H-777 2放置車両の塊が2か所もある
キャビンの屋根の上から、電動工具の騒音と足音で目が覚めた。
ハンモックから上半身を起こし、ゆっくりと床に足を降ろす。
そんな俺を、ジュリーさん達がジッと見ていたんだよなぁ。いつものように落ちるんじゃないかと期待したのかな。身支度をし始めた俺を見て残念そうな顔をして女性兵士達を促してキャビンから出て行った。
今日のジュリーさん達の予定は食料の確保だからね。
時計を見るともう直ぐ9時だ。とっくにジュリーさん達は朝食を終えたようだけど、俺も急がないと朝食抜きになりそうだ。
朝からハンバーガーにコーヒーという朝食を頂いていると、シグさんがオルバンさんと始めて見る下士官を伴ってテーブル越しの席に着いた。
3人ともコーヒーカップを持ってきたところを見ると、ここで今日の作業を再確認するつもりだな。
「一時的に我等の部隊に編入する陸戦第1小隊第3分隊のエリック軍曹だ。遅い朝食を食べているこの人物が我等の指揮官サイカ大尉だが、普段はサミーと呼ばれている。階級を気にせずにサミーと呼んでも構わんぞ」
「サミー大尉とお呼びします。サミー大尉の部隊と行動を共に出来ることを光栄に思っております。誰が参加するのかと陸戦部隊内で一波乱起きましたが、私が勝ち残りました。やはり軍隊内では運の善し悪しがはっきりしますね」
どんな方法で選んだのか聞いてみたら、アームレスリングのトーナメントをしたらしい。
軍曹というだけあって30代そこそこの年齢に見えるんだが、海兵隊というだけあってウイル小父さん並みの体型だ。腕の太さが俺の腿ぐらいに見える。
そんな連中がアームレスリングをしたとなれば、けが人も出ているに違いない。後で
リッツさんが聞いたら怒りだしそうだ。マリアンさんなら笑って終なんだろうけどね。
「済まないがよろしく頼む。俺達の部隊は必ずしも戦闘が得意というわけではないからね」
「冗談でしょう。アメリカ軍で一番ゾンビに詳しい部隊だと聞いていますし。ゾンビ相手に白兵戦をするとも。レーヴァ大尉の指揮する部隊の下士官から聞き及んでいます」
確かにゾンビ相手にホッケーのスティックや連結した金属棒を使って殴り倒しているからなぁ。だけどあれは、ゾンビの数が少なくて銃声をあまり立てたくない時だけなんだけどねぇ……。
エリックさんに苦笑いを浮かべて再度「よろしく」と挨拶をしたところで、残ったハンバーガーを素早く口に入れるとコーヒーで流し込む。ゴクリと喉を鳴らして……、どうにか胃に落ちた感じだ。
俺の表情を見てオルバンさんが口を開く。
「指揮車の屋根は今日の昼過ぎには完了します。普段は折り畳めるようにと、工兵達が手伝ってくれています。エリック軍曹のストライカーにもMk19グレネードランチャーが搭載されておりますから、ブラッドレー以外は全てグレネードランチャー搭載となります」
「ブラッドレーはブッシュマスターが搭載されているからな。あれで十分だろう。やってくるのはペンデルトンからだが、砲手と車長を兼ねて乗員は2名とのことだ。車両撤去に工兵を4人乗せるが、その指揮は車長に任せるつもりだ。今日の1500時に来るとのことだ」」
シグさんの言葉に小さく頷く。
そうなると、今頃はコンローにノイズマシンを設置している頃だろう。結果の確認と映像を入手するようにシグさんに頼んでおく。
「それにしても中央突破ですからね……。皆が羨ましがって困ります。手榴弾と銃弾は2会戦分を搭載しました。その外に必要な品はあるでしょうか?」
「出来れば現在フクスに施しているキャビン上部と同じように、ポリカーボネイト板の設置を行ってください。毒針を飛ばしてくるゾンビがいますからね。厚さは5mm以上欲しいです。それと7.62mm弾の使える銃かバレットも必要です。そんなゾンビがいたなら近付く前に狙撃で倒して貰います」
「既に用意出来ています。さすがにフクスの横に取り付けた短距離ロケットランチャーは搭載できませんでしたが、次の機会もあるでしょうからリクエストは済んでいます」
あれを積極的に使おうという事なのかな? あれは脱出路を確保するために考えたんだけどなぁ。レーヴァさん達もそうだし、結構付けている車両を見掛けるんだよね。リクエストすることで、そんな武装を取り付けて貰えるとはねぇ……。
午後にブラッドレーが到着するから、再度夕食後に士官を集めてブリーフィングをすることを伝えて顔合わせを終える。
かなりやる気満々の御仁だったけど、出来ればゾンビと遭遇したくはないな。
だけどさすがにヒューストンの市街地の中央を抜けるともなれば、一度は確実にゾンビの集団を相手にしなければなるまい。
その集団の規模とゾンビ種類によっては、レーヴァさん達が状況確認を行う迂回路を使うことになるのだろう。
俺達なら通れるという事であるなら、資材を満載したコンボイの通過はかなり危険な任務になりかねない。
オルバンさん達が帰ったところで指揮車両に乗り込み、状況確認をすることにした。
コンローへのノイズマシン投下と、その後の爆撃状況の方はシグさんに任せて、俺はヒューストン市街地を1日2度行っている広域偵察ドローンが撮影した映像を確認することにした。
映像は本隊経由で画像ファイルを見ることが出来るから、ノートパソコンを取り出しての確認だ。
コーヒーを飲みながら咥えタバコで、習慣高速道路沿いに飛行する映像を眺める。
やはり道路には一発も砲弾を落としていない。一番近い場所でも100m以上離れている。それよりも道路に近い建築物については爆弾を落としているようだ。道路際ギリギリの建物は完全に破壊されずに半壊状態だが、これはロケット弾で正確に攻撃をしたからだろう。
