H-076 起きてくる順番を賭けるなんて
他人と一緒にベッドで寝るというのは、やはり緊張してしまうんだよなぁ。
「これからよろしくお願いします」と互いに挨拶してベッドに入ったんだけど、さすがにネコではなく人間だからね。
その上、下着だけだというのも問題に思えるんだけどなぁ……。
七海さんは疲れていたのか直ぐに眠りについたみたいだけど、俺は益々目が冴えしまうばかりだ。
朝まで羊を数えようかと考えていると、いきなり七海さんが身を寄せてきた。
寒いのかな?
羽根布団をしっかりと掛けてあげたけど……、これから朝まではかなりの時間がある。
今日が眠れなければ、明日は早々に寝れるかもしれないと考えていたのは覚えているんだが……。
「おはようございます!」
七海さんの元気な声で目が覚めた。
まだまだ頭が半分寝ている状態なんだけど、テーブルの上の目覚まし時計は7時半を過ぎている。
慌てて布団を捲ると、椅子に用意しておいた着替えに袖を通していく。
「七海さんは早起きなんだね」
「いつもクリスを起こしてたんです。今日はちゃんと起きられたかしら」
パットやクリスも目覚まし時計を遠くに置いたらしいから、自分で止めない限り大丈夫に違いない。
それより何時にセットしたんだろう? そっちの方が気になるところだ。
俺が着替えを終える頃に、七海さんのメイクも終わったようだ。色白の上きめの細かな肌だからメイクなんて必要ないようにも思えるんだけどね。
でもメイクをしているということはすでに顔を洗っているという事じゃないのかな?
いったい何時に起きたんだろう?
「これがタオルですよ。シャワー室の棚にサミーと名が入っているそうですから、顔を洗い終わったらその棚の袋に入れておいてください」
「纏めて洗濯するんだっけ。了解だ」
タオルを受け取って、部屋を出る。俺の洗濯物がないのは七海さんがすでに運んでくれたのだろう。
1階までは一緒だったけど、廊下で分かれて七海さんは台所に向かって行った。
シャワー室で軽くシャワーを浴びて頭をはっきりさせる。顔はシャワー室の中で洗うことにした。
濡れたタオルを絞って、井形に並んだ棚の中から俺の名を見付ける。
洗い物を入れる網のような袋はすでに膨らんでいるから、七海さんが入れたのかな?
さっぱりしたところで、リビングに向かう。
中央の焚火にはウイル小父さんとライルお爺さんがクッションに腰を下ろしていた。
「サミーが一番か……。エディ達だと思ってたんだがなぁ」
「賭けはワシの勝ちじゃな。ブランディ―は頂いたぞ」
「なに、まだバーボンが残っておる。さすがにバリーには負けたくないぞ」
俺達がリビングに現れる順番で賭けをしていたらしい。
困った小父さん達だけど、自分の息子には賭けなかったみたいだ。俺もニックが最後だと思っているからね。
「ほらほら、くだらない事をしてないでパンを炙ってくださいな」
俺に笑みを浮かべてコーヒーカップを渡してくれたメイ小母さんが、ウイル小父さんに向かって大きなバスケットを手渡している。
コッペパンのような少し細長くて硬めのパンだからだろう。軽く炙ってジャムを付けるに違いない。思わずゴクリと喉が鳴る。
「ちゃんと眠れたか?」
「時計が3時を回ったのは覚えてるんですが、気が付いたらナナに起こされてました」
俺の答えに2人が苦笑いを浮かべている。
予想通りと言う事かな?
「初めてベッドに2人で入って、直ぐに眠れるのは女性だけらしいぞ。俺は窓の外が明るくなったのを覚えているからなぁ」
「ワシも似たようなものじゃ。隣のキャシーはぐっすりじゃったなぁ。サミーが欲しがっていた銃のラックはワシが作ってやるぞ。バリー達も欲しがるじゃろうから順番じゃな。どんな形が良いんじゃ?」
「西部劇の保安官事務所にある銃のラックが良いですね。あの薪ストーブ傍の壁についているような感じの奴です」
「了解じゃ。中には横に置きたいと言う奴もおるからのう。あの形が王道じゃと思うぞ」
銃のラックに王道ってあるんだ。
今日は少し賢くなった気がするな。
「ウイル、バーボンは俺の物だぞ!」
コーヒー片手に現れたバリーさんが指さした先にいたのは、2人並んでリビングに近づいて来るニック達だった。
「珍しく早起きしやがって……」
文句を言ってるけど、ニック達はキョトンとした表情だ。俺の隣にニックが腰を下ろし、パットは台所に向かって行く。
「だいぶ早起きだったな。ニックの事だから昼まで寝てると思ってたんだが?」
「パットが起こしてくれたからね。でもエディはどうなるんだろう? クリスも朝は弱いと言ってたからなぁ」
それは楽しみだな。
多分朝食が終わってから起きて来るんじゃないか?
