H-064 思惑通りに爆発したようだ
左右に広がる住宅街。
日本と違って、敷地が広いなぁ。土地が広いから2階建ての家は少ないようだ。歳をとってもバリアフリーの家として暮らして行けるに違いない。
だが、俺達にとってはそれが問題でもある。
小さな土地に密集しているなら、放火するだけでもかなりのゾンビを倒せるに違いない。
「左手がウエルトン貯水池だな。次はインディアナストリートとの踏切だ」
「住宅街にはゾンビは見えるが、線路には全くおらんのう」
「M16へのサプレッサー装着は済んでますぞ。進路を妨害するゾンビの対処は任せてください」
マケインさんが緊張した声でウイル小父さんに告げている。
俺達が最初に来た時も結構順調だったんだよなぁ。問題の踏切はまだまだ先だ。
トロッコの速度が遅くなってきた。制動距離を短くしたいということなんだろう。それでも自転車ほどの速度で東に向かって進んでいく。
「あれがインディアナストリートの踏切だ。サミー達が引き返したのはこの先の踏切ってことだったな?」
「そうです。トラックが踏切を塞いでました。その上に黒山のゾンビでしたから……」
「ゾンビがいなければ、トラックぐらいは移動できそうだな」
確かに脱輪してたわけじゃ無さそうだったからなぁ。皆で押せば何とかなるだろう。もっとも、踏切を塞いでいた原因は道路の渋滞もあるんだろうけどね。
「見えてきたぞ……、ここで停めた方が良さそうじゃわい」
ライル小父さんの言葉を聞いて、直ぐにさんとウイル小父さんが屋根の銃座に身を乗り出して前方を眺め始めた。
「とんでも無い数だな。数百はいるんじゃないか?」
「距離はおよそ300と言うところでしょう。砲弾を撃ち込みたくなりますね」
「俺もそう思うよ。だが、線路は大切にしないとなぁ。少し下がって、計画通り進めよう。爺さんバックだ!」
オリーさんがエディ達にトランシーバーで状況を伝えている。レディさんは後ろのトロッコに向かったのはたぶん状況説明と言うことなんだろうな。
「今、この辺りと言うことになる。東の公園と南のハイスクールで試験してみよう。ハンヴィーのエンジンは切らんでくれよ。いつ襲ってこないとも限らないからな。さて、最初はオリーとナナでやるのか?」
「私が爆弾を運搬して、ナナが周囲の状況確認で行きます:
「ああ、準備の方は海兵隊の連中がやってくれるからな。連絡が来たなら初めてくれ。サミー、周囲の監視は頼んだぞ。38SPならサプレッサーを付ければ音はそれほど大きくならん。50m以内に近づくゾンビを積極的に倒してくれ」
「了解です。客車の上で見張りますよ。ニック達には拳銃を使うように言っておきます」
イエローボーイを担いで後ろに向かった。
途中に3つもトロッコがありからなぁ。海兵隊の人達も乗っているから、結構時間が掛かりそうだ。
キャンピングトレーラーを改造した客車の端に着けたハシゴを登ると、屋根の上にもハシゴが横になっている。走っていても屋根の上を渡れるようにハシゴの両脇に着けた手すりを掴みながら反対側まで行くと、機関車の後ろにいたニックと顔が合った。
「いよいよ始めるそうだ。ゾンビが近付いたら発砲しても良いと言われたよ。俺に指示するぐらいだからM16の銃声よりも小さいと思ったんじゃないかな。ニック達も撃つ時には拳銃を使ってくれ」
「了解だ! サミーよりは俺達の腕の方が上だからね。見通しが良いけど、30mほどに近付かない限りは撃たないよ。それより屋根の上はサミーだけでだいじょうぶなのか?」
「何とかするよ」と言ったら、ニックがパットの猟銃を借りて登ってきた。パットが一緒に上がってきたんだけど、どうやら写真を撮りたいみたいだな。
「パットの猟銃は5.56mmなんだ。俺達のM16よりも長いサプレッサーだから、音は小さいと思うよ」