破壊した上で、ナパーム弾を何度も投下しているんだから、爆発後のクレーターが無ければ大規模な火災に遭ったようにも見える。
問題は道路上の放置車両だな。かなり多いんだよねぇ……。
車が渋滞したところでゾンビの襲撃にあったに違いない。数十台を遥かに超える車両が道路を塞いでいる箇所が2つ程ある。
どちらもジャンクションだからだろうな。これを見るとブラッドレーよりも重戦車の方が良かったように思えてならない。
工兵や陸戦部隊兵士達がいるからそれなりに撤去を進められるだろうが、その間の脅威の低減方法を考えねばならない。
咥えたタバコに火を点けてキャビンの換気口近くに移動すると、自目を閉じて脳内で色々とシミュレーションをしてみる……。
「サミー、灰が落ちるぞ!」
シグさんの声に、慌てて目を開けて咥えていたタバコを携帯灰皿に落とす。だいぶ根元付近まで灰になっていたな。服に落ちた灰を払いのけていると、シグさんが『困った奴だ』という表情で俺のカップにコーヒーを注いでくれた。
「だいぶ考え込んでいたが、やはり難しいという事か?」
「俺達だけなら何とでもなりますよ。皆が優秀ですからね。でも、45号線を利用するコンボイにとっては十分とは言えないでしょうね。護衛部隊がしばらくは必要です」
「小隊規模の護衛は長く続けられるだろう。さすがに護衛なしでの長距離輸送を行えるようになるのは早くても10年後に違いない」
小隊規模か……。ストライカー4両で100台近いトラックやトレーラーの護衛をするとなれば緊張の連続だろうな。進行先と周辺のゾンビの状況を常に監視することになるはずだ。
そんなコンボイについても統合作戦本部の人達は考えているに違いないが、先ずは俺達のことを考えよう。
「ヒューストンを抜けるまでの道路及び橋は無事ですが、数十台を超える車両が道路を塞いでいる箇所が2つあります。それ以外にもたくさんの放置車両はありますけど、それらは個々の距離がありますからブラッドレーで道路際に弾けるでしょう。ですがブラッドレー側にも衝突の衝撃がそれなりにあるでしょうから、あまり速度を上げることは出来ないでしょうね」
「市街地に入れば車両速度を時速30kmほどに落とすしかないだろうな。上空からドローンで監視するとともに、エディ達にこの車両の屋根で監視して貰うことになるだろう。サミーの耳も使えるだろうから、速度を落とすことによる危険性は少ないと考えるが?」
「それで十分に思えます。ゾンビの数が目立つようであれば、ジャックを使って道路から引き離せば良いでしょう。ですが、この2か所については少なくとも部隊を2時間以上止める必要が出てきます。車両撤去を無音で行えるとは思えませんから、ゾンビが集まってくることは確実です。それなら……」
予め渋滞している2か所のジャンクションの東西にノイズマシンを設置して、俺達の作業の間は騒音を立てて貰う。少し離れてもう1つノイズマシンを設置して貰えるなら、2時間近くはゾンビをそちらに向かわせることが出来そうだ。
ノイズマシンが作動を終えたところでコイン機に爆撃して貰えるなら、さらに危険性が少なくなる。
「2か所のジャンクションの東西に2個ずつノイズマシンを設置するのだな? 場合によっては大型のジャックをでも可能に思えるな。これは先方の都合で良いだろうが、そうなると作動信号は我等で送ることになるぞ。リッツ中佐に伝えておこう。その他に伝えることは?」
「それで十分に思えます。マリアンさんの事ですから、緊急時の援護をヒューストンの部隊に依頼しているでしょう。コイン機だけでなくブラックホークも準備していると思いますよ」
爆撃だけでなく上空からの至近距離援護は、ブラックホークの得意とするところだからな。数人が搭乗できるから、機銃掃射だけでなく爆弾の雨を降らせてくれるに違いない。
「それでコンローの方はどうですか?」
「ジャックを仕掛けて、ジャックが炸裂した後にコイン機でナパーム弾を投下していた。既に1度行っているが、先ほどもう1度ジャックを仕掛けている。2度行うならゾンビの数もかなり減るだろう」
シグさんとの雑談を終えたところで再度ノートパソコンの画像を確認する。
今度は低速低空飛行時の映像だ。ゾンビの姿がはっきりと確認できるから、ゾンビの種別が直ぐに分かる。
通常型ゾンビの中に耳の大きなゾンビを確認できたからね。この画像はサンディーも見ているはずだから、本隊のサーバ―内にある生物学研究所のファイルをタブレットを使って確認する。
直ぐにヒューストンのゾンビの種類が一覧表になって出てきた。嬉しいことに最初に確認できた日時と今までの画像から確認できた数まで書き込まれている。サンディーは秀才だからなぁ。俺よりゾンビを一番知る人物になったかもしれない。
それによると……、通常型ゾンビの割合が6割程度だ。戦士型が3割で残り1割が特殊型という事になる。通常型は今まで通りの戦い方で問題はない。戦士型は投射武器を持つ割合が5割近くにまで上がっているようだ。自走砲型のゾンビも増えつつあるんだが、俺達にとって一番厄介なのは毒針を放つゾンビだろう。当たったらすぐに解毒剤を使わないといけないからなぁ。
んっ! ヒューストンには自爆ゾンビがいないぞ。
これはどういう事なんだろう?
タブレットとノートパソコンを閉じて、テーブルの地図を眺める。
ヒューストンで起こったあの騒動以降の経緯をゆっくりと振り返ることにした。




