チートアプリ
「でも、どうやってヴァルキリー様を探すの? オーディンやロキは『地下牢に閉じ込めてる』って言ってたけど……」
走りながら、私はカミラに尋ねる。
考えてみれば、いくらドワーフさんの助力があったとはいえカミラや堕流救世主のメンバーを含む異世界の勇者たちがここまで来れたことも不思議だ。私自身はトールの雷で気絶していたからよくわからないけど、神々の住まう場所であるこのヴァルハラに一体どうやって乗り込んできたのだろう? そう考えていればカミラはすっとドワーフスマホを取り出す。その画面には地図らしきものが映し出されていて、3つの光がピコンピコンと点滅していた。
「えっと、『チートアプリ』? っていうのをいくつか導入したからそれさえあれば大体どうにかなるってドワーフが言ってたわ。今のこの画面はヴァルキリー様と私たちが今いるところを示していて、それを辿っていけばヴァルキリー様に会えるって。なんでも、『このワシがGPSに対応できないわけがないじゃろう!』ってことらしいけど……」
ドワーフさんなんでもアリだな。
もう全部あいつ1人でいいんじゃないかな、って気もするけどロキやトールの口ぶりからすればドワーフさんは神々にも対抗しうる力の持ち主みたいだし……今は「最高の匠」であるその力に大人しく感謝しておこう。頭の隅っこでドワーフさんがニカッと笑っている様子を想像しながら、私はカミラの持つドワーフスマホをよく見てみる。
画面上に浮かぶ点のうち、寄り添った2つの点は私とカミラを表しているのだろう。そこから少し離れ、ちょうど三角形を描くような形になっている点がヴァルキリー様。私たち2つの点はそのヴァルキリー様の点に、ちょっとずつ近づいていっている。カミラがドワーフスマホを使いこなし、きちんとヴァルキリー様のいる方向へと向かっているのだ。……カミラも大概すごいな、なんて思っていたら武装した神の戦士たちが私たちの行く手を阻む。
「もう逃さないぞ、お前の弱点はちゃんと知ってるんだ!」
言いながら1人が、こちらに向かって銀の十字架を掲げてみせる。途端にカミラが「うぎゃあっ!」と叫び蹲った。思わず私も立ち止まれば、どこから出てきたのかたくさんの神たちが私とカミラを取り囲む。神、多すぎじゃない? なんて場違いな感想を抱いていればカミラが私にドワーフスマホを投げ渡した。
「早く! アプリ開いてアプリ!」
「あ、アプリって、私ドワーフスマホ触るの初めてで……」
「あぁもう、とにかく何でもいいから何か押して!」
あたふたする私に向かって甲高い声で叫ぶカミラ。それに促され、とにかく画面に人差し指を触れると――いきなり大音量の音楽が流れた。
「『ザージザズゾズザー! ジャザーゾーズーズーザー!』」
何語かはわからないけれど信じられないほど美しい歌声に、神たちの動きがぴたりと止まる。
えっ? と思っている隙にカミラが立ち上がり、私の手を引いてその場からさっさと逃げようとする。
「ま……待て……!」
神の1人がそれでもカミラの腕を振り払おうとするが、それは小さな何かに振りほどかれた。何かと思って目を凝らすと――剣を振り回す、小さな少年の姿があった。
「アプリ『亜人ちゃんいらっしゃい』よ。今まで魔法円で呼び出したことのある――まぁ亜人限定だけど、私たちの前に来たことのある相手の力を借りることができるらしいわ」
そのぶん、ドワーフが後でちゃんとお礼するみたいだけどね。
カミラにそう解説された私は、改めてドワーフスマホを彼女に返す。
……「全部あいつ1人でいい」ってわけでもないんだな。
ドワーフさんが一体どんなお礼をするつもりかはわからないけれど、私はただ今まで召喚した「勇者」たちのことを思いながらカミラと共に走るのだった。




