティの存在に気付いたわけだ。地雷そのものでも良さそうだが、更に効果を高めるために飛び出す爆弾を大きくするらしいぞ」
「その運用方法を上手く考えないといけませんね」
バリーさんが小さく頷きながら呟いた。
グランドレイクやグランビーで行ったような呼びかけ方法で行えば、と提案したんだがウイル小父さんはやはり危険を冒したくないということなんだろうな。
それにしても、土地が広いというのは弊害もあるんだよなぁ。デンバーの郊外住宅の多くは2階建て何だけど、敷地が広いし平らな屋根が少ないからなぁ。
呼びかけ方式を使うなら、2階建て以上で屋根が平らなことが一番だ。
そんな場所が無いとなると普通の住宅と言うことになるんだが、街路樹や庭木で見通しが悪いからなぁ。いつの間にかゾンビの大軍に取り囲まれていたなんてことがあり得るから困ってしまう。
「上手い具合に、線路にはゾンビがあまり出てこない。一度大群に取り囲まれかねなかったが、ハンヴィーも機関車も動作不良を起こさなかったから無事に脱出できた。少なくとも車で道路を走るよりは安全に違いない」
「確かにあれには驚かされた。だが再び現れないとも限らないぞ。あのようなゾンビの大軍も予想して対応を考えるべきだろうな」
俺はそれを見てないんだよね。山小屋で留守番してたからなぁ。
バリーさんも危惧するぐらいなんだから、相当な数だったに違いない。
そんなゾンビを相手にするとなれば、ハンヴィーと機関車の同時故障も考えないといけないかもしれないな。
弾幕を張ると言っても、ゾンビは頭部破壊以外倒す方法が無いのが問題だ。
「レディさん。確か、グレネード弾の中には距離を指定して炸裂させることができる弾種がありませんでしたか?」
「ん? あることはあるぞ。エアバースト弾の事だな。だがあれはM203では発射できん代物だ」
「Mk-19なら車載は可能だ。ハンヴィーの銃座なら装着も問題ないだろう。次の輸送時に1式送って貰えんか? エアバースト弾も200発は欲しいところだ」
「中隊本部に具申してみる。たぶん了承してくれるだろう。それでゾンビの群れを駆逐するのか……。なるほど使えそうだな」
「それ以外にもM203を使えば十分だろう。足元で炸裂すれば奴らの足を止められるはずだ」
M203を装着したM16やM4カービンが数丁あるからね。
銃を撃つよりは効果的だろう。
少なくとも、七海さん達が逃げる時間を確保できそうだ。
グレネード弾が尽きたなら、後退しながら手榴弾を落としていけば良い。
「跳躍爆弾とエアバースト弾か……。上手く組み合わせたいところだな。バリーとエンリケ、それにレディと作戦を考えることにしたい。ある程度纏まったなら、皆に報告するぞ」
ウイル小父さんの言葉に、皆が頷いている。
冬は始まったばかりだ。ゆっくり時間を掛けて来年の作戦計画を考えて貰おう。
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夜中の12時にエディ達に蒸気機関の運転を引き継ぐと、七海さんと一緒に軽い夜食を取る。
夜食と言っても、リビングの焚火で焼いたトーストにオレンジジュースと言う簡単なものだ。オレンジジュースは粉末をお湯で溶かしただけだけど、結構甘いんだよね。俺のお気に入りの1つだ。
すでに皆は寝ているんだろう。リビングにはLEDランプが1つだけだ。
「やはり、このままアメリカに住むことになりそうですね。日本は滅んだということなんでしょうか?」
「山奥や島なら生存できると思うんだけどなぁ……。だけど、たまに短波の通信を聞いているんだけど日本からの送信は全く聞いたことが無いんだ。アジアは全滅に近いのかもしれない。アメリカだってこんなだからね。さすがに日本への援助なんてことは不可能だ」
「私と正光さんが唯一の日本人かもしれません……」
「そうとも限らない。2千万人近いアメリカの住民が生存しているんだ。その中には日本からやって来た留学生や、旅行者だっているはずだよ。日本文化を彼らと一緒に残すのが、ゾンビを駆逐した後の俺達の仕事の1つになるんじゃないかな」
「そうですね。留学生はかなり沢山来ているはずですから……」
沈んでいた表情が、少し明るくなってきた感じだな。
それなら……。
「起きているのはエディ達と俺達だけかな。一緒にサウナを楽しもうか!」
「そうですね……。それなら、サウナを出た後の飲み物を用意してから行きます。先に行ってください」
遠慮するのかと思ってたけど、そうじゃなかったな。
「それじゃあ、先に!」と七海さんに手を振ってリビングの西にある扉に向かった。
扉を開けると直ぐに寒気が流れ込んでくる。
扉を閉めて、小さなランタンが照らしているサウナ小屋へと歩き、直ぐに小屋の中に入った。
脱衣所で服を脱ぎ去りタオル片手に次の扉を開けると、そこは風呂桶とシャワーがある。サウナはその奥の扉だ。
扉を開けた途端に熱気が肌を刺す。
中に入ってベンチに腰を下ろすと、温度計に目が行くのは仕方のないことなんだろうね。
丁度100度だ。
エディ達と入るともっと温度を上げるんだよなぁ。サウナストーンを熱する石炭は追加していないから残り火でこの温度を保っているんだろう。
恥ずかしそうに、タオルで体を隠した七海さんがサウナに入ってきた。
こればっかりは慣れるしかないだろうね。
サウナを早めに出て、たっぷりとお湯を張った湯船に入る。
蒸気機関のおかげでお湯が豊富に使えるのがありがたい。
ウイル小父さんの家では、メイ小母さんが日本人の風呂好きを知っていたらしく、いつでもお湯を張ったお風呂を準備してくれたんだけど、やはり西洋風の風呂ではねぇ……。
体が温まったところで軽くシャワーを浴びて着替えをする。
七海さんはまだ風呂を堪能しているみたいだな。
先にリビングに向かい、焚火の焚き木を追加して一服を始めた。
顔を赤くした七海さんが台所に向かうと、炭酸で割った薄いバーボンのグラスを運んで来てくれた。大きな氷が浮かんでいるから、冷えた酒の喉越しが良い。
「今年もクリスマスは皆で祝うんでしょうね?」
「去年は大騒ぎだったよね。俺としてはケーキにサンタクロースのロウソクが乗ってなかったのが残念だったんだよなぁ」
「あれは日本だけですよ。アメリカやヨーロッパではその家が昔から受け継いだケーキを作るそうです。山小屋にはキャシーお婆さんにメイ小母さん、それとバリーさん達の奥さん方もいますから、すでにどんなケーキにするかで賑わってるんです。私やクリス達はお手伝いするだけですけど……」
自己主張が激しいということなんだろうか?
それなら何種類か作っても良さそうに思えるんだけどなぁ。キャシーお婆さんのお菓子作りはプロ顔負けだし、メイ小母さんの料理の腕もかなりのものだ。小母さん達が沢山いるからなぁ。それぞれ自慢の料理を持っているに違いない。
「あまりもめるようなら競作を提案したらどうかな? 子供達も沢山いるし、お菓子好きな大人も多いんだからね。無駄にはならないと思うんだけど……」
「サミーからの提案だとその時には言いますよ。一番のお菓子好きですからねぇ」
『甘いものは正義』という言葉もあるくらいだからね。
俺は正義を愛する人物に違いない。笑みを浮かべて七海さんに頷いた。