エディはクリスと一緒に機関車の中らしい。前席の左右は鉄板で囲まれているし、近づくゾンビは鉄板に大きく開かれた窓から狙撃できるだろう。窓の位置まで地上から1.5mほどあるのも都合が良い。あの窓から顔を入れて噛みつくことは出来ないだろう。
周囲の撮影を終えたパットが下におりていくと、俺達にコーヒーのカップを渡してくれた。
カップと言うより、長めのコップだな。ありがたく受け取って、一服しながら周囲に目を光らせる。
「おっ! 見ろよ。爆弾を下げて飛び立ったぞ!」
ニックが指さした方角には、爆弾を下げて東に向かって飛んでいくドローンがあった。
30kg以上の荷を運べると言ってたけど、結構簡単に運んでいくんだな。
感心して見ていると、少し小型のドローンがその後を追いかけて行った。
「2機目はナナが動かしてるんだ。最初のドローンはオリーさんだよ」
「俺達も動かしてみたいけどね。町の住宅を調査していくとその内に、見つかるんじゃないかな」
「俺にも貸してほしいな」
「車の運転が先だ。この頃はギヤを変える時にギヤを見なくなってきたけど、たまに見る時があるからなぁ。運転は前を向いて行うんだ」
ニックだって運転しながらあちこち見てる気がするんだけどね。
まあ、忠告してくれるのはありがたいことだから、苦笑いをしながら頷いておく。
10分も経たずに、ドローンが戻って来る。
直ぐにまた爆弾を吊るして今度は南に飛んで行った。
ここからどのぐらい離れているんだろうか? 500mは離れていないように思えるんだけどなぁ。
ドローンが戻ってきた。
急いでトロッコに乗せているに違いない。小型の方は効果の確認もするはずだから、バッテリーを交換しているはずだ。
ふと、遠くから目覚まし時計の音が聞こえてきた。
かなり遠いんじゃないかな? 俺達が屋上からゾンビを倒していた時よりもかなり音が小さい。
「始まったみたいだね」
「サミーも聞こえたのか? だけどかなり小さい音だから、500mほど離れていそうだ」
距離があった方が安心できることは確かだけど、あの音で集まるゾンビが線路に近づくかもしれない。先程よりも緊張の度合いが高まってくるのが分かる。
ゴクンと唾を飲み込んで、周囲に目を光らせる。
やがて俺の勘が当たったかのように、1体のゾンビが西から線路伝いに歩いて来た。
急に走り出すことは無いようだけど、至近距離まで近づくのを待つ。
ニックも気が付いたみたいだな。俺に顔を向けると自分の顔を指差した。
パットも気付いているだろうから、ここはニックに良いところを見させて貰おう。
小さく頷き返すと、笑みを浮かべて手を振ってくれた。
とは言ってニックが外す可能性だってあるからね。危険を冒すことは無い。
外したら直ぐに銃弾を放てるよう、周囲を警戒しながらゆっくりと近づいて来るゾンビに注意を払う。
バシュ!
くぐもった銃声が結構大きく聞こえた。
さすがはニックだ。1発でし止めてくれた。ゾンビが線路脇に転がってくれたから、トロッコの通行の邪魔になることも無さそうだ。
『……そうです。西から線路伝いにやって来たゾンビを倒しました。線路から1m以上北に倒れていますから通行の支障はありません。……了解しました。引き続き警戒するよう伝えます』
パットがハンヴィーに連絡したみたいだな。
伝えておけば向こうも安心してくれるだろう。
「爆弾の爆発は22分後の14時丁度と、14時20分になるそうよ。その前に小型のドローンを飛ばすらしいわ」
「状況確認と結果の確認は必要だろうね。そうなると、ここでの監視は残り1時間弱と言うことになりそうだ」
「あのゾンビの後はやってこないみたいだ。まぁ、一服しながら周囲を眺めていようよ」
緊張し同士では身が持たないという事かな?
