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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-062 さすがはハンヴィー、今度は大勢で行けるぞ


 翌日。朝食を終えると、レディさんは中隊本部に向かって行った。

 俺達はウイル小父さん達と一緒に、グランビイ駅に向かう。今回は俺達以外に、ウイル小父さんとエンリケさんに現役の陸軍兵士3人が一緒になるようだ。

「海兵隊だけに任せるわけにはいかない」と言ってけど、対抗意識と言うことなんだろうな。


「テリーにも操作を教えてやってくれんか。なるべく多くトロッコを動かせる者がいた方が良いからな」


「案外簡単ですよ。了解です!」


 エディがテリーさんと握手をしている。

 テリーさんとしても、一般人の手を借りるというのは考えるところがあったんだろう。

「よろしく頼むよ」と笑みを浮かべていたからね。


 駅に到着すると、引き込み線に停めてあった空荷のトロッコと客車トロッコを皆で押し出してハンヴィーに連結していく。最後尾は慣れ親しんだ機関車を連結する。

 ハンヴィーが動かなくなっても、トロッコ3台を引くことができるからね。歩いて帰るようなことにはならないはずだ。


「前後の機関車には予備燃料を搭載しているんだな?」


 トロッコの連結が終わって休憩している俺達に、ウイル小父さんが問いかけてきた。


「ジェリ缶を2つずつ乗せてますよ。水も10ℓ容器が3つとジェリ缶1つを客車に用意してます」


「食料はレーションを10人3日分です。でも出発当日の昼食はお弁当を作ると小母さん達が言ってました」


 最後の報告はクリスだった。

 きっとたくさん作ってくれるに違いない。


「ドローンと爆弾の搭載は?」


「1号トロッコに積んでます。2号と3号トロッコは海兵隊用で良いんですよね?」


「ああ、それで良い。枠はあるから雨が降ったら帆布で屋根を作れるはずだ。それに、雨ぐらいは気にしない連中だからなぁ」


 どうやら準備が出来たという事だろう。後は個人装備になるだけだ。

 今度は客車があるからね。嵩張る荷物は棚に入れておいて貰おう。

 ライルお爺さんもハンヴィーから降りてきたところで、パット達が用意してきたコーヒーを俺達に配ってくれた。

 

「サミー、俺達の共用はあのキャリーバッグに入ってるんだよなぁ?」


「昨夜確認したじゃないか! 着替えはエディのナップザックに中だぞ」


「薄手のセーターを着ていくから、フリースを1つ入れといたよ。夜もそうだけど、トンネル内はなぁ」


「冷蔵庫みたいだったからね。クリス達にも伝えたんだろう?」


「慌ててたよ。でも最後にお礼を言ってくれた。オリーさんとレディさんにも伝えてくれるそうだ」


 トンネルの外と中で、あれほど変わるとは思わなかったからなぁ。

 トンネルの入り口と出口で小休止をする予定だから、その時に着替えれば良いだろう。


「そんなに寒いのか? ブランケットに包まれば問題ないと思うんだが?」


「中で何があるか分かりませんからね。ある程度動けるようにしておきます」


 エディの言葉に、苦笑いを浮かべながらウイル小父さん達がコーヒーを飲んでいる。

 ライルお爺さんと小声で話をしているのは、俺達の事かな?

 お爺さんがにんまりした顔で俺達を眺めているんだよなぁ。


 準備が終わったところで山小屋に戻る。

 すでに明日の装備も整えてあるから、薪ストーブ傍のベンチに座って小説の続きを読み始めた。

 エディ達は釣りに出掛けたんだが、今日は天気が良すぎるからなぁ。釣れるとしても夕暮れ近くになるんじゃないかな?

 少し遅れてやってきたライルお爺さんが、ショルダーバッグのような木箱を持って来た。

 何をするのかと見ていると、小さな万力のような代物を取り出してベンチに取り付けている。次にプラスチックケースを取り出すと、釣り針を1本摘まんで万力に固定し始めた。


「それって、話に聞く『フライタイイング』と言う物ですか?」


「知っとるのか? サミー達はルアーで釣っておるが、マス釣りは毛ばりでなくてはのう。それも自分で作るのが流儀なんじゃ。これなんじゃが……」


 すでに作られた毛ばりを見せてくれた。

 色鮮やかな者ばかりなんだけど、魚は入りを識別できるとは聞いたことが無いんだけどねぇ……。


「ルアーのように、ルアーの重さを利用して遠くに飛ばせんから、釣り糸を鞭のように使って遠くに毛ばりを投げるんじゃ。これは重りを巻いておるから水に沈むんじゃが、釣り糸は水に浮くものをワシは使っとるぞ。水深2mほどのところをこの毛バリで躍らせれば、マスの方がパクっと食いつくんじゃ。問題はその後じゃな……」


