H-719 今度はどれぐらい釣り出せるだろう
後数日で5月になる。珍しくニック達が早く起きて焚火を囲んでいた。
今日はいよいよオクラホマ・シティのゾンビを誘導する初日だからだろう。フクスの屋根に上って周辺偵察を行うだけでなく、ドローンへの補給や周辺の監視もあるだろうからなぁ。
ゾンビの誘導に参加したいと言ってはいたけど、それはレーヴァさん達の役目と今回の作戦では諦めるしかなさそうだ。
「エディの話を聞いて、導火線を長くした爆弾を運んで貰ったよ。20秒と言っていたな」
「現場で長さを変えられれば良いんですけどねぇ。それが出来ないなら20秒導火線を標準にして現場で切り取る余地を残してくれれば、使い道が広がるかもしれませんよ」
兵士達と雑談しているようだ。確かに導火線の長さを現場サイドで決められれば、応用が広がりそうだな。これはリッツさんに進言しておくべきかもしれない。
「サミーも、今日は忙しくなりそうだな!」
俺に気が付いたニックが声を掛けてきた。
苦笑いで頷きながら、焚火の輪に加わる。
「最後の誘導を任されているからなぁ。今回は市街地の北を移動することになるから、貰った爆竹を使う事になるかもしれない」
「そんなに近い場所で大丈夫なのか?」
「ジュリーさん達が上空で周辺状況を見ていてくれるはずだ。車じゃないから、いざとなれば荒地を走ってくるよ」
心配そうな表情で俺を見ていた兵士達が、俺の返事で表情を和らげる。レンジャー達だけど俺達も同じ仲間だと思っているに違いない。それだけ部隊としての意思統一が出来ているということになるんだろう。
「無茶はするなよ。サミーのいない牧場生活なんて想像できないからなぁ」
「そんなことはしないよ」と言って、エディの差し出したタバコの箱から1本抜きだして火を点けた。だけど何を育成するのかまるで決まっていないんだけどなぁ。
エディ達はそれを絞りつつあるということかな? ダラス攻撃は長く続くだろうからその時に少し話し合ってみるか。
朝食の準備が出来たという知らせを受けて、皆でレーションを受け取りに向かう。
豆とベーコンのスープにマーガリンをたっぷり塗ったビスケットが2枚。それにシェラカップ1杯のコーヒーだ。
「これがカウボーイの食べているスープなのか?」
「『不味い!』と言って後ろに捨てるスープってこと? ちょっと違うと思うな。でも材料は似ていると思うよ」
「俺は同じに思えるなぁ。味付けが良くなって少し水増しされただけに思えるぞ」
「これの味が良いだと? お前はやはりカウボーイになるべきだ。俺は、あの映画の主役のように後ろに皿ごと放り投げたいよ」
ちょっとした話題で盛り上がるんだよなぁ。それだけ仲間意識があるってことかな。
朝食を終えると、残ったコーヒーを飲みながら一服が始まる。
車両内では喫煙はあまり出来ないからね。今の内ということなんだろう。
腕時計に目を向けると、まだ8時前なんだよなぁ。9時にノイズマシンが動き出すとなれば、俺達もそろそろ移動を開始しないといけなくなる。
今日はレーヴァさんの乗る指揮車両にシグさんと一緒に搭乗だ。牽引するカーゴには俺達のバイクが乗せられている。後部ハッチが開いているから、キャビンの中に声尾を掛けると、シグさんが早く乗る様に手招きしている。
「来たな。これで全員だ。出発は0815にするぞ。10分前に周知すれば十分だろう」
「オクラホマの南に出るのは、昨日と同じルートを使うんですよね?」
「そうだ。しっかりと偵察してあるからな。1日でゾンビが大きく移動することはないだろう。速度を上げてスタンリー・ドバイ湖の南まで行く。そこで状況を待てば良いだろう。35号線まで5kmほどだからな。誘導開始位置のすぐ南にノーマンの市街地が広がっている。35号線上での長い待機は避けたいところだ」
「それが一番だと思いますよ。最後のノイズマシンが作動したところで35号線上に移動しましょう」
うんうんとキャビン内の士官が頷いている。
時計を見ながらキャビン後方に下がってタバコに火を点ける。既に焚火は始末されたようで道路には誰もいない。既に全員が車両に搭乗しているのだろう。
「出発は予定通り0815だ。全車両の準備を再確認してくれ!」
レーヴァさんの指示が聞こえてくる。
今日は、俺の出番がないんだよなぁ。フクスの集音装置を起動しているはずだから、ここで確認していよう。
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俺達を乗せた車列は、待機場所から東に向かい177号線を南下する。州間高速40号線のジャンクションを使って今度は西だ。スタンリー・ドラバー湖の東岸を時計回りに巡り州間高速35号線のジャンクションの手前に到着した時には10時を少し回っていた。
既に2つ目のノイズマシンが作動しているようだ。北から微かにクラクションのような騒音が聞こえてくるからね。