ニックに顔を向けて頷くと、ポケットから煙草を取り出した。
足元には、飲み残しのコーヒーがまだ残っている。そろそろ夏も終わりになるんだろうけど、山小屋から比べればこの辺りはかなり暑いんだよね。
帽子とサングラスを持って来て良かったと自分を褒めておこう。
14時に近づく時計の針を気にしながら周囲をうかがう。
どっちが先かと思ったんだが、やはり最初に仕掛けた方が早いはずだ。東北東の方角になるんだろうから、あの青い屋根の住宅の方角に違いない。
「サミーの時計は正確なのか? 俺の時計は当てにならないんだよなぁ」
「一応GPS補正ができる奴だ。GPSがまだ有効なら、合ってるはずだよ。ついでに合わせておくか? 14時3分前で止めてくれ。後1分は無いからな」
「OK……。これで良い。合図してくれたら、スタートさせるよ」
残り10秒前からカウントダウンを行って、ニックの時計を合わせる。
喜んでいるところを見ると、時間にルーズなところがあるのはニックの性格なのかもしれないな。
「設定が狂ってたら意味は無いかもしれないけど、いよいよだぞ」
ゆっくりとニックがカウントダウンをし始めた。パット達も客車のデッキに出て北東に目を向けている。
ニックが『ゼロ』と声を上げたと同時に、北北東に爆煙が上がる。2秒も経たないうちに炸裂音が聞こえてきた。まるで雷鳴を至近距離で聞く感じだ。
爆煙は100mほどの高さに上がったんだけど、上空で撮影していたドローンに影響は無かったのだろうか?
「上空でドローンが円を描いてるよ。あの範囲に影響があったとするなら、かなり効果があったんじゃないか?」
「そうかな? ゾンビは頭を破壊しないとダメみたいだからなぁ。体を損傷させても動くんだから困った連中だよ」
後でドローンの画像を見せて貰おうかな。
それよりは、先程の爆発音で動き出すゾンビの方が心配だ。
周囲をゆっくりと見渡しながら、トロッコに接近するゾンビがいないことを確認する。
14時20分丁度に今度は南から爆煙が上がった。
爆音がかなり大きく聞こえたから、ハイスクールに仕掛けた方がトロッコまで近かったに違いない。
しばらく上空を旋回していたドローンが戻ってきたところで、今度はトロッコが後方に移動き始めた。
七海さん達のところに戻ろうとしていると、前方からシュポン! と言う音が立て続けに聞こえて来る。
客車を降りてトロッコの前方に向かうと、海兵隊の兵士数人とすれ違った。
どうやら、グレネード弾を近くの住宅に放ったみたいだ。
どうせなら、踏切を塞いでいるトラック辺りに放って欲しいところだけど、何か意味があるんだろうか?
定位置に戻ったところで、レディさんに聞いてみた。
どうやら、住宅火災を誘発させたかったようだな。
放ったグレネードは焼夷弾らしい。着発時に炸裂音が聞こえなかったのは、炸薬量が少なかったからなのだろう。
「場合によっては、焦土作戦を行わなければならないかもしれなかったの。数軒に放ってみたからドローンで確認することになりそうね」
「焼野原ならゾンビを遠くからでも見つけられそうですけど、住宅の中の資材は有効活用したいですね」
「それは他の住宅で、と言うことになるわね。道路が使えない場合の対策になるから、大きく火災を起こすことにはならないと思うわ」
飛行場は、遠いからなぁ。それより駅は無事なんだろうか?
ドローンをかなり上空まで上げた時があるけど、あれは遠景を見たかったに違いない。
核の投下地点と、爆弾の投下地点が分かれば良いんだけどね。




