H-749 小形の自爆ゾンビは450マーリン弾で倒せない
エディ達が夕食まで粘って釣り上げた魚を、ドローンでジャックを設置した場所まで運んでいく。
けっこう大きなブラックバスが釣れたと言って、得意げな表情で指揮所にやって来たんだよなぁ。獲物をぶら下げてきたのには驚いたけど、50cm近くあったんじゃないかな。
ジュリーさんが2人に笑みを浮かべて、持参した魚の口の奥に発信機を差し込んでいたんだよね。2匹に発信機を取り付けたなら1匹位はどこかに持っていくに違いない。
これで、この区域のゾンビの枢要区域が分かるはずだ。
夕食を終えて俺達は指揮所に引き上げたんだけど、エディ達は台船で夜釣りをすると言っていた。
夜なら大きなナマズが掛かるかもしれない。今夜がダメでも明日も発信機を仕掛けることが出来そうだな。
「作戦をどこまで理解しているか疑問ではあるが、兵士ならそれで十分だろう。だがサミーは夜釣りに参加せずに、ここで状況を見守るのだぞ」
「それぐらいは心得ています。でも、数日後には参加したいですね」
俺の言葉に、少し苦笑いを浮かべてシグさんが頷いてくれた。先ずは状況をある程度確認しないことにはねぇ。ここは俺が名目上の指揮官になるんだから、ある程度は我慢するしかないんだよなぁ。
「ジャックの起動まで1時間程あるんだよね。市街地のゾンビは大人しいけど、郊外では通常型ンビ達が動いているよ」
「やはりここでも狩りをしているという事か。ゾンビ達もそれなりの生活圏を持っているという事なのだろう」
ゾンビの新陳代謝が俺達人間よりも低いらしいから、必要となるエネルギー源は少なく済むとのことだが、全くエネルギー源を補給しないで済むという事ではない。ゾンビ騒動の始まった当初であればいくらでも人間を襲えただろうが、今ではしっかりした防衛区画の中にいるからなぁ。人間以外の動物を狩るしかないだろう。生物学研究所の話では、地中の栄養素を吸収できる可能性もあるとのことだが、それでは植物と同じになってしまう。
待てよ……。案外、そっちに進化したゾンビもいるんじゃないかな。
全く動物を狩ることが出来ない環境だってあるはずだ。そこまで極端ではなくともゾンビの集団を維持するに見合った狩りが出来ないとなれば、ゾンビ同士で共食いを始めるだろう。結果的に群れの総数がどんどん減っていくことになる。
ゾンビの恐ろしさは数だからなぁ。他の集団との争いも結局は数での勝負でしかない。そんな状況下になった時の進化の方向は……。動くことを止めて、その地で根を張るという事になりそうだ。
もし、そんなことが起こっているとするなら、その場所はどこなのだろう?
環境条件が厳しくて動物が生息しない場所は……。
「シグさん。アメリカで一番野生動物が少ない場所はどの辺りになるんでしょう?」
「んっ! 突然変な問いかけをするな。……そうだなぁ。やはりアメリカ南西部になるだろう。ロッキー山脈に囲まれた砂漠地帯だ。灌漑用水路を整備したようだが、元々年間降水量が低い土地だからなぁ。農業経営は難しいだろう。かつては鉱山があったらしいが、今ではゴーストタウンばかりだと聞いたことがあるぞ。サミーはラスベガスの行ったことがあったな。あの辺りがその代表例になる」
確かに緑は無かったな。
でも東の人造湖から導水路があったはずだ。あの導水路に水が流れて来ないのであれば、植物さえ生育するのは難しいかもしれない。
となれば、広範囲に調査すべきかもしれない。さすがにペガサス型のドローンを大量に使用することは出来そうもないが、4輪駆動の電動車にマジックハンドとカメラ、それに聴音装置を取り着ければ、植物に進化しつつあるゾンビを見つけることが出来るかもしれない。
完全に植物かしているなら俺達の脅威にはならないだろうけど、食虫植物のような形態に進化しているなら、早めに根絶やしにした方が良さそうだ。
そうなると、火炎放射器位は装備しておいた方が良いのかもしれない。
これも自律型ドローンとするなら、オットーさんが協力してくれそうだな。
製作目的と仕様を取りまとめて、オリーさんに送っておこう。俺の取り越し苦労だと笑って貰っても構わないけど、一応念の為だと注記しておけばある程度真剣に考えてくれそうだ。
ノートパソコンで簡単な資料を作り、ジュリーさんに山小屋のオリーさんにメールを送ってもらう。
そんなことをしていると、そろそろジャックの炸裂時間が近づいてきた。
「昼に比べてダイブ集まったな。100体近くいるようだ」
「小型の自爆ゾンビを見つけたよ。ジャックで倒せない時はスナイパードローンを使うからね!」
ジュリーさんが俺達に向かって確認してきた。シグさんがしっかりと頷いているから、今夜でスナイパーユニットの有効性が確認できそうだな。
それにしても通常型に戦士型、自爆型と種類が多いな。戦士型も昼には居なかった大砲を持った奴までいるからね。
