H-047 トロッコの旅を楽しもう
朝食を終えて、ピックアップトラックに荷物と一緒に乗り込んだ。
総勢8人だからねぇ。パット達が後部座席に乗り込んだから、俺達3人は荷台と言うことになる。
30分も掛からずにグランビイの駅に到着すると、ライルお爺さんが先頭のエンジン付きトロッコのエンジンを掛ける。
エディが最後尾に取り付けたエンジン付きトロッコのエンジンを掛けているのは、予備としてちゃんと使えるかを確認しているのだろう。1分ほどエンジンを動かしただけだった。
俺とニックで荷物をトロッコに積み込んだんだけど、トロッコの両側にベンチが作られている。これならラクチンだな。シートを丸めた上に座るしかないと思っていたからなぁ。
「手荷物は、2台目のトロッコだね。キャリーバッグは3両目に乗せたよ。周囲が木枠になってるから落ちることは無さそうだ。念の為にロープで縛っておいた。3両目はシートみたいだな。あの木箱2つは片方が飲料水のジェリ缶でもう1つはガソリンのジェリ缶だ。どちらも3個入っていたぞ」
「フックの付いた棒は3両目ってことかな? ゾンビがいないと良いんだけどね」
こればっかりは出掛けてみないと分からない。
ゾンビの移動手段は徒歩になるんだろうけど、道路を歩くだけとは限らないはずだ。
さすがに山越えはしないだろうけど、なだらかな斜面の森なら歩いている可能性もありそうだ。それを考えると線路はそれほど起伏が無いからなぁ。歩くのに苦労しそうだけど、歩けないことは無い。
それにしても、エンジン付きのトロッコの外装をドラム缶や鉄骨、更にアルミ板で覆ったから、遠くから見ると遊園地にある機関車に見えるんだよね。俺達が乗るトロッコも、何となく客車をイメージしてるんだよなぁ。窓は無いけど、雨が降ればシートで被えるようにと鉄骨で枠を作ったからなんだろう。
1つ異様に見えるのは、エンジン付きトロッコの先端部に付いているブルドーザーの排土板のような代物だ。
斜めに取り付けてあるのは、ゾンビを線路から外に弾くためなんだろう。
鉄パイプと木の板で作ってあるけど、上手く弾くことができるかどうかは、試してみないと分からないな。
「皆、乗り込んだかな? エディ、後部の機関車のクラッチは『N』 になってるんじゃろうな? それとサイドブレーキは外したか?」
「ちゃんとやりましたよ! 後ろは全てOKです!!」
「うむ。……それじゃあ、皆! 行ってくるぞ!!」
ゆっくりと、トロッコが動き出した。エンジンの唸りも聞こえないし、エンジンからの排ガス音を押えるマフラーのおかげで、エンジン音も静かだ。
のろのろした動きが、人の歩くほどの速度になり始めると、俺達は後方で手を振っているウイル小父さん達に、手を振る。
互いに姿が見えなくなるまで手を振り続けていたけど、そのころにはかなり速度が上がっているんだよなぁ。
少なくとも時速30kmは出てるんじゃないか?
トロッコの安全速度はどれぐらいなんだろう? ライルお爺さんの調子はずれの歌が聞こえて来る。
本人も結構嬉しそうだな。キャシーお婆さんが、そんなお爺さんに肩を預けている。
何時まで経っても仲の良い夫婦だからね。
コロラド川に沿った線路を走るトロッコは観光目的にも使えそうだ。
「俺達は何をするんだ?」
「特に言われてないけど、前方を見ていた方が良さそうだ。ライルお爺さん達が座っている席には屋根があるだろう? あの上に簡単な柵が付いているから、あそこで前方を見ていれば良いんじゃないかな? それと、側面に後方の警戒も必要だろう」
「なら俺は後方確認で良いな。クリス! 後ろの機関車に向かうぞ!!」
エディとクリスが後ろのエンジン付きトロッコに向かった。走行中だけど、トロッコの連結間隔は1mも無い。直線区間なら何ら問題なく飛び移れる。
「それじゃあ、俺は前を見るよ。あの屋根に乗れば良く見えそうだ」
ニックがエンジン付きトロッコの運転席の屋根に上るハシゴを上って行った。トラックの屋根に上る感じだな。屋根と言っても、地上から2mほどなんだけどね。運転しているライルお爺さんの視線よりは1mは高そうだからそれだけ前方が良く見えるんじゃないかな。
「私達は側面ってことね。でも、線路横を歩くゾンビならニックの方が先に見付けるんじゃないかしら?」
「途中に小さな集落や別荘があるだろう。その辺りにゾンビが徘徊しているか、見る必要があるよ。それに現在殿辺りを走っているかも確認しないといけないだろう?」
「地図は私が見てあげる。丁度持って来たの。こんな旅なら絶対に必要だもの」
ナナがどこから見つけて来たのかと考えてしまうような古い図板に、観光用の地図を挟んだ物を取り出した。
3人とも双眼鏡を取り出して、用意は万全ってとこかな。
屋根に乗ったニックに、パットが双眼鏡を手渡している。確かにニックにも必要だろう。
後ろのエディの方は、まあ、のんびりと2人で旅を楽しむつもりなのかもしれないな。
グランビイを発って、1時間弱。最初に見えてきたのは『ホット・ソルファー・スプリングス』だった。
グランビイと同じぐらいの町に見える。人口は3千人程度じゃないかな?
