H-075 俺達の部屋が出来た
3階に作った小部屋は4部屋だった。
その内に増えるだろうと言っていたけど、多い分には問題は無いだろう。
階段を上って、東側に通路が作られ、突き当りはリビングを見下ろす形になっているから、頑丈な柵が作られてあった。
奥から俺、エディ、ニックの順に部屋が割り振られたところで中に入ってみると、今まで暮らしていた俺達の部屋と全く変わり映えがしない。強いて言うなら、西側の斜めになった壁に丸窓があるくらいだな。
丸窓は直径30cmほどなんだが俺の肩付近に設えてあった。外窓の外にはグランビイ湖が一望できる。明かり取りにも使えそうだな。
明かりと言えば、LEDランタンが1つ吊り下げられてあった。リモコンで明るさが調節できるらしい。
「ベッドは窓際、ロッカーはベッドの足元が良いでしょう。小さなテーブルと折り畳み椅子は、ベッドの横に置きましょう」
夢見るような表情で七海さんが場所を決めてくれた。テーブルと言っても木箱なんだけどね。上に白い布を被せればテーブルに見えなくもないな。
俺は何処でも良いと思っていたから、七海さんに任せておこう。
「さて、そうなるとベッドの組立だね。テリーさん達が荷物運びを手伝ってくれるらしいけど、俺達が頑張らないといけないからなぁ」
駐車場に向かいサミーと名札が下がったベッドの梱包を解いていると、テリーさん達が応援に駆けつけてくれた。
「これがサミーのベッドかい。俺達も探してきたんだ。結構重かったんだよなぁ」
「かなり分解したんですけど、一番重かったのはマットレスですよ。なんで2分割にしなかったんでしょうね」
「運搬業者は力自慢が揃ってるからじゃないのかい。もっとも、この厚さは中のスプリングの重さでもあるんだ。それだけたくさんのスプリングが配置されているってことだな」
スプリングは必要なんだろうか? 一番固いマットレスを選んであるんだけど、俺には板張りでも良い気がするんだけどなぁ。
「まぁ人生の三分の一は寝ていると言われるぐらいだからね。ベッド選びはマットレス選びでもあるんだ。しばらく寝てみて合わないようなら、別のマットレスを探すことだね」
なるほど……。合う合わないということがあるってことだな。
それは考えないといけないことかもしれない。
そんな話をしながら、次々とベッドの部材を部屋に運び込んで組み立てを始めた。
七海さんは小母さん達に手伝ってもらいながら冬用のベッド用品一式を運んでいるが、肝心のベッドが組立途中だからねぇ。とりあえずは突き当りの小さなバルコニーに荷を下ろしているようだ。
昼過ぎにようやくベッドが出来上がると、マットレスを乗せて後は七海さんに任せることにした。オリーさんが応援に来てくれたから、2人で何とかなるんじゃないかな。
テリーさん達が少し大きい木製のロッカーを運んで来てくれたから、残りは木箱と椅子だけになる。これは俺1人でも十分だ。
「俺の方はこれで一段落です」
「了解。次はエディ達のところだな。それよりニックの方に向かうか? ベッドの部材を前に途方に暮れてたからなぁ」
頭は良いんだけどなぁ。物作りはあまり得意じゃないんだよね。
エディなら設計図等使わずに組み立てることができるんだけどなぁ。俺も早めに運び終えてニックの手伝いをしてあげよう。
そんなことで少し時間が掛かってしまったけど、15時過ぎにはどうにか各自の部屋に必要な品を納めることができた。
リビングに集まり、皆でコーヒーを飲みながら一休み。
タバコに火を点けて、疲れた体を休ませる。
「後は俺達の部屋の片付けと言うことになりそうだ。ロッカーの荷物を移動するだけでなく、ベッドのシーツや布団まで纏めないといけないよ。シュラフは持っていくことになりそうだ。パット達のシュラフと合体させればダブルサイズになるらしいからね。だけどその前に洗うと母さんが言ってたんだよなぁ。簡単に乾くんだろうか?」
まだ厳冬期ではないからね。洗うなら確かに今の内なんだろうな。
「結局は蒸気機関の始動をライルお爺さんに任せてしまったんだよなぁ。今夜から俺達でやらないと……」
「今年はテリーさんとベントンさんが手伝うと言ってくれたよ。5組になるからシフトを考えないといけないね」
「いつも同じ時間というわけにもいかないだろうな。1日を4つに分けて、1組は休みと言うのが良いと思うんだけど」
エディの提案にニックと俺も賛成する。
常に1組が休めるというのが良い感じだ。風邪でもひいたなら休んでいる組が入れば良いはずだし、ライルお爺さんだってその時には助けてくれるに違いない。
「さて、始めようか。俺達が終わらないとテリーさん達の引っ越しが出来ないからね」
焚火の傍を離れると、今度は俺達の部屋に向かう。
先ずはロッカーの中身を移動しないといけない。リュック1つだけだったんだが、何時の間にか色々と増えてるんだよなぁ。
新しい部屋のロッカーは収納能力は5割増しになっているはずだけど、何となく足りなく思えて来るんだよね。
ロッカーの中身を全て移動し終えると、今度はベッドマット以外の寝具をひとまとめにして台所へと持っていく。台所の奥にランドリーがあるからだが、洗濯機が3台に乾燥機が2台も揃っている。
使っているのは1台ずつらしいけど、山小屋で暮らす人数をかなり沢山に考えていたからだろう。
「ご苦労様。そこに置いてくれれば十分よ。新しい寝具はナナ達に渡してあるから、今夜から2人で寝られそうね」
そう言って、隣にいたキャシーお婆さんと笑みを交わしている。
