H-775 更にもう1つの道がある
レーヴァさん達が乗るストライカーがやって来たのは11時近くになった時だった。
ストライカー5両に兵員輸送用のトラックが1両。
トラックから降りた兵士が、トラックに連結された小型カーゴからコーンを下ろして車両の誘導路を作り始める。
工兵の人達かな? 結構簡単に行っているんだよね。
その様子を見守っていると、俺の肩がポン!と叩かれた。振りかえるとレーヴァさんが副官を伴って笑みを浮かべて立っていた。
「ご苦労だったな。それで?」
敬礼を交わしながら簡単に状況を伝えると、2人を連れて俺達の指揮車に向かった。
キャンピングテーブルとベンチが作られているし、そこにはテーブルに地図を広げたシグさんがいるからね。
シグさんがレーヴァさん達に気付いてベンチから立ち上がり敬礼をする。シグさんの敬礼は何時見ても綺麗なんだよねぇ。真似しようとしてるんだけど、俺のその姿を見てジュリーさんがたまに吹き出すんだよなぁ。
似合ってないってことなんだろうけど、軍隊だからねぇ。いつまでもみっともない敬礼をしているとウイル小父さんが笑われかねない。
4人でベンチに腰を下ろすと、ジュリーさんがコーヒーを運んできてくれた。
コーヒーを飲みながら、改めてレーヴァさんにシグさんが状況説明を行ってくれる。
俺と違って、軍隊用語が色々と使われるんだよなぁ。シグさんの説明を聞いて2人が何度も頷いているところを見ると、かなり詳しい状況説明になっているのだろう。
「……了解した。そうなると、午後には新たな命令を受けそうだな」
「ですが、さらに南の2つの町は少し物騒ですよ。出来れば叩いて貰った後にしたいですね」
やはりノイズマシンを使ってからということかな?
俺もその方が安心できるんだが、もう1つ問題もあるんだよなぁ。
「レーヴァさん達のストライカーで放置車両を弾けますか?」
「何か所かそんな場所があると言っていたな。2tまでなら可能だが、さすがにトラックともなるとそうはいくまい。ましてや大型トレーラーはストライカー2両分よりも重量がある」
そうなると放置車両の撤去は爆破して行うことになりそうだ。ゾンビが集まってくるだろうな……。
「30tクラスの戦車が欲しいところだな。戦車回収車は前世代の戦車を使っていると聞いたが?」
「M48の砲塔を撤去して強力なウインチを付けた代物があると聞いたことがある。だがどこにでも置いてあるという品ではないからなぁ。あるとするならお前達の故郷なら確実だ」
ペンデルトンってことか! だけど距離があり過ぎるからなぁ。それにかつての戦車砲塔を撤去しただけなら重量は30tを越えているだろう。チヌークで運ぶという事は出来そうにないな。
「なるほど……。連絡してみるか。数個に分解するぐらいなら、この部隊の整備兵達で十分に組み立てられるだろう。C-17を使ってこの近くに空中投下するぐらいは容易な筈だ」
「本隊に連絡して、マリアン殿経由なら直ぐに運んできそうだな。シグから連絡して貰えんか?」
「了解だ!」
そう言ってシグさんが席を立つと、キャビンに入って行った。
何となく悪巧みをした後に思えるんだが、レーヴァさんは至って涼しげな表情をしているんだよなぁ。
「これで、放置車両の撤去は容易になった。そうなると、この分岐点となる町の様子を探るのが我々の任務になりそうだな」
レーヴァさんの言葉に小さく頷くと、タバコを取り出して火を点ける。
雑談タイムに入ったという事でレーヴァさんの副官もタバコを取り出している。
温くなったコーヒーを一口飲んで、レーヴァさんに顔を向けた。
「コンローの状況偵察を指示するなら凡庸な指揮官ですよ。マリアンさんですからねぇ……、その先を指示してくると思います」
「なるほど……。その為に我等を囲い込んだぐらいだからな。迂回路の偵察、場合によってはテキサスシティまでの状況という事になりそうだ」
隣の副官と顔を見合わせると、にんまりした顔で互いに頷きあっている。
「我等の力量なら容易に可能でしょう。あの短距離ロケットを試せそうですね」
「せっかく搭載したんだからなぁ。1度も使わずにテキサスシティ入るのはどうかと思うぞ」
あれは最後の手段だと思うんだけどなぁ。ロケットは持つと使いたくなるんだろうか?