レディさんやオリーさんもリビングにやって来た。さすがに焚火の周りで食べられる人数は限られているから、俺達に朝食が運ばれてくる。早く食べて場所を開けて欲しいということなんだろう。
野菜とベーコンのスープに先ほど炙っていたパンにジャムが挟みこまれて運ばれてくる。トレイに乗せて隣に置くと、ゆっくりとパンから食べ始める……。
朝食が終わると、直ぐに場所を開ける。
向かった先は、薪ストーブを囲むように置いてあるベンチになる。
改めてコーヒーを淹れて貰い、タバコに火を点けて窓の外を眺めた。
昨日から降り出した初雪が、まだ降っている。
広場の積雪は10cmほどあるんじゃないかな。このまま根雪になるんだろうか?
「氷上の釣りを楽しみたかったんだけどなぁ。トラックを出せないから、もう少し雪が深くなってからスノーモービルで探そうぜ」
「そうだね。となると、一服してからテリーさん達と交代しないか。その内にエディも降りて来るだろうから、今日は蒸気機関の場所で過ごそう」
ベンチから腰を上げてリビングを出ようとした時に、後ろから声が掛かった。
呼んだのはウイル小父さんだった。
どうやらバリーさん達の引っ越しの手伝いと言う事らしい。
「ワシが蒸気機関を面倒見とくから、ニック達は部屋の模様替えの手伝いをしてやってくれ」
「昨日は、いろいろとお世話になりましたからね。それで、どのように手伝えば?」
「ニック達が暮らしていた部屋の2段ベッドの片方を撤去して欲しいんだ。俺達のベッドはマットレスだけで良いから、床に四角の枠を組むだけで良いんだ。撤去した2段ベッドを材料にして作るつもりだから、廊下に部材を積んでおいてくれると助かる」
「俺達の部屋とパット達の部屋の2段ベッドの片方と言うことで良いですね。早速始めます」
道具は倉庫にあるから、それを持っていこう。
前の部屋に行く途中でエディ達とすれ違った。
「だいぶゆっくりっしてたね。俺達は朝食が済んでるよ」
「ほら! 直ぐに起きないからよ。私だってメイ小母さんに顔を合わせられないじゃない」
ぶつぶつと文句を言ってるクリスをなだめながらリビングにおりて行ったけど、俺達の作業に直ぐに合流してくるんじゃないかな。
最初は俺達の部屋からだ。エディ達が使っていたベッドを分解していく。マットがそのままだったから、先ずはマットを取り外して通路に持ち出し、ニックと一緒にベッドの分解を始めた。
案外簡単な作りだな。1時間も掛からずに終わってしまった。
次はパット達に部屋に取り掛かろうとしたところでエディが参戦してくれた。これでさらに分解速度が上がるだろう。
部材を通路に運びだしていると、バリーさん達が工具箱を抱えてやってきた。
「もう1部屋を終えたのかい。それじゃあ、この部屋から始めるぞ!」
3人掛かりで作業を始めたようだ。
さて3部屋目なんだけど、これはこのままで良いらしい。レディさんにオリーさん、それとナンシーさん親子の4人で住むと言っていたからね。
部屋の名札も4人名が掛かれているところを見るとすでに各部屋の住人が決まっているのかな?
午前中に3台の二段ベッドを分解し、午後は残りの2台を分解する。これで広場でキャンピングトレーラー暮らしをしていた人達全員が山小屋に入れることになる。
まだベッドの改造と、マットレス運びが終わっていないから、明日の午後に引っ越すことになるんじゃないかな。
午後のお茶に時間に、テリーさんとケントさんがリビングに顔を出したので蒸気機関の運転の交代順序を調整することにした。
「明日は引っ越しでしょうから、明後日の8時までは俺達で動かします。明後日の8時からケントさん、テリーさんの順番で引き継いでください。他の仕事もあるでしょうから、蒸気機関の運転シフトは6時間交替とします。丁度5組ですから朝の8時に仕事を終えたなら次は翌日の14時からにになります」
「常に同じ時間にならないようにとの配慮だね。了解だ。それじゃあ、明後日までよろしく頼んだよ」
テリーさん達が加わるまでは俺達3人組だから、4時間交替のシフトを組むことにした。
最初はニックでエディ、俺の順になる。
「16時にライルお爺さんと交代するよ。夕食はパットに運んで貰おう」
「20時からは俺で、24時からはサミーだな。目覚まし時計をもう1つ用意しておくよ。目覚まし時計は鳴ったんだけど、クリスが止めて二度寝してしまったんだ」
「俺もそうしようかな。サミーは問題ないのかい?」
「ベッドから目覚まし時計を離してあるんだ。ベッドを下りて歩くことになるから、さすがに起きてしまうよ」
七海さんに起こされたのは黙っていよう。
「それじゃあ、20時にはちゃんと来てくれよ!」
ニックがエディに念を押して、薪ストーブから離れて行った。パットを誘って蒸気機関のある部屋に向かうのだろう。
さて、2階に行って俺達に手伝いが出来るかどうか聞いて来るか。
夕食までには間があるからね。荷物の整理ぐらいは手伝えるかもしれない。