「はぁ……。果たして眠れるかどうか……。今まで一緒に寝たことがあるのはネコのタマだけでした。背中を向けると、嫌がって横腹を爪を立ててお腹に回ってくるんですから、年中生傷が絶えなかったんです」
「へえ~、ネコと一緒に寝てたんだ。それならネコだと思えば良いわ。それと大事な事を教えてあげるわね。しっかりと抱いていれば蹴落とされないわよ」
メイ小母さんの言葉に、キャシー小母さんと奥にいたナンシー小母さんまで吹きだしている。そのまま大きな笑い声をあげたから、ナンシー小母さんのお手伝いをしていたエマちゃんがキョトンとした表情でお母さんを見上げているんだよなぁ。
「あまり笑わせないで頂戴な。でも、サミー……。今の話はある意味間違ってはいないよ。一緒に寝たことで初めて相手の性格が分かるとまで言われているからね」
ふんふんと頷いておく。
人生経験の豊富なご婦人方の言葉だからね。
清楚な感じがする七海さんの寝相が悪いということだって、十分にあり得る話だ。
「今が10月の末なのよね……」
「11月と言って良いでしょう。となると、来年の夏が楽しみね。一度に4組ともなれば、今年の冬は編み物を頑張らないといけないね」
なんか恐ろしい妄想を抱いていそうな気がするんだけどなぁ……。
「後はよろしくお願いします!」と声を出して、急いでランドリーを後にしたけど、ランドリーでは3人の小母さん達が空想の世界を楽しんでいるようだ。ちょっと取り残されたエマちゃんが気の毒に思えてきた。
これで全て引き払ったから、ニック達の様子を見に俺達が暮らしていた部屋を覗くと、どうにか寝具を纏め終わったようだ。
「新しい部屋に行って、ナナの要望が無ければ蒸気機関の部屋に行ってみるよ」
「そうだな。俺達もサミーを見習うことにする。最後は蒸気機関の部屋ならそこで待っていてくれないか」
今度は3階に上がり、新しい部屋の扉をノックする。
「どうぞ」と言う七海さんの返事が返ってきたところで扉を開けると、七海さんが自分の荷物をロッカーに入れているところだった。
「だいたい終わったかな?」
「これで引っ越しは終わりました。皆で住んでいた部屋の寝具まで運びだしましたから」
「ここで暮らしていけるかな?」
「行けるかではなく、行けないと駄目でしょう。2人で頑張ればなんとかなりますよ。ところで1つお願いがあるんですが……」
七海さんのお願いならなんでも聞いてあげるのが俺の矜持なんだろう。しっかりと視線を向けて頷いた。
だけどその願いと言うのがねぇ……。
ガンラックを作って欲しいということなんだよなぁ。棚でも良いと言っていたけど、要するに入り口近くに並べておきたいということなんだろう。
確かにロッカーの奥に仕舞いこんでいては、出し入れが不便であることは間違いない。
「これから蒸気機関の場所に行くから、ライルお爺さんと相談してみるよ。ライルお爺さんのお店にはそんなラックがあったからね。作り方の相談に乗ってくれると思うんだ」
直ぐにゾンビがやって来るとは思えないから、この冬の工作の1つと考えれば良いだろう。たぶんパットやクリスも同じような不満を持っているかもしれない。
エディ達が来た時にでも教えてあげれば良いかな。
「それじゃあ、夕食時に」
そう言って、部屋を後にした。
七海さんはこれからベッドメイキングをするらしい。
シーツを敷いて布団を乗せるだけで良いような気がするんだけど、そこは女性だからね。俺達とは違った考えがあるに違いない。
蒸気機関のある部屋に行くと、部屋の温度がかなり高くなっている。上着を脱いで、石炭庫の縁に腰を下ろす。
丁度良い高さなんだよね。これとは別にベンチもあるけど、俺達はいつもこの縁を利用して腰を下ろしていたんだよなぁ。
「やって来たということは、引っ越しが済んだという事じゃな?」
「後は細々したことですからナナに任せてきました。もう直ぐエディ達もやって来ると思います」
「これを去年の冬に動かしてたのかい? 最初はどうなることかと思っていたけど、水温計と圧力計、それに水位計を見ていれば良いと分かって安心したよ」
「俺達も最初はヒヤヒヤしながら動かしてました。でも結局は自己調節が出来てるみたいで、水位計の目盛りを見てた気がしますね。圧力計と水温計は引継ぎの時に確認するぐらいでした」
「まぁそんなものじゃろうな。水温はそれほど変化せぬだろうし、圧力計はあのクルクル回っておる調節機構がしっかり働いておる。あれが停まっても、2段の安全弁があるからのう。破裂することは考えられんよ」
「全く電気を使わないで動くんですからねぇ。昔の人は偉いと、つくづく感じましたよ」
「元は鉱山の水汲み用なんじゃ。これでも10馬力はあるんじゃぞ。発電機も交換しておいたから今年の冬は5KWまで電気が使えるわい」
石炭の消費がそれだけ多くなるという事でもないらしい。計算では8KWほどまでなら圧力調整機構すら調整する必要が無いと教えてくれた。
だけど、これ以上に電気を使う事があるんだろうか?
冬の暖房は薪ストーブとリビング中央の焚火だからね。洗濯機や冷蔵庫も動いているけど、省エネ製品らしいからそれほど電気は必要ではないらしい。
「余裕があれば、それなりに満足できるからのう。寒くて電気毛布を皆が使うようなことにはなるまい。湯たんぽで十分だろうよ」
確かに何時でもお湯を沸かしている状況だからなぁ。
湯たんぽのお湯には困ることは無いだろう。倉庫に沢山用意されているんだろうか?
早めに確保しといた方が良いのかもしれないな。