「西も東も脅威度はさほど違いそうもない。その指示が下りたなら、サミーはどちらを選ぶんだ?」
俺の隣に腰を下ろしてきたシグさんが、レーヴァさんの言葉を聞いてこれに視線を向けた。
すでに俺の意は決まっている。少し危険ではあるのだが……。
テーブルに広げた地図に指を伸ばして、コンローからテキサスシティに向けた真直ぐに指を移動する。
「おいおい……。それは無いだろう。さすがに無茶が過ぎるぞ!」
「ヒューストンの中心街を真っすぐに向かうという事ですか! 未だにヒューストン市街地への砲撃は継続しています。ゾンビの大集団が襲ってくることは確実です!」
「そうでしょうか? 俺にはマリアンさんがクロードさんに命じたあの大口径砲による艦砲射撃は、将来への布石に思えるんです……」
シグさんがタブレットを取り出して最深のヒューストンの画像を映し出してくれた。
俺の説明を聞きながら、その画像を何度もレーヴァさん達が確認している。
少し長い説明を終えると、レーヴァさんが大きなため息を吐く。
「全く、どんな教育を受けたのかと考えてしまうな。レディが気に入るのも理解できるが、サミーはそこまでマリアン殿を買っているのか?」
「凡庸の指揮官ではありませんからね。腹黒タヌキという感じでもありません。どちらかと言うと異端の指揮官、アレキサンダーやカエサル、ナポレオンと対峙しても十分に戦えたと思いますよ」
「有名どころと遜色が無いという事か……。御し難いと統合作戦本部が嘆くわけだな」
「ですが、本当に可能なのですか? サミー殿の説明を聞いて何度も頷くことは出来ましたが、一歩下がって再度考えると無謀としか思えません」
副官2人が顔を見合わせて頷き合っている。
確かに事前の状況確認は必要だろうな。
「ヒューストンに未だに20万体を越えるゾンビがいると俺は推測しています。でも、今までの砲撃で分布に偏在が生じているとの想定が、市街地突破のキーと言えるでしょう。偏在していないなら、自爆も良いところです。それに西と東の偵察はかなり強硬な偵察となりますよ。先ほどに話通りに短距離ロケット弾が必要になる可能性があります。となれば……、それは陽動にもなりますよねぇ」
「面白そうだな。だが、サミーの言葉はかなり推測が多いようだ。マリアン殿は案外慎重だぞ」
慎重ではあるんだが、大胆でもあるんだよねぇ……。
状況を見極める天性の才能があるのかもしれない。かなり危険度のある任務でさえ、仰せつかることがあったぐらいだ。
「ヒューストンを通過する方法は3通りあると考えておけば良いでしょう。東西どちらかを選ぶかもしれませんし、ヒューストンに真直ぐ向かう45号線に陽動を仕掛ける事だってあり得ます」
「いずれにせよ、陽動は必要ということだな。ノイズマシンとコイン機やブラックホークを使ってヒューストン中央にゾンビを集める事だってあり得そうだ」
ヒューストン中央部にゾンビを集めて爆撃を加えている間に、3通りの路線の状況調査をすることもありえるという事か……。
マリアンさん達が到着するのが楽しみだな。
「そうだ! 忘れるところだったぞ。全部体が到着した時に日が暮れるだろうということで、ハンツビルの状況を探ってくる。我等の部隊だけで十分だから、サミーはここで待機していてくれ」
互いに席を立って敬礼をして別れる。
ジャックを5つほど仕掛けると言っていたから、今夜にはハンツビルの状況も分かるだろう。
その先にあるのはコンロ―だ。
マリアンさんの選択はどの経路になるんだろう?