街並みと線路が離れているから、ライルお爺さんがトロッコの速度を落としてくれた。おかげで、ゆっくりと町を観察できる。
「いるねぇ……。あれから1年近く経ってるんだけど、どこに行く当てもないってことかな?」
双眼鏡で町を眺めていたニックが呟いた。
パットとニックで観察した結果を、ナナが地図を見比べながらメモを残している。望遠レンズの付いたデジカメをパットがニックに差し出したから、何枚か記録に残しておくんだろうな。
線路の周囲は俺が目を配る。イエローボーイを手に線路の左右に目を向けて入るんだが、線路は普段人が通らないからだろう。ゾンビの姿が全くない。
やはり、町と町を結ぶのは道路ではなく鉄道を使った方が安全に思えるな。
「速度をあげるぞ! のんびりしていては、グランドジャンクションを拝めないからのう」
ライルお爺さんの声にニックが観察を終えて、線路の前方を見据える。
パットは後ろのエディ達に速度をあげると伝えに向かったようだ。
ホット・ソルファー・スプリングスから西に10km足らずで、見えてきたのは『パーシャル』だ。町と言うより村の規模だが、ゾンビはいるんだよなぁ。
俺達に全く築かない様子で、道路を彷徨っていた。
パーシャルから西に15km強。『クレムリング』の町が右手に見えてきた。ここには飛行場もあるんだが、ライルお爺さんの話では小型機が離発着できる規模らしい。
大きさはグランビイ並みだから、トロッコの速度を落として観察を始める。
「やはりグランビイと変わり無いね。これぐらいなら、俺達でゾンビを掃討できそうに思えるんだけどなぁ」
「ハハハ……、そう簡単ではないぞ。町の周囲の別荘が面倒じゃからなぁ。子供を外で遊ばせられるぐらいにまで、周辺の安全を確かめねばならん。自警団でも良さそうじゃが、町のゾンビを掃討してから2個分隊は組織せねばならんじゃろうな」
「キブツが参考になると思いますよ。全員がいざとなれば戦えますし、いつも住宅の外を幾つかの班が巡回してますからね」
キブツと言うのは、イスラエルの入植地ってことだろうな。確かに物騒な場所だったに違いない。ここのゾンビはかなり危険だけど、武器は持っていないからね。武装した自警団を組織出来たなら、子供たちを外で遊ばせることもできそうだ。
クレムリングからコロラド川に沿って線路は南西に続いている。
たまに人家を見掛けるが、ゾンビはいないようだな。どこかに向かって歩いて行ってしまったのかもしれない。
真夏に近い季節だから日差しは強烈だが、高原を走るトロッコは風が気持ちよく感じる。
渓谷とまではいかないが谷間に沿って走っているから、左右どちらを見ても山なんだよなぁ。
12時を過ぎたところで、トロッコを停めて昼食を取る。
前後は線路だから見通しも良いし、左右は荒地で獣の姿さえ見えない場所だ。
ガスストーブを使ってお湯を沸かし、インスタントスープにメイ小母さん達の手作りサンドイッチを頂く。
ハムと一緒に挟んである野菜は温室で育った野菜かな?
スープを飲み終えたところで、軽くシェラカップをお湯で濯ぎ、コーヒーを頂く。
保温水筒に入れてきたから、沸かさずに飲める。砂糖2個を入れたらナナが睨んでいるんだよなぁ。これは俺の好みなんだから仕方が無いと思うんだよね。
「それにしても、寂しいところですね」
「山麓じゃからなぁ。それに、公園でもあるから開発が面倒なんじゃよ。この辺りの町や村はかつてのゴールドラッシュが元らしいぞ。今でも砂金を採る者がおるらしい」
ほう……。それも、おもしろそうだな。
1度やってみたくなってきた。
「すこし遅れておるのう。場合によっては2日の予定が3日になるかもしれん。食料は十分じゃが、その前に燃料が尽きるようでは困るからのう。ジェリ缶1つを使ってもグランドジャンクションに到着できねば、その前に帰投するぞ」
「コロラド川に沿って走ってますからねぇ。直線距離なら結構近いんですが」
「仕方あるまい。道路ではこうも行かんじゃろう。町の中は事故車や渋滞の車で通行できんじゃろうからな」
昼食が終わると、再びトロッコが動き出す。
1時間ほど走ると今度は南に向かって線路が伸びている。20分後に小さな湖を半周する形で線路が再び南西に向かって続いていた。
「この湖は、これになるのね。北に住宅か別荘があるみたいだけど、東にある『ジプソン』があるからでしょうね」
「『グレンウッドスプリングス』まで1時間という事かしら? まだ2時を回ったばかりだから、十分状況を見ることができるわね」
パットとナナ、それにニックが混じって地図と周囲の景色を見比べている。
「線路に並行してるのが高速70号線ね。グランドジャンクションからさらに西300kmで高速道路15号線にぶつかるみたい。北へ行けばソルトレイクで南行けばラスベガス。こんなことになってなければ、かなりの通行量があったんじゃないかしら?」
「たまに車が繋がってるのを見ると、事故当時もかなり走っててみたいだね。ほら、ゾンビがいるよ!」
高速道路でいち早く脱出を考えたようだけど、噛まれた人間もかなり多かったに違いない。それで地方に素早く拡散したんだろうな。
自家用飛行機を利用した人達もいるに違いない。大きな町なら、小型機が離着陸できる飛行場が結構あるんだよなぁ。そんな飛行場を見る度に、さすがはアメリカって感じがしてくる。