 趣味は奥が深い。自分の趣味を自慢すると止まらなくなるらしい。

 しばらくはライルお爺さんの話に付き合うことになってしまった。

 1時間ほどしたところで、キャシーお婆さんが俺達にコーヒーを運んでくれた。

 ライルお爺さんに『自慢話ばかりしてると嫌われるわよ』と忠告してくれたから、苦笑いを浮かべたライルお爺さんが、どうにか口を閉じてくれたんだよなぁ。


「御免なさいね。歳をとると、昔の自慢話ばかりなんだから」


「結構面白かったですよ。やはり所変わればやり方が変わることを教えられました。似た釣りは日本にもあるようですけど、こんなにきれいなものでは無かったようです」


「昔から伝わったということなんじゃろうな。だが、これは指先の訓練に丁度良いんじゃ。秋が深まったら教えてやるぞ」


 釣りを教えてくれるのか、それともフライタイイングを教えてくれるのか不明だけど、退屈凌ぎにはなりそうだな。

 笑みを浮かべて頷くと、ウインクを返してくれた。


 夕食には、ニック達が釣り上げたマスのフライが出てきた。

 これはニジマスなんだろうな。結構大きかったようだ。

 ニックとエディの自慢話を聞きながらの夕食は、いつも通り賑やかだ。

 食事中は静かに……、なんて教えはウイルさんの家には無かったからね。


「出発は8時半ということで良いんだな?」


「駅に集合ということだ。レーションを3日分持っていくと言っていたし、水もジェリ缶で2つ運ぶと言っていた。食事は海兵隊で賄える。私の分は、すでにパットに渡してある。

 中隊本部との連絡は私が行うことになった。山小屋には中隊本部から、適宜連絡入れれば良いだろう。

支援部隊の連中が喜んでたぞ。『俺達が一番乗りだ!』と騒いでたな」


 レディさんとウイル小父さんの話は、明日の最終確認と言うことになるんだろう。

 予定では2つの爆弾の効果を確認するとともに、目覚まし時計で集めたゾンビへの迫撃砲攻撃の効果の確認だけだったんだが、グレネードランチャーの効果についても確認することになったようだ。

 踏切を塞いでいたトラックの周りに集まっていたゾンビに試すのかな?

 後退しながらの攻撃になりそうだけど、撮影はカメラだけになりそうだ。

                ・

                ・

                ・

 予定通りグランビイの駅を8時半に出発できたのは、皆が早めに駅に到着したからに違いない。

 朝食もそこそこに7時半に駅に着いた時には、海兵隊の人達がトロッコに荷物を積んでいるところだったからなぁ。

 ライルお爺さんとエディが直ぐにアイドリングを始めると、ウイル伯父さんとレディさん達が軽くブリ―フィングをしている。

 一服しながらだから、最終確認ということになるんだろう。ハンヴィーと機関車の間に4台のトロッコがあるが最後尾のトロッコはキャンピングトレーラーを乗せたトロッコだ。

 いざとなればハンヴィーとトロッコ2台を置き去りにして帰ることを想定しているからね。


「積み荷は、昨夜の内に動作試験と点検を済ませております。階級は私の方が上になりますが、ジョナ大尉はウイル殿に指揮を委任するとのことでした」


「了解だ。済まんが指揮下に入ってもらうよ。俺に万が一のことがあれば後を頼むぞ」


「出発は予定通りでよろしいですか?」


「ああ、その方が間違いないだろう。今の内に体を伸ばしてコーヒーでも飲んでいてくれ。予定では次の休憩はトンネルに入る前だからな」


 そんな話を聞きながらニック達と一服していた。

 七海さん達は客車に荷物を運び終えたみたいだな。最後尾の機関車にはエディとクリスがいつものように乗るんだろう。エディだけでは心配だとニックが言っていたから、客車の前後に設けたベンチでニック達と後方確認をするのかな?


 俺は前にいたほうが良いのかな? 出掛ける前にウイル伯父さんに確認してみようと思っていたら、レディさんと一緒にハンヴィーの荷台に乗るように言われてしまった。

 七海さんはオリーさんとキャシーお婆さんと一緒にハンヴィーの後部座席らしい。レディさんは俺達と一緒に荷台の上だった。


「まぁ配置はそんなところだろう。ゴーグルかサングラスはしておくんだぞ。結構埃が目に入るからな」


 言われなくともちゃんと用意してあるんだよね。スポーツサングラスだから落ちることもないし、予備もナップザックに入っている。

 レディさんはミラーレンズのサングラスだ。何かの映画で見た俳優みたいに決まってるんだよなぁ。


 出発5分前に、全員がトロッコに乗る。

 予定通り8時半に駅を出発。皆が見送る中、俺達は手を振って一路デンバーへと向かうことになった。


 9月の下旬を過ぎると、朝晩の風が冷たく感じる。

 綿のシャツの上に薄手のセーターを着て、その上にGジャンだから寒さは感じないし、これから日差しで暑くなるはずだ。今は冷たく感じる風も心地よく感じるんだろうな。


「予定では90分程でトンネルと聞いたんだが?」


「それより早く着くと思います。前回より速度を上げてますからね。結構長いトンネルですから、入る前の休憩ということになるんでしょう。前回トンネルを通った時にはかなりの数の行き倒れを確認しました。一応線路脇に退かしてありますが、トンネル内はこれほど速度を上げないと思います」


「アメリカ屈指の長いトンネルだからな。やはりゾンビから逃れようとして歩き続けたんだろうな。悲惨な話だ……」


「トンネルの東にたくさん車が乗り捨ててありました。その数を考えるとトンネル内の死体の数が少なすぎますし、グランビイの南の別荘地帯の探索も継続しているようですが生存者を確認していないと聞きました。となると……」


「ゾンビに襲われたということになるんだろう。そのゾンビがトンネルをどの方向に向かったかが問題だ。全く困った話だ。道路封鎖はしているが、何時ゾンビがやってくるか予想が出来んからなぁ」


 すでに死んでいるんだから体温も無い。グランドレイクの道には、サーモカメラを使う事が出来ないから、鳴子の電子版みたいなものを張り巡らしているらしい。

 とはいえ、それだけに頼ることも出来ないから、24時間、数人が常にパトロールをしているとバリーさんが教えてくれたぐらいだ。


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