「最初のノイズマシンは州間高速35号線と240号線のジャンクションの南北位置。現在作動しているノイズマシンがジャンクションから35号線を南に500m。さらに南にジャックが道の両側に1個ずつだ。大きな集団を作っているようだぞ。南下も始まったようだな」
「誘導は計画通りにジャックが炸裂してからで良いでしょう。飛距離は300m以上を保つことを再度周知してください」
後は何時も通りだ。今回も俺とシグさんで最後の誘導を行うのは前回と同じだから、明日まで出番が無い。この辺りには全くゾンビの声が聞こえてこないんだよなぁ。大人しく誘導車両の上空で監視するドローンの画像を眺めていよう。
「この映像は本隊から飛び立ったドローンからのものだな?」
「フクスのドローンを使うのは誘導開始後で十分です。それで俺達は先行するんですか?」
「そうだなぁ……。誘導部隊の3km先を進もう。次の誘導部隊はフクスの後方になる。誘導部隊との距離は1kmほどだから、サポートが必要な時には直ぐに対応できるだろう」
真直ぐな道路だから、フクスから俺達のストライカーを見ることが出来るだろう。先行偵察を兼ねているんだが、1度走って状況を確認しているからね。大きな脅威はなさそうだ。
通信機の着信ランプが点灯する。直ぐに通信兵が交信を始めた。
この時間ならジュリーさんからだろう。
「最初のジャックを作動させたそうです。誘導部隊は予定位置で待機済。ドローンは誘導開始と同時に発信するとのことでした」
「了解。計画通りということだな。本隊にも状況を知らせてくれ。誘導が始まったら1時間おきに状況を知らせて欲しいと依頼されているんだ」
「本隊のドローンの行動半径が長いと言っても、ゾンビの群れが長く伸びたなら全体を掌握するのが難しいという事でしょう。了解です!」
隣にいる兵士は、ドローンの操縦者なのかな? 屋根の上だけでなくレーヴァさんの目と耳の役目を持った兵士がいるのだろう。
40インチのモニターを眺めながらコーヒーを飲んでいると、2番目のジャックが炸裂したと連絡が入ってきた。
アイドリング状態を維持していたストライカーが速度を上げて南に移動を始める。
もっとも3km先で停車だからなぁ。そこでしばらく待機して再び動き出すことになるんだよねぇ。
「ドローンを交代させたようだぞ。これはジュリー指揮下のドローンだ。誘導車両の上空500mを旋回しているようだな」
「たまに南北に移動して状況を探るよう伝えてください。別動隊を作るかもしれませんからね」
「そういえばラスベガスでは誘導している最中に現れたな。上の連中にも注意するよう伝えてくれ」
副官が直ぐに席を立つと、上部ハッチから屋根に上って行った。
確か2人を乗せていたからね。2人の様子も見てくるのだろう。
「かなり道路からはみ出ているな。1時間もすれば道路に乗るのだろうが、今回はどれほど長く伸びるのか楽しみだ」
「およそ1kmで1万体というところです。出来れば10kmほどに伸びて欲しいところではあるんですが……」
「それ以上かもしれんぞ。マリアン殿が砲撃でゾンビを南に移動させていたからなぁ。砲撃で倒せるゾンビが少なくとも、移動するゾンビの数を増やすことでダラスのゾンビに始末させることを考えての事だろう」
砲撃で間接的にゾンビを削減することになるのかな?
それも戦術の1つなんだろうな。
「マリアンさんの事ですから、すでにダラス攻略の拠点をどこにするのか決めていると思うんですが、まだ連絡は無いんですよねぇ」
「レイ・ロバーツ湖の北岸の922号線。そこからいくつもの小さな半島が南に延びている。その内のどれかであることは間違いあるまい。東岸にある州立公園なら桟橋や船上げ場まであるんだが……。此処ではラッシュを防ぎきれまい」
既存施設はなるべく利用したいところだ。
となると、この一番南に突き出た半島かなぁ。
今の所は順調そのものだ。俺達が地図を眺めて雑談しているぐらいだからね。
誘導車両が交代する。後2時間は交代しないでも十分だとトランシーバーで伝えて来たけど、休息は大事なことだ。いくら楽に思えても、屋根から落ちたならゾンビの大群に直ぐに飲み込まれてしまいかねない。それだけの緊張を強いるのだから、例え肉体的には疲れが無くとも神経を休ませることは必要だろう。
「まぁ、分からなくもないが……。ここは計画通りに交代して行こう。最後はサミー達に任せるが交代するわけにもいかんだろう。くれぐれも注意してくれよ」
「今晩はゆっくりと休ませて貰いますよ。バイクは2人乗れますからね。2台が同時にエンジントラブルは起こさないでしょう」
そんなことが起こったなら、湖を手漕ぎボートで渡るぐらいは出来そうだ。
そんなボートがあるとすれば、このキャンプ場だろうな。35号線から20kmも離れていないなら、徒歩で移動することは可能だろう。