昼食のレーションを温めていると、次々と車両が鉱山跡地に到着し始めた。
バッファロービルに向かう道路上に移動しての昼食になったけど、それでも埃が結構ここまで来るんだよなぁ。
早めに食事を終えるとフクスの屋根の上に乗り、コーヒーを飲みながら遥か西に続く車列を眺める。
一際大きな車両がやって来た。
陸上艦隊の旗艦に違いない。ハッチからシグさんが顔を出して、本隊の指揮車両への出頭指示があった事を伝えてくれた。
「まだレーヴァさん達は戻ってないですよねぇ」
「帰路途中のようだな。1時間もせずに到着するはずだ。出頭時間は21時だから、十分余裕がある」
腕時計を見るとまだ20時前だ。
車両を並べ終えるのに時間が掛かると見込んでいるのだろう。
「我等の車両の位置を、先程指定された。オルバン達の準備が終わり次第移動するぞ」
「奥ではないですよね? 俺達の出番は直ぐに来ると思いますよ」
「しっかりと道路近くに指定されたぞ。移動に時間時は掛からんから、到着する車両が一段落したところで移動すれば十分だ」
今は下手に動かない方が良いということかな? だけど移動する前に本隊の指揮車両に出頭したなら、帰りが心配だ。
さすがにマグライト片手に、自分達のフクスを探すなんてことにはならないと良いんだけどねぇ。
大きなテントに十数個のテーブルセットが並んでいる。その奥にはカーゴに搭載されたコンテナが数台並んでいる。コンテナの大きな開口部に設けられたテーブルからトレイに料理を取り分けて空いているテーブルに座って夕食を頂く。
エディ達と食べていると、空いた席にオルバンさん達が着いた。
「やはり小母さん達の料理が一番だよなぁ。いつもレーションではねぇ……」
「キャシーお婆さんも料理上手だけど、この部隊の小母さん達も上手だよね。クリスの手料理は、少しはマシになったかなぁ」
「クリス達の前では絶対に口にするなよ。『それなら……』って作るに違いないからな」
まだ引きずっているみたいだな。エディ達のトラウマという事なんだろうけど、メイ小母さんはさすがにキャシーお婆さんには適わないけど料理上手の範疇に入るはずだ。山小屋でしっかりと指導を受けているようだから、俺達が牧場を開く頃には何とかなりそうだ。
「ナナはどうなんだい?」
「聞くのが怖いから、聞いたことが無いけど……。たぶん同じだと思うよ。こっちにホームステイして、初めて包丁を握ったようなことを言ってたからね」
「レーションをたっぷりと用意しておかないといけないかもな。ところでサミーは料理が出来るのかい?」
そんな問いに、自分で出来る品の名を幾つか上げたんだけど、エディ達が首を傾げているんだよなぁ。やっとカレーライスの名を聞いて頷いているぐらいだから日本料理はあまり味わったことが無いのかもしれない。
「今度何か作ってくれよ。簡単なもので良いからな」
ニックの言葉に頷くと、オルバンさん達まで笑みを浮かべているんだよなぁ。
山小屋で手に入れた蕎麦粉を使って作ったソバガキは、エディ達も美味そうに食べていたから本格的な蕎麦を作ってやろうかな。粉末醬油もあるし、ダシは山小屋で釣った魚を使えば何とかなりそうだ。スーパーマーケットで見つけた粉末ワサビや乾燥ネギもあるからね。
夕食を終えて時計を見ると、指揮所への出頭時刻30分前だった。
コーヒーを飲みながら、タバコを一服。
荒野で俺達の部隊だけでいる時と比べると、部隊が全員集合しているから安心感がある。兵士達の雑談が大きく聞こえるけど、周辺の監視も万全な状況だから、そんな兵士を咎める者もいない。
コーヒーを使用済みの大きなカゴに戻していると、シグさんが俺を呼ぶ声が聞こえて来た。
片手を上げて所在を示すと直ぐに駆けてくる。
バッグを肩に掛けているのは、中にタブレットを入れているからだろう。俺のバッグはフクスに置いたままだけど、シグさんがいれば問題は無いな。
「20分前だ。そろそろ出頭するぞ!」
「少し早いですけど、出掛けますか」
あまり早いと、本来の任務以外の事も仰せつかりそうなんだよなぁ。
指揮所のある戦車運搬車に向かって歩いていると、レーヴァさん達の姿を見つけた。
早くに報告することがあるのだろうか? そっちの方も気になるんだよなぁ。




