H-735 ダラスの戦士型は種類が多いようだ
3時間ほど俺達と歓談を行い、マリアンさん達は陸上艦隊の本隊へと戻って行った。
陽動とゾンビの調査に関わるフリーハンドを手に入れたから、後は俺達の裁量で調査を継続できるという事になる。
とはいえ、場合によってはヒューストンもしくはサン・アントニオ市へのゾンビの誘導を行わねばならないが、これは今すぐという事にはならないだろう。
マリアンさんの事だから、すぐにも準備はしてくれると思うんだけどね。
「あまり変わりませんね。このまま作戦を継続という事になるんでしょうか?」
士官を集めて情報共有を行うと、オルバンさんがそんなことを言うんだよなぁ。まぁ、その通りではあるのだが。
「砲弾輸送を明日行ってくれるとのことだ。兵站部隊が行っている迫撃砲での住宅地の破壊を明日は取りやめて、湖に投下される資材の回収を行って欲しい。砲弾は炸裂弾と焼夷弾が半数ずつと聞いている。81mm迫撃砲弾も同じだから統率狩りに使う際に焼夷弾も使って欲しい」
「統率型が見つからない時は、焼夷弾を落としてくれば良いよね」
ジュリーさんの確認に、シグさんがジュリーさんに顔を向けて頷いている。
住宅街を広範囲に焼き尽くすという事かな。それも手ではあるな。
「それであの丸太型ゾンビの方は?」
「本隊に派遣されている生物学研究所の研究員に、調査を委ねることにしました。少し人員を供するよう統合作戦本部経由で研究所に依頼するそうです。見た感じでは直ぐに俺達に脅威をもたらす存在になるとは思えません。でも、あの形をしたもう1種類のゾンビが出て来たならかなりの脅威になりそうです」
「サミーは、自爆型ゾンビが出現する可能性を指摘していたぞ。あの丸太の中の半分に炸裂性の物質があるとなれば至近距離に絶対に近付けられん」
シグさんの言葉に、皆が目を丸くしているんだよなぁ。
もし出現したとしても対応策が無いわけではない。ジュリーさんが持ち込んだバレットなら焼夷弾を撃つことが出来るからね。もっとも表皮の厚さが装甲版10mm程度であればという前提はあるんだけど……。
「私達で見つけたなら、爆殺で良いのよね?」
「それで対応してください。後で音声映像装置に丸太型ゾンビの発する音声周波数の帯域をプログラミングしておきます。3種類までの帯域を設定できますから、それで対応してください」
俺の言葉に嬉しそうジュリーさんが頷いているんだよなぁ。積極的に見つける必要性は今のところあまりないんだけどねぇ。
夕食を終えたところでドローンの操縦装置に付属した音声映像装置のプログラムを調整する。ついでに戦士型も確認できるようにしておいた。
ドローンで撮影した画像を表示するモニター上に赤黄緑の輝点が表示される。統率型に戦士型それと丸太型だ。昼は通常型ばかりのようだが、夜になると他の種が出てくるからね。今夜の調査でプログラムの調整を変更する事も考えないといけないだろうな。
テーブル席に戻った俺に、シグさんがコーヒーカップを渡してくれた。
ありがたく受け取ってタバコに火を点ける。
夜間は砲撃を中断しているから静かなものだ。たまに嬌声が聞こえてくるのは大きな魚が掛かったのかもしれないな。
「しばらく誰も釣りなどしていなかったからだろう。私にでも釣れたぐらいだからな」
「私達も釣りをしたんだよ。サミーの獲物よりも大きかった」
大きな胸を俺に向けて言うんだよなぁ。野ウサギ狩りの借りを此処で返さなくても良いと思うんだけどねぇ。今夜も頑張ってみよう。エディ達も毎日40cmを越える獲物を釣り上げているからなぁ。俺だって50cm近いブラックバスを釣り上げられるに違いない。まだ釣りあげられないのは、それだけ釣りをする時間が少ないという事だろう。
「それで、少しは分りましたか?」
「ああ、少し分かってきたぞ。ショッピングモールの南西部だな。さすがに建屋内のどこかは分らない。それと南と東にも1か所ずつあることが分かった。どこから攻撃するのだ? 位置はここだ」
南は5km程先の倉庫だな。東は8kmほど先の体育館のような建物だ。
運んでいる魚の数は圧倒的にショッピングモールとのことだが、南と東に3匹程度を運んでいるとのことだった。
「東から攻撃してみますか。その後で南、そして西云う順番で行きましょう。上手い具合に榴弾砲の射程範囲です。10発程度放てば2,3発は命中すると思うんですが?」
「十分に面制圧が出来るだろう。だが連続射撃で良いのか?」
「ドローンで弾着確認をしながら状況を見守ります。上手く行けば建物からゾンビが飛び出してくるかもしれません。その種類が知りたいところです」
少しぐらい時間をかけても良いだろう。住宅街を砲撃していることは間違いないんだから、これも陽動の範囲と言えるだろうな。
夜を前に、ドローンが南の住宅街にジャックを運んでいく。