「どこに隠れていたんでしょうね。さすがに地中に潜っていたとは思えませんが」
「住宅に潜んでいたのかもしれん。やはりテンプル地区の住宅は燃やしてしまおう。明日、エニーに伝えておくぞ」
モニターを眺めながら、シグさんの言葉に頷いた。
やがてシグさんがカウントダウンを始める。カウントが『ゼロ』を告げた次の瞬間、モニターに爆炎が広がった。
上空に待機していたドローンのカメラが映像を拡大する。
爆炎が晴れて映し出された光景はいつも通りだったんだが……。
「自爆ゾンビは健在だよ。隣にいたゾンビは倒れているんだけどなぁ。スナイパードローンを発進するからね!」
ジュリーさんがこちらに顔を向けずに大きな声を上げる。
直ぐにもう1つのモニターの映像が切り替わった。画面に地表が滑るように流れていくからこの画像がスナイパードローンの映像になるのだろう。
「魚を運び去ったゾンビの追跡は出来ているな?」
「もちろん。しっかりと確認出来ているから安心して!」
ジュリーさん達は忙しそうだな。
ちょっと申し訳なく思い、ジュリーさんの後ろ姿に頭を下げる。
40インチのモニターの片側にベルトン市の地図が映し出される。その地図に2つの赤い輝点が移動しているのはゾンビが発信機を飲みこませた魚を持って移動しているからだ。隣のモニターにはドローンからの映像が映し出されているが、夜は結構ゾンビが町中を徘徊しているようだな。魚を持っているゾンビがどれなのかまるで分らないんだよね。
「まだ先のようだな。この移動経路を見ると、この先のこの建物が怪しく思えるな」
シグさんが席を立って、モニターに近付くとドローンの画像の右上に映っている建物を指差した。
2階建ての四角い建物だ。
お店ではなさそうだな。駐車場に停まっているのは……、パトカーじゃないのか!
「警察署ですか。郊外という事になればちょっとした待機所という事になるんでしょうが……」
「たぶん地下室があるに違いないな。頑丈そうだが、もしそうならハンタードローンの迫撃砲弾では破壊できそうにないな。一応やってみてダメなら、明日エニーに依頼しよう」
「アメリカは警察署が襲われるなんてこともあるんですか? 銀行ならまだしも……」
「襲撃に備えるというよりも、長く使うためだろう。一応公共の建築物だからな」
そういうものかねぇ……。俺の一般常識が通用しないのがアメリカなんだよなぁ。それだけ平和な国で育ったという事なんだろうけどね。
「見つけた! 自爆ゾンビを見つけたよ!! 銃撃してみるね」
ジュリーさんが、俺達に顔を向けずに大声を上げた。
ドローンの映像が切り替わる。今度はスナイパーゾンビの映像だな。
画面にしっかりと自爆ゾンビの映像が映し出されている。
それにしてもおかしな形だ。丸太のようなゾンビもいたけど、小型の自爆ゾンビはグリス缶を少し引き伸ばしたような胴体に5対の脚を持っている。その足はサソリ型戦士の持つ脚よりは短いんだがそれなりに太いから力強さを感じる。頭部は胴体にめり込んでいるな。あれを狙撃するのは至難の技だろう。胴体を狙撃して破壊出来ない時には、頭部の狙撃にチャレンジして貰おうかな。
「いつでも良いぞ!」というシグさんの言葉に、今度はジュリーさんが俺達に顔を向けて大きく頷いた。
隣のドローン操縦者のお姉さんの肩をポンと叩いたのは、後は彼女に任せるという事なのだろう。
モニターをジッと眺めていると、自爆ゾンビの胴体に赤い十字線が現れた。狙撃位置はあのターゲットマークということだな。
突然胴体の一部が爆ぜた。
体を覆った分厚い表皮の一部に着弾して小さな火炎が舞ったけど、それだけだ。
「かなり頑丈な表皮だな。450マーリン弾なら標準装甲版5mm程度は貫通するのだが……」
さらにもう1発が体表に着弾したが、やはり表皮を削っただけだ。
「ジュリーさん。胴体にめり込んだように頭があるんですが、その頭を狙撃できませんか?」
「あれね! 残りの弾丸は3発だから全て使ってみるね」
さて、今度はどうなるかな?
ドローンが移動して、今度は塔部を正面に捕らえる位置で停止した。
ターゲットマークが頭部に重なったと思ったら、頭部付近に小さな炸裂炎が舞う。
外れたか……。
そう思った時だった。ゾンビが頭をさらにめり込ませると、頭部の下から1対の脚が現れて頭部を覆ってしまった。
その脚に残り2発の銃弾が命中する。あの脚が無ければ頭部に当たっていたに違いない。
「かなり面倒な相手だな。頭部に1発で命中させないと頭部を狙撃して倒せるかどうかの判断すら出来ないとはなぁ」
「でもそれなりの情報を得ることができました。次はハンタードローンで迫撃砲弾を落としてみましょう。直撃で切れば最高ですが至近弾でも次の作戦の参考にはなりますからね」
さすがに直撃したなら倒せるに違いない。だが上空から投下して当てることなど無理だからなぁ。至近弾での評価を加えれば新たなドローンの開発に寄与出来るだろう。