仕掛ける場所は南方の2か所だ。両方ともすでに榴弾砲の狙いを付けるための諸元は計算されているそうだから、炸裂したなら直ぐに砲撃を加えるとのことだ。
「俺のすることが無いんですけど……」
「この前線基地の指揮官なのだから、そこに座って結果を待っていれば十分だ。それが出来ないなら、離発着場の台船で釣りでもするんだな。だがそれは砲撃が済んでからだぞ」
その前は、自称釣り名人達が腕を競っているとのことだ。
オルバンさんやエディ達もいるんだろうな。既に賑やかな声が聞こえているからね。
夕食が終わり、テラスでのんびりとコーヒーを味わう。
西の空が少し明るいのは、水上機が落とした焼夷弾の夜火災が広がっているのだろう。
パイプ爆弾にジェル状の油脂を入れたペットボトルを2本テープで括りつけた物だとリッツさんが教えてくれたけど、住宅街を焼くにはかなり効果があるようだ。
榴弾砲で放つ焼夷弾よりは威力が無いけど、迫撃砲弾の弾頭部にジェル状のカプセルを詰めた焼夷弾よりは効果があるんだよなぁ。
そんな現場急造砲弾もこの頃種類が多くなってきている。
81m迫撃砲弾の焼夷弾も、そんな形で作られた代物を統合作戦本部が統一して設計図を各作戦部隊に開示したものだ。さすがにまだ軍需工場で大量生産するまでには至っていないからなぁ。
開示された図面を元に各作戦部隊が作り上げているようだ。俺達が使う砲弾はデンバーやヒューストンの整備兵達が作ってくれている。
「戦域が広がっている割には、資材の調達が間に合っていないようですね」
「仕方のない話だな。それでも、他国の基地から資材を運んでいるようだぞ。だが多くは海岸付近の基地だけだろうし、その基地にも多くのゾンビがいるとのことだ。調達部隊も独自に陸戦部隊を作ったらしいぞ」
単に運び出すだけなら、良いんだけどねぇ……。
そうなると、益々他国の基地からの資材長達が難しくなっていきそうだ。
「とはいえ、NATOという同盟があったことはありたい話だ。砲弾の仕様が同一だからな。仕様が異なる東側の基地からの資材調達は出来そうにないな……」
無理なのかな? 砲弾は無理でも銃弾は欲しくなるんだよね。
カラシニコフは世界で一番頑丈な小銃だと、ウイル小父さんが言っていたぐらいだからなぁ。
使う銃弾も7,62mmに近いらしい。唯一の欠点は銃弾の薬莢がNATOの7.62mm銃弾よりも短いという事だ。それだけ装薬量が少ないという事だけど、有効射程は300mという事だし、何といっても銃弾が鉄芯だという事だ。至近距離なら徹甲弾として使えるんじゃないかな。
「AK47なら使いたいところですね」
「海兵隊基地にたっぷりあると聞いたことがあるぞ。敵の基地を強襲して手に入れた時に使えるようにと、ペンデルトンの基地ではそれを使った訓練をすることがあるからな」
なら強請ってみようかな。
案外戦士型ゾンビを相手に有効活用できそうに思える。
そんな雑談をしていると、ジュリーさんからそろそろジャックが炸裂すると教えてくれた。
モニター画面を眺めると、上空からジャックに集まるゾンビの姿がモノトーンで映し出される。
ジャックに括りつけ魚が全て無くなっているから、その場で食べたかそこかに運んだ後なんだろう。
「ジュリーさん、魚はやはりどこかに運んでいましたか?」
「半数以上運んでいたよ。運び先は同じだね。そっちは砲撃しないの?」
「砲撃は予定通り明日ですよ。夜は画像がモノトーンですからね。視認性が悪いです」
数分後にジャックが炸裂した。直ぐに砲撃が始まったが数発で面制圧が出来た感じだな。
ドローンが高度を落として、砲撃後の状況を確認する。
相手がゾンビであってもかなり凄惨な光景だな。千切れた手足が散らばっているんだが、すでにそれを持ち差ゾンビいるようだ。 運ぶ先は魚を運んだ建物と同じだろう。
「戦士型が何体かいるようだな。だが多脚ではなくまだ通常型に近い姿態だ」
「腕を増やしだけですね。その腕の1本が投射武器を持っていますよ。ダラスの戦士型ゾンビはいくつかの種が混在しているようです」
「その種が集団を作ると面倒になるぞ。自走砲部隊、戦車部隊、それに装甲部隊……。そうなると士官型ゾンビがかなり存在してもおかしくは無いのだが、まだ姿を見せないな」
統率型ゾンビはどちらかと言うと通常型ゾンビの統率がメインだからなぁ。全く戦士型を統率しないわけではないんだが、戦士型だけで作られた大部隊ともなれば統率型では対応できないだろう。
そうなると、その士官型ゾンビの存在位置がどこかを突き止めないといけなくなる。それにその姿は、これまでに出会った士官型ゾンビと声は同じなんだろうか?
各都市のゾンビの進化は独自に行われているから、場合によっては今までに見た士官型と全く異なる形態に進化した可能性もあるんだよなぁ。
また面倒な話になって来たものだ。